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第77号:社員紹介採用と入試広報活動

企業の採用方法にはいろいろな手法があります。外資系企業においてはポピュラーで、最近は日本企業でもたまに見かけるのが「社員紹介採用」です。縁故採用の一種ですが採用部署が公募するので従業員は誰でも利用できます。これは社員のクチコミを採用広報に利用するものですが、大学の入試広報でも応用できるかもしれません。

日本企業の縁故採用というと、紹介してくるのはお偉いさんが多いので、採用選考の現場にあれやこれやと口を出すことが多いのですが、外資系企業では縁故紹介という習慣がないので、採用担当者は精神衛生上、とても楽です。そもそも外資系では現場のマネージャーが採用権限を持っていることが多く、彼ら自身が人事部長のようなものですから、人事部に紹介するというのは入社手続き作業にすぎません。

この「社員紹介採用」は、中途採用で一般に用いられており、公募に知人を紹介して、その人物が採用選考をパスして入社したら一定額の報奨金が出るのがふつうです。報奨金は紹介したポジションによって異なることが多いのですが、トップレベルの経営コンサル業界では100万円を超えるようなこともあります。こういった報奨金が出ることもあって、紹介者は採用選考に口を挟むことはできず、また仮に不採用だった場合もクレームをつけてくることはまずありません(この点、外資系は本当に楽です)。

ただし社員紹介採用は、やり方によっては日本の職業安定法に抵触することがあるので(人材紹介は国の許可が必要)、報奨金の支払い方法等については気を遣います。一般社員を即席ヘッドハンターにするようなものですからね。それでも人材紹介業を使うより、はるかに安価で良い応募者が集まることが多いのです。

さて、大学入試広報担当の方と話をしたときに、大学広報では在学生のクチコミによる受験生への紹介が一番効果があると聞いたことがあります。クチコミによる広報はバイラル・マーケティングと呼ばれますが、ネット上での個人間のネットワークでも応用されています。バイラル(viral)というのは「ウイルスによって起こる」という意味で、伝染病のように伝播する効果を表します。少子化のこれから、どこかのカード会社ではありませんが、紹介した新入生が入学したら、紹介してくれた学生に報償金(奨学金適用等)を払うというのは効果があるかもしれませんね。

社員紹介採用が成功するキーは、社員が自分が属する会社を他人に紹介したくなるような状態であること。つまり社員がその会社を好きであるということです。同様に、在学生が自分の大学を好きであることがクチコミ広報が成功するキーとなるでしょう。学生への報奨金は非現実の域としても、企業も

大学もまずは社員・学生に対する精神的報酬を用意することが第一歩ですね。

第76号:脳の運動不足にならぬよう

第76号:脳の運動不足にならぬよう

3連休の体育の日にショッキングなTVニュース画像を見ました。子供の体力低下が止まらずに、ジャンプがちゃんと出来なくなっているシーンです。報道によると、9歳の男子の体力は20年前の女子の体力と同等だとか。運動不足が原因なのは明らかですが、ふと思い出したのは大学で行う就職ガイダンスでのシーンです。講演最後にお決まりの問いかけの「何か質問はありますか?」。何処の大学に行っても無反応なのをみると、大学生の運動不足も相当に深刻なようです。

企業採用担当者やキャリアカウンセラーが大学で懸命に講演をし終えたとき、もっとも期待と不安をもってむかえる時間は最後の質疑応答です。今日の話はどんな風に聞いてくれたんだろう?自分の話はわかりにくくなかっただろうか?講演者にとっての評価ともいえる緊張の一瞬です。

しかし、今ではすっかりこの緊張感も薄くなり、講演者から積極的に働きかけない限りまず質問が出ることはありません。気を遣ってくれる大学職員の方が、「うちの学生は大人しくて真面目なので質問はできないと思います。」と講演の最初から伝えて戴くことも多いです。「いえ、どこの大学も同じですよ・・。」とお答えするのは私だけではないでしょうね。

私は学生時代に運動部だったのですが、入部して来た新人の動きを見ていると、同じ未経験者であっても、運動に慣れている新人はすぐにわかります。特別に才能のある者を除いて、小さい頃から体をどれだけ動かしていたかの差によるものでしょう。

