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第137号:親の意見を重視する学生

内々定を得た学生が、最終的に就職先企業を決めるのはいろいろな意志決定基準がありますが、最近の傾向では親の意見が大きいことです。これは大学入試でも同じ傾向があるかと思いますが、採用担当者にとっても無視できなくなってきたようです。

 

私たちの世代では、親や大学就職課の意見で自分の進路を決めるというのはあり得ない選択で、精神的に独り立ちのできていない者、という見方がありました。しかしながら、今の世代はそういった理由だけではなく、下記のような社会的背景があります。

 

・大学卒業の親が増えた

今の親御さんの世代は高度成長期に日本を支えてきた大学卒のビジネスパーソンの方が増えてきました。当時の大学進学率は25%位で、私の親の世代のように自営業の方が多く、大学卒が希少だった時代と全くことなります。しかも今の親御さんたちは、自ら大学生として就職活動を(それも競争の激しい時期に)経験してきていますので、子供に対して一言を持っており、企業や業界を見る目もそれなりに持っています。(そのため、当時エリートだった金融業界や総合商社を勧める親がとても多い。)

 

・キャリアモデルになる親が増えた

これは高学歴(大学卒)の母親をもつ家庭の女子学生に多いケースです。母親が単純なパートタイマーの仕事ではなく、総合職として企業の仕事を継続している、保険関係の仕事で自営業を行っている環境では、親の生き方が自然と子供のキャリアモデルなっていることがあります。そのため、仕事と家庭の両立を企業選択の理由にする学生が増えてきています。

 

採用担当者にとってもこういった背景は無視できなくなってきて、今シーズンは最終選考で「当社に入社した場合、ご両親は何とおっしゃいますかね?」という質問をする企業が急増しています。相撲部屋や野球チームが中学生や高校生を採用するのならともかく、これも少子化社会(売り手市場)が生み出している現象なのでしょう。

 

就職活動を機会に、子供が親と仕事について話し合う場面はとても良いことだと思います。私たちの世代では親の意見が参考にならないというだけではなく、照れもあってなかなか親と面と向かって将来を語り合うということができませんでしたし、高度成長期の親の方も(家庭を守るための)仕事に全力投球で、なかなか家庭を振り返ることができませんでしたから。

(映画「ALWAYS 三丁目の夕日」や「Field of Dreams」をしみじみと観てしまいます。)

 

もっとも、学生から内定辞退される際に「親が反対して・・・」というのは何処まで本当なのか信じられませんけどね。

 

第136号:大手企業の採用活動が収束

GWも明け、大手企業の内々定出しは一段落いたしました。いくつかの企業に採用状況を伺ってみると、売り手市場と言われながらも、そこそこ順調に成果が出ているというところが多いです。そのポイントは何か特別な施策としたというよりも、学生とのコミュニケーションを丁寧に行った、という点にあるようです。

 

今シーズンの企業の採用戦略の傾向は言い尽くされているとおりですが、やはり下記の2点につきると思います。

 

  • 選考時期の早期化

⇒企業セミナーの方は、現状(10月)からこれ以上は早くはできないようですが、採用選考の方は2週間ほどスタートが早まっているようです。協定を遵守している大手製造業や総合商社は例年通り4月から選考を始めていますが、3月中に選考を済ませて4月からは連日フォロー面談という企業もありました。

  • リクルーター制の導入

⇒導入規模(リクルーター人数)、開始時期、運用内容はまちまちですが、どこの企業も人海戦術で早期から展開しています。大企業と比べると不利な中小企業も、こまめに社員を出身大学に送り込んで学生とコンタクトしているところは順調に成果をあげています。

 

さて、企業の採用活動は意外と順調だと書きましたが、これは正確に言うと「予想通りの成果が上がっている」ということのようです。決して企業側が苦労せずに良い人材を確保できているということではなく、採用選考プロセスが以前よりかなり緻密になり、学生との直接コンタクトが増えた結果、採用状況の把握が正確になってきた、ということです。

 

今の企業セミナーは、単純な一方的なプレゼンテーションではなく、参加型のワークショップやグループ・ディスカッションが増えてきましたから、応募学生の理解度も深まって応募意欲が高まると同時に、企業側ではそういったコミュニケーションの中から学生の志望度具合や応募水準が把握しやすくなってきています。そのため、わりと初期の段階から今シーズンの結果の予測がやりやすくなっており、いざ蓋を開けたら学生が集まらない、といった事態を避けられているようです。

