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第207号:ソー活とリア就

「ソー活」という言葉は、そろそろ皆さんも耳にも届き始めた頃だと思います。いま流行のソーシャルメディアであるtwitter(ツイッター)やFacebook(フェイスブック)等を利用した就職活動のことですね。今年は「ソー活元年」といわれておりますが、これまでのITツールと何が違うかを理解するのはなかなか難しいです。いずれこのコラムで何度か触れて参りますが、少し俯瞰してみましょう。

 

そもそも「ソーシャルメディア」という言葉の意味もよくわからないという方も多いでしょう。たしかに、IT業界に身を置いてきた私でさえ最新の動向についていくのはなかなか大変です。同じソーシャルメディアであるtwitter とFacebookでも使い方や機能はかなり違います。Twitterでは匿名にして何でも気楽につぶやけますが、 Facebookは実名で使われるのが基本なので自ずと発言には自制心が求められます。

双方の共通点といえば、そうした情報発信・交流の中で自然とネットワークが広がっていくように設計されている点です。そのため、こうしたツールを使いこなす「ソー活学生」と、そうでない学生ではますます大きな情報格差が発生してくると思われます。周知のとおり、昨秋からリクナビとタイアップしたFacebookの「コネクションサーチ」という機能では、OB/OG訪問のアポも取れるようになってきますので、もしかすると大学就職課の卒業生紹介という仕事も減るかもしれません。

 

一方でここ数年大手企業は、ネット経由の「ソー活学生」よりもリクルーターを使った直接の対話による採用活動に力を入れてきました。学生にとっては「ソー活」とは対称的なリアルな就職活動、つまり「リア就」(学生の俗語である「リア充」、ネット上の仮想社会ではなく現実生活が充実している人のことから思いついた私の造語です。)の学生の方が有利だったわけですね。この傾向は今後も続くでしょう。しかし、ソーシャルメディアの流行により、このリア就の学生も影響を受けて変わってくるかもしれません。

というのは、実名で学歴や趣味等がわかるFacebookは、それだけで「ネット上のリア就」という性格をもっているからです。企業のリクルーターは、これまで卒業生名簿や出身研究室・サークルというリアルな人的ネットワークから学生に接触を計ってきました。その手間暇が、Facebookによりかなり効率が良くなるからです。以前より「逆求人」という企画がありましたが、自分に自信のある学生は、積極的にソーシャルメディア上に自分の個人情報を公開し、リクルーターの目に止まるようにするでしょう。つまりソーシャルメディアはWeb上に公開された履歴書やESの役割をもつのです。こうした情報発信ができない学生は、逆にどんどん埋もれていくかもしれません。

 

最後にこのメディアは上手く使えば良い学生指導の機会になることを指摘しておきたいと思います。ソーシャルメディアは公開されたメディア、つまり公共の場なので、学生がネット上で無礼な振る舞いをすると丸見えになります。機能上、見せないようにも設定できますが、どんどん公開させて、若者にスマートな公共精神を身に付けさせるのです。「採用担当者の目に止まるような発言・書き込みをやりなさい!」「ネット上に誇れるような大学生活を過ごそうよ!」「そんな失礼な発言は採用担当者が見ているよ!」私は最近、学生にそうしたセミナーを行い始めましたが、是非、新しいメディアを新しい視点で活用したいものですね。

 

第206号:法政大学での就業力GPプロジェクト

これまで文科省の「就業力GP」については何度か触れて参りましたが、私事ながら、この4月より法政大学の特任教員(任期付き非常勤講師)に就任致しました。過去のコラムを書いていた時点では全く無かった急なご依頼で、私自身が一番、驚いておりますが、微力ながらも批評者ではなく実践者としてチャレンジしてみようと思います。

 

法政大学のプロジェクト・メンバーは、リーダーの藤村教授以下、私を含めて3名の特任教員が担当致します。特任教員はそれぞれのキャリアを活かした専門分野へのアプローチを行いますが、私の場合は言うまでもなく、まずは企業人事部との連携です。多くの企業と議論しながら「就業力」というものの外部評価基準・手法を開発したいと思っております。これまで多くの「××力」というもが提起されてきましたが、それらを聞く度に、大学教育と企業の求める人材像との距離に問題意識をもっておりました。このコラムで提唱し続けてきたことを実践する機会を戴いたわけですね。

