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第277号:採用担当者と学生の単純な言葉の認識差

採用選考が始まり、内々定の頼りもチラホラ届き始めました。一方でなかなか結果がずに、だんだんと焦ってくる学生も見受けられます。そんな学生に気づいて欲しいことは「自分のやり方には何か間違っているところがないだろうか?」「企業の求めるものと、自分が伝えているものはズレがあるんじゃないだろうか?」という冷静で客観的な視点です。

 

採用担当者(社会人)と学生とのズレは、いたるところにありますが、特に気をつけたいと思うのは、単純な言葉の認識差です。例えば「主体性」と「コミュニケーション力」です。この二つの言葉は、採用担当者から見て学生に求める資質の常にベストスリーに入っています。経済産業省の資料(下記URL参照)でも、「主体性」と「コミュニケーション力」の重要性は、学生も上位にあげておりますが、問題はその認識の程度の差です。学生は「主体性」が自分に欠けているとちゃんと自覚しておりますが(5.6%)、採用担当者は学生の約4倍(20.4%)もあります。同様に「コミュニケーション力」については、学生が8%、採用担当者は倍以上の19%です。

 

この報告書では「大きなギャップが存在する」とに指摘にとどまっておりますが、このギャップの意味はもっと踏み込んで理解する必要があります。そこには、採用担当者と学生が「主体性」と「コミュニケーション力」という言葉を同じ認識で使っていてそのレベルに差があることと、その言葉のそもそも認識が違っているということとがあります。前者なら問題はシンプルなのですが、後者は意外な盲点となります。

 

というのは、学生の理解する「主体性」とは、自主的に自分で意志決定して企画したり提案したことや組織のリーダーになった経験などをイメージしてアピールすることが多いですが、採用担当者の視点では、それだけではありません。誰かに指示されたり頼まれたりしたことを喜んで引き受ける、他者が意志決定した企画でも、言われた通りにやるだけではなく更に自分なりの工夫したり改善したりすることも含みます。それが、実際の会社の中で行われている仕事の形だからです。そして、そうしたタイプの人が、一緒に働きたくなる人、というものです。

 

このように、同じ言葉であっても、学生と採用担当者では属する社会が違いますから、その意義が違っていることがよくあります。一見、単純で言い慣れてしまっている言葉だからこそ、認識差について気づかないことがありますので、注意したいものですね。

 

以下、参考サイトURL:

▼大学生の「社会人間」の把握と「社会人基礎力」の認知度向上に関する調査(経産省)

http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/201006daigakuseinosyakaijinkannohaakutoninntido.pdf

 

 

第276号:採用担当者の機能と面接トレーニング

4月の選考解禁直前となり、採用担当者の方も選考準備に追われています。企業の方から面接のトレーニングの依頼を受けるのもこの時期です。採用担当者は人を見るプロですが、初めて面接を担当する時には誰でも緊張するものです。

 

学生と違って、面接を担当する採用担当者は「初めてなので緊張していますが、一所懸命に頑張りますので宜しくお願い致します。」と言うわけにもいきません。模擬面接を行ったり、本番の面接を見学したりして、経験値を上げていきます。そうした面接者の役割は、大きく以下の3点が挙げられます。

 

1.広報機能 ⇒ 応募学生に安心感を与え、話しやすくする

2.判定機能 ⇒ 面接から応募者の能力を測り、適性を見極める

3.説得機能 ⇒ 判定後、有望と思われる学生に自社をPRする

 

面接を行う採用担当者は、どんな応募者がやってこようとも、丁寧公平に対処しなければなりません。学生は面接者の印象を、その企業のイメージとしてそのまま捉える傾向にありますから。判定不合格と感じても、ここで不遜な対応をとったりすると、クレーマーになってしまうこともあります。

また、面接の質問によって、学生のクチコミが広がるようなことを意識することもあります。例えば、常に語学力を問う質問をすると、学生間には「あの企業は英語ができないとダメだよ」という認知が広がり、英語の強い学生が集まり、弱い学生が避ける、ということになります。

 

