yoshi のすべての投稿

第307号:学生が提案する採用活動

先日、私が昨年から担当している2~3年生向けの新しいキャリア教育で、提案力向上のために「学生が提案する採用活動」というプレゼンテーションを行いました。評価者には馴染みの企業採用担当者にご協力戴き、率直な意見を戴きましたが、学生にとって良い勉強になりました。

 

受講学生は約200名で、そのうち7チームがこのテーマに取り組みました(テーマは他にもいくつかある)。必ず定量・定性調査等を行い、調べた事実に基づいた提案をするというルールで、大学で身に付けるべき基本的な報告手法の実践がこの授業の狙いです。今回の各チームの提案内容は以下の通りでした。

 

1.服装自由で自分らしさをオープンに聴く面接

2.長期インターンシップを組み合わせた採用

3.学校推薦制度と面接官に質問する面接(逆面接)手法

4.RJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)広報による離職率低減

5. 学生による合同プレゼンテーション会(逆求人フェスティバル)

6.部署別(職種別)採用

7.課題解決型プレゼンテーション面接

 

調査期間が2週間と短かったのと、まだ就職活動について殆ど知らない2~3年生たちなので、提案内容は拙いものが多かったです。自分たちの「要求」や「願い」を伝えることと「提案」することとの違いがわかっておらず、WIN-WINになっていないものが過半数でした。

しかし授業後のリアクションペーパーを見てみると、このプレゼンテーションを聴講していた他の学生達には、そこがよく見えていたようです。学生の主張を客観的に聴講し、企業の方から率直なフィードバックを貰うことによって、多くの学生が「提案」というもののあり方と、就職・採用活動という難解な社会問題に気付いておりました。

 

採用担当者の方にとっても、学生の気持ちをよく知る機会にもなったようです。ネット社会・セキュリティ社会になり、また採用担当者自身が年齢を重ねるに従い、学生の気持ちや現状が見えにくくなってきていますので、こうした授業が良い情報源になると思います。中にはキラッと光る提案もあり、ちょっと検討してみようか、というヒントも得られたようです。

 

さて、この授業での本当の狙いは、もう一つあります。それは、学生が企業の採用活動を研究すればするほど、就職活動に役立つということです。自分自身の課題を、客観的に見る、社会の中での位置づけを知る学生とそうでない学生では自然と発言が変わります。

私が10年前から行っている人事労務管理のゼミ生との共同研究ではこうした採用活動の研究を半年かけてじっくり行っておりますので、このゼミ生達はおそらく企業の採用担当者や下手な大学研究者に負けない知見を持っています。結果、ほぼ希望通りの進路に進んでいます。

大学は就職予備校ではありません。しかし、このように取り組む学生と企業が増えてくるならば、大学の学びを育みながら社会との自然な接点が作れると思います。

第306号:4年生が消えた春学期

早いもので、大学の春学期も終盤になりました。今年度の大きな変化は4年生が教室から姿を消したことです(私の担当する必修単位ではない科目の場合です)。4月の頃はわりと見かけたのですが、GWを過ぎるとチラホラとなり、6月に入ってからは皆無となりました。こうしたシーンを見ると、私が就職活動をしていた30年前と同じになったなあ、と感じます。時代は新しい方向に向かっているのでしょうか、繰り返しているのでしょうか。

 

私が社会人になったのは、1984年のことです。当時の就職活動解禁日は10月1日でしたから、今よりもう少し遅いです。私は4年の春学期まで運動部を続けていたので就活を始めたのは夏休みに入ってからでしたが、気の早い学生はGWの頃から活動を始めて6月には早々に内定を手にしていました。当時の多くの学生は「4年になったら就活で忙しくなる」という意識でいたと思いますので、卒業に必要な単位は3年までにとっておいて4年は必須の科目とゼミだけにするという戦略が多かったと思います。

なので、4年になったらできるだけ企業訪問ができるような体制(単位取得状態)にしておくというのは、今求められる状況と似ていると感じます。また、当時はネットや大規模な就職セミナーは今より少なかったと思いますので、学生が企業とコンタクトするのも個別に電話したりOB訪問したりで、今のターゲットリクルーティングのような個別対応と似ています。

 

逆に、以下の様に今の学生と違うところも多いです。

1.情報が少ないのであまり不安にならない。(能天気になれた。)

2.人と比べられて評価される事になれている。(受験地獄時代だった。)

3.大学単位取得が楽だった。(お上があまりうるさくなかった?)