 

以前ここで、就業力というものは、大学の通常授業を通じても十分、身に付けられるものだ、と書きました。例えば「事実」と「意見」を分けるという基本的なアカデミックの視点は、就職活動だけではなく就職後の仕事でも必須のものなのです。

私が新社会人として営業に出始めた頃、上司が新人営業マンにしつこく指導していたのは「いいか、営業会議では、顧客が言ったことと、自分が推測したことは、混同せずに報告しろ!」というものです。これは顧客の言っていたことだけを報告しろということではありません。それならば、営業はただのメッセンジャー・ボーイです(確かにそんな業界もありますが。)。大事なことは、顧客の言った事実をちゃんと確かめる、情報がなければもっと集める、そして推測する、ということです。ベテランになるほど勘がよく働きますが、その場合でも思い込みは危険で、この原則は大事です。

 

このようにアカデミック・スキルはちゃんと社会に通用するものなのですが、残念ながら当時の私は大学でそんなことを学んだ記憶がありません。試しに就職活動中の有名大学の学生にも尋ねてみましたが、「言われてみれば、ああ、確かにそうですね。大学の勉強って、そういうものなんですね!」と喜んでおりました。つまり、大学で学ぶことと、それを社会で応用するということとは別の能力なんだということです。こうしたアカデミック・スキルを再認識させる指導が就業力育成のひとつでしょう。

 

これは資格と就職の関係も同じだと思います。就職活動(採用選考)においては、資格そのものに価値があるのではなく、資格勉強の過程において身に付けた能力や視点が役立つのですが、そこを面接で主張する学生は意外と少なくて勿体ないです。学士力と就業力の関係も同じではないかと思います。学士として身に付けた基本的なアカデミック・スキルを社会で使いこなせる応用力、それが就業力というものではないでしょうか。

 

と、こんな試行錯誤を今月からはじめたところです。今後、企業だけではなく、多くの大学就職課の方々とも意見交換をしていきたいと思っております。今回採択された180校だけでなく、ご意見・ご質問等ございましたら、是非、お声掛け下さい。一緒に考えてみませんか!

 

第205号:救難・復旧・復興対策としての採用活動

震災後3週間が経ちましたが未だに被害の全容が把握しきれておりません。この時期に企業の取るべき採用活動のあり方を、敢えて就職活動に戸惑う学生への支援策として論じることをお許し下さい。いきなり就職活動が止まってしまった学生も間接的な被災者であることには間違いないでしょう。そして先が見えずにエアポケット状態になっている採用担当者が、学生に対して何ができるかを整理して将来への課題提起をする気持ちです。

 

災害における対処としては、「救難」「復旧」「復興」の3段階ですが、これを採用活動になぞらえると以下の通りになるでしょう。

「救難」⇒短期対策で即時に緊急対応すること、現応募者への採用選考スケジュールの説明、採用時期の延期、被災地方に対する特別採用枠の設定です。しかし被災地方の特別枠を設定するのが、ネスレ日本社のように完全に優先採用枠を用意するならば素晴らしいことですが、他の地域の採用選考スケジュールはそのまま先に行うのでは問題があります。というのは、今回の被災規模が明らかになるにつれ、企業への業績影響が徐々に大きくなり、時間が経つほど採用予定数が減少する可能性が高いからです。つまり、被災地方の学生が企業訪問出来るようになった頃には、採用枠が無くなっているかもしれません。ですので、全国の学生には気の毒ですが、機会公平を期するならば全員一律に選考時期を延期するのが妥当です。そして、この延期を次の段階の復旧につなげて欲しいです。

 