次に、前回お伝えした「会話力」から応募者の仕事能力を測り、どの部署で働けるか、将来どんな人材になりそうかを想像し、合否を判定します。つまり合否判定とは、採用担当者が応募者のキャリアプランをイメージできるかどうかです。学生が自分のやりたい仕事を熱心に説明しても、言葉通りに受け取るのではなく、採用担当者は何処に配属できてどんな成果を出しそうかを考えています。

 

そして、配属イメージが浮かび有望だと感じたら、「こんな仕事に関心ありますか?」とか「貴方はこんな仕事に向いてそうですね」と打診します。学生が素直にその仕事に好奇心を示せば良いのですが、そうでない場合は、その仕事の魅力を説明して説得します。この点、営業出身の採用担当者は上手です。(この手法は、集団面接ではやりにくいですが。)

 

こうしたプロセスを採用担当者も模擬面接で練習し、判定結果のバラツキを確認します。どんなにトレーニングを行っても、人の判定機能は厳密には一致しませんので、面接者の基準を完全に統一しようとするのではなく、面接者各自の判定のクセや考え方を話し合って理解するのです。その価値基準の交換によって、面接者達は質問内容や判定能力を向上させることができます。(質問内容を工夫して、面接者のバラツキをなくすコンピテンシー面接手法もありますが。)

 

別の言い方をすると、採用担当者は「求める人材像(選考基準)」にマッチした若者を求めるというよりは、「求める人材像」になりそうな若者を模索するのです。つまり、採用担当者の面接トレーニングとは、想像力のトレーニングと言えるかもしれませんね。

第275号:大学講義で鍛えられる会話力

採用面接でよくあることですが、丸暗記したことをそのまま話すのは御法度ですね。面接に慣れていない学生が練習のために行うなら問題はありませんが、早く「記憶再生モード」から「会話モード」に入って欲しいものです。採用担当者が丸暗記を嫌うのは、応募者の能力が測定できないからです。(逆に言えば、丸暗記の記憶再生を行う応募者はNGと判定できますが。)

 

「会話」からはいろいろな能力がわかります。知識や関心の広さ、機転や頭の回転の速さ、相手への気遣い等々。脳科学者の茂木健一郎氏によると、会話で使われている脳は、聞いている時と話している時では以下の通りに異なるそうです。

 

・聞いている時 ⇒ ウェルニッケ野の感覚性運動野(感覚系学習回路)

・話している時 ⇒ ブローカ野の運動生言語野(運動系学習回路)

 

この2つ回路は脳の中ではつながっていないため、相互に繰り返して使うことで「会話」ができているそうです。これでおわかりのとおり、採用担当者が丸暗記を嫌うのは、どちらか一方だけしか使えない人を避けたいからです。仕事というのは常にいろいろな業務がやってきて、優先順位を考えながら進める必要があります。「1つの事に夢中になると周りが見えない人」は困るのです。

 

翻ってみると、大学生は授業でこうした脳の使い方を鍛えられているでしょうか?教員が同じトーンで淡々と話していると、感覚系の学習回路しか鍛えられませんし、それ以前に活動停止してしまうかもしれません。脳は飽きっぽくて常に新鮮な刺激を求めているそうですから。

 

実は私の授業ではこうしたの脳の使い方を鍛えています。200人を相手にしている講義型の授業でも、数分に一回、問いかけを入れて受講生の運動系の学習回路を動かします。学生が応えられなくても問題ありません。大事なことは、ほんの一瞬でも脳の回路を切り替えさせることです。面白いもので、最初は何も答えられない受講生達が、何回かの授業を繰り返して行くうちに、だんだんと回答ができるようになってきます。

 

大学でキャリア教育を行うようになって数年が経ちましたが、私は採用&能力開発担当者時代に求めていたことを授業で学生に求めていることに気づきました。良い授業というものを考える時、自分自身の教員としての話し方を向上させるだけではなく、受講生の聴き方と話し方、つまり授業の受け方や会話力を鍛えるという視点がとても大事だと思っています。それは採用選考でも就職後でも活かせる脳の使い方を鍛えることですから。

 

以下、参考サイトURL:

▼「脳を活かす伝え方、聞き方」茂木健一郎(PHP新書)

http://www.amazon.co.jp//dp/456981669X/

▼参考URL:法政大学産学連携3D教育プロジェクトシンポジウム案内(私の授業についても話します。)

http://3dep.hosei.ac.jp/event/details/2014/02/18/id3200

第274号:エンジャパン社の学生就職情報サイト終了

2月24日付けで報じられた、エン・ジャパン社の学生就職情報サイトのサービス終了は、新卒採用関連の業界人には驚きを与えながらも「さもありなん」と受けとめられています。業界が大きな構造変動の時期を迎えつつありますから。その直接の原因は、倫理憲章の見直しによる企業の採用活動期間の縮小だと思いますが、もう少し業界の背景を少し見てみましょう。

 

エンジャパン社といわれて私に思い浮かぶのは、社会人1~2年目の元気な営業担当者です。生命保険の業界のセールスレディーのように、足繁く売り込みに来られていました。大学就職課にも精力的に訪問し、就活学生のサイトへの登録を熱心に勧めていたことでしょう。同社は、新卒採用業界では後発でしたが他社を猛追し、マイナビ、リクナビに次ぐポジションを占めるようになりました。その同社の撤退理由は、以下のように述べられています。

 

「近年の新卒採用・就職活動は、SNS利用の拡大、就職情報サイトに依存しない各種コミュニティを通じた活動など多岐に拡がってまいりました。」(同社下記ウェブサイトから)

 

これは、就職情報サイトによる多数登録の新卒採用・就職活動に、企業も学生も疲弊して、愛想を尽かしたということです。学生は毎年行うわけではありませんが、企業は毎年同じ作業を行っております。そして、サイトの運営企業は登録者数の増強のため、1人の学生に数多くの登録を勧めてきましたので、結果として、企業の応募辞退者数・選考辞退者数・内定辞退者数も増えてきたわけです。

 

他にも、上位先行2社との違いとして、エンジャパン社の就職情報サイトは、就職という単一目的の専門サイトである点、集めた登録者を他の目的のサイトに引っ張っていくビジネスが展開できないという点も指摘できます。リクナビもマイナビも、いまや就職情報サイトだけではなく、旅行や書籍の販売にも案内していくことが可能です。特にエンジャパン社は株式上場企業ですから、不採算事情の継続には株主からの目も光っています。

 

就職情報サービスは変に肥大化してしまいました。本当に必要な苦労や投資なら、誰でも労をいとわずに取り組むと思いますが、あまりにも成果が出ない作業は、継続することはできません。その判断は、ふつうの採用担当者にはなかなかできません。自分で自分の仕事をを縮小することですから。エンジャパン社の判断も、現場ではなく経営者の妥当な判断でしょう。

ドワンゴ社の「入社試験手数料」の件でも、私が一番、感心したのは、会長が「うちの採用担当者はわかってない」と自ら経営判断をして実行したところです。

 

こうした変化は、この1年で相当に起きてくると思われます。そんな中で、本当に世の中に求められる仕事だけが生き残り、生まれてくるのだと思います。

 

▼参考URL:エンジャパン社ニュースリリース(2014.2.14)

http://corp.en-japan.com/IR/pdf/ir_release_20140224_1.pdf

 

第273号:Be動詞の前に学んで欲しいこと

 

入学試験の季節ですね、お疲れさまです。私も期末試験のレポートの採点と、たまにやってくる教え子のエントリーシートの評価とで、無数の学生の文章を読む季節です。全入時代といわれて久しいですがが、大学生の文章力は益々低下、というより変な使い方をするようになってきました。

 

先日のニュースでBe動詞を教える大学が報じられましたが、それ以前に学んで欲しいのは、正しい日本語です。ということで、今回はレポートやESで見かけた最近の学生の変な使用例をご紹介しましょう。入試シーズンの息抜きにして頂ければ幸いです。

(これらは文字変換のミスでは無く、手書き文書での間違いです。全てネタではなく、事実です。)

 

▼授業感想から

「多くの座掘が役だった」⇒挫折か不屈か発掘か、それが問題です。

「今後にご気待下さい」⇒ちょっと期待できそうもありません。

「昔の歴史と今の現状を比べると」⇒朝のモーニングショーというやつですね。

「欠席日数が不足していて申し訳ありません」⇒ 出席日数の方ですね。

「教室で久しぶりに枕に向かい」⇒机に向かったんでしょうね。(枕持参で居眠り?)

