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第327号:言文不一致ESのススメ

江戸時代までは、話し言葉は口語体で書き言葉は文語体を用いていたが、明治時代になると夏目漱石や二葉亭四迷らによる言文一致運動が起きた・・・、というのを日本史で習いませんでしたか?元々、日本語は書き言葉と話し言葉は別々の発達をしてきたそうですが、ペンを取って手紙をしたためるよりメールやLINEで連絡を取るようになった現代では、若者の言葉はしっかり言文一致になってきたようです。そしてこの影響がエントリーシート(ES)の書き方に現れています。

 

ESの採点基準はいろいろありますが、例えば限られた文字数でできるだけ多くの情報を伝えるスキルを把握するには、数字、漢字、固有名詞を多用しているかを見れば良いです。また、無駄な描写をせず、できるだけ簡潔な表現をしていることが望ましいのですが、それには冒頭で述べた「話し言葉」と「書き言葉」の使い分けができているかで判断します。実際に私が見たESの例で見てみましょう。

 

▼学生の書いたES

「私の学生時代の1番エネルギーを注いだ経験はアルバイトです。私は、高校時代から苦手だった初対面の人とのコミュニケーションを少しでも克服しようと思い、あえてアルバイトは百貨店のテニスショップでの接客を選びました。最初はドキドキの連続でした。しかし、目標を持ってはじめた以上、逃げてはいけないと思い、誰よりもはやくお客さまに挨拶することを心がけ、取り組みました。 アルバイトを始めて2年以上になりますが、今ではコミュニケーションに対する苦手意識はなくなってきましたし、また、最近では店長から「2年前とは大きく変わったね。」と言われたことがとても嬉しく、自信にもなっています。」(283文字)

 

すらすらと読みやすいですが、それは文章が会話調の口語体だからです。確かに面白いのですが、無駄な表現が多く、文字数に比して読者が得られる有益な情報量(応募者の強み)は意外と少ないです。また、本人は頑張った経験なので是非書きたいのでしょうが「対人コミュニケーションが苦手」という表現を使うのもどうかと思います。読み方によってはやっと人並みになったのかな、とも捉えられかねません。これをシンプルに改訂してみたのが以下です。

 

▼改訂例

「大学入学後に百貨店のテニスショップでアルバイトを始め、2年以上頑張っています。接客業は初めてでしたが、誰よりも早くお客様に挨拶をすることを心がけ、店長から高く評価されるようになりました。」(93文字)

 

ちょっと無味乾燥ですね。でも、この学生の「能力」で採用担当者が得られる有益な情報はこれくらいです。文字数が半分以下になりましたので、更にまた別の能力について書けば当初のものより倍以上の情報を採用担当者に与えることができます。言い方を変えれば、当初の文章は面接の会話用にして、改訂例をESや履歴書の文書用に使い分ければ良いのです。

ところが、学生の中には履歴書やESや面接の会話が、全部同じの「超言文一致」の人がいます。何が原因かはわかりませんが、ツイッターやLINEでどんなに長時間呟いても、書くための訓練をしなければ文章力は向上しません。是非、メディア特性を活かした表現をして欲しいものです。

第326号:大学を回って感じる校風

新学期の授業もそろそろ学生の履修登録が決まり、ようやく本格的な授業が始まる頃です。私は複数の大学で非常勤講師を行っていますので、この時期に多くの学生と新しい出会いは楽しみです。4月は授業以外にも就職セミナーやインターンシップやアルバイトの心構え等、ゲスト講師で招かれることもあります。そのように複数の大学での学生の受講態度を見ていると、明らかな大学毎の校風を感じます。各校の学生達はその環境に馴染んでいるので気づきませんが、これは自然と採用担当者の評価(心象)にもつながります。

 

新入生(1年生)の受講態度は、ほぼどの大学でも同じで、緊張感の中にも好奇心が垣間見え、真っ白で素直な人が多いです。校風が出てくるのは2~3年生になってからで、各大学の授業の規模や形態に適応して身についた独特の行動特性なのでしょう。私は講義の中で常に学生に話しかけながら授業進めるので、そのリアクションに特にそれがよく現れます。例えば以下の様なパターンです。

