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第177号:戻した採用担当者

昨年末に「戻」の漢字ネタでのコラムをお送りしましたが、本当に採用時期を「戻した」企業が出てきましたね。周知のキヤノンマーケティングジャパン(CMJ)社の「訳あって、今年の採用活動に出遅れます。」宣言です。やってくれたな、というのが率直の感想です。さて、世間はこの一石をどのように受け止めるのでしょうか。

 

このニュースは就職業界関係者にとっては大きな出来事なのですが、世間の反応はそれほど大きくないようです。採用担当者の受け止め方もまちまちで心穏やかではありません。

 

「キヤノングループほどの企業もたいへんなのか。」

「企業業績悪化を美化した上手な広告だ。」

「うちもやりたかったなあ。」

「10月に同社から採用案内のDMが届いてたぞ。」

(*注:この宣言はそのDM発送後に決定されたようです)

 

しかし、根本的なことが忘れられています。

 

日本はグローバル化が遅れている、ガラパゴス化しているとの批判は盛んですが、今の就職・採用活動が恐るべきローカル・スタンダードの横並びの惰性でやっていることを。

大学生活の重要な新学期、それも入社の1年前に大騒ぎの就職イベントをやっている国家が世界にありますか?

 

理由は何でも良いのです。今の異常に早期化・長期化した採用・就職活動が是正されるなら。

大学キャンパスにもう少し平穏を取り戻して欲しいと思います。

 

冷静に見れば、この宣言文は極めて普通の経営感覚で書かれています。先の見えない経済の中で超長期の先行投資が危険なことを平明に伝えています。問題なのは、こうした当たり前の文章が稀少情報でニュースになってしまう日本の世の中の方ですね。

 

1000歩譲って春に採用活動を始めることは良いとしても、ならば夏に就職活動をする学生を無理に拘束するような真似はやめて欲しいと思います。社会も企業も大学も、これを機会に正気に戻ることが大切だと思います。

 

大学教職員の皆さん、一緒にCMJ活動(ちょっと、待て、人事採用!)してみませんか?

 

▼参考URL:

「訳あって、今年の採用活動に出遅れます。」(キヤノンマーケティングジャパン社サイト)

http://teiki.saiyo.jp/canon-mj2011/contents/dm_2/index.html

 

第176号:採用担当者は社会の壁

この不況の中で採用担当者の仕事を見ていると、採用担当者はその企業の門番であると同時に「社会の壁」だと感じることがあります。社会に出るにはまだ早い若者をせき止めている役割ですが、それはただ冷たく突き放すのではなく、若者に機会と試練を与える「大人の壁」だと思います。

 

多くの学生がこれまで社会の壁としてぶつかって乗り越えてきたのは小中高大の学校受験ですが、その壁が少子化の影響でドンドン低くなり、それほど苦労しなくても大学まで来られるようになりました。しかし、最後の壁である就職だけは、逆にいきなり高くなってしまい学生が戸惑っています。この壁には高いものも低いものもあるのですが、何故か高いところばかり選んでぶつかっては玉砕している学生も居ます。

 

壁にぶつかった若者は、その悔しさや失敗を振り返って学習し、更に何度もチャレンジすることによって成長します。この失敗から学んで成長するという社会勉強が身につかず、諦めきれずに同じ失敗を繰り返している、失敗しないように大人が手取り足取り手助けするようになってしまっているのが今の時代の困ったところではないでしょうか。

 

今こそ学生は若者らしく『失敗から学べ』と言いたいです。「どうすれば良いんですか?」と質問する学生ではなく「これではどうですか?」とぶつけてくる学生になって欲しいです。こうした意見や手段を自分で考えられるようになれば、多くの採用担当者は壁を開いてくれると思いますし、それこそ企業が求める人材像の一つでしょう。定番になったコンピテンシー面接の視点も、積極的に行動し、成功は繰り返す、失敗は繰り返さないという学習手法をもっているかどうかなのですから。

 