しかし、冒頭で申し上げた運動不足とは、勿論、手を挙げる筋肉が衰えているということではありません(もしかするとそれもあるかもしれません。)彼らが運動不足に陥っているのは、脳の使い方です。養老先生ではありませんが、人間の思考や発想も神経回路の使い方による個性で決まります。それまで一度もやっていない運動ができないのと同じで、使った経験の少ない脳の使い方はできないのでしょう。つまり、質問が出てこないというのは、授業や講演を聞いてもそれに疑問を持ちながら聞いた経験が少ないのでしょう。

今の時代、子供にはあまりに全てが用意され過ぎて回り道や失敗をする機会が少なくなっています。大人の方でもしっかり用意しておくので、失敗したくてもなかなか失敗できないんですね。その結果、体験してから考えるという非効率な生き方はやりにくくなり、失敗してはいけない、失敗は無駄である、という思考がかなり強くなっているようです。私は最近の講演では「生きるってことは実験と冒険」「失敗から学べ」ということを繰り返し話すようにしているのですが、この話を聞いた学生は口を揃えて「不安だった就職活動の気が楽になった。」と言います。この反応もどこの大学でも共通の講演後の感想です。

私の運動部の先輩はこの夏、高校1年生の息子さんと二人で東京から仙台まで自転車で帰省したそうです。息子さんはきっと型破りな体力と脳力をもった若者になるでしょう。私も体力に衰えを感じる年齢になってきたのですが、今の学生のためにもうちょっとむち打って頑張ろうと思います。負けてはいられません!

 

第75号:学生時代に一番、力を入れたこと

この夏休みに関西の大学数校の学生サークルを対象に、ビジネスプラン・コンテストを開催しました。以前から就職活動のためだけのプレゼンテーションやネゴシエーションの指導ではちょっと物足りないと思っていたので、実践的なビジネストレーニングをやってみたかったのです。最近は学生起業ブームなのでこの種のイベントは盛んですが、就職面接ではなかなか見られない生の学生の姿を知ることができました。

このようなビジネスプラン・コンテストは企業の広報手段として使われることが多いのですが、その多くはプランだけに終わってしまうことが多いので、実際のビジネスの流れ(実務)を知ることはできないことが多いです。大企業の経営企画とかマーケティングとかの部署だけでビジネスの全てを知った気になるのは危険なことです。実際、今回参加した9チームで入賞できたのは、商品企画だけではなく、その開発行程、販売ルートまで机上調査だけではなく実際に検証してきた2チームだけでした。ビジネスの実現性の有無が勝負を分かれ目になったわけですが、そこが、経営コンサルタントか実業家かの分かれ目でもあります。なお今回のコンテストでは入賞者は提案したプランを1年間、実際に行います。事業が成功したら、そのまま起業してしまう学生が出るかもしれません。

今回のコンテストでは企業経営者に加えて、Professional Recruiters Clubの採用担当者にも審査員をお願い致しました。面接やインターンシップでは見られない生の学生の姿に感心しており、「我々は採用選考で何を見ていたんだろう?」とつぶやいておりました。「これが学生本来の姿なのか、それとも我々がこのような学生と出会えていなかったのだろうか?」とても考えさせられたようです。

(例えが失礼ですが)動物園の動物のように檻の中では動物の本来の姿は見られないのでしょう。採用担当者は学生の本来の姿や、個人の能力をもっともっと知る努力をしなければなりません。企業の営利活動というコストの限界はありますが、例えばこういったビジネスプラン・コンテストの開催費用など、就職情報業者の広報費用に比べたら微々たるものです。大学においても経営学部や商学部なら、こんな企画を企業スポンサーで開催すれば、立派なキャリア教育になるでしょう。

新学期が始まり、これから3年生、修士1年生の就職活動が本格化してきますが、今シーズンは企業のオンキャンパス・セミナーが相当に流行りそうです。過熱気味の就職行事を考えながら、今回の審査員の彼とこんな話をしながら帰路につきました。

「学生が一番、元気で能力を発揮しているところを見て採用したいね。」

「『学生時代に一番、力を入れたことはなんですか?』という質問に、『就職活動です。』なんて答えさせることになっちゃいけないね。」

 

第74号:指定校制度と学校名不問

少し前の新聞で某有名企業の相談役の就職体験談の記事を見つけました。

「当時の大手企業の新卒採用には指定校応募と縁故応募の二つの枠があった。指定校といっても単に受験資格を得られるだけで、しかも大学から指定校としての推薦状を貰えるのは30人まで。縁故枠も含めて合否は筆記と面接で判定されるので、今振り返っても公正だったと思う。」