(逆に、これまで通りのやり方を踏襲している企業は思った通りに成果が出ないと嘆いています。)

 

しかしながら、成果の最終的な判断をするにはもう少々時間がかかることでしょう。このGW中に、学生からの相談では「A社とB社の内定があるのですが、どちらが良いでしょう?」という相談が増えたたのですが、昨年と違ってA社もB社も遜色のない良い企業であることが多いです。やはり今年は売り手市場で企業の選考基準も緩んできているのでしょう。

それにしても、最近は早々に採用応募を締め切る大企業が多いです。まだまだ優秀な学生が居るのに勿体ないなあと感じるこの頃です。思わぬ辞退者発生で苦労しませんように・・・。

 

第135号:ファースト・トラックの応募者

いよいよ大手企業からの内々定が出始めましたね。やはり今年は昨年より1~2週間早いようです。早々と内々定を手にする学生は、早々と走り始めた学生かというと、必ずしもそうではありません。不合理かもしれませんが、やはりそこが大学受験とは異なるところであります。

 

外資系企業における採用担当者の業界用語ですが、有望な応募者のことを「ファースト・トラック(fast track)」と言います。本来は企業内での有望な出世コースを進んでいる社員を指すもので、社内での競争に打ち勝ち、人事部が選抜してエリート・コースを歩ませることを「ファースト・トラックに乗せる」と言ったりします。能力での選抜なので年齢や学歴は(あまり)関係ありません。

同様に、採用活動においても応募集団の中から有望な者を選抜して早期に採用面接に進ませることをファースト・トラックに乗せると言い他の応募者よりも早く選考に呼び出して早く結果を出そうとするわけです。

 

この形態は外資系企業だけではありません。日本企業においても、同じ日に応募して同じ日にエントリーシートを出して、同じ日に初回の面接を受けたとしても、その選考結果によって次の選考に呼び出される日が変わってきます。当然ながら、早く呼び出させるのは有望な「ファースト・トラック」です。ネットでの情報交換が盛んな今、学生同士でも呼び出される日が異なると、「ああ、俺は2番手か・・・。」と感づくようですね。たまに採用担当者に「なんで僕は呼び出されたのは遅いのですか?」と訪ねる応募者もおりますが、「ええ、君はセカンド(サード)・トラックですから。」などと答えるわけにもいかず「連絡して都合のついた方の順番ですよ。」とでも答えます。

 

そんなわけで、この4月中に内定を手にするのは有望な方々で、企業にとっては是非入って欲しい方々です。勿論、ファースト・トラックは何処でも人気ですから、早く内定を出したからと言って早く入社してくれるというわけではないんですけどね。

 

そうそう採用担当者の業界用語には、もう一つの「ファースト・トラック」があります。これはfirst track(優先道路・優先審査制度)の方で、他の応募者とは異なるルートで優先的に応募してくる若者です。一般に、こちらの方はあまり有望でないことが多いので、早く結果を出してお断りしないといけないんです。他の企業が採用活動を行っているうちに・・・。

 

 

第134号:他社選考に行かせない囲い込み

採用選考もまさに今がピークですね。4月から真面目に始めた企業でも早いところはそろそろ内々定を出し始めました。街を行く学生の顔にも笑顔が見え始めています。それとは全く対照的に、採用担当者の顔はどんどん険しくなってきました。やはり、採用担当者の最終的な敵は採用担当者なのでしょう。この時期は学生選考だけではなく、他社を意識した囲い込み活動も盛んです。

 

採用選考の方針や戦略は企業毎に異なりますが、業界でくくって比較してみると似たような傾向はあります。4月になって協定通りにセミナーを始め、選考を始め、結果を出す、という生真面目な業界もあれば、3月中に選考はほぼ済ませても結果は学生に伝えずに、4月から正式選考という名目で学生を拘束する業界もあります。その囲い込みのやり方を見ていると、懐かしいバブル期の囲い込み採用を彷彿とさせるものがあります。現在活動中の学生に聞いていると、こんな囲い込みにあっています。