就職課の皆さんも、常に目の前の学生に試練を与えるか支援を与えるかで悩んでいますね。採用担当者は立場上、機会を提供するだけで個別支援まではできませんが、就職課の方にはそれができます。その際に大人として大事なのは、やはり自分自身が元気な大人であることではないかと思います。私も就職相談員として学生に相対する際は「元気な壁」であることを心がけています。試練を与える大人の責任として、若者が安心して胸を借りられる壁でなければならないと思います。豊かな環境に慣れてきた学生にはすぐに試練に立ち向かうことは難しいですが、それをやらせるべきなのが大人の大事な役割だと思います。

 

さて昨年の最初の原稿の末文に、私の高校の恩師の言葉を紹介いたしましたが、長引きそうな不況にあたり、今一度ここでお伝えしたいと思います。

「平成20年は激動の年でしたが、空襲に逃げ惑い、飢餓に苦しんだ昭和20年に比べれば何程のこともないと思います。」

私事ながら、昨年30年ぶりの同窓会でこの恩師と再会できました。足腰は弱っておられましたが、高校の時に下さった説教で100人以上集まった50歳近くの若者たちに渇を入れてくれました。不惑の時代を越えてなお厳しい環境に向かう我々には大きな励みとなりました。

派遣村などの規模が昨年より大きくなったり、未だ卒業後の行き先が決まらない若者が居たり大変ですが、昭和20年と比べたら何でもありません。元気は誰からか貰うものではなく、自ら「出す」ものです。まだまだ我々は元気に生きていけると思います。 新年、頑張って行きましょう!

 

第175号:「変」から「新」になったのか?

今年の漢字は「新」になりました。確かに政権や国家元首が「変」を経て「新」になりましたが、採用担当者の動向を見ていると「新」というよりは「戻」という気がします。数年前のITバブル後の不況時と同じかそれ以上の厳選採用・コストダウン採用になってきています。

 

今春の採用活動はかつてない厳しさでしたが、昨年の今頃はまだ採用担当者に予算が残っていたので採用広報活動(母集団形成活動)は比較的積極的に行われておりました。しかし、今年は当初から予算が無いことと、絞ったとはいえ今春のも無理して採用したせいか、採用担当者の意欲があまり感じられません。私も今春がドン底で、来春は多少回復するのではないかと見ていたのですが、どうも思った以上に経済状況の回復は遅くなりそうです。経済でも二番底があるかないか危ぶまれていますが、採用市場もそんな気配です。

そんな厳しい環境の中で採用担当者の動きは変わり、大学セミナーを中心にコストのかからない広報活動を展開するようになってきています。私がお手伝いしている大学内セミナー(大学内企業合同説明会)もかなり早く定員が一杯になり、追加の参加依頼をお断りしているような状況です。逆に、外部での企業合同説明会は参加企業が減少して規模が縮小しています。企業が大学に戻ってきたのですね。

 

しかしながら、大学回帰の中での企業の新しい動きは「厳選採用」の方針のため、全ての大学に回らずターゲットとする大学のみを訪問することです。採用担当者としてはあまり明確にしたくない話題なのですが、明らかにこの動きは存在します。今春の採用でも、エントリーシートやセミナーの受付において「女子大学」「一般教養系」の学生にはDMが届かないということもありました。

この動きはけしからんと思われるかもしれませんが、もう少し時代を遡って思い出してみると、25年ほど前には「指定校制度」というものが堂々と存在していました。私自身も経験があるのですが、有名企業の説明会に(有名大学しか告知が来ないのでそれを探って)直接訪問しても、「貴方の大学は指定校ではないので受付できません。」と言われてスゴスゴ戻ったこともありました。(当時は、「そこを何とか入れて貰えませんが?」と粘ると入れてくれる企業も結構ありました。人間味がありましたね。)この不況が続くと、もしかするとそこまで採用担当者も戻るかもしれません。今期の採用担当者の最大の課題は、急増した応募者に如何に低コストで対応するか、なのですから。

 

失われた良さを取り戻すのは良いことだと思います。日本社会は全体にメタボ状態だと思いますので、今の不況もその点ではダイエット中という試練なのかもしれません。しかし、単純に昔に戻るだけでは進歩がありません。ついでに若者のハングリー精神や自立意識も戻って欲しいものです。いつの時代も若者は社会問題に対して無責任に一石を投じる権利があると思いますし、そうした中から新しい社会が形成されると信じたいものです。(最近の学生さんは反骨精神より厭世観の方が強そうで心配です。)

 