「先生の話は自前に考えてるのですか?」⇒事前(じぜん)に自前(じまえ)で考えてます。

「御遊戯なお話しを有り難うございました。」⇒ 授業で踊った覚えはないのですが。

 

▼グループ・ディスカッションにて

「最初の合札は大事ですね」⇒最初は挨拶の方が大事です。

「商品企画のグループ・ワークでは、談合する時間が足りなくて」⇒「討議」ですね。

「みんな私の意見に参動してくれた」⇒賛同して山道を参道?行動的なんですね。

「討議が息詰まった時はどうすれば良いですか?」⇒まずは深呼吸して下さい。

「その場を指揮って話す」⇒教室はコンサートホールではありません。

「討議では小極的になってしまった」⇒討議で萎縮してしまったのかな?

「近密に確認をとらなければ」⇒緊密でも密着しなくて良いです。

 

▼エントリーシートから

「私はマスコミを目覚しています」⇒ 業界に革命的な記者になりそうですね。

「私はCAに身重が足りない」⇒ 身長と体重?慎重さも足りないようですが。

「バイトで努られても前向きに」⇒ 怒られないようにして下さい。

「今をおごそかにしてはいけない」⇒勉強もおろそかにしないで下さい。

「同じ殻にはまらないように・・・」⇒君はヤドカリですか?

「完結に結論を述べると・・・」⇒終わらない結論って何でしょう?

「人を支援する機械が欲しいので・・・」⇒「機会」ですね。(まさかドラえもんが欲しい?)

 

如何でしょうか?昔のような単純な漢字の書き間違いでもなく、文章変換ミスでもなく、何か言葉の理解や使い方そのものが変わってきた感じが致します。これらを入試に出しても良いかもしれませんね。

第272号:就職活動と大学成績

先月、日本経済新聞の一面を飾った記事に、就職活動(採用選考)における大学成績の扱い方がありました。12月の就職活動が本格的になる時期にタイムリーな報道(広報?)だと思って静観注視してきましたが、扱われ方が落ち着いてきたようです。

 

本件のニュースタイトルを並べてみると面白いです。

「就活、激変! 成績を問う企業が続出する理由」東洋経済オンライン(11月)

「採用、再び成績重視 三菱商事や富士通など15社」日経新聞(12月)

「採用基準が迷走する理由とは?」ハフィントンポスト(1月)

「オールAでも不満? 成績重視する企業のホンネ」日経新聞(1月)

 

ご興味有る方は、各ニュースタイトルを検索してみて下さい。昨年末は、多くの企業が採用選考に大学成績を重視することになったと盛り上がっておりましたが、年をこえてみると、ちょっと待てそうでもないぞ、となり、最近はやはり(日本では)大学成績だけではないだろう、という流れがみえます。

 

私も身近な企業採用担当者数十人に尋ねてみましたが、殆どの企業は「大学成績は見るけど特別扱いはしない」との回答でした。これは前々回にお伝えした「採用活動に関する大学との共同研究-7」と同じことです(文系採用に限ります)。採用担当者は、学業は軽視していませんが、学生も自ら話さないし、特段、質問していませんでした。

 

しかし一方で、採用活動を知らない一般社会人の方(これは就活学生とその親御さんの受け止め方と同じでしょう)に尋ねてみると、「大学成績が見直されるんだって?今の学生は大変だね」との認知でした。大手企業15社が、某社の大学成績情報を採用しただけで、これだけのインパクトを与えるとは、流石に日経新聞の一面です。

 

大学成績を企業が重視するのはどういうことなのか?この大きなテーマの良し悪しは、この短いコラムでは語りきれませんが、近づける努力は必要なことでしょう。その際に大切なことは、企業が大学の授業を評価する(知ろうとする)だけではなく、大学も企業の求める能力を知り、大学の知見をもって解き明かそうとする努力です。

よく人事部が言う抽象的な「求める人材像」の明確化などではありません。人事の向こうにある働く現場の課題に、大学の力で取り組もうとすることです。今、多くの大学が取り組んでいるPBLは、その有効な手段になって欲しいですし、それが採用活動(就職活動)につながれば良いと思います。

 