*抜粋編集しています。

これは昭和30年前半の就職事情で、当時の大学進学率は15%以下でいわゆるエリートの時代です。少し前の日本にもこんな時代があったのだなあ、と採用担当者としては羨ましくなります。というのは採用担当者の現在の最大の悩みは採用活動にかかるコストアップだからです。コストには広告宣伝にかかる費用の他に、採用担当者が費やす時間コストもありますが、指定校制度というのは募集費用と選抜費用が大学で一部肩代わりしてくれていたのですね。学生の「資質・能力」と「入社意思」を大学が保証してくれていたわけです。現存する理工系学生の推薦制度はその伝統を残しているものですが、さすがにほころびが目立ってきています。

外資系企業の日本法人で採用責任者を担当していたとき、「今の日本では学校名不問というのを標榜する企業が出てきているんだよ。」と米国本社の採用担当者に話したら、「Unbelievable!なんで日本はそんなコストのかかることをするんだ!?大学との関係を軽視しているのか?」と言われ、説明に苦慮しました。はたして指定校制度と学校名不問は、どちらが学校・学生を尊重しているのでしょう?

大学進学率が50%を越えエリートからユニバーサルの時代(全入時代)に入ったいま、採用担当者が企業経営の視点で求められているのは、「資質・能力」と「入社意思」の明らかな応募者といかに効率よくコンタクトするかです。大学と連携の指定校制度と自社独自の学校名不問採用、はたまた社員の個人的ルートのリクルーター制度と、どれを選ぶかは企業の資産と価値観で判断されますが、採用担当者は今の季節、心底、悩みながら来期の戦略をたてています。

第73号:人生は実験と冒険

夏休みを迎えた大学からは学生の姿が消えましたが、最近は多くのオープンキャンパスを開催する大学が増え、高校生や親御さんの姿をみかけます。大学全入時代もすぐ目の前になり、無理をしなければ必ず大学に入れるようになりました。人間は失敗と挫折を繰り返しながらタフに成長していくものですが、大学全入時代では残念ながらその成長の機会が一つ無くなってしまうようです。

「最近の応募者はみんな綺麗な履歴書だねえ。」これはとある製造業で理工系学生の採用面接を担当している技術部長がつぶやいた言葉です。この企業は急成長したベンチャー企業ですが、かつては人材育成の余裕がなく即戦力の中途採用が中心でした。非常に苦労しながらも大きく成長し、今では新卒定期採用ができるよになりました。常に人材難に悩むベンチャー企業としては有り難いことなのですが、この技術部長の嘆きともとれるつぶやきの真意は、人生の挫折を経験したタフな学生が少なくなったということです。企業の知名度が上がり、今までは振り向いてくれなかった大学からも(履歴上・成績上)は優秀な学生がやってくるようになりましたが、浪人や留年を経験した学生の応募が減り、ストレートに大学卒業年次まで達している学生が増えてきています。この技術部長の嘆きは贅沢なことなのかもしれませんが、最近、仕事で壁にぶつかってなかなか挫折から立ち直れない新入社員が増えてきていることを危惧しているのです。

社会に出てぶつかる仕事の壁は、学生時代との問題とは違ってたった一つの正解が存在するものではありません。正解は無数にありますし、その点数も100点満点ではなく、150点ということもあれば、マイナス200点ということさえありえます。そんなときには自分でもがいて悩みぬいて行動したり、時には恥を忍んで他人に頭を下げて相談したりして何とか乗り越えていかねばなりません。そんな挫折経験から若者は自分の無力さを理解したり、コミュニケーション力を身に付けたりするのですね。

「もうちょっと回り道をしたり、挫折をしている面白い若者を集めなさいよ。会社に入ってから挫折にぶつかって立ち直らせるのは大変だし、最近は挫折から自分で這い上がれる新人が減って面倒だよ。」続けて語る技術部長の言葉は、来る大学全入時代においてますます難題になるかもしれません。願わくは、キャンパス外で飛び回る夏休み中の若者達が多くのことにチャレンジして挫折にぶつかりますように・・・・。人生は実験と冒険の連続ですから。

 