そうそう、私が知る限りの採用担当者全員が口を揃えて言っています。「採用活動開始時期を元に戻したい。」と。これは大学就職課の皆さんも同じでしょうね。誰もが戻したいと思っているのにどうにもならないのが今の大問題なのでしょう。来年こそはこの大問題に新たな動きが見られることを祈っております。どうぞ良い年をお迎え下さい。

第174号:未内定4年生の「自己都合的な諦め」

3年生の就職活動にエンジンがかかってきたなかで、4年生の未内定者の課題は悩ましいですね。私も非常勤講師を行っている学生の個別相談にのっておりますが、何人かの学生と話していて気づいた共通点がありました。とても「自己都合的な諦め」が多いのです。この点はこれから就職活動を始める3年生にも見られると思いますので、お伝えしておきたいと思います。

 

相談をしていて意外と多かったその「自己都合的な諦め」とは、企業の採用選考中で結果が出る前に自分から選考辞退をしてしまう学生です。しかもこうした学生の殆どが、全く選考を通らないレベルではなく、応募先さえ間違わなければ内定の取れそうな方々です。不思議に思って理由を尋ねてみると、以下のような答えが買ってきます。

「面接で採用担当者の方の反応(採用意欲)が感じられなかった。」

「一緒に受験した学生からその企業の良くない評判を聞いた。」

「一緒にグループ面接をした学生が有名校ばかりで自分は受からないと思った。」

 

情報に敏感になる学生の気持ちもわかりますがあまりに主観的な判断で、その情報をちゃんと判断する知識や技術が無いのだなと感じます。上記の例でも、採用担当者にはいろいろな人が居りますし、普段は元気な人でも1日30人も面接をした最後のコマでは流石に疲れも出るでしょう。(しかも1日中、似た話を聴かされているのです。)学生のクチコミ情報も良い評判より悪い評判の方がすぐに広まりますし、そもそも学生が何処まで正しく情報を理解しているのかというのもあります。同じグループの学生が有名校ばかりなら、逆に自分に自信を持っても良いはずです。(学校名で落としているなら最初からエントリーシートで不合格になっていることでしょう。)

 

こうした行動の理由を学生に一つ一つ確認しながら面談していると、その行動の下にある心理が見えてきます。その大きなものは、面倒な可能性の低いことは早めに避けたい、この先の選考で不合格の結果を貰うのが嫌、などなのでしょう。採用選考は決して人格評価ではありませんが、他者との比較評価に慣れていないオンリーワン世代の若者にとって「不合格」とは人格否定と同じに感じられるのかもしれません。しかもこの傾向は、そこそこ能力があるけれどプライドも高い学生に見られますから。

 

こうした理由からか、せっかく可能性のあるカードを自分から捨ててしまっている学生が多いように感じます。現在の経済環境の厳しさを考えたら、人気企業ランキング上位の企業ばかり応募するのも言語道断ですが、可能性のありそうな企業なら選考途中で辞退せず結果が出るまで頑張って欲しいと思います。諦めるのは結果出てからで良いのですから。

 

第173号:「就活」という言葉が嫌いな採用担当者

採用担当者にはいろいろなタイプが居られます。若くて明るいハキハキ営業型、落ち着いてスマートな兄貴型、エレガントで頼れる姉御型、重厚でいかつい説教型等々・・・。しかしあえて共通点を探してみると、やはり根が「真面目」であると感じます。それは人事部という社員の人生に直接に関与する部署であるからなのかもしれません。そのせいなのか、採用担当者は「就活」という言葉をあまり使わないような気がします。

 

先日、ある若い採用担当者の方と気楽に食事をしていたとき、「学生さんは良く言いますが、『就活』って言葉はあまり好きではないんですよね。」とポロッと語られました。この言葉が記憶に残ったのは、実は前にも別の採用担当者の方から伺ったことがあるからです。今と違って売り手市場の景気の良い時のことですが、「就活って、何だか茶化している感じがしないか?俺は絶対、使わないよ。」その方は中年だったので、やはり年配になると堅いな、という程度にしか感じなかったのですが、こうしてみるとそれは採用担当者の本音なのかもしれません。

 