「復旧」⇒中期対策で現状に復帰させること、つまり採用シーズンの適正化です。何度もここで私が主張してきたとおり、採用活動早期化にはこうした経営リスクがあるにもかかわらず進めてしまい、結果、学生や企業自身にも大きな機会損失を生んでいるわけです。もし企業の採用活動が総合商社の提案の通り夏からだったなら、どれだけ多くの学生がこの春休みに被災地のボランティア活動に従事できたことでしょう。被災地に直接行かなくても、東京での募金活動や物資の調達や公共団体やボランティア団体への労務の提供や、学生得意のネットを使った被災地向けの支援も可能でしょう。

 

「復興」⇒長期対策で過去を見直しより良い形に再生すること、これにはいろいろな策が考えられますが、私が提案したいのは大学評価の見直しです。現状ではやや理想論と言われそうですが、学生の大学生活(授業成績だけでなく、課外、学外活動全般)を評価して企業が採用できるようになることです。企業が多大な金銭&時間コストをかけて就職(採用)シーズンを作るのではなく、大学の評価基準を信頼して採用することです。大学側も求める人材(選考基準)について真剣に企業と意見交換・議論して企業の採用基準に準ずるカリキュラムや推薦制度を開発することです。(念のため書きますが、就職予備校化ではありません。大学本来の知見を就職・採用活動に応用することです。)

 

幸いにも被災を逃れた地域の企業・大学・学生は、救難にむかえなくても、現状を見直して復旧について真剣に考えることはできるはずです。そして復興を単なる過去の復元とするのではなく、より良い形に創成していく、それができなければ犠牲になられた被災者の方々に申し訳がたちません。

 

第204号:未来を信じて

この度の大震災では多くの方々に直接・間接の被害がありましたことを心よりお見舞い申し上げます。被災地で苦労されている方々の報道を聴く度に、一日も早い復旧を祈るばかりです。しかし、こうした中だからこそ、未来を信じる気持ちを忘れずにいたいと思います。

 

このような状況において、企業も今後の採用活動をどうすべきか戸惑っております。被害規模の大きさからは現場担当社の判断だけで動けないことは明らかで、既にいくつかの企業から表明されているとおり、当面の採用活動を延期し、現状を把握することで精一杯です。企業によっては採用活動そのものを中断せざるを得ないところも出てくるでしょう。

採用担当者が当面考えなければならないのは、まず入社直前の内定者(4年生)をどうするか?ですが、直接被害のある現地関係企業か、便乗内定取消をするような悪質企業ではない限り、内定取消はあまり出ないと思われます。数年前に内定取消騒ぎで世間の目も厳しくなっておりますし、これから内定取消をする手続きの方が大変です。

逆に、厳しく考えなければならないのは応募者(3年生)の採用数をどうするか?ということです。この春はやや景気が上向く気配でしたが、今回の震災では昨年より採用数が減少することは間違いありません。採用時期を5月や6月まで延期したとしても、時間が経つほど経済状況が下降局面に向かうでしょうから、選考基準もますます厳格にせざるをえません。

 

こんな状況の中で応募者の学生に心がけて欲しいのは「厳選応募」です。不況下で有名大企業に数多く応募したくなる気持ちはわかりますが、やみくもにエントリーをするのでは志望動機が浅く曖昧になるだけです。しかも、採用数が多い(100人以上)の企業ほど人員計画はぶれやすくなります。この5月初旬には金融、6月初旬には商社・メーカーの少数採用に多数応募者が集中すると思われますので、競争も激しくなるでしょう。是非、リスク分散を考えた「厳選応募」をして欲しいです。

 

さて、政府からは主要経済団体に内定取消防止や被災地の応募者への配慮が養成されています。しかし、今回の災害は個別の企業の努力では対応しきれません。政府に望みたいのは具体的な雇用機会の創出、例えばこの5~6月に内定が取れなかった学生たちへの直接の支援です。今の非常事態が収束してくれば、必ず復興事業で人手が必要になります。崩壊してしまった地方自治体などで、長期の災害復興ボランティアとして若者を活用し、その活動をしっかり記録し、将来の就職活動に資するキャリアとなるように。大学もそうしたボランティアを単なる留年とせずに学費免除の休学期間と認め、災害復興事業に関わる企業では極力インターンシップを設定して若者の育成機会として欲しいです。学生の方々の就職ができない不安も、被災地の現状を見れば吹き飛んでしまうでしょう。