 

これらの現象がなくなった背景には、当時にはなかった社会の構造的変化があります。それぞれ、ネット社会の発展、少子恒例社会の到来、大学教育の改革ですね。当時としては想像し難いことでした。このように、現象面では似通っていても、その原因が同じか違うかは注意してみる必要があります。それに気付かないと「昔は良かったなあ」「最近の若者は」という懐古主義になってしまいます。

 

4年生が教室から消えたとしても、社会に飛び出てそれまで学んできたことが、役に立つ・役に立たない、ということに気付いた、というのであれば、それは自主的なキャリア学習とも言えます。

 

秋学期になって4年生が教室に戻ってきたとき、笑顔で就活体験を語ってくれたなら、この春学期の欠席状態は、決して嘆くべきことではないと思います。(もっとも、秋学期に出てくる4年生は、単位不足で焦っている学生の方が多い気もしますが。)

第305号:「学歴フィルター」の捉え方で判断ができる

某国民的有名企業が「学歴フィルター」の存在を暴露されたと話題になりました。ネット時代になってから定番ネタになっているので真剣にとりあうのもなんですが、このフィルターの捉え方でその人(学生、採用担当者、教職員、コンサルタント等々)の見識のレベルがよくわかります。

 

採用活動が企業の営利活動の一環である以上、コンプライアンスに触れない限り、どのような方針をとろうが企業の自由で、この資本主義社会の基本が、何故か企業(採用担当者)が叩かれることになるのはちょっと可哀想だと思います(「指定校制度」を堂々と言えた昭和が懐かしいです)。いつもお約束のように、公的な資格試験や大学入試の如く「公平ではない」「アンフェアである」とのコメントが頻出します。

 

もっとも今回の場合は、学歴フィルターそのものではなく、これを使っていないように見せながら(積極的にそうした表現をしていたとは思えませんが)使っていた現象が不誠実であると批判されています。だから「学歴フィルターを使っていると公開すべきだ!」という意見も目にしますが、私にはこれらもナンセンスに思えます。というのは、こうした方々は世の中の現象が全て公明正大に動いている、世界は白か黒かのどちらかであるべきであるというデジタル思考の論者だと思います。もし、こうしたデジタル論者の人材を企業が採用したら、現場から「扱いにくくてしょうがない!」「なんでこん奴を採ったんだ!」と言われます(私も本当に言われました)。

 

世界の殆どはグレーでアナログなのです。グレーとは怪しいとか疑わしいとか悪いことができるというのではなく、現実的で人間が知恵で個別に対処しなければならないということであり、そんな人材が企業には有用なのです。

 

ということで、学歴フィルターというものの捉え方で、その人間の成熟度というか、社会適合性が判定できると私は思います。以前、このコラムでもご紹介したとおり、できる人の共通点は、環境のせいにしないことですから。できる学生は、学歴フィルターの存在を問題にするより、それをどう乗り越えるか、避けるかを考えます。採用担当者としては、そうした若者の方が魅力的ですからね。採用選考で「学歴フィルターをどう思うか?」というグループ・ディスカッションをやってみたら面白そうです。

 

ところで、こうした学歴フィルターに似たネット社会独特の現象(問題?)はどんどん増えています。そのもっとも身近なのは、Googleの検索結果の表示です。あまりに良く使うので忘れられがちですが、Googleのような検索エンジンの仕組みでは利用者の傾向にあわせて表示結果が変わります。ユーザー重視の「最適化」とか「カスタマイズ」などと言われますが、良く考えると恐ろしいことです。知らぬ間に毎日の我々の関心や行動が分析され、それによって見せられる世界がコントロールされている・・・、学歴フィルターより罪深いかもしれません。