その理由は、上述の通り人事部は基本的に堅い部署であること、会社説明会のプレゼンテーションや面接で正しい言葉遣いを意識していること、そしてやはり人の人生を左右する仕事をしているという責任感からなのでしょう。たまに若手の採用担当者がノリノリの会社説明会で「就活」「就活」と連発しているのを見かけますが、そうした方が採用面接に勢いで出てくることは少ないです。相当血気盛んな企業でない限り、ノリで社員を採用するわけにはいきませんからね。

ですから、応募学生として気をつけたいのは、そうした勢いに一緒に乗ってしまって、面接でもそのような態度や言葉が出てしまうことです。日頃の態度や言葉遣いはすぐに変えられるものではありませんし、採用担当者は敬語の誤用には寛大ですが、学生言葉には敏感ですからね。

 

ところが、最近の若者は照れ屋のせいか「真面目」になることが苦手なようです。大学の授業で学生に触れていると、「真面目」を「マジ」と呼んで真面目でないふりをしているようにも見えます。真面目に取り組んで失敗したときが怖いので、最初からおどけているのかもしれません。勿論、四六時中、真面目でいるのも疲れますから、必要な時だけ切り替えられれば良いのです。この切り替える習慣を早く身に付けて欲しいと思います。それは就職してからも必要な社会人のスキルでもありますから。

 

今シーズンは昨年来の厳しい状況です。学生の方には初めての就職活動なので気づかないと思いますが、こうして環境が逆転したときには気分を切り替えて当たらなければなりません。今は略語全盛のスピード社会で、「就活」「婚活」と慌ただしいですが、しっかり気分を切り替えて採用担当者に向き合って欲しいと思います。相手は、採用活動を「採活」などとは決して略さない真面目な人物が多いようですからね。

 

 

第172号:巨大母集団の憂鬱

街中にリクルートスーツの学生が増え始めました。2011年卒業者向けのセミナーが始まってきたのだなとわかりますが、秋の風物詩として定着してしまったようです。例年ならば採用担当者も夏からの準備を整え、「さあ、やるぞ!」と気合いを入れる時期でもあるのですが、今シーズンの採用担当者の方々の顔を見ていると、どうも浮かない感じが致します。シーズン前から既に倦怠感や疲労感があるような。どうも初期応募者が多すぎてこれから始まる仕事量の多さにげんなりされているようです。

 

採用担当者にとって自社への応募者が増えることは喜ばしいことです。それだけ有望な人材と出会える確率が高まると思われますし、採用広報の手応えを感じられますから。ところが今シーズンは、未だに経済や経営の見通しが不透明のままで採用予定数も定まりません。昨年の今頃は、リーマンショックがあったとはいえ、「そんなに悪くはならないだろう」「例年並みなら大丈夫だろう」「新卒採用にはそれほど影響は無いだろう」というやや楽観的な気持ちでした。しかし今季は「内定者(2010年卒業者)の配属見通しも立たないのに、本当に採用するんだろうか?」という疑心暗鬼にかられています。

 

当初は2010年卒採用がボトムで2011年には回復するだろうと思われていたものの、現時点ではそれほど増えそうにない、場合によっては2010年以下になりそうだとの見通しさえあります。

勿論、企業では採用予算(特に広告宣伝費)を削り、昨年と比べれば相当に控えめな活動をしてきたつもりが、蓋をあければ必死な学生が大挙してエントリーしてきているわけです。しかも不況となれば、例年以上に学生の大手指向は高まり、最近のメディアでも「求人倍率はバブル崩壊時ほどの最悪ではないが、応募者が人気企業に殺到してミスマッチを起こしている」と報道されています。実際、ある人気企業の採用担当者に伺ったところ、「もう母集団形成(募集広告)は出さなくても十分だと思う」とため息混じりに語られました。

 

試しに前回ご紹介した文献『就活って何だ』に掲載されていた人気企業の初期母集団を集計してみたところ、人気企業12社で約40万人のプレエントリーがありました。その12社の内定実績数合計は約2000人程度ですから、実に平均200倍という倍率です(一番人気企業では700倍に近い)。

つまり、一人採用するために199人不合格にする労力が求められるわけですね。

 

エントリーシートやWeb試験で選抜し、実際に面接する集団はドンドン絞られますが、そうして絞りに絞って厳選選抜した応募者が、更に最終選考では役員の気持ちや春の経営状況によってバッサリ不合格にされてしまうわけです。この先のことを考えると採用担当者が憂鬱な気分になるのもおわかりでしょう。