 

今はまだ将来の夢や希望を語る気持ちにはなれないかもしれませんが、未来を強く信じ、いまこそ産官学が連携し、数年後には日本が世界に誇れる歴史をつくりあげたいものです。今回の震災に際して、規律を守って辛抱強く対応されている被災者の方々、最前線で勇敢に救助、支援、復旧に当たっている方々に心から敬意を表します。貧者の一灯。今月の原稿料は赤十字社を通じて被災地のために寄付させていただくことにしました。

 

第203号:新卒一括採用の良さ

日本の新卒一括採用はガラパゴス化しているので止めるべきだという発言をよく耳にします。しかし、今の日本では新卒一括採用のメリットの方が大きいと私は思います。それは、社会人育成を大学と企業が自然と連携して行っている有機的なシステムで、世界でもなかなか見ない良いものだからです。

 

新卒一括採用に反対の方の意見は主に以下のものだと思います。

1.新卒だけでは多様な人材が採用出来ず、企業が画一的な人材ばかりになる。

2.就職時の経済状況が悪くて就職出来ないのは本人の能力とは関係なくかわいそうである。

3.世界でこのシステムを行っている国は日本と韓国だけでグローバル・スタンダードではない。

 

それぞれに私の意見を述べてみると、まず1のような新卒一括採用だけしか行わない企業は既に少数派だと思います。30年前ならばともかく、いまでは新卒一括採用と中途採用の両方を使い分けている企業が殆どでしょう。また、画一的と言いますが、未だにそうした人材を重宝している業界も多いです。中央集権的な人事政策の大企業では、本社はエリートですが、支店は没個性のワーカーが望ましいと考えている企業は数多あります。

2については、不況になれば新卒採用も中途採用も止まるので(むしろ中途採用の方が先に止まります)、新卒一括採用制度の問題ではありません。また、そうした運・不運に左右されることを、不況期間が相当に長ければともかく、国や企業が支援することは妥当でしょうか?例えば、バブル崩壊期に一番、損をしたのは住宅(マイホーム)を購入したり、金融資産を運用する余裕のあった30~40歳の層で、いまだに重いローンを抱えている方もおりますが、その前後の世代はあまり影響を受けておりません。就職と財テクを同じに論じることはできませんが、好不況に個人が左右されるのはいつの時代でも同じです。むしろ私の懸念は、不況を理由にして学生がすぐに就職活動を諦めてしまうことです。

最後の3の主張は、採用方式というのは、それだけで存在しているのではなく、その国の法制度・教育制度・文化的背景と相まって、その国それぞれに形成されることを忘れています。世界の大多数と違うから変だ、というだけならナンセンスです。もし日本の大学が、世界の大学と同様に職業訓練に近い教育を行えるようになれば別ですが。

 

私は何が何でも新卒一括採用を継続すべきだとは思っておりません。リクルートワークスの大久保氏が主張するように、日本は新卒採用を世界で一番、うまく運用している国だと思っているだけで、いずれは通年採用の比率は高まってくるだろうと思います。しかし、仮にいま新卒一括採用をやめて一気に通年採用に移行したしたらどうなるか?メディアや識者の方は通年採用とは企業が一年中門戸を開いていると思い込んでおりますが、それは大きな誤解です。中途採用と同じく、必要な時期に必要な人員だけしか採用せず、しかも中途採用に近くなるので十分な社員教育は行わなくなるでしょう。

 

つまり、新卒一括採用の学生にとっての最大のメリットは、確実に企業の門戸が開く時機がわかるということと、即戦力でない若者を社会人のイロハから教育すると言う点です。日本の最強の職業教育は、企業の新人研修なのですから。そうした新人からの人間関係を通じて醸成される仲間意識や「恩」が、日本人の強さだと思います。これを忘れて通年採用に向かうのは相当に危険なことだと感じています。