 

・1日に連続して数回も面接を行い、結果的に訪問企業で丸一日過ごした。

・都心から遠く離れた郊外の選考会場に呼び出されて選考があり、他社を回る時間が無くなった。

・泊まり込みで合宿形式の選考にあった。

・1日から毎日連続で呼び出されて、他社に回れない。

 

やはり有名大学の学生ほど囲い込みが厳しいようです。企業に頼んで選考日程を変えてくれるように頼めば良いようなものですが、学生の都合を聞いてくれる企業とそうでない企業はやはり業界毎に差があります。今は売り手市場なのですから、学生が強気になって選考日程の変更依頼をすると、「ではご縁の無かったということで。」と切られてしまうとのこと。この舞台裏で採用担当者は採用数に厳しいノルマを課せられているので、必死なはずなのですが・・・。

 

前述の通り業界によって異なりますが、組織的な統制のきつい業界の大企業ほどノルマも厳しいように見えます。同じ採用担当者として、そこまで上から言われたら反論するだろうな、と感じることも多々あるのですが、現場で文句を言いながらもセミナーでは笑顔になり、言われたとおり忠実に動くモチベーションとは何だろうと不思議に思います。(私が比較的自由なベンチャー系企業に慣れてしまっているせいかもしれませんが。)

 

学生の意識調査を見ていると、大企業指向がどんどん高くなっているようです。大企業指向そのものがわるいことではありませんが、その組織的採用活動を知ったら学生の大企業指向は減るかもしれません。もっとも、大企業に入社して自分の人生も囲い込まれると、もしかするとそれはそれで安心なのかもしれませんね。だから大企業は学生を囲い込めるのかもしれません。

 

第133号:留年による内定取り消し

卒業式も終わりましたが、最後に就職課と採用担当者の心に残るのは留年による内定取り消し者でしょう。少数ではありますが、毎年出てきます。交通事故等による突発的な不可抗力ならともかく、履修単位数の不足や必修科目の不合格等ではなんとも憤りを感じます。

 

留年が確定した内定者から連絡があるのは、3月の初旬から中旬が多いです。大学側から本人への連絡はもう少し早いと思いますが、企業に連絡が来るのは学生側の万策が尽きてからなのでしょう。3月の入社直前に内定者が減るというのは採用担当者にとっても泣きたくなるような事態ですが、如何ともし難いです。多くの採用担当者はやるせない想いで配属プランを変更して調整に努めます。

 

しかしながら売り手市場になったいま、企業側ももう少し緩やかな対応を取るべきかもしれません。セメスター制度で半年後に単位が取れるなら、入社時期を半年ずらすとか、アルバイト採用(契約社員)にして単位修得後に正規採用する等の対応です。外資系企業のように、入社時期を選択できる企業であれば、このような対応はかなり現実的です。

 

よく考えてみると留年で内定取り消しになるというのは、卒業時期(入社時期)が一律で、卒業見込者だけを新卒採用とみなす、日本社会に特有の慣行なのかもしれません。海外のように、卒業後に就職活動を始める社会では、留年による内定取り消しというのはありえませんから。

 

私もかつて内定取り消しにした学生を採用したことがあります。なかなか優秀な内定者だったのですが、たった1単位を落としてしまい、泣く泣く内定取り消しをして見送りました。ところが、すぐ翌月(4月)に始まった採用セミナーにその本人が参加しているのです。セミナー後に個別に相談してみると、どうしても入社したいのでもう一度最初から受験して来年入社する、というのです。魚心あれば水心で、こちらもそこまで思ってくれているなら・・・、と人事内部で検討して簡易な面接だけで選考を済ませ、すぐに内定を出して翌年に入社してもらいました。

 

内定取り消しは個別対応になるのであまり表面には出てきませんが、実際はこういった対応を取る企業は少なくないと思います。売り手市場では1名の内定者を獲るのに莫大なコストがかかりますから。もっとも、あまり学生に甘くなるのは日本社会において良いことではありませんけどね。

 

第132号:エントリーシート締め切り前夜

4月からの採用選考開始のために、エントリーシート(ES)の締切日を3月中旬に設定している企業が多く、学生の方も必死に仕上げにかかっておりますね。この時期になると、いきなりメールでESの添削を依頼してくる学生さんが居りますが、私はESのメールでの添削は原則として行わないようにしています。いや、メールで添削を行うのは不可能だと思います。