ビジネスコンテストなどをやる場合でも、学生の単なる思いつき発表会ではなく、仮説をたてて、実地見学・統計調査・質問調査・サンプル作成・試行等を行って検証した「企画」にすることで、そのベースになる「統計学」「心理学」「経営学」「経済学」等の有効性を学生に教えることができます。それが学習意欲の向上につながり、大学成績の向上につながり、最終的に企業に納得させられたら良いですね。このような大学と企業の関係性の中に、大学成績のあり方が見えてくるのではと思います。

第271号:使い回しコピーは指導のチャンス

冬期休暇が終わり、大学も期末試験の時期になりました。コピーマシンの前には学生が行列をなし、友人のノートをコピーしまくっています。試験前の風物詩といえる後景ですが、授業のレポートでも「使い回し」を行う学生がたまにおります。きっとそうした学生は、企業のエントリーシートでも行っているのでしょうが、成績評価でも採用選考でも、あまり良い結果は出ないでしょう。

 

私のシラバスでは、15回の授業のうち3回欠席すると成績評価対象外になります。健康上の理由、アルバイト、就職活動だろうが、区別はしていません。しかし欠席した事情によっては、1回分だけレポートでの穴埋めを許すことにしています。(3回の欠席の場合、レポートを出せば2回欠席の扱いで評価対象になります。)

レポートのテーマは、以下の中から選ばせることが多いです。

1.欠席した理由(および欠席した日に考えたこと)

2.私のキャンパスライフとキャリア

3.自由テーマ

 

採点基準は、授業で説明しているアカデミックスキル(論理的記述)で書かれているかと、内容が授業とどのように関連づけられているかですが、上記のテーマを出した場合、期末試験等の繁忙な時期ですと、3の自由テーマを選ぶ学生が増えてきます。学生は「自由テーマ」なら何を書いても良いだろうと安易に思い、上記の採点基準をつい忘れてしまうのでしょう。結果、書き直し(不合格)になるケースも多いです。

つい先日も、締切日ギリギリに提出されたレポートで、全く私の授業とは関係のない内容のものがありました。当初は提出先を間違えたのかと思いましたが、学生に確認してみると「自由テーマだから何でも良いと思った。それで単位を貰ったこともある。」とのこと。しかし、私は受理せず再提出を求めました。レポートの使い回しは認められませんから。

 

こんな時、学生に助け船を出すことがあります。同じレポートをそのまま出すのではなく、そのレポートをデータ(材料)と扱って、私の授業や自分自身の能力開発(キャリア)につなげる書き方をする、つまり分析と考察を書き加えることです。これは、就職活動で、自分の体験してきた事実(データ)をどのように分析(自己PR)や、考察(結論⇒その企業への志望動機)につなげるのと同じことです。1つの体験から多くの知見を考え出すことです。

 

すべての授業でこのようなやり方が通じるとは思いませんが、少なくとも私の考えるキャリア教育では有効かつ社会でも通じます。それは大学での学びを社会や就活で活かせるようになるということで、「自由テーマに」はまった「使い回しコピー」の学生は絶好の指導チャンスです。

 

逆に応募者が山のように来る採用選考では、絶好の不合格ポイントです。就活のエントリーシートで、「ああ、これは何処の会社にも使えるワンパターンだな。締切日ギリギリにとりあえず出してしまったんだな。」などと思われるようなものを書かせてはいけません。「自由」は難しいけど、ちゃんと理解して、やり甲斐があるものとして取り組める若者に育てなければいけませんね。

第270号:採用活動に関する大学との共同研究-7

今年も人事労務管理を研究している大学のゼミ生との共同研究報告会を行いました。今回で9年目になりますが、本年度のテーマは『ゼミ活動の実態と有用性』で、簡単に言えば、採用担当者は何故、大学の勉強を重視しないのか、ということです。先日、日経新聞の一面に、企業人事は大学成績を重視するようになるとの報道がされましたが、大学の学びを理解するにはいろいろな課題があるようです。

 

学生達がこの問題意識をもったのは、インターンシップの選考面接での体験からです。「あなたが最も力を入れていることは何ですか?」というお約束のコンピテンシー面接に、彼らは待ってましたとゼミ活動のことをアピールしたのですが、面接者はあまり関心を示してくれず、「サークル活動は何かやっていますか?」「アルバイトは何をしていますか?」と幅広く質問を投げかけてきたそうです。(これは複数の企業で同様に見られた現象でした。)