 

・高偏差値のミッション系大学

授業形態が伝統的な大人数の講義形式で教員が一方的に話すので、しっかり聴く体勢やノートを取るスキルは身についているが、質問を投げかけるとフリーズしてしまう。回答が浮かばないのではなく、大人数の教室でちゃんと答えなければというプレッシャーで戸惑ってしまう。

 

・中偏差値の理工系大学

学問分野が価値観を問われるものではなく真理を追究するものであり実験や課題が多いので、正解のない問いを投げかけられると真面目に悩みながら訥々と答える。「解答」はできるが個人の意見「回答」を求められるという授業に慣れていない。

 

・小規模な女子大学

授業の人数が少なくメガ大学のような大教室授業ではないので教員と学生の距離が近く、質問に対して人なつこく回答するが、内容は比較的自己中心で感情的なものが多い。小規模大学独特のアットホームな環境だが、他者の意見を受け入れる柔軟さに欠ける。

 

これらは私が経験した中での心象なので、大学毎の違いというよりは大学内で受講してきた経験の違いなのかもしれません。または高度に進化したIT社会の中でリアルタイムに反応する経験が少なくなってきたという要因の方が大きいかもしれません。いずれにしても、こうしたリアクションの違いは、それまで受講してきた授業環境や過ごしてきたキャンパスライフから身についたものでしょう。

 

人の行動パターンは、定着すると容易に変えることができなくなります。大学生活数年間で、受け身の体勢を続ければ即興のリアクションがとれなくなるのも無理はありません。そしてそれが顕著に現れて学生が悩むのは、就職活動の面接というリアルタイム・コミュニケーションの場です。新学期にあたり、授業というものは学生に知見を授けるだけではなく、指導形態から学生の行動パターン、ひいては学生の人生さえも左右するということを自覚しながら取り組みたいものです。

 

第325号:受講態度を見ていてわかるデキル学生

先日、とある大企業の小さな(10人弱の)企業説明会を見学する機会がありました。今年度は採用数がそれほど多くないのでネット等は使わずに、リクルーター等を使って狙った大学の学生だけを招待するターゲット・リクルーティングです。そのセミナーを後ろで聴いていて感じたのは、採用選考に通りそうなデキル学生は見ていてわかるということです。

 

採用選考とは関係のない企業セミナーと言っても、自然と目につく学生がいることは、私にも経験があります。それはレベル別に書くと以下の通りです。

 

1.メモを取っている。

2.リアクション(うなずき等)がある。

3.簡単な確認の質問をする。

(以下は質疑応答に入った時の場合です。)

4.深い理解を求める質問をする。

5.自分の意見を述べられる。

 

お察しの通り、カウンセリング・スキルを使ったアクティブリスニングですね。これらが身についている学生は好感がもてます。更に細かいところをそれぞれのレベルで見ると、以下の点があります。

 

1.持っているノートの形状・記述の仕方が良い。

ノートを覗き込んだわけではないので、これはセミナー後に書かれた文書から判断します。

2.話者とアイコンタクトができる。

リアクションのタイミングが重要で、周りにつられて頷くのではありません。

3.不明な点を自主的にすぐ質問できる。

セミナーの流れや話の切れ目を見て、適切なタイミングで不明点を確認する。

4.聴講した内容に好奇心と疑問をもつ

時折、話者の想定外の深いとらえ方をする学生がいます(但、脱線質問はNG)。

5.自分の仮説を即時に述べることができる。

聴講内容をその場で客観的・比較的に述べるには、自分に知見がなければできません。

 

如何でしょうか?セミナーの受講態度を注視しているだけで、相当な判断ができますね。勿論、これは外形的な判断なので実際の学生の実力が隠れていることはあります。しかし、企業の初期の採用選考ではこうした言動だけでも相当に仕事力は判断できると思います。社会では自分がどんな実力があっても、顕在的に発揮できなければ意味がありません。だから目で見てわかるというのは大事です。