第72号:キャリアセンターと採用担当者のプロ

去る7月25日にダイヤモンド・ビッグ&リード社主催の就職指導支援セミナーで講演の機会を戴き、「大学就職課からキャリアセンターの機能変化」ということをテーマにお話し致しました。私は以前から大学就職課職員と企業採用担当者の仕事環境と課題の共通点が気になっておりました。長らく安定的な雇用慣行の中で行われてきたこの2つの仕事は新たな職業として再生・見直されてきて欲しいという想いです。

点のサポートから線のサポートへ。これが就職課とキャリアセンターの基本的な違いではないかと思います。就職支援という一時期一課題の相談から、キャリア支援という通年多様の課題の相談が求められてきてキャリアセンターと名称変更をした大学職員の方々は十分なリソースを得られないままに走り出すことを求められていることでしょうか。これは企業採用担当者もまったく同様です。これまで新卒採用を中心に人材調達をしてきたのが、突然に中途採用から契約社員・派遣社員、業務委託(アウトソーシング)という多様な雇用戦略の企画立案・実行を求められ、はてはM&A(企業合併等)による人事政策(会社単位の採用活動ですね)まで求められてきています。

また、就職課(キャリアセンター)職員と採用担当者のもう一つの共通点は定期人事異動です。外資系企業では職種別採用なのでふつう定期人事異動はありませんが、旧来型の日本企業では3年位で定期人事異動のシーズンがやってきて、それまでとはまったく異なる業務に就くことも珍しくありません。これは大学内も全く同じことでしょう。一つの組織(大学・企業)で短期定期的に人事異動があるという仕事環境では、長期的な戦略の立案が難しいのは当然で、前任者がやってきたことに沿って任期を勤め上げるというスタイルになりがちです。必然、特定分野での専門化を育成しにくく、逆に汎用的なマネジメントのできる人材が好まれます。こういった人材育成戦略は高度成長期に日本的経営として広く高く世界から評価されたものでした。

ところが、経済環境が成熟・低迷する現在は、同じ目標を多くの組織(大学・企業)が目指すことはすぐにマーケットが飽和してシェアの奪い取り合戦になり、勝者は一部に限られ二極化になります。こんな時代には自大学・自社に最適かつ個性的で他からすぐに真似のされない戦略を企画立案・実行する能力が求められてきますが、それは自大学・自社にある情報・ノウハウだけではとても対応しきれないでしょう。

かくして、今の就職課(キャリアセンター)職員と採用担当者は外部市場でも通用するようなプロフェッショナリズムが求められてきました。大変な時代ではありますが、まさにこの二つの職業にはピンチとチャンスが一緒に訪れたと思うのです。さて、それぞれのゴールは何処に?

 

第71号:個人情報保護法でOB訪問が難しく

この4月に施行された個人情報保護法ですが、だんだんと一般の認識も高まってきました。大学就職課の職員と企業採用担当者にとっては、一番大きな影響を受けるのは企業に就職したOBと現役学生との紹介方法でしょう。双方にとって難題を抱えながら方策を考えなければなりません。

殆どの大学就職課には開架式で企業別の資料が整備されておりますね。情報の豊富な有名大学では他大学の学生も忍び込んで閲覧していることも珍しいことではないでしょう。その企業別ファイルに常備されていたOBリストが姿を消しました。重要なOBの就職体験談についても個人が特定できる部分についてはそのままで公開は難しくなり、大学職員の方々も今春、相当に作業時間をとられていたのではないでしょうか。

一方、これまで大学からの要望に応じて従業員の部署や連絡先を提出していた採用担当者は情報の提供ができなくなりました。正直なところ、採用担当者は作業が一つ減って少々楽になりました。各大学別に送られてくるOBリストのフォーマットは、大学別求人フォーマットと同様、採用担当者にとって作業負担の大きなものでしたから。(今は企業のコンピュータから人事情報の必要な部分を検索してプリントアウトして送付するだけで、大学フォーマットに記入を避けている企業が多いでしょう。)

しかし、企業のOBリストを出せないということは、学生が企業に触れる接点を失うわけですから安穏とはしていられません。特にここ数年、採用担当者は「今の学生はITの情報だけで就職活動をしている気になっていていけません。もっと自分の目と手と足を使って企業研究すべきだ。OB訪問は不可欠です。」と大学内の就職ガイダンスで言い続けてきたのですが、学生がOB訪問をするための最大の情報ルートが無くなったというのは大変なことです。たまに企業採用担当者に電話をかけてきてOB紹介を依頼する学生には、「大学就職課にOBリストを出しておりますので、そちらをご覧下さい。」という黄金の言い訳もできなくなりました。