 

第202号:学歴フィルターを乗り越える

2月12日販売の週刊ダイヤモンドは「就活の虚実」というタイトルでした。年に何度か見かける就職活動の特集号ですね。このような企画は何処かの就職コンサルタントが寄稿していたり総花的なものが多いのですが、今回はなかなか気合いの入ったものがあるなと見ておりました。例えば「学歴フィルター」の記事です。なかなか扱いにくいテーマですが、面白い取り上げ方をしてくれました。

 

今回の特集では、人気企業100社の採用担当者に「就活生が本当に聞きたいことをぶつけた!」と称するアンケートを行っています。これも毎度のあたりさわりの無い集計になっています。私もかつて回答したことがありますが、企業として公開で答えられるはずが無い設問が多いのですから、仕方ありません。「学歴フィルター」に関する質問などはその代表です。盗人に「あなたは泥棒ですか?」と聞いているようなものですから。

しかし、こちらも嘘をつくのは嫌ですから、こうした設問にはできるだけ都合良い解釈をして「嘘ではない」と自分を納得させて回答します。例えばこの学歴フィルターに関する質問は、『大学によっては採用目標人数(学校推薦含む)を決めている』となっております。こうした質問については、「我々は早慶上智をターゲットとしており、良い人材ならば何人でも(無限大に)取ることにしているので目標人数は決めてない。だからNOだな。」という具合です。(実際、採用仲間に聞いてみると、ターゲット校を決めている企業は多いですが、大学毎に明確に人数を決めているというよりは、東一早慶群で何人位、MARCH群で何人位という大括りの目標であることが多いような気がします。)

 

それで、今回の特集も「ああ、またいつものパターンか」と見ていたのですが、その次の項目の「覆面座談会」のページでは、人事採用担当者に「この質問にはウソをつかざるをえないでしょう。」と堂々と真逆のコメントを言わせています。おお、なかなかやるな、と思ってしまいました。

 

本当に学歴フィルターについて調べたいなら、アンケートよりも大学内セミナーの参加状況を集計してみればすぐにわかると思います。採用担当者の時間の都合上、ターゲットとしている大学にしか訪問できませんから。皆さんの大学を訪問される企業群もある程度、固定化していますよね?

 

さて学生にとっての問題は学歴フィルターの有無を確かめるよりも、どう対処するかです。「学歴フィルターのせいでセミナーの予約が取れません。」との不満を漏らす学生とは私もよく出会います。しかし、そうした学生はそこで諦めていることが殆どです。彼らにとっては「学歴フィルター」という理由があった方が自尊心を潰されなくて良いのかなと思わされます。

 

こんな時、内定する学生はダメ元でその企業に直接電話して、「貴社のセミナーに行きたいのですが、Web予約がとれません。どうすれば良いですか?」と直談判していますよね。このアプローチも既にマニュアル化されているので門前払いにする企業も多いです。しかし、このダメ元をする学生は行動力があるので内定率が高いです。私の教え子にもそうした学生がおりましたが、笑いながらこんなことを言っていました。「だって、有名大学に入る苦労を考えたら、電話の方が楽じゃないですか。」

ああ、やはりフィルターを乗り越えていくのはこんな子なんですね。

 

第201号:就職活動をさせるから就職ができない

学部3年生を中心とした就職活動が本格的に始まりました。学生は企業の訪問のために自己PRやエントリーシート(ES)の準備に余念がありませんが、無駄なことをやっているなあ、と感じさせられる学生が最近は増えています。大学で学んだことを、ちゃんと理解していれば、就職活動への対処もしっかりできるはずなのに、それができないのは、教員が教えていないのか、学生が学んでいないのか。

 

大学で学ぶことは無数にありますが、もっとも基本的なことは「事実」と「意見」を分けるということでしょう。アカデミックな視点とは、自分の思い込みや想像から語るのではなく、可能な限り調査・実験を行ってデータを集め、それを加工して情報にし、その分析から自分の「意見」を述べることです。

 