 

 

 

第304号:デキル採用担当者は我が道を行く

ワークスアプリケーションズ、キヤノンマーケティングジャパン、ネスレ日本、ロート製薬、岩波書店、ドワンゴ、三幸製菓・・・これらの企業の共通点がおわかりでしょうか?そうですね、ユニークな採用活動で一世風靡(?)した企業群です。採用活動の後ろ倒しで不安を語る採用担当者も多いですが、こうした企業の採用担当者(または経営者)は、面白い時代になったと微笑んでいます。

 

各企業の独特な採用手法を振り返ってみましょう。

・ワークスアプリケーションズ              ⇒採用直結型インターンシップ

・キヤノンマーケティングジャパン   ⇒元祖採用活動後ろ倒し

・ネスレ日本                       ⇒シーズンレス採用

・ロート製薬                       ⇒ネット不可、電話・葉書エントリー

・岩波書店                         ⇒社員紹介優遇採用

・ドワンゴ                         ⇒採用選考有料化

・三幸製菓                         ⇒日本一短いエントリーシート

 

上記の中には10年以上前から独特な方針を続けている企業もあれば、経営者のトップダウンでいきなり始めたケース、あまり公開するつもりではなかったけれどネットに広がってしまったケース等、状況はマチマチです。必ずしもデキル採用担当者が行ったというものでもありませんが、結果的にうまく回っているようです。

 

これらの中でもいま脚光を浴びているのが三幸製菓です。同社は上記に上げた事例だけではなく、超多様な採用選考手法(おせんべい採用等)を駆使し、昨年頃から急速に採用業界で注目されてきました。たまたま同社の採用企画をしている方とお話しをする機会があったのですが「我が道を行くデキル採用担当者」の考え方に共感致しました。具体的にいうと以下のような点です。

 

・他社のやらないことをやる(採用手法を広報活動にする)

・割り切りがしっかりしている     (ターゲッティングが明確)

・効率測定の技術をもっている(データ分析ができている)

・採用担当者の思い入れリスクを知っている(情より理を優先)

・採用担当者にとって経営者が最大の抵抗勢力だと思っている

 

話しをするほどますます面白くなったのですが、何故こんな「我が道を行くデキル採用担当者」になったのかというと、他業界から転職してかつ人事以外の部門から異動してきたからでした。つまり既存のやり方に率直に疑問をもち、改革ができたのですね。更にこの方の素晴らしいと思ったのは、社会にも学生にもフェアであることです。それを表すご本人の言葉を最後にご紹介致します。

 

「正しい選考をして、学生が正しい選考をされていると感じる企業にはちゃんと学生が集まり、うまく回っていますので、採用選考後ろ倒しはそんなに気にしなくても大丈夫です。今は採用担当者にとって面白い時代になったと思っています。」

 

第303号:相談後の礼の重要性

GWが明け、新入生もいよいよ大学の勉強に本格的に取り組む時期ですが、この春に社会へ巣立った新社会人達も世間の風に吹かれ始めます。この季節になるとよくあるのが、卒業した新社会人達の営業研修や見習いとしての飛び込みセールスです。私のところにも毎年やって来るのですが、彼らの訪問スタイルを見ていると、それは就職活動がうまくいく学生とそうでない学生との違いのように感じることがあります。

 

強制的にノルマを与える飛び込みセールスはブラック企業の例とされるようになってきたので最近は表立っておりませんが、訪問販売を必須とする産業では避けて通れない試練でしょう。私も商社で半導体の飛び込み営業をしておりましたので、その苦労と必要性もわかりますが、今回ご紹介するような新社会人とのお付き合いは避けたくなります。

 

その新社会人とは、私が授業におけるグループワークで相当に苦労しながら指導したメンバーの一人です。頭はとても良く仲間からも一目置かれるリーダー格の存在でしたが、時間や連絡にルーズでプライドが高く、考え方や行動に自己中心的なところがあって手を焼きました。そんな卒業生から先日こんなメールが届いたのです。