企業の顔としての役割も担うので前向きで明るいタイプが多い採用担当者たちですが、流石にこの状況では伏し目がちになりそうなシーズンです。

 

 

第171号:就活本の読み方

ネット社会の到来・活字離れの影響などで出版業界が構造不況業種と言われるようになって久しいですが、不況の時ほど売れるのは心理学系の書籍だと聞いたことがあります。そんなことを考えながらふと書店を覗いてみると、就職や雇用に関する書籍も意外と目に付きます。この分野も不況になるほど売れるのかもしれません。その中でたまたま目に付いた1冊をご紹介しましょう。

 

「就活って何だ -人事部長から学生へ-」森健、文春新書、2009.9

就職課の方であれば、既に読まれている方も多いと思います。著者の森健氏はここ数年IT分野を中心に著作を出されてきたライターで、就職に関するものは今回が初めてのようです。就職活動はいまや壮大かつ複雑怪奇な情報戦になっておりますので関心を持たれたのかもしれません。有名人気企業15社を選び、今春の採用活動を終えたばかりの人事部長を訪問取材してまとめたものですが、いわゆる就職活動に関する業界人ではないので書き方がニュートラルで良いと思います。

 

この書籍の良いところは、まずは人事部長がその企業の採用選考方法や質問内容を具体的に説明しているところです。各企業の選考ステップの概要は企業ホームーページに掲載されていることも多いですが、そこでどんな形式でどんなことが質問されているか、そしてどのような視点で評価しているかはわかりませんので、応募学生にとっては参考になるでしょう。(勿論、ここで書かれている質問がそのまま出ることはないでしょう。)次には、こうして15社のコメントを並べて読んでみると、業界の特色や企業風土が浮かび上がって見えてくるところです。例えば、「採用活動は大イベントであらゆるセクションから人員を投入して対処する」というような企業からはチームワークというよりも真面目でやや滅私奉公的な体質が感じられます。一方、人気が急上昇して有名大学の学生が押し寄せた企業の人事部長の「こんな優秀な人材が大勢来るのは変だ」という言葉からは飾らない個性や感性、やや博打的な楽観性さえも感じられます。この2社が「じりつ」という言葉にそれぞれ「自律」「自立」という漢字を当てているのが象徴的です。

 

さて、逆にこの本を読む上で気をつけなければならないこともあります。例えば、人事部長が語っている目線は、現場の一次選考を行う担当者のそれとは必ずしも同じではないところです。多くの企業では現場担当者と人事部長の視点をあえて別のものと考えて多方面から総合的に判断する手法をとっていることが多いです。そのため人事部長が面接する応募者は一定基準をクリアした粒揃いだということです。ですので、多くの人事部長が実例としてあげている人間味溢れる応募者の「男は黙ってサッポロビール」的な体験談は、基本的な水準をクリアした上での個性だということです。

余計な心配ですが、来年の選考ではこの本に書かれた事例や対応をそのまま繰り返す応募者がこの15社に押し寄せるような気がします。勿論、そうしたマニュアル人間は簡単に不合格になってしまうことでしょう。

 

このように、この本はとても参考になる反面、人事部長の言葉を鵜呑みにするのも考えものです。しっかり読み込んで読み比べて、厚化粧の人事部長の下にあるホンネを感じ取って欲しいものですね。そうした洞察力の発揮も、人事部長達からの隠されたメッセージなのかもしれません。

第170号:「求める人材像」を求めるな

10月に入り、いよいよ採用担当者も先の見通しが見えないままに2011年卒の学生に向けた広報活動に動き出しました。今期は昨年の今頃と違って、最初から厳しい環境を前提としてのシーズンの始まりですので、採用担当者の顔も例年より険しい感じです。こんな時期には当然、選考基準が高くなりますので、学生側もワンランク・アップして挑戦する心構えが必要です。

 

今年もかなり厳しいということは大学・学生側も承知しているようで、「求める人材像」とは何ですか?と例年以上に真剣に尋ねられます。しかし私見ながら、不況期にはこうした問いを尋ねることが間違っていると思います。というのは、この質問の心には「どう言えば内定するのですか?」という気持ちが隠れており、つまり大学受験と同じで正解を答えられれば必ず内定が出るものという誤解(というよりは今はすがりたい気持ち)があるのでしょう。