 

メールでESを送ってくる学生さんは、藁にもすがる思いなのでしょう。面識の殆ど無い私に「是非、添削をお願い致します!」と書かれてきます。しかしながら、一度も面談やカウンセリングを行ったことの無い方では、書かれてきたESの語彙や論理のチェック等の「評価・訂正」はできますが、その内容までは改訂(添削)することはできません。学生さんが自己PRするテーマにアルバイトの経験を取り上げていたとして、そのテーマがその学生さんを最も良く表現しているかどうかはわかりませんし、もしかすると、サークル活動の方が良かったり学業の方が良かったりする場合も多いですから。つまりESの添削は、その学生さんとある程度の期間、面談を繰り返した後に初めて出来るものだということです。

 

就職課の皆さんも日々、同様の経験をされていることと思います。全く初めて相談に来た学生に「どう書けばよいのですか?」「何を書けばよいのですか?」と聞かれても、「それは自分で考えることです。」といった回答しかできないでしょう。逆に言うと、面談を3回か5回位繰り返せば、かなり学生の持ち味を引き出して、それなりに良い添削ができるようになりますが、そこまで根性のある学生さんも職員の方もなかなか居られません。(勿論、手取り足取りではなく学生自身にPRポイントを考えさせるのも就職課職員の大事な役割ですね。)

 

ES締め切り前夜に駆け込んでくる学生が居たら、なんとかしてあげたいと思うのも人情なのですが、こればかりは如何ともし難いです。ESの原稿を、400字から200字にして削減(添削の「削」)してあげられても、200字を400字に創作(添削の「添」)することはできませんからね。

そういう点では採用担当者も同じです。如何に採用担当者といえども「評価」はできても「添削」はできません。(その代わりに面接でESでは見えていない部分を聞き出していくのです。)

 

この世にESが登場して10年近くなりましたが、ESに追われる学生・大学職員・採用担当者を見ていると、果たしてこれで良いのだろうか?と思うこの頃です。採用担当者も罪なモノをつくってしまったものですね。

 

第131号:正体不明の「KY系学生」

採用選考が本格的に始まり、駅で見かける学生の表情も真剣度が上がってきました。面接を体験した学生も出てきていますが、まだまだ緊張感の方が先立ち、まとまった話の出来る学生は少数のようです。

面接慣れの問題かもしれませんが、採用担当者が困るのは、ここ数年、正体をつかむのに手間のかかる学生が増えてきたことです。採用担当者から言わせると、「KY系学生」です。

 

流行語にもなってしまった「KY」というのは、もう説明するまでもなく「空気が読めない」という意味です。言葉にしないと理解ができない若者が増えつつある今、こういった言葉を使っているのを見ると、まだ日本人の心は失われていないのかなとも嬉しくなりますが。

しかし、採用担当者の感じる「KY」とは「空気が読めない」ではなく、「気持ちが読めない」です。「KY系学生」は、面接を行っていて時間がかかります。具体的な会話例をご紹介しましょう。

 

採用担当者「あなたが大学生活で最も力を入れたことはなんですか?」

KY系学生「いろいろやってきましたが、アルバイトです。」

採用担当者「どんなアルバイトですか?」

KY系学生「接客業です。居酒屋のチェーン店ですが店長を任されていました。」

採用担当者「そこではどんな体験をしましたか?」

KY系学生「多くの社会人の方々に触れることによってコミュニケーション力を身につけました。」

 

今の面接では非常に多いパターンですが、上記の会話から採用担当者が得られる応募者の個人情報は殆どありません。この程度の情報ならば履歴書に1行記載してあれば十分ですから、ここまでの採用担当者の3つの質問は無駄になっています。こういった会話をする学生が「KY系学生」、つまり『採用担当者の気持ちが読めない応募者』です。面接は世間話の場ではありません。採用担当者は非常に限られた時間の中で応募者一人一人を知ろうとしていますので、その採用担当者の気持ちが読めているならば、最初の質問から「居酒屋のアルバイトを通じて社会人の方とのコミュニケーション力を身につけたことです。」と答えて戴ければ非常に助かりますし、応募者の評価も上がります。