 

「鈴木先生、お久しぶりです!これからそちらの大学に伺うことになったのですが、今日は授業ですか?もし、瞬間お時間があればご挨拶させていただけたらと思ってます!急なご連絡で申し訳ありません。よろしくお願いします。」

 

こんなに愛想の良かった人だったかなあ?と思いつつ、当日は都合がつけずに会えない旨を返信したところ、その訪問理由は入社した会社の取り扱う大学生向けの商品を、私の授業で学生にプレゼンテーションしたいという依頼(飛び込み営業)でした。残念ながら都合がついたとしても、授業において営利活動をお手伝いするわけにはいきません。営業活動に張り切る新社会人の気持ちはわかりますが、そこは協力出来ない旨を丁寧に伝えました。

 

さて、問題はここからです。昔の学生であれば、必ず「それは残念です。事情はわかりましたので、また機会があれば宜しくお願い致します。」という形ばかりでも返事が来たものですが、この新社会人からは何の返信もありませんでした。ここで本人に悟って欲しいのは、こちらも申し訳ないと思いながらお断りした気持ち、そして何か別の方法や機会を設定してあげようという気持ちもあることです。しかし、自分からの都合を一方的に伝えて自分に役に立たないと見切るような人間は、可愛さ余って憎さ百倍です。(正直、そうなるだろうとは予想しておりましたが。)

 

こうした現象は最近の学生にますます増えている気がします。皆様方も就職相談に何度も来ながら結果報告をしない、お礼の挨拶もなく音信不通になる学生と接したことはありませんか?結局、こうした若者は大切なことを気付かずに過ごしてしまい、せっかくの機会や人の信頼を失うことになります。若者には堅苦しいと思われるかもしれませんが、知能だけではなくこうした人の心を普通に察することが、就活の最後の最後での差になるのでしょうし、社会の中でも他者から求められるかどうかになると思います。

第302号:大学生による採用活動プロデュース

政治の世界ではありませんが、企業の採用活動も粛々と進んでいるようです。現時点での2016年卒学生の内定率速報では4%程度で例年と同じ位ですが、今シーズンは学生も企業も「先が見えなくて不安だ」という声を耳にします。その不安を消すにはどうするか?それは未来を自分で創ってしまうことです。

 

私の授業でも就活中の受講生から「不安だ」との大合唱を聞かされるので、先日の授業で学生達に伝えました。「そんなに不安なら、どうすれば良いかを皆で考えてみたらどうだ?」というわけで彼らにグループ・ディスカッションをさせてみたところ、面白いアイデアが飛び出してきました。それは、企業の採用活動を自分たちでプロデュースしてしまおう、ということです。

 

彼らのアイデアの元は大学受験でした。内部進学や自己推薦入試等で大学受験が早く決まってしまえば気が楽だという発想で、いつ企業が採用活動をするのかわからないなら、自分たちの都合ではじめてしまえと考えました。大企業の採用担当者からは相手にされないかもしれませんが、倫理憲章に縛られていない企業で採用後ろ倒しに困惑している企業なら話しにのってくれるかもしれない、ということです。ちょうど大学受験にも指定校推薦があるように。

 

実は彼らの企画には布石があって、それはこの3月に終わった文科省のプロジェクト(産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業)です。この補助金事業で法政は、オリジナルのビデオ教材やアセスメントツールを開発して学生に試行してきました。これまでご紹介したように、一部の企業ではこれらを採用広報や内定者研修に活用して戴きました。時には大学の授業におこし戴いて学生とディスカッションを行って評価して戴いたりもしており、こうした経験が、学生のヒントになっています。

 

荒唐無稽な企画で企業に持ち込んでも一笑に付されてしまうかもしれませんが、私はそれでも構わないと思っています。開き直って行動している彼らは、もう不安ではなく未知の世界を自分たちで創造することを楽しんでいますから。不安というのは、仲間との共同作業によって消えていき、逆に期待というワクワク感に変えられ、その過程で精神的にも成長していきます。