このことをちゃんと理解しているならば、就職活動において「行動実績」のない「自己PR」は全く意味がないことがわかるでしょう。仮に「行動実績」があったとしても、誰もが行っているようなものであれば競争力はありません。そして、それを冷静に評価するのが、今のコンピテンシー面接です。

 

私が冒頭で述べた無駄なことをしている学生とは、たいした行動実績が無いのに必死に自己PRやESを書こうと悩む学生たちです。志望企業にもよりますが、それは順序が違うというか、手遅れです。まずやるべきことは、何でも良いから他者と比較して可能な限り競争力のある行動実績をつくることです。

 

そうした学生達の簡単なアルバイト経験を、むりやりにカッコ良い自己PRに加工させるような就職指導は時代遅れで、ファーストフード店でハンバーガーを販売した経験を「マーケティング活動」などと言わせるようなものです。当たり前のことですが、「行動実績」は一朝一夕にはできません。しかし、それがあれば自己PRやESは比較的短時間にできあがります。

 

私が言いたいのは、3年生の春休みに就職活動をさせるのは、その実績作りの貴重な時間を奪うことである、ということです。小学生からの長い学生生活の頂点で、もっとも余裕があるこの時期に、仕上げの「行動実績」つくりをさせずに就職活動をさせるということは、就職できない学生を生産することになっていませんか?

 

12月から始めないと学生が企業理解不足でミスマッチが発生する?仮にどんなに時間をかけても、学生が企業や社会を完全に理解して就職できるはずがありません。ミスマッチを無くすなどとは幻想で、ミスマッチがあるからこそ若者は社会で育つのです。夏休みからでは卒論に間に合わない?理系の研究活動などは、一番立派な学生の「行動実績」です。その実績をうまくPRできないなら、それを引き出すことこそが採用担当者の仕事ですし、推薦制度とはその補完のために始まったものでしょう。

 

学生に1年以上の長期の就職活動を求める企業群には言いたいです。それならば、学生の勉強ではなく、就職活動を評価すべきです。一番、力を入れたことは何ですか?という質問に「就職活動です。」と答える学生をちゃんと評価して下さい。

大学生の正しい就職活動とは「行動実績」つくりのことです。今の就職活動と呼ばれるものは本当に就職活動なのか?それとも就職活動の勉強をしているのか?私には「就職騒動」に見えるこの頃です。

第200号:就職活動維新&採用活動ルネサンス

日本貿易会、日本製薬工業会、日本経団連、経済同友会、日本商工会議所、そして国立大学協会と日本私立大学団体連合会、企業の採用活動の時期の見直しについて見解が出てきましたが、まだしばらくは議論も続きそうです。それぞれの団体にはそれぞれの事情がありますが、この中で明らかに意見が異質なのは日本経団連(以下、経団連)です。採用担当者の視点、特に選考基準の視点で見てみましょう。

 

もし、この7団体の代表者を採用面接した場合に私が不採用にするのは、やはり経団連の代表1名です。それは当社の選考基準で見てリーダーとしての資質に疑問があるからです。その資質とはただ1つ、自ら意志決定する哲学をもっているかどうかです。責任ある大組織のトップは、メンバーの意見に耳を傾けることは必須ですが、大多数意見をそのまま結論にするようなら存在意義はありません。大学生のグループ・ディスカッション選考で、司会役をかって出る学生がメンバーの多数決を取ることがリーダーの意志決定と勘違いしているようなものです。(勿論、リーダーの資質にはいろいろあります。)

 

それは「学生の意向を反映しているのなら、十分考慮しないといけない。」というご発言からも察せられます。企業採用活動の状況や社会の趨勢の理解はおろか、自分のことさえまだ分析中の学生の意見を求めるというのはリーダーの役割の責任転嫁であり、そもそも多様化している学生の意向がひとつにまとまるとお考えなのでしょうか。何処の大学のどの学生の意向を伺うのでしょうか。

 