さて、こうなってくると双方にとっての頼みの綱は、やはり学内・社内のOBを如何に活用するかでしょう。大学OB会では既に現役学生の就職支援に手を付け始めたところもありますが、就職課やキャリアセンターと連携しているところはまだまだ少ないようです。その運営についてはいろいろノウハウが必要になります。企業側は、これまで以上にOBリクルーターを活用することになるでしょう。リクルーターには個人除法保護の知識をしっかり伝えて対応して貰わなければなりませんし、社内でOB対談会を設定することも必要でしょう(特定大学だけに行うのは好ましくない面もあるのですけどね)。

いずれにしても、学生が積極的にOB訪問をするのに大変苦労する環境になってきました。企業も大学でのOB講演にはもっと本気で社員を出さないといけませんね。

 

第70号:インターンシップ募集花盛り

各大学の就職課を回っていると、紫陽花の花に負けずにあちこちの業者、団体からインターンシップの告知ポスターが出ています。インターンシップの情報提供は完全に商用サービスになってきたようですね。インターンシップが普及することは社会と学生が近づくことで望ましいことではありますが、手間のかかるところはなかなか担当者泣かせです。

今週販売の週刊誌でも夏のインターンシップ特集がとりあげられており、内定にどう結びつくかがまとめられています。インターンシップを採用活動に直結させるべきかどうかという議論はよくなされておりますが、企業側ではやはり採用活動の一環と捉えている方が多数でしょう。なんといっても成果主義のご時世ですからそれだけの予算を出せるのは採用関係費(採用広告費)しかありません。上記の雑誌のコメントでも、インターンシップを経験した学生はその企業に志望する確率が高くなる、と書かれています。同時に、早期に学生を確保したいというのが企業の本音でもあるとのこと。中には年間1000人近い学生を受け入れている企業もあり、こんな規模になると社会貢献活動ですね。

大勢の学生を受け入れる企業にはいくつかのパターンがあります。まずは企業規模が大きく、学生の受け入れ許容部署が多いところです。電機系製造業に多いパターンですが、これは各部署でインターンシップの内容が異なるので、現場の方々との受け入れ調整が非常に苦労して、学生とのマッチングも気を遣います。次に、同じカリキュラムを大勢の学生がこなしていくパターンです。比較的IT系の企業に多く、ITスキルやコンサルティング・スキルをトレーニングしながら学んでいきます。人事の研修グループなどが主体なることが多いですが、新人研修のようにこの期間は研修準備と評価で徹夜になることも。最後に注意したいのは、労働集約的な作業をさせる企業です。インターンシップ等の名称で様々な業務をさせるのですが、実態は企業の労働力にされていることがあります。それはそれで社会勉強でしょうが、ちゃんとアルバイトという名称にして給与を払って欲しいものですね。

大学内でも夏のインターンシップの参加ガイダンスが盛況ですが、これはまさに採用活動キックオフが10月からまた3ヶ月前倒しなったということですね。めでたく採用担当者はシーズン・オフが無くなりました。こうなってしまったのは、企業採用担当者の自業自得なのか、大学就職課の老婆心なのか、採用情報業者の戦略なのか、さっぱりわからなくなってきました。明らかに言えるのは、情報産業の一分野として就職ビジネス規模が拡大しているということですね。まあ三者ともこれで給料を貰っているので文句も言えませんが。(仕事ほど給料は増えませんけどね・・・。)

 

第69号:転職を考える新入社員

今春、就職した新入社員達も研修が終わり現場に配属されはじめました。どの新入社員も就職活動で考えていたイメージと現場とのギャップを感じながら頑張っていることでしょう。最近では5月病という言い方も古くなったかもしれませんが、企業の現場に出た新入社員から早くも転職の相談がありました。人も羨むような人気企業に入ったのですが、人の悩みはそれぞれですね。