 

「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ。」これはパーソナルコンピュータの父といわれる米国の計算機科学者のアラン・ケイが1971年に残した名言です。授業で私がよく学生に伝えている言葉ですが、逆に私も学生に見習ってみたいと思います。今年度の私の課題は、これまで培ってきたプロジェクトの資産を、広く学内外に展開することです。来月から始めるビデオ教材の研究会(新作ビデオ発表会)では、授業や就職支援での活用方法だけではなく、企業の研修や採用活動にも活用できることも視野にいれてみようと思います。皆さんもこの混沌とした今シーズンの不安を期待に変えていきませんか?

 

▼ご参考:5月8日(月)15:30~17:20 法政大学市ヶ谷キャンパス

ビデオ教材研究会(2015年度 第1回)

http://3dep.hosei.ac.jp/event/details/2015/04/22/id3729

第301号:元気な留年のススメ

大学が新年度に入り、1年で最も活気に溢れている時期ですね。そんなキャンパスでは卒業が出来なくて留年している学生もチラホラ見かけます。心なしか肩身が狭そうに見えたり、開き直って妙に明るかったりと表情は様々ですが、私は元気な留年生が増えたら大学はもっと面白くなるのではないかと思っています。採用担当者の声でよく耳にする「最近は個性的な学生が少なくなった」というものも少し解消できるのはないでしょうか。

 

個性的な学生が少なくなった理由には、以下のようなものが考えられます。

・画一的な非正規労働(アルバイト)に多くの学生が従事するようになった。

・ITの進展により、情報の伝搬速度が速まり受け売り現象が増えた。

・何でも用意されていて、創意工夫や失敗の経験が減った。

・浪人生が減って現役学生が増えた。

 

大学大衆化の時代になって、本来ならば学生は多様化していても不思議ではないのですが、残念ながら多様化したのは学力(それも下位の方向へ拡大)くらいで、行動や思考バターンは画一化が進んでいると感じます。私が大学に進学した頃は、全国各地からやってきた学生や、浪人していた学生と出会うことができ、同じ大学の同期なのにこんなにも考え方や習慣が違うのか!と新鮮な驚きがありました。

しかし現状は全国何処に行っても同じチェーンのスーパーやコンビニやカフェがあり、浪人生も減りました(学校基本調査で浪人率は、2013年度で12.4%、1985年度では38.5%)。つまり、空間的にも時間的にも今の大学生は多様化できなくなっているのです。

 

法政大学では、かつてこの多様化を意図的に作り出すことに挑戦したことがあります。10年ほど前のキャリアデザイン学部設立時に、入学生の20%を社会人にしようと募集をかけたのです。社会人と学生が同じ場で過ごし、学び、語り合うことによって、相互成長、多様な学びを狙ったのです。しかし残念ながら、社会人入学者は少数にとどまってしまいました。

 

こんな現状の中で、私のススメは積極的に留年すること。かつて浪人が珍しくなかったように、大学を元気に5年間過ごして卒業する学生が増えてきたら大学は面白くなると思います。就職留年だって良いです。日本の一般的な新卒採用が2浪まで許されるように、1留などは多目に見てくれます。欧米のように、卒業してから就活をするのは、今の日本ではあまり現実的ではありません。もし留年という言葉がどうしても気になるならば、社会人大学院のように、入学募集時から予め4年卒業コース、5年卒業コース、6年卒業コースと分けてしまうという手もあります。5年・6年コースの学生が途中で気が変わったら早期に(4年で)卒業できるようにすればなお良いでしょう。

 

新学期の熱気にうなされた夢物語のような話しをしましたが、こんな風に学生が多様化すると学生は多様化できるでしょうし、経済要因とか倫理憲章の変更とか外部的な環境変化にも柔軟に対応できる(卒業時期を自分で選べる)ような若者が増えてくるのではないかと思います。

 

 