 

何故、学生の本分である勉強のこと、それも講義のような座学ではなく、議論を繰り返して論理的思考や問題解決力を鍛えるゼミ活動のことに関心が持たれないのか?真面目で熱心な学生達は、この点を猛烈に調べ始め、以下のような現象の確認と仮説をたて、大学生約700名と企業約60社にアンケート回答をとり、更に企業人事部16社への訪問取材を行って検証しました。

 

① 面接においてゼミ活動のエピソードを話している学生は少ない

② 企業はゼミ活動の実態を把握できていない

③ 企業はゼミ活動について自ら質問をしない

 

ここで明らかになったのは、採用担当者は大学の勉強を軽視しているわけではなく、学生も話さないし、採用担当者もゼミ活動について詳しくないので、勉強を一所懸命に行った学生の評価ができない、ということです。大学の勉強(ゼミ活動)は、「役に立たない」ということと、「良く知らない」ということが混同されていたのです。採用担当者の興味・理解・評価は、そのバックグラウンドに応じて変わってくる、もっとストレートに言うと、大学で勉強(ゼミ活動)を熱心にやらなかった採用担当者は、勉強を軽視しがちだということです。その後、学生達からは、以下のような提言がなされました。

 

① 学生に向けて:ゼミ活動を必死にやると同時に、説明力を身につける

② 大学に向けて:ゼミ活動の特性を理解できる客観的データを提供する

③ 企業に向けて:ゼミ活動を理解出来る場にやってきて見学・参加する

 

この報告を聴いた企業採用担当者の方々からは、ここ数年で最も良くできた報告だ、との評価を戴きました。それは来年度の採用活動時期の後ろ倒しに際して、何かをやらなければ、という採用担当者の気持ちにも響いたからでしょう。冒頭でお伝えした授業成績の再評価も同じ気持ちから始まったものではないでしょうか。この研究成果が多くの採用担当者に理解され、来年はより良い就職・採用活動がなされることを祈りたいと思います。末文になりますが、皆様、良いお年をお迎え下さいませ。

 

第269号:「入社試験手数料」から見えること

企業の採用広報活動が始まり、いろいろと面白いニュースも飛び交っていますが、ドワンゴ社の新卒入社試験の受験料制度は最近の出色です。実は、私も採用担当者時代(15年くらい前ですが)にやってみたいと秘かに考えていました。当時と違うのはネット環境による応募の急増ですが、こうした採用手法の基本的な戦略や課題はあまり変わっていないと思います。

 

今回の企画の意図については、創案者のドワンゴ会長のインタビュー(文末URL参照)に詳しく語られています。こうした記事はニュースにみせた宣伝活動ということもありますが、この記事についてはかなり真面目に語られていると思います。その中でも、私が注目したのは、会長が採用担当者のやり方に何度も激怒している点です。これは有名企業ではあまり出てこない自己批判のコメントですが、採用担当者は「求める人材」や「あるべき採用手法」または「やってはいけない採用手法」について気づいていないことがあります。ベンチャーから急成長した大企業によく見られる現象です。

 

どんな会社でも最初は人材獲得に苦労します。当然ながら新卒採用など行わず、中途採用でできる人を必死にかき集めます。特に同社のようなIT業界では、コンピュータオタクでとても一般企業では勤まらないような人材が集まり、公私混同で鬼のように仕事をします。会社の中で喧嘩のように意見をぶつけあいます。場合によっては社員が会社を飛び出て物別れになることもしばしばです。それこそがスタートアップのベンチャー企業の爆発するようなエネルギーなのですが、運良くそうした企業が成功すると、いわゆる大企業病的になり、無難な選択しかできなくなってきます。

 

ライブドア時代で絶好調時の堀江貴史氏(ホリエモン)に「最近の人事の課題は何ですか?」と尋ねた時、「最近の社員は辞めないんですよ。昔は意見がぶつかりあってどちらも譲らず『こんな会社辞めてやる!』『おお、辞めちまえ!』といったことがあり、飛び出た社員は自分で会社を作ってしまったものです。ところが最近の若い社員は、意見がぶつかると『わかりました』とすぐに引き下がって辞めないんですよ。中途半端な人が増えてきたんじゃないかな。」という答えが返ってきました。