 

翻ってみると、こうした受講スキルは大学授業でいくらでも評価・指導できると思うのです。講義をしている教員が授業中に観察評価をするのは困難ですが、同僚の教員やTAの学生にチェックして貰うとか方法は考えられます。こうした振る舞いは1日や2日でできるものではありません。日頃からの習慣になるように、1年生の新学期から身につけさせたいものですね。

第324号:大学入試改革は、企業の採用選考化

去る3月17・18日に、京都大学で第22回大学教育研究フォーラムが開催されました。このメールマガジンをご覧になっている方々でFD等に関わっている方はご存じでしょう。全国の大学教員が集い、教育についての実践的な活動研究報告やシンポジウムが展開されており、私もビデオ教材を用いた授業について発表を行って参りました。

毎年トレンディなテーマが扱われていますが、今年度は「高大接続・入試改革」が目立ちました。特に入試改革における各大学の取り組みや課題を聴いていると、大学入試が企業の採用選考と似てくると感じました。

 

昨年12月に出された中教審答申の「高大接続・入試改革」では、2021年の大学入試からこれまでのセンター試験が新テスト「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に代わることとなり、試験の形式がマークシート方式以外に記述方式が導入されます。これは企業の採用選考で言えば、SPIに加えてエントリーシートが導入されるようなものですね。主に「知識・技能」をみるもので一次選考にあたります。

 

更に企業の二次選考にあたる、各大学の個別の方針(アドミッションポリシー)によって行われる入試には、「思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性」を評価するために以下のような多様な選考手法が導入される予定です。既に大学入試が外注される時代ですから、選考内容によってはアウトソーシングされるものも出てくるでしょう。

 

『小論文、プレゼンテーション、集団討論、面接、推薦書、調査書、資格試験等』

 

如何でしょう?全く企業の採用選考と同じ形式ですね。これらの導入には、企業と同じく、以下のような大きな課題があります。

1.選考基準の設定が非常に難しくなる(非数値的判断)。

2.選考過程に手間がかかり費用(時間・金銭)が増える。

 

しかし、こうした入試改革、そしてそれに続く大学教育の改革が順調になされたならば、(淡い期待ですが)企業の採用選考は大学の成績を重視するようになるかもしれません。こうした入試改革が始まれば、きっと高校や予備校でもこうした講座が増え、学生の資質が底上げになるでしょう。

結果、学力格差は経済格差と益々近づくかもしれません。とても悩ましいことですが、より良い大学入試も企業の採用選考には手間はかかるものだということです。そこをどれだけ上手に行うべきか。企業の採用担当者にとっても、これから「高大連携・入試改革」は目が離せなくなりそうです。

 

▼参考URL:第22回大学教育研究フォーラム(2016.3.17.18 京都大学高等教育研究開発推進センター)

http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/forum/2015/

▼参考URL:新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)(中教審第177号)(2015.12.22 中教審)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1354191.htm

第323号:ビジネス感覚は君子豹変の成長機会

企業と学生のコンタクトが一気に始まりました。大学受験が終わり、しばし閑静だったキャンパスがリクルートスーツで溢れています。日本の新卒一括採用には批判も多いですが、四季がはっきりしている(最近はどうも異常気象で続きすが)我が国らしさかもしれません。この時期に学生がグッと成長できるかどうか、豹変できる君子であるかどうか、期待を持ってみていますが、そのキッカケは意外と小さな意識の変化だと思います。

 

採用担当者としてどのような視点で学生を見るかは、本当に企業毎、個人毎に異なりますが、学生から社会人への意識の切り替えができているかは誰しも期待を持ってみているところでしょう。しかし、この「学生から社会人へ」という言葉の解釈が、私のように営業現場を経験した採用担当者と、人事部だけしか経験していない採用担当者では、だいぶ異なるように感じます。前者であれば採用選考の場を「取引」の場と見なすことができますが、後者の場合はこのビジネス感覚が欠けていると感じることがあります。