第300号:文科省プロジェクトの終了と今後

平成24年度から始まった文部科学省の補助金事業の「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」がこの3月で終了いたします。私も法政大学でこのプロジェクトに取り組み、早いもので4年が経ちました。初年度に教えた1年生と一緒にプロジェクトが終了するわけですが、法政大学では来年度もこのプロジェクトを継続することになりました。

 

去る2月に、この事業に参画している100校以上の大学教職員と共に、当プロジェクトの活動報告を文科省に対して行いました。評価委員の方々からは「評価指標に課題はあるが、その成果(アセスメントツールやビデオ教材等)を今後は学内外に展開して下さい。」という好意的な評価を戴いたことは嬉しいことでした。これまでアセスメントツールでは1000人以上、ビデオ教材では延べ1万人以上の学生を相手に評価や授業を行ってきました。まだまだ改善の余地はたくさんありますが、私たちの理念や方向性に間違いはないことを確信できました。

 

そもそも、法政大学ではプロジェクトの開始時期から、学内だけではなく他大学にも展開できるコンテンツを制作するというのが目標でした。この4年間の成果は、評価委員から指摘されたとおり、外部評価指標が十分とは言えません。しかし、その手応えを日々感じ始めております。というのは、文科省の報告後、初対面の大学の方々から多くの問い合わせを戴くようになり、対応に追われております。教育事業というのは、定量・定性評価がとても難しいと思いますが、このように同業の仲間から戴く関心は、なによりの評価だと感じています。

 

来年度も新しいコンテンツの開発は継続していきますが、同時に法政のコンテンツを用いた授業やワークショップの研究会を、大学教職員を対象に定期的に開催して参ります。最初に取り組むのは、ビデオ教材を使用した授業の講習会で5月から始め、実際の授業見学会や、模擬授業などを予定しております。私たちのビデオ教材は、実際にあった仕事の事例を元に作成しておりますので、撮影に協力して戴いた企業人事の方にも加わって戴き、仕事に求められる資質と大学の学びの関係を議論していきたいと思います。

 

数号前のこのコラムで「今後の新卒採用担当者の業務は、リクルーター、インターンシップ、キャリア教育、アウトソーシングの4つに集約される」とお伝えしましたが、来年度の法政の取組では、このキャリア教育に対して仕掛けていこうと企んでいます。就職課職員も採用担当者も先行き不透明な就職・採用活動において、もっとも正確な予測は自分たちで未来(既成事実)を作ってしまうことですから。

 

未知の分野に挑む卒業生達に負けないように、不安を期待とやり甲斐に変えていく攻めの来年度にしたいものですね。

 

第299号:大学同窓会の就職支援

3月になり、大学内での企業セミナーが一気に始まりました。いつもなら大学入試後でしばし春眠をむさぼれる季節なのですが、キャンパスは大勢のリクルートスーツ学生と企業採用担当者でごった返しています。私も長いお付き合いのある神戸大学へ就職支援のお手伝いに行きました。行き先は、キャリアセンターではなく、工学部同窓会です。珍しいことに、神戸大学の理工系学生の就職支援についてはキャリアセンターよりも積極的な活動をしており、企業採用担当者の評価も高いです。

 

大学同窓会というのは、本来卒業生同士の親睦・交流を深めることが目的ですが、歴史が長くなると、在学生への様々な支援を始めるようになります。奨学金や寄付金等の財政的な支援が多いですが、工学系では百年以上の歴史をもつ同窓会もあり、京都大学のように大学内で大規模な就職セミナーを開催するところもあります(私も採用担当者として何度か訪問しました)。

 

私は大学院時代の研究で、大学同窓会の就職支援機能について調査しておりましたが、就職支援については、同窓会には以下のような強みがあります。

 

1.常に最新の卒業生名簿を保持している

⇒個人情報保護法の影響で就職課では卒業生紹介が困難になってきた

2.大学内組織・企業の双方にネットワークがある

⇒存在そのものが大学と企業の絆である

3.営利目的ではない、自由公正な活動ができる(大学内第3セクター)