この件については、以前にもこのメルマガで書いたとおり、企業採用担当者が答える「求める人材像」と選考基準とは異なるものです。企業が先の見えない環境下で厳選採用するときに、あえて「求める人材」をいうならば、自分でそれを提案できる人材、(他者の意見を参考するのは良いですが)他者に頼らず自分で考えて行動できる人材です。つまり、「求める人材像」など求めない人材が求められるのです。「自分はこんな人材です。是非、御社にはオススメです!」と自分に自信をもって語れる人材が良いのです。(根拠のない自信だけでも困りますが。)

 

そうは言っても、当事者の学生や大学就職課の方ならば、やはりある程度の求める人材は知りたいところですね。その場合は、その企業のどんな仕事で、どんな部署で、と採用するポジションを絞って聴いて戴けると良いと思います。ただ漠然と「求める人材像は?」だけでは、採用担当者としては無難な最大公約数しか回答できませんが、部署等を限定して戴けるとかなり回答しやすくなり、採用選考基準にも近付いてきますし、そうした質問の仕方で志望の本気度も感じられます。

 

余談ですが、採用担当者に「求める人材像」をしつこく尋ねてくる人々が他にも居ります。それは、採用コンサルタントの方々です。「御社は求める人材像が明確ではない!」と説教されることもあるのですが、こちらとしては「ごもっとも。」とだけお応えして余りまともに取り合わないことがあります。確かに採用面接者のレベル合わせや、効率をあげるためには自社の求める人材像をある程度まで把握して共有しておく必要があります。しかし、中途採用ならともかく、仕事経験がない学生についてはそうした基準にしばられて採用担当者の人を見極める目が画一化しても困ります。

 

つまり、採用担当者も「求める人材像」を常に模索し続けているのです。決められた採用基準だけで選考できたらこんな楽なことはありません。その答えが見つかった!と思った途端、今春のように経営環境がガラッと変わったり、採用選考基準(採用数)がいきなり変わったり、とても悩みがつきない仕事なのです。

やはり、こうした時期は「戦略的な頭と、行動的な体と、楽観的な心」で向かいたいものですね。

大学職員も学生さんも採用担当者も。新しいシーズン、頑張って行きましょう!

 

第169号:キャリア・ヒステリシスの回避へ

前回、前々回と政府の緊急若年雇用対策について論じてきました。多くの企業の採用担当者が2009年採用の扉を閉じて2010年採用に舵を切りはじめたいま、緊急避難的に頼りになるのはやはり大学しかないと思います。

 

就職相談を受けている4年生に、もし内定がとれないままだったらどうするか?と尋ねてみると、意外と多いのが「とりあえず卒業して考える」であり、その理由の多くは授業料の負担です。数年前なら「とりあえず就職留年する」の方が多かったのですが、不況の中で親に迷惑をかけたくないという心理が強く働いているのかもしれません。

しかしながら、採用担当者の視点で考えると、新卒無業の状態になるのは非常に危ういように思われます。長らく「大学卒業=企業就職」というタイムラグのない就職慣行が続いてきたので、採用担当者は卒業時に就職できなかったという事実を聴くと「何かあるんじゃないか?」という疑心暗鬼にかられるのです。「第二新卒」という労働市場が形成され、やりなおしのできる社会になりつつあるとはいえ、それは不況期に不本意な就職をした若者が転職をする方であればこそで、社会における経験(新社会人研修)で鍛えられていない新卒無業の若者には相当に高いハードルのままです。

 

そこで緊急避難的な対策として大学に提言したいことは、(就職)留年をしやすくする制度をつくることです。具体的には留年時の授業料負担を大幅に減らすことです。例えば、

・卒業必要単位の90%を習得した学生に奨学金を支給する

⇒1年間の留年を低コストで認める(内定取り消し対応と同じ⇒10万円での学生身分保障)

・留年中のキャリア形成活動(留学・インターンシップ等)を義務づけ、企業推薦する制度を創設する

⇒企業の採用選考コストの削減にもつながり、キャリア教育の充実にもなる

これらには、大学のキャパシティの問題や、大学評価と採用選考基準の摺り合わせ等、大きな課題がありますが、現在の厳しい経済状況を考えて是非チャレンジして欲しいと思います。