新入社員の入社後の心理変化は経営学の研究テーマですが、神戸大学MBAの鈴木竜太助教授が興味深い事例研究をされておられます。先生の研究によると、新入社員の組織に対する愛着心・執着心(組織コミットメントといいます)は「J字型カーブ」を描くといわれています。意気揚々と入社した新入社員は、現場のとのギャップ(リアリティ・ショック)を感じ、「こんなはずじゃなかったのに・・・」と落ち込むことが多いのですが、時間の経過と共にだんだんと気を取り直し、「就職活動で描いていたのは夢だったんだ。」と現状を受け入れ始めて気持ちを向上させていく。その気持ちの変化がJ字型のカーブを描いていることが観察されたのです。落ち込み方の程度や期間は個人差がありますが、最近ではすぐに転職する新人も増え、落ち込んでいる期間がだんだんと短くなってきているようです。(もっとも転職後にまたJ字型カーブにはまって再度落ち込んでいるかもしれませんが・・・。)

このJ字型カーブについては、無駄だから無くした方が良いという意見と、これがあるからこそ若者に忍耐力が付くという意見とがあります。どちらにも一理があるのですが、雇用の流動化を短気に成果を求められるこのご時世では、前者の方が有力になってきているようです。リアリティ・ショックを消し去るために、インターンシップ等を導入して現場を早く理解させる方策が有名なRJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)ですね。

さて採用担当者にとっては、新入社員が転職を考えるというのは他人事ではないのですが、意外とまだ大きな問題として業界ネタにはなっていないようです。それは中規模以上の企業では採用担当者と人事労務担当者が別になっているためで、つまり採用する部署と退職希望者対処をする部署が別々になっていることが多いからだと思われます。退職相談は極秘裏に行われるものですしね。本当に採用活動の評価をするならば、単年度で何人採れたという評価ではなく、採用した社員が3年後位にどんな成果を上げているかで評価されるべきなのですが、そこまでしっかりフォローしているところはまだ少数でしょう。(就職課の評価も、就職率ではなく卒業後の満足率なんかで測る考えが必要かもしれませんね。)

たまに採用担当者の耳には、新入社員からの「話が違うよ!」という声や、現場の社員から「何でこんな奴を採ったんだ!」という声が聞こえてきたりすることもあります。まだまだお付き合いははじまったばかりですから、お互い長い目で見ましょう。3年3割といいますが、石の上にも3年ともいうではないですか。

参考文献:「組織と個人 ~キャリアの発達と組織コミットメントの変化」鈴木竜太著(白桃書房)

第68号:内定する学生のあたりまえの共通点

首都圏、大手企業の内定出しも一段落してきました。これから追加募集と一般職の募集が本格的になりますね。年初から多くの学生さんからの相談に乗ったり模擬面接を行ったりしてきましたが、ここにきて内定している学生さんの共通点が見えてきます。相談の後に結果連絡があるかないか、OB訪問をした先輩にお礼の連絡をしたかしないか、です。

これは単純そうなことですが、毎年の経験値としてかなり結果相関があります。これはテクニックとかではなく、やはり日頃の人とのコミュニケーションにどれだけ配慮しているかなのでしょう。就職後、仕事を頼んだ時にちゃんと結果報告に来るかどうか、自分だけで自己完結していないか(他人の評価を受けているか)、ということにもつながってくるのかもしれません。

「情けは人のためならず」ということわざは、以前、かなり話題になりましたので本来の意味を取り違えている方は少ないと思いますが、社会に出ると良い人脈の重要性をしみじみ感じます。そして、それを伸ばすのは、やはり日頃の他者との関係をどれだけ大事にしているかでしょう。キャリアの正体は「専門性と人的ネットワークの組み合わせ」と言います。どんなに素晴らしい才能や知識を持っていても、それを活かす場所をもっていなければ活躍できません。就職というのは、自分の専門性を活かす人的ネットワークの獲得活動ともいえるでしょう。

私は学生時代、運動部でした。ご経験のある方はおわかりだと思いますが、どこの運動部でも試合や練習が終わったあとに、後輩は必ず先輩上級生のところに走って行き、「お願いします!」とアドバイスを求める習慣があります。上級生は必ず何か有効なアドバイスをしなければなりません。お互いの切磋琢磨ですね。そんな中から自然に報告という習慣が産まれ、礼儀も感じるのだと思います。

さて、これからの就職活動で、どれだけの学生が報告に来てくれるか楽しみにしています。あたりまえのことを、あたりまえにすることが特別なこと(少数派)になっていないように、期待したいと思います。

皆様のところへも学生からの笑顔の就職結果報告が届きますように。