私は、4年の4月からの広報開始、8月からの選考開始、10月から正式内定、多くの団体が提唱しているこのスケジュールを支持します。「冬休みをうまく活用してほしい」などとは大学教育の視点からも言語道断です。冬休みは期間が短い上に期末試験を控えた学生が秋の講義を復習する重要な時期です。仮に学生が企業訪問を行いたくても、肝心の企業が年末年始の行事で休んでいます。(採用担当者をこれ以上、働かせないで下さい。)ついでに言えば、内定している4年生に対しても資格試験を圧迫するような特定業界の社員教育早期化も止めて欲しいです。期末試験と卒論まとめの時期にどれだけ学生が苦悩していることか。

 

私は今こそ企業採用担当者が採用活動の原点に返って、現在のやり方を見直すべき時だと思います。私が初めて営業から人事の仕事に異動して採用担当者になった時、驚いたのは業界全体がなんでこうも画一した採用活動を無思考にやっているのかということです。しかも、採用担当者がそれに気付いていません。個性的で独創的な人材を採りたいならば、個性的で独創的な手法が必要です。面接という選考手法は大量採用には向いていますが、人材のほんの1面しか見ることが出来ません。くり返し面接を行っている採用担当者はそのことを忘れてしまったのでしょう。

 

先日、慶應大学のセンター試験撤退と武田薬品の応募資格がTOEIC750以上というニュースがありました。私がこのニュースに触れたとき、これは就職活動維新、採用活動ルネサンスのはじまりだとその英断に感心しました。これまでの大多数に群れるやり方に疑問を持ち、孤高であっても自組織の哲学に基づいて踏み出す。それが変革期(維新期)に必要なことです。これをガラパゴス化と笑う者がいるでしょうか?果たしてどちらがガラパゴスでしょうか?進化の機会を失いたくないものです。

第199号:貿易会 vs 経団連

先日、採用活動の早期化について経団連の申し合わせが正式に決まりました。今年こそは就職環境が大きく変わる元年だと期待していたのですが、拍子抜けでしたね。タイトルの「貿易会vs 経団連」というタイトルが妥当とは思いませんが、早期化是正にチャレンジした企業群が出てきたのに、その精神が活かされないとは残念です。

 

今回の意志決定でよくわかったのは、経団連というのはもはや業界をリード・指導する崇高な企業経営者の団体ではなく、残念ながら強者の利権を守る国連のような存在だということです。(やや言い過ぎですが、新年に免じてご寛容下さい。)皮肉な言い方はさておき、現在の就職活動の早期化・長期化がなかなか是正されない理由を経済学的な視点、もしくは推理小説の犯人捜しの発想で冷静に見てみると、早期化・長期化で得をするのは誰か?です。

 

かつては就職情報業者がすぐにやり玉に挙げられましたが、現在は多くの業界が、就職活動を「産業化」して恩恵を得るようになってしまい、結果的に学生が「消費者化」されていると私には見えます。学生が1年中就職活動をするようになったので、夏物・冬物2着以上になったリクルートスーツをはじめ、交通費、通信費、休憩のカフェ代、そして売上が急進したアップル社のiPhone。更に手がこんで、就職セミナーに見せかけた自社の企業宣伝・商品説明。買いたくもない商品の説明を黙って1時間も聞いてくれる商業機会はそうはありません。

今回、早期化・長期化に反対している企業が何処なのか調べ上げてみれば、総合商社や医薬品のようなBtoB産業ではなく、学生が潜在的消費者になりうるBtoC産業が多いのではないでしょうか?

 

よほど裕福な家庭でない限り、学生が消費者化するということは、同時にアルバイトによる「労働者化」にならざるをえません。現代は、私たちが学生の頃には存在しなかった、大学生が主たる(非正規)労働力の産業が多数存在しています。外食産業、量販店、接客サービス業・・・。その結果、学生が採用面接で語る「大学生活で一番頑張ったこと」は、どれもあまり変わらないアルバイトになっています。結局のところ、学生の時間を就職活動に奪った企業が、良い人材の成長機会・採用機会を失っていることになるのではありませんか

 