 

学生は無意識に自分自身の存在を「××系」「××的」という表現を使い、曖昧で没個性にしていることが多いです。それは心理学的に自分の居場所を確認すると同時に埋没させる効果があるそうで、危険に溢れた現代社会において目立つことを避けようとする若者の意識の表れらしいです。しかし、採用面接でこれをやられては困ります。面接の場では採用担当者を信頼して早く素顔を見せて欲しいものです。マニュアル本に個人情報は小出しにした方が良いと書かれているものもあるそうですが、それは採用担当者には、「無駄に時間を使う人(MH)」「手間のかかる人(TH)」という印象になるでしょう。

 

売り手市場になってしまった今では難しいお願いかもしれませんが、採用担当者の気持ちを読んだ面接をして戴けたら助かります。お互いのために・・・。

 

第130号:模擬面接における自分軸と社会軸

最近は、大学入試と就職活動(採用選考)の開始が同時期になりました。大学内は受験生で溢れ、大学外は就活生で溢れています。受験大国日本の盛りですね。今年は例年以上に企業の選考開始の足並みにバラツキが出ているようで、それに合わせられたかのように学生の面接準備にもバラツキが激しくなってきたようです。

 

先日大学での模擬面接を行ったところ、なかなか話ができない学生にひとつの傾向がありました。自己分析を行っているのに、説得力のある志望動機を話せない学生です。その学生の話をよく聴いていると、体験談の整理や強みはまとまっているのに、それを志望する企業で、または社会でどのように活かしていくかを関連付けられていないのです。学生が最近よく使う就職流行語に、「自分軸」というものがありますが、それが世の中でどう発揮するかという「社会軸」を持っていないのです。

 

「自分軸」と「社会軸」について整理すると下記の通りです。

▼自分軸(垂直軸・時間軸)

過去の自分(体験談)⇒勉強、サークル、アルバイト、ボランティア、趣味

現在の自分(自己PR)⇒長所・短所、性格、能力、指向性、行動特性、専門分野

未来の自分(志望動機)⇒その企業で行いたい短期・長期の夢、希望、人生

 

最近は体験談を聞くコンピテンシー面接が大流行しているせいか、最後の志望動機について語るところまで思いつかない学生が増えてきました。これは、社会を表面的なところでしか知らないので想像がつかないのか、多忙な時間の中で自分を囲んでいる社会について見渡す余裕が無くなってきているのかもしれません。それが、下記の社会軸の視点の欠如です。

 

▼社会軸(水平軸・空間軸)

社会意識(一般常識)⇒時事問題、関心のある出来事、社会人意識

就活状況(企業研究)⇒他社の志望状況、企業(業界・職種)選択の基準

 

企業が社会軸を質問するのは、一般常識(知識)を見るだけではなく、その応募者の性格や本気度、意思決定基準がわかるからです。実際、自分軸(体験談等)を聴かなくても、その学生の人物の大きさは、時事問題の視野の広さや理解度、捉え方などによっても判断できます。自己中心がドンドン進む中で、むしろこれからはこちらを重視した面接が必要かもしれません。

 

売り手市場になると学生はどうしても「自分軸」を中心に考えがちですが、「一つのことに集中して回りが見えなくなる」のはドラマの主人公に任せておいて、広い視野から自分の軸を見直して欲しいものですね。

 

第129号:採用活動に関する大学との共同研究-3

昨年末にこちらでご紹介した、商学部のゼミ学生と企業の採用活動に関する共同研究(大学生の内々定辞退)の報告会が行われましたので、その調査内容を少々お伝えしたいと思います。この報告会は大学に企業採用担当者(約10社)を招き、学生のプレゼンテーションに対して質疑応答を行うという形式で行われました。今回で4回目になります。

 

1.採用予定人数を確保する為に採用基準を緩和することはありますか?(回答数48社、以下同じ)

・よくある           ⇒ 2.1%

・時々ある           ⇒31.3%

・あまりない         ⇒39.6%

・全くない           ⇒27.1%

⇒これはインタビュー調査でも明らかになったことですが、景気が良くなっても採用基準を緩めることは殆どないということです。どんなに厳しくても最低限の基準は守りたいということでしょう。

 

2.他社が採用予定人数を確保するために採用基準を緩和していると感じますか?