そして、学生(応募者)も複雑な交渉を伴う取引(ビジネス)の経験がまずありませんが、ここに気づけていたら、話し方は大きく変わってきます。それには以下の小さな意識の変化があるかどうかです。

 

『就職活動とは、企業に対して自分という商品を売込む人生で初めてのビジネス』

 

なんだ、こんな簡単なことかと思われましたか?確かに言われれば当たり前のことです。しかし、この小さな意識の変化をちゃんと理解できていたなら行動が変わります。採用面接の場が商談の場だと理解できているなら、そこですべきは「要求」ではなく「提案」です。

「要求」とは、相手の思惑はともかく自分の想いを一方的に伝えることです。国同士の取引(外交)では某大国のように、過大な要求をつきつける交渉術もありますが、通常のビジネスではそうした態度は疎まれます。翻ってみると、相手のことを考えたり調べたりしないで自分の想いだけを熱く語る学生はおりませんでしょうか?具体的に言うと、自己分析はやっているけど企業研究をやっていない学生のことです。相手は当然わかってくれると思い込んでいるのでしょう。

一方で「提案」とは、自分と相手の合理的な、いわゆるWin-Winの関係を考えながら話すことです。具体的に言うと、相手の求めているものを理解した上で(企業研究をしたうえで)、そのニーズに合うように話すことです。

ここでいう「相手の求めているもの」というのは、採用担当者が語る「求める人材像」のような抽象的なものではなく、その組織が求める具体的な業務内容や仕事能力の理解です。上述の通り、営業経験のない採用担当者は前者をみる傾向にあり、現場経験のある採用担当者は後者を見る感覚があります。

 

採用活動を冷静にビジネスの場と考えると、性能も可能性も未知数な製品をたかが10~20分の面接数回で購入する非常にリスクのある判断です。しかも購入金額(生涯賃金)は2~3億円です。こんな商談は世の中にそうそうありません。というわけで、「わけのわからないもの(自分という商品)を、わかりやすく説明して売り込むのだ」そうしたビジネス感覚で提案できる学生ならリスクをおかしても購入してみようかと思えます。願わくは、この春に多くの学生が豹変することを!

第322号:期末試験答案とエントリーシートの共通点-2

もうひとつ期末試験もエントリーシートも選考基準で同じだと思う点をあげます。それは採用選考基準が教員(企業)毎に異なるということです。大学は正解のない課題に取り組む場ですが、そうした考えが身に付いていない学生には悩ましいことでしょう。言い換えれば、大学の試験に対処する知見があれば、就職活動での選考にも対処できるということです。

 

前回あげたエントリーシートの書き方については、比較的どんな科目や企業でも共通だと思いますが、それは誰でも求められる基本的なスキルだからです。これらは単位認定(選考合格)のための必要条件でありますが、(私の場合は)これだけでは十分ではありません。設問に対する回答が、文量も形式も整っていたとしても、表現されている内容が題意とズレている場合には合格にはできません。例えば、試験のヤマが外れたら「カレーライスの作り方」を丁寧に書けば単位が貰えるという都市伝説は私には通用しません。

 

しかし、選考基準が教員(企業)によって異なることは当然にありえます。以下のような視点をもった教員や採用担当者なら、カレーライスの作り方での答案でも合格にするかもしれません。

 

・論理的な視点が身に付いている   ⇒能力重視

・諦めずに挑戦する意欲がある            ⇒意欲重視

・この学生は前回の成績が優秀だ   ⇒実績重視

・この学生は日頃から真面目だ            ⇒態度重視

・この学生は発想がユニークだ            ⇒個性重視

・単位が取れないと可哀想だ              ⇒情実重視

 

こうした成績評価をするのはアンフェアですが、皆さんも大学時代に理由もわからずに良い成績が取れたり、逆に何故不合格になったか理解に苦しんだりしたことはありませんでしたか?企業の採用担当者にもそうしたことがあります。例えば、有名大学の応募者のエントリーシートはスルーパスにしたり、縁故応募者の場合などには見て見ぬふりをしたりして合格させることがあります。但しそれは初期選考だけで、最終的に内定することは滅多にないと思いますが。