就職活動(採用活動)の早期化を語るとき、最優先で考えなければならないのは、採用企業の都合ではなく、大学教育の環境のはずです。学生の時間を取り戻し、次に考えるべきは大学教育の見直しです。キャリア教育も良いですが、本来の大学教育で得られる力を再考すべきでしょう。私もこれまで無数の就職指導をしてきていますが、ESの書き方もGDのスキルも面接テクニックも、すべて大学教育で可能なことです。

 

会社説明開始は12月だ4月だ、という議論などしなくても、現行の倫理憲章で謳われている10月1日正式内定を厳守させ、内々定拘束をする企業はパワーハラスメントで摘発する、と明言すれば相当に解決するのではないでしょうか。新年早々、苦言から始まるのも恐縮ですが、本当に就職活動維新の元年に成って欲しいですから、諦めずにボヤいていきたいと思います。本年も宜しくお願い致します。

 

第198号:リクルーター制度対策

最近、リクルーター制度の話題が良く出てくるようになりました。私の本業である採用コンサルティングでも、企業の方からリクルーター制度の導入や、リクルーター育成研修の依頼を受けることが確かに増えてきています。なかなか実態の見えない採用手法ですが、その背景について見てみましょう。

 

まずリクルーター制度の目的ですが、やはり企業の採用広報活動が第一です。それもマスメディアを使って不特定多数に知らしめるものではなく、特定の対象層に対して選択的に行うもので、これこそが採用広報と一般の企業広報・広告との大きな違いです。採用活動ではあまり広範囲に宣伝を行うと、応募者が増加してその後の採用選抜コストが増加してしまいますから。

かつては広範な広報活動によって多様な人材に出会えるメリットもあったのですが、時代が変わってきました。ここ数年の盛んな不況ニュース報道に煽られた「不安&とりあえず指向」の学生意識、簡易に応募が可能になったIT環境等の背景によってプレエントリー者数が数倍になり、採用担当者は戸惑いの方が大きくなってきました。

エントリーシートやグループ・ディスカッション(GD)による応募者増への対応も、年々、大変な作業になってきています。これは近年のGDの参加人数・選考時間の変化を見ていても明らかです。数年前のGD導入期では、1グループ6人の応募者に対しGDタイムは50分で選考者は2名というものが平均的でしたが、最近の例では1グループ10人でGDタイムは30分、更には1グループ6人を同時に5グループで30分(しかも選考者は2名)という企業まで出てきています。

 

このように、Webサイトによる集団形成&選考活動の非効率化の対策としてリクルーター制度が復活してきているわけですが、率直に言えば、これはかつての「指定校制度」の復活です。このご時世、企業側から「指定校制度」とは言いにくいですが、どこでも「若手社員が出身大学を訪問して勧誘する。」という表現になっております。

 

こんな状況になると、採用実績の無い大学にはリクルーター訪問がないわけですから、就職課としては何らかの対策が必要になりますね。幸か不幸か、採用担当者のWebサイトによる集団形成の比重低下に反して、大学内セミナーへの参加意欲は高まってきています。リクルーターが出身校を回るのに対して、企業採用担当者は参加費用のかからない大学内セミナーにはますます積極的に動いています。そこに一工夫をして、ただ会場を用意するだけではなく、招致したい企業の志望度の高い学生を予め募っておく等の仕掛けがあると良いと思います。例えば、今の大学内セミナーでは学生がまず企業の説明を聞いてから志望度を高めて応募するという流れになっていると思いますが、事前に(第一希望でなくても)志望度の高い学生が一定数集まっているということがわかれば、企業も訪問する気になるでしょう。勿論、学生に対しては企業・業界研究のための事前学習が必要ですので、それをキャリア教育としてしっかり指導しておく必要があります。その学生達が大学側の企業誘致リクルーターになるような。

 

何処の大学にも有望な人材がいることは採用担当者もわかっています。採用担当者の悩みは、その有望な学生に出会う確率を高めることですが、その対策がリクルーター制度になってきたわけです。いつまでも受け身でいる学生・大学には徐々に企業からのコンタクトが減ってくる恐れがあります。是非、一歩進んだ企業誘致をしてみて下さい。