 

有名企業になってくると本来の「求める人材」ではない人材が大量にやって来ることになり、気づかぬ間に採用の手間ひまもコストも上がります。しかし、もっと注意しなければならないのは、採用担当者がそのことに気づいて手を打てるかどうかです。ドワンゴ社の「受験手数料」、ホンダの「優等生不要」、ソニーの「学歴不問」、岩波書店の「縁故重視」等は、全ての人に応募して欲しいわけではなく、わかる人だけに応募して欲しいという意味では同じ考えです。こうした戦略を経済学では「自己選択メカニズム」と言います(文末URL参照)。まさか同社がそうした経済学を学んだ学生を狙ってのことだとは思いませんが、今の採用活動を考え直すキッカケをくれたというのは良いことだと思います。

▼参考URL:

「新卒入社試験の受験料制度導入について」 (ドワンゴ)

http://info.dwango.co.jp/recruit/graduate/guideline01/

「ドワンゴ「入社試験に受験料」発案の川上会長に聞く」(ITmedia)

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1312/06/news064.html

「自己選択メカニズム」(早稲田大学 武藤泰明教授)

http://muto-web.jp/rensai/keyword036.html

第268号:「頑張ったこと」から「やるべきこと」へ

12月を目前にして、採用担当者の動きもいよいよ慌ただしくなってきました。Web上での受付を準備して大学訪問の予定をたてて・・・というのは例年通りですが、採用面接については、少し変えてみようかな、と考えている企業がチラホラ出てきました。今までの質問ではどうも大事なことを見落としているかもしれない、ということなのです。

 

こう語られたのは複数の有名企業の採用担当者の方ですが、その問題意識は大卒新入社員の早期離職から生まれました。早期離職の要因は、配属された職場での人間関係や業務内容との相性、いわゆるミスマッチと考えてきたそうです。その点は変わらないけれど、最近は面接で高評価の学生ほどやめていくように見えるとのことです。

 

求める人材の中に、「やりたいことが明確な人」というのがありながら、最初の配属が希望通りでない場合に優秀な学生ほど「時間の無駄だ」と考えて転職行動にでるようです。(これは外資系企業ではあたりまえのことですね。自分のキャリアは自分で選ぶ社会です。その意味では、若者の方が企業よりグローバル対応が早いのかもしれません。)

 

さて、どうしたものかと悩んだ採用担当者の方は、面接の質問を少し変えてみようと考えています。これまでは「どんなことでも結構ですが、貴方の頑張ったことは何ですか?」と体験談を掘り下げていくコンピテンシー面接でしたが、学生は自分のやりたいこと(好きでやってきたこと)をテーマにすることが多いです。この面接の視点は間違ってはいませんが、それに加えて「貴方が誰かに依頼されてやり抜いたことは何ですか?」「やりたいことではなく、やるべきこととして挑戦したことは何ですか?」という質問をしてみたいとのことです。現実の会社での仕事の与えられ方に近い質問ですね。

 

最近また、「入社後3年以内に辞める若手社員」の問題がメディアでとりあげられています。今はブラック企業とのタイアップのニュースにされることも多いです。この問題は永遠になくならないと思いますが、それに対応する努力はできると思います。この採用担当者であれば、このように面接の質問を変えることで改善しようとしていますが、一方で学生も対応力をあげることはできると思います。

 

例えば、「信頼貯金」という考え方をもつことです。これは私の授業で、ある企業人事の方が学生に話されたことです。『初対面の他人の依頼でお金を貸す人がいないように、仕事の実績がない新入社員にいきなり大きな仕事は預けられません。なので、まずは簡単で小さな仕事をこなしてみて、それができたら次に少し大きな仕事を・・・という積み重ねの中から信頼を貯めるのです。そして自分の提案を聴いて貰えるようになるのです。』(多くの学生が納得していました。)

 

これは言い換えれば、モチベーションを貰う人ではなく、モチベーションを作れる人、ということです。私は学生がこうした考え方を知るだけでも相当にストレス耐性や現場対応力は向上すると思っています。やりたいことばかり考えさせすぎた(問い続けてきた)ことが、却って若者の能力を削いでしまったのかもしれません。