 

というわけで、就活でエントリーシートを出して(これは面接でも同じだと思いますが)、通ったり落ちたりする現象がおきますが、それは普通のことで、学生側の理由だけではありません。

もし、いくら回っても全然、選考を通らないならば、それはきっと必要条件をクリアしていない学生側に理由があります。そこを改善しないで数多く回っても結果は変わらないでしょう。逆に、いくつも内定を取る学生は、こうした必要かつ十分な条件を満たしているからでしょう。

 

こうした現象は不合理なように見えますし、学生には納得できないことかもしれません。しかし、それは社会人(採用担当者)も同じです。社会で働いていると「正解」がある方が少ないですね。より良い答えを考えながら、模索して生きていく。大学の試験はそうした点で採用選考と同じだと思うのです。

 

第321号:期末試験答案とエントリーシートの共通点

期末試験答案の採点も佳境を迎えているところですが、試験の終わった学生(3年生)からはエントリーシート(ES)を見て欲しいという相談も増えてきています。企業(採用担当)出身のキャリア教育担当教員としては、いつまでも採点が終わりませんが、無数に答案を見ていると期末試験もESも選考基準は同じだと思わされます。

 

私が授業で学生に口を酸っぱくして伝えているショート・レポートや答案の書き方の注意点は難易度順に以下の通りです。こうした書き方は、中高時代に習っていないのか、マークシート中心の大学受験では必要なかったのかわかりませんが、出来ていない学生が相当数にのぼります。

 

1.量があること(答案に空白エリアを作らない)

2.見やすいこと(誤字脱字は勿論、私の授業では鉛筆は不可)

3.漢字を使うこと(文字数を圧縮でき、知性も伝わる)

4.自分の意見(学んだこと)があること(聴いたまま書かない)

5.事実+意見であること(単純な感想を書かない)

6.前向きであること(否定的表現を語彙でカバーする)

7.品格があること(読者の心情を意識した書き方)

 

そして、実際に答案(ES)の採点をしていると、以下のような気持ちにさせられます。

 

1.結論から書け

⇒最初の2~3行で先まで読む気がおきるか。採用担当者ならすぐにNG判定で読むのを

やめられますが、大学試験では先が面白くないと判断できても読まねばなりません。

2.問われていることを書け

⇒山が外れてとにかく自分の覚えていることを書くのは、諦めない姿勢として評価出来ますが、

それが設問とどのように関わるかという意味づけ(論理構築)がないとNGです。

3.読める字で書け

⇒残念ながら私は考古学者ではありません(象形文字は読めない)。

最近、ますます読みにくいクセ字・悪筆が増えています。

「採点」より「解読」に時間がかかり苦労させられています。

 

こうしたライティング・スキルは大学でも教えるべきことなのでしょうが、如何に多くの学生が「読まれる」こと意識した文章を書いていないか、教えられていないかがわかります。今はちょうどシラバス作成の時期でもありますので、上記内容は「評価基準」に書いておこうかと真剣に検討中です。

 

第320号:これからの採用活動で起きること

期末試験のシーズンになりましたが、相変わらず学生は企業インターンシップに呼び出されています。以前であれば、試験期間は企業セミナーを開催してもどうせ学生が集まらないという理由で、企業にも自粛ムードがあったものですが、今期は前倒しになって採用担当者もなりふり構ってはいられないという感じです。こうした混乱状態は、今の世界情勢と重なって見える気がしませんか?

