第267号:無いものねだりの「求める人材」

企業セミナーで、採用担当者からの説明や学生からの質問でもっとも多いものに「求める人材」がありますね。このテーマについては以前も書きましたが、私は「求める人材」を求めすぎる人は「正解探し」をする人なので、あまり求めたくありません。正解のない問題に試行錯誤しながら挑戦するのが社会なのですから。(大学も本来はそういう場なのですけどねえ。)しかし、意外と採用担当者もこの点に気づいていないことがあるようです。

 

これはある中小企業の相談にのった経営コンサルタントの話です。その企業の新卒社員の早期離職率は、30%どころか70%で人事担当者が困っておりました。決してブラック企業ではなく、比較的良い企業なのですが、新入社員に「こんなはずではなかった・・・」と思われ、早期離職してしまうそうです。困った人事担当者は経営コンサルタントに相談し、入社式で講演をして貰うことになりました。すると、離職率がいきなり0%となり、辞める社員はまったく居なくなったそうです。さて、どんな講演をしたのでしょう?

 

この経営コンサルタントが話したのは、こんな内容です。

「君たちは就職活動の時にこの会社の説明を聞いたと思いますが、その時に『求められる人材』という話があったでしょう。ハッキリ言いますが、『求められる人材』とは『あるべき姿』であって、実際この会社にはそんな人はめったに居りません。これはどんな会社に行っても同じです。だから、これからそれぞれの仕事の現場に就いて、現実とぶつかるでしょう。でも、それは先輩社員も同じで、皆さん方を期待して迎えてみて『え、こんな新人の面倒をみるの?』と思われるかもしれません。だからお互い様ですね。そこからが始まりです。先輩も新人もお互いに理解し合って、『求める人材』になれるように頑張るのです・・・。」

 

これはコンサルタントのスキルのひとつである「エクスペクテーション・コントロール(期待値の管理)」というものです。クライアントである顧客の期待がどの程度のものであるかを把握して、現状や提案との大きな乖離がないように事前にしっかり説明することです。コンサルタントは往々にして過大な要求を受けて過大な期待をされがちですから。

 

新卒採用の言葉で言えば、リアリティショックの軽減ですね。要はワクチンをうっておくということです。今の学生は授業の説明の受け止め方が、本当に自分の都合良いところだけ、都合の良いように聞いています。あまりに自己都合になってきたので、私は授業のルールを紙に印刷して配布することにしています(なんだか外資系企業みたいになってきました)。

 

さて、だんだんと増え始めた企業セミナーをたくさん聞いていると、やはり採用担当者は声高々と「求める人材」を語ります。この経営コンサルタントの話を聞いた後に、何人かの採用担当者にこっそり尋ねてみたら、「ええ、確かにそんな人はなかなかいませんね・・・。」と気づかれた方が多いです。人事から依頼されてやってきたある現場社員からは「ええ、人事部の資料の『求める人材』なんて凄すぎるので、私は別にうちの部署に『望ましい人材』と勝手に話しています。」と伺い爆笑しました。「求める人材」は採用選考基準ではありません。採用担当者が語るのは、入社してからそんな社員になって欲しいという気持ちなんですね。もうちょっと気楽に受け止めて良いと思います。

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