・そう思う           ⇒33.3%

・まあそう思う              ⇒47.9%

・あまりそう思わない ⇒18.8%

・全くそう思わない      ⇒ 0.0%

⇒ところが、これを他社の状況として聴いてみると意外にも、他社は緩和しているという感想の企業が殆どです。詳細にインタビュー調査してみると、これは大量採用を始めた特定の業界・企業の影響が大きいことが明らかになってきました。

 

3.学生は内々定辞退をする際に企業を充分に理解した上で辞退していると感じますか?

・そう思う           ⇒ 2.1%

・まあそう思う              ⇒22.9%

・あまりそう思わない ⇒72.9%

・全くそう思わない   ⇒ 2.1%

⇒さて、研究の本題である内々定辞退の理由ですが、採用担当者は内々定者に充分に企業を理解して貰ったとは感じていません。これは単なる「滑り止め」にされたということと、充分に自社のことを伝えきれなかったという採用担当者の辛い想いが現れています。インタビュー調査でも、充分に理解して貰った上で辞退されるなら仕方ない、というコメントが多く伺えました。

 

売り手市場になったため学生には洪水のように情報が流れておりますが、こういった環境では自分のペースで1社1社をしっかり考えることは困難になってきました。そのため、「取りあえず」就職活動で「取りあえず」内定取得となることも仕方ないことでしょう。知名度の低い中小企業の採用担当者にとっては悩ましい時代が当分、続きそうです。

 

第128号:大統領選挙と採用活動

1月になり、大学は期末試験やレポートの準備に追われる学生で活気に溢れています。通常、この時期の採用担当者は嵐の前の静けさというか砂漠のオアシスというか、エアーポケットのような時期なのです。しかし今シーズンは学生の都合に一切関係なく採用活動を継続する企業も出てきているので、秋からそのまま息つく間もなく走り続けている学生さんも目にするようになりました。取り乱している学生を見ていて、ふと、盛ん報じられている米国大統領選挙のことが思い浮かびました。

 

米国大統領選挙は11月の本選挙が本番です。例年であれば候補者選び(党員集会)の開始は春以降ですが、今年は既に口火を切りました。これから全米各州を回る壮大な選挙活動が始まります。各州の党員集会の最初は例年通りアイオワ州が最初でした。私はてっきりアルファベット順に行われるものだと思っておりましたが、これは各州から開催日が出されて早い順に決定されるのだそうですね。アイオワ州はトウモロコシ畑しか無い地味な州なので(と、言ったら怒られますが)、毎年大統領選の時だけは脚光を浴びるようです。大学対抗の駅伝大会などで、最初のスタート・ダッシュで飛び出してTVカメラに大学名を映させるという戦略と同じですね。採用活動でも就職シーズンの最初の方が目立ちますし、学生も集まるので企業が先を競って大学訪問を始めるのと同じことかもしれません。

 

米国をドライブしていると、候補者の名前の看板を市中の住宅街アチコチで目にします。(日本の選挙ポスターと違って候補者の顔写真がありませんので、初めて見た時は何かのフェスティバルかスーパーマーケットの広告だと思ってしまいました。)これも駅伝大会に例えるなら、ランナーが走る沿道で大学や企業名の旗を振って応援することでしょうか。採用活動なら、各種メディアに採用広告をだすことでしょう。(原稿作成って、結構、大変なのです。)

 

ところが、先日みた米国内のニュースでは、既に国民は大統領選挙の過熱ぶりにウンザリしてきたと報じられていました。運動資金の調達とそれを使った広告活動の膨張により、既に「選挙疲れ」をしているとのこと。有権者の70%が選挙の短縮化を望んでいるという調査結果もあるそうです。

 

大統領選挙や採用活動が無駄とは言いませんが、今のメディア過剰・情報過剰の時代では、誰もが気づかぬうちに混乱・混沌の渦に巻き込まれます。21世紀が環境の時代で、日本の節約文化が発揮されることは間違いないと思いますが、エネルギーや物質の節約だけではなく、人間の心や精神活動も節約して、本当に大切なことに使うことを忘れないようにしたいものですね。企業も大学も。