 

「米国は、世界の警察官ではない」昨年9月の米国オバマ大統領の発言です。それは世界における米国の存在感の変化であり、絶対的な強権がなくなるということです。これからは米国・ロシア・中国の3リーグ体制になるなどの憶測もありますが、それもプーチン大統領の体制、中国の経済成長率の低下など、余談を許しません。

 

私には、この米国の現状が経団連の状況と重なって見えました。これまで大きな影響力をもって倫理憲章や採用指針を打ち出してきた経団連が、もう本気でそれを遵守する気を失ったようにみえます。昨年の企業の採用活動を見ていて、もう少し経団連の影響力はあるのではないかと思っていたのですが、経団連に加盟している企業群がここまで権威を無視するとは思いませんでした。もっとも経団連幹部企業自体がフライングをしているのですから、何をか言わんや、です。

 

ではこれからどうなるのでしょう?これも世界情勢と似たような動きになってくるように見えます。いま企業採用活動のトレンドは「ダイレクト・リクルーティング」もしくは「ターゲット・リクルーティング」です。マスメディア以外のチャネルから小規模に学生を囲い込み、インターンシップ等に動員する手法です。この手法は大規模で目立つような動きではなく、小規模なゲリラ戦、いやこの表現はベトナム戦争ですから、局地的なテロ活動ということになるのでしょう。(物騒な例えで恐縮です。)

 

ダイレクト・リクルーティングは小回りがきいて狙った学生にアプローチできますし、学生側から見ても大集団で十把一絡げに扱われませんので自ずと企業への好感度も上がります。この手法は他企業との差別化のために、独特な採用手法(以前ご紹介したような「顔採用」等々)を行う傾向にあり、そのバリエーションたるや多種多様で感心します。こうした仕事は比較的規模が小さい採用コンサルティング企業などでも請け負えますので、新興ベンチャー企業が台頭してきて成果を出しています。

 

しかし、この傾向が続くとまた新たな事態が起きてくると思います。それは経済学でいう「合成の誤謬」です。これはミクロで見る(少数が行っている)と成功する事例が、マクロで行われる(多数が行うようになる)と失敗になるという事象です。例えば、授業期間中にインターンシップを行う企業が少数ならば目立ちませんし効果もあり教員も多目に見ますが、この調子で増え続ける学生は何処に行っていいのか選べなくなりますし、ゼミや授業に学生が集まらず崩壊します。

 

世界情勢や難民問題を見ていると、何らかの国際秩序がまた求められると思うのですが、果たして今後そうした権威は登場するのでしょうか。それともこれからの世界は混乱・混沌が当たり前になるのでしょうか。とても悩ましい問題ですね。

第319号:インターンシップで教えてほしいこと

年が明け、インターンシップを理由に3年生の授業欠席が増えてきています。それも一気に2人、3人と抜けるようになってきたのでワークショップ形式の授業は成立しませんし、ちゃんと出てきている学生の足を引っ張っる支障が出てきています。嘆いてももはやどうにもなりませんが、秋学期の仕上げの時期に呼び出すなら、企業の方がには学生を甘やかさずに、しっかりビジネスマインドを教えて欲しいものです。

 

企業の採用活動はれっきとした営利活動であって、若者のための慈善事業ではありません。ところが、採用担当者にはこれが意外と盲点になっているのではないかと思います。学生は社会のことを知らなくて当然と考えられ、新入社員研修では、「働くこととは何か」というプログラムまで用意されています。それは、一面では世界に誇る日本文化なのかもしれませんが、あまりに学生をお客様(子供)扱いするのは見直されるべきではないかと思います。用意されすぎた現代社会の中で、学生の成熟化は遅れ、いつまでたっても夢を追いかける芸能人研修生になっているようです。

 

では企業が学生に教えて欲しいものとは何でしょうか?時間、法律、常識を守るというのは大学で行われているインターンシップ事前研修でも教えられるでしょうが、大学ではビジネスについてのセンスはなかなか教えられないと思います。その代表的なものをあげれば、「主体性」の考え方です。求める人材像としてどこの企業でもあげるものですが、それだけに盲点になりやすいのです。

 