 

私は先日この提言を大学院の講義でも「キャリア・ヒステリシスの回避」という名で報告いたしました。「新卒大学生が、卒業年次の社会経済の好不況によってその後のキャリアの成否が決定される状況を如何に回避するか?」という課題に対し、「外部労働市場が発展するまで、卒業年次を本人の意志で柔軟に選択できる環境を用意すると同時に、就業のためのキャリア教育と就職支援を充実させる。」というのが私の結論で、上記の提言がその具体策です。

新卒時に就職ができないと将来にわたってのキャリア形成に影響を及ぼすという、いわゆる「学卒未就業問題」がありますが、これまで大学生よりも高校生において大きな問題として指摘されてきました。しかし、今後は大学生にとっても非常に大きな問題になってくるでしょう。今年はこの問題を考えて対策をとるべき元年にするべきだと思うのです。

 

*「キャリア・ヒステリシス」というのは私の造語です。ヒステリシスというのは物理学用語で、一度力を加えて変化させてしまうと、加える力を最初の状態のときと同じに戻しても、状態が完全には戻らないことを言います。一度折れ曲がった金属が完全には元に戻らないように。勿論、人間は金属とは異なり、折れ曲がったことは強みにもなりますね。

第168号:政府の「若年雇用対策プロジェクトチーム」-2

前回に引き続き政府の若年雇用対策について見てみます。「緊急」と名付けられただけあって、本当に8月26日に重点雇用対策(案)が出てきました。これも政権交代前の滑り込み予算獲得のようですが、若年雇用対策の重要性については新政権でも異論はないでしょう。

 

この政策の迅速性は良いのですが、やはり課題は実効性の方です。発表になった対策案の多くは、これまで省庁毎に縦割りで行っていたものであり、それらは中長期的な施策です(例えばキャリア教育の充実等)。新卒大学生に関する本当に新規の(緊急の)対策を探してみると以下の通りでしょう。

 

・内閣府(主幹)・・・「若年雇用者会議の開催」「企業・学生の実態調査」

・文部科学省(文教政策)・・・「就職相談窓口の充実」

・厚生労働省(雇用政策)・・・「事業主への求人取組促進と助成措置」

・経済産業省(産業政策)・・・「ジョブカフェによる中小企業の求人開拓」

 

期せずして厚労省・経産省の政策は、前回私が書いた企業の採用活動支援の方に近付いてくれました。しかし、これらの政策の実効性を求める時に採用担当者の視点で続けて言いたいのは、実行主体者は誰かということです。どんなに良い政策であっても、それを請け負う実行主体に実力が無ければ税金の無駄遣いになりかねません。逆に言うと、これまで政策が成果を出せなかったのは政策の問題ではなく、請け負った団体や組織に問題があったのではないでしょうか。

やや乱暴な提案ですが、今回の選挙で国民が政権交代を求めたように、政策の実行主体者を以下のように交代してみては如何でしょう。

 

・文教政策⇒就職課から民間企業で5年以上の採用経験者または企業内キャリアカウンセラーへ

大学就職課に緊急の外部就職相談員を採用する費用を支給する

・雇用政策⇒ハローワークから採用した事業主(企業)へ

日本における社会人の最強の教育機関は「企業」なので、2010年新卒の能力開発費用を支給する

・産業政策⇒ジョブカフェから民間就職情報企業へ

企業の活きた求人広告費用を支給する、地方から都心の就職セミナーへの旅費交通費を支給する

 

蛇足ながら、こうした政策は危機に瀕している就職産業に対する産業政策にもなるのです。大不況の現在、多くの企業が広告宣伝費を大幅に削減しておりますが一般の商品CMは無くても消費者にとっては致命的ではありません。しかしながら、職業生活のライフラインとも言うべき貴重な求人広告については不況下でも維持する必要があると思うのです。

さて、新政権ではどうなるのか引き続き注視していきたいと思います。

 

▼参考URL:

「若年層に対する重点雇用対策(案)」(内閣府)2009年8月26日

http://www5.cao.go.jp/keizai1/2009/0302shiryou2.pdf