第63号:「三方良し」の志望動機

近江商人の古くからの商売の理念に「三方良し」というものがあります。商売は、売り手と買い手という当事者に都合がいいというものだけでなく、その取引が世間にとっても好都合(有意義)でなければならないというもので、「売り手よし、買い手よし、世間よし」それを「三方良し」と言います。採用面接で伺う志望動機もそんな考え方を持って貰えると良いのですが、最近はなかなか商売ッ気のある学生さんは少ないようです。

就職活動は、言うまでもなく自分自身を企業に売り込むための営業活動です。採用担当者が内定を出すということは、企業が「君の将来を買った!」と判断したわけですね。ところが、最近の採用面接ではどうもその点がうまく売り込めていない学生が多いようです。(相手の買いたい)自分のセールスポイントをまとめるのが自己分析の主な作業であり、それを整理したセールス・トークが志望動機ということなのですが、それが「三方良し」ではなく、「一方良し」になっていることが多いです。

「三方良し」の理念に沿った志望動機とは、下記のような内容がしっかりまとまっていることです。

・売り手よし・・・自分のやりたいことができる、やりがいがある

・買い手よし・・・企業がその学生を採用して業績が伸びる、採用担当者が評価される

・世間よし・・・その学生を採用した企業が(その学生の業績によって)社会からも評価される

「三方良し」の志望動機を話せる学生は、人生に対する視野の大きさや、仕事や社会における自分の位置づけも感じさせてくれます。これが「一方良し」になってしまっているということは、自分の利益・メリットだけを述べている、自分の熱い気持ちだけを述べている、ということです。

先日とある面接の場で、最近増えている大学院生の就職面接に立ち会いました。その方は自分が学部生に比べどれだけ勉強しているかを一生懸命に述べておりました。専門的な勉強に力を入れていた分、却って熱が入ってしまったのかもしれませんが、それを聞いている私がどれだけそれを評価しているか、という視点には欠けていたようです。こちらから「では何処でも貴方の希望する部署に就かせてあげますので、そこで何がしたいか、何ができるかを述べて下さい。」と質問したところ、具体的な話が殆ど出てきませんでした。つまり、「買い手よし」の視点が無いのです。

採用担当者はキャリアカウンセラーでも人生相談役でもありません。面接は営業活動であるという原点にかえって、「よし、君を買った!」と言わせるような志望動機や自己PRを聞かせてほしいものです。

 

 

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