例えば「報連相」というのはTVCMにもなり、今や多くの学生が知っている言葉になりましたが、この報告する際に大事なことは“主体的な”報告であることです。相手に尋ねられて答えるというのは報告ではなく「回答」に過ぎません。報告とは本来、ビジネスの相手(上司・同僚)に対して言われなくても状況を伝えることです。そうすることによって組織は様々なビジネス機会をつかめたり、危機を逃れたりできるのです。

 

ところが大学のグループワークで学生が望む「自主的な研究」をさせてみると、グループの現状を自分から伝えに来る学生はまずいません。これは以前述べた卒論の研究でも同じで、学生から定期的に報告に来て始めて教員は指導できるのとも同じです。会議(グループ・ディスカッション)でも同様です。聞かれた時に答えるのではなく、言うべき事を言うべき時に自ら話すのが主体性です。

 

こうしたビジネスマインドをしっかり企業の方が教えてくれるなら、授業を欠席してインターンシップに参加する意義もあるでしょう。しかし、インターンシップに行った学生に聞いてみると、まったくこうしたことは言われなかったり、ただ社内見学して簡単な質疑応答や学生同士のグループ・ディスカッションで終わったり、というものもあります。

 

まあ、実際は企業の社会人でもこれができていない人や組織は多いものですが、せっかく授業を欠席して迎えた学生にはしっかり企業らしい教育をして欲しいものです。

 

第318号:今年の採用活動トピックス

2015年を現す漢字は「安」となったそうですが、今年もいよいよ残り少なくなりましたので採用・就職活動の大きな出来事を振り返ってみましょう。もっとも、今年は「後ろ倒し&前倒し」の一色に染まってしまった気がしますね。

 

▼2016卒(2015年)採用・就職活動の主な出来事

1.後ろ倒し

2.前倒し

3.ユニーク採用

4.オワハラ

5.内定率好調

 

「後ろ倒し」については、それが本当に良かったのか悪かったのかは判断できません。学生アンケートでは今年と昨年の状況が異なるので(学生は毎年就活をするわけではないので)比較できませんし、今年は前例のない環境変化だったので学生の不安が高まるのは当然のことですから。

「前倒し」の6月決着とは半端な結果になったものです。前倒し賛成派は、3月に戻したかったのでしょうがそれでは流石に採用担当者も業者も対応が間に合わなくなります。もっとも、この「後ろ倒し&前倒し」には採用担当者も呆れています。私が取材した企業からは以下の声を聴きました。

「まったく茶番で議論するのも馬鹿らしい。」

「いつでも良いからコロコロ変えるな。」

「今年もこっそり6月からやっていましたから、何も変わりません。」

それにしても経団連の威光がここまで地に落ちたのは意外でした。というより、経団連も最初から守る気がなかったのかもしれません。

 

「ユニーク採用」は前回のコラムでお伝えした通りです。この傾向はダイレクトリクルーティングを進める企業や採用支援企業の発展によってますます広がることでしょう。一つ懸念されるのは、ユニーク採用は小集団で数多く行われますから、多くの企業が始めることによって学生へのアプローチが増加します。ますます学生が時間を取られることになりそうです。

「オワハラ」も大きな社会問題になりました。先日、ブラック社労士が社員を合法的に解雇するブログで炎上しましたが、労働法を知らず、かつ強い意志で断れない学生には丁寧な指導が求められるでしょう。内定した学生に早く報告をさせるキッカケになるかもしれませんね。

「内定率好調」は、あまり話題にされませんがバブル期並みになった地域もあります。こうした明るいニュースは、学生の不安を取り除くためにもしっかり報道して欲しいものです。

 

私の年内の大学授業も今週で終了しましたが、クラストップ成績の学生が教職課程を諦めたとしょげていました。教職をやると6月の就活とぶつかるので教育実習は辞退すべきだと大学に指導されたとか。他の3年生もインターンシップを理由に授業を欠席し始めました。それも一気に3人、5人と抜けるのでワークショップ形式の授業は成立しませんし、ちゃんと出てきている学生の足を引っ張って支障が出てきています。

いやはや来年も問題のある1年になりそうです、皆様、良いお年をお迎え下さいませ。