⇒独自収入(主に会員費)があるため、就職事業にする必要がない

4.財務的に安定している同窓会は、奨学金等の財政支援も可能

⇒海外への留学生支援、新入生向けの学費援助等

(法律改正で一般社団法人への移行等の課題も出てきましたが)

5.膨大な人的ネットワークをもち、年々人的資産が増加する

⇒大学就職課では困難なOBを対象としたキャリア支援も可能

 

欧米の大学では、卒業生が入学者募集まで手伝うところもあり、母校に対する支援という意味では学ぶところが多いです。しかし一方で、就職課職員の方に尋ねてみると、同窓会は意見が厳しくてつきあいにくい、という声もよく耳にします。これは、大学運動部と同じで、卒業した先輩がいろいろアドバイスや資金援助を下さるのは嬉しいのですが、必ず一緒に説教がついてくるのと同じなのかもしれませんね。社会でも銀行に融資を頼めばいろいろ言われますから。

 

ともあれ、企業の採用活動がネット中心から徐々にダイレクトリクルーティング(インターンシップ&リクルーター等)に変わってくると、そうした窓口として大学同窓会が機能してくれれば大学としては強い味方になるのではと思います。

 

 

第298号:大山鳴動して鼠一匹

企業の採用広報活動の解禁日が近づいてきました。何処の大学でも学内セミナーの準備で多忙なことでしょう。さぞや学生が待ちに待っているかと思いましたが、どうも私の周りの学生は落ち着いている感じです。といいますか、学生達が先の見えない状況に慣れてきたのかもしれません。

 

年末には「昨年の方が良かった」とか「後ろ倒しは困る」と言う学生が多かったのですが、最近は「まあどちらでも良いです」「遅くなって良かったです」という声がだんだん増えてきました。人間の環境適応能力に感心させられますが、やはり締め切りが遠いと安心するというのは人間の性なのかもしれません。誰でもいつかは死ぬと分かっていても、その時期がわからないので普通に過ごせますし、夏休みの宿題を7月中に終わらせる子供もあまりいませんね。

 

いま改めてわかるのは、学生が恐れているのは時期の変更ではなく、変化することだったということです。昨年の情報が役に立たなくなることに不安があったのでしょう。

 

年末のTVのニュースやアンケート取材の「採用活動が後ろ倒しになることをどう思いますか?」という質問自体があまり意味のないことでした。というのは、学生は毎年就職活動をしているわけではないので、昨年と比較してどうなのか?という判断ができるはずもありません。しかし、そうした質問を投げかけられると、上述の通り先の見えない不安から「困ります」「今までの方が良かったです」と回答してしまうものです。

 

今年の企業の採用担当者の動きは、想像通り年末からインターンシップが花盛りです。しかし、インターンシップは受け入れ人数に限りがあることと、大手企業ほど有名校をターゲッティングしているので、就職市場全体への影響はそれほど大きいようには見えません。しかも学生はいわゆる二極化しているので、目ざとい学生はいくつもインターンシップを受けて内々定まで得ていますが、動かない学生は泰然としています。

 

こうしてみると、採用活動の後ろ倒しの効果というは採用時期のターゲット別分散化という現象を引き起こしているのかもしれません。これを長期化という人も居りますが、企業も学生も動いている層と動いていない層があります。つまり、企業も学生も最初から最後まで動き続けるところは少ないようです。

 

今年の動きを判断するのはまだ難しいですが、3月になれば、流石に多くの学生が動き始めることでしょう。そして4月になれば新年度の行事等で、また動く学生と企業、動かない学生と企業に分かれてくるでしょう。焦ることなく動向を見ていて良いと思います。

 

年末に大学就職課の方々が口を揃えておっしゃっていたのは「学生が動かなくて困る」「セミナーを開いても学生が集まらない」でしたが、そもそも企業の倫理憲章は、学生の就職支援でもなく、企業の採用活動支援でもなく、大学に平穏な日々を取り戻すことだったはずですから。