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第157号:前例が役立たない今シーズン

東京でも桜が開花し、いよいよ大手企業の採用選考が本格的に始まります。現時点での学生の就職活動を見ると、昨年より学生は早く動き出しているものの、選考合格の進捗や内定獲得のスピードは逆に遅くなっております(ダイヤモンド・ビッグ&リード社の学生モニター調査から)。これは明らかに企業の内定出しが慎重かつ厳しくなってきているということでしょう。

 

今年ほど採用担当者にとって先の見通しが立たないままに採用活動を行うシーズンもないでしょうが、大手企業の動きが見えてくると、それに合わせて中堅企業の動向も決まり、全体の動向が明らかになってくるでしょう。しかし推測できるのは、大手企業の採用予定数も軒並み大幅減少しておりますので、今年は4月のスタート後、早期に決着がついてくるだろうということです。というのは、採用数が減るということは採用選考期間も短くなるということだからです。特に今年は採用コストの面からも、エントリーシートや筆記試験等での初期選考でも絞り込みが厳しくなり、面接でも「迷ったら落とす」という厳選採用になってきております。

 

実際、私がエントリーシートの添削や模擬面接を行っていても、昨年なら選考パスした水準の学生が今年はなかなか通りません。OB/OGの就職体験談もあまり参考になりませんし、今シーズンは改めて気を引き締めて取り組んで欲しいものです。具体的には、志望動機をしっかり考えてきてハッキリ述べて欲しいと思います。

しかしながら、模擬面接を行っていると、自己PRはそれなりにまとまっていても、それが志望動機につながっていない学生が非常に多いです。大学で力を入れたことを企業でどんな風に活かしていきたいのか?その企業のどんな部署でどんな仕事をしたいのか?をしっかり説明できていません。

 

これは、もしかするとここ数年主流になってきているコンピテンシー面接の影響かもしれません。この面接手法では「行動実績」を中心に聞かれ、企業によっては「志望動機」を問わないところがあります。(実際、最近のエントリーシートからは「志望動機」という言葉が減っています。)そのため、学生はアルバイトやサークル活動のことを一所懸命に自己PRにまとめてきますが、それがどんな仕事に就きたいから書いたのかを考えていないことがあります。採用担当者には、そういった学生の自己PRは「この学生は何のためにこの話をしているんだろう?」と思わされます。

 

また最近の学生の志望動機は、企業セミナーで採用担当者が話したことをそのまま繰り返していることがあります。「御社は業界シェアも高く、財務的にもしっかりしており、教育制度も充実しています。」そして続けて「セミナーで御社の社員に実際に触れてみて、暖かい人柄や社風の良さを確信しました。」と語る学生が非常に多いです。これでは全くその応募者の良さが判断できません。

 

この春はかなり厳しそうですが、企業は採用数をかなり絞り込んでいるだけに、もしかすると夏以降でまた新たな動きが出てくるかもしれません。今シーズンは学生や就職課の方々にとって長い戦いになりそうですが、ご健闘をお祈りいたします。

 

第156号:最低限の採用活動

3月決算が近付き、いよいよ経営者も来期の人員計画を出さなければならない時期となり、人事の現場にも採用予定数という具体的な数字が落ちてきました。先週あたりから大手企業の採用予定数が新聞記事に発表されてきておりますが、実際はこういった数字は本当の採用予定数ではありません。採用担当者はそれを知りながらも覚悟を決めて採用活動に取り組んでいるのです。

 

新聞発表の採用予定数が本当の数字でないという意味は、企業がいい加減な数字を新聞社に出しているわけではなく(そんな企業もたまにありますが)、本当に必要な人員数を計算して積み上げた「実数」ではなく、経営トップの判断でこの位の人数を採用したいという「意志」だということです。これは経営計画の売り上げ目標も同じで、1年先の売り上げ目標はかなり計算して算出しておりますが、3~5年先(昔、中長期計画が流行っていた時期は10年先まで発表している企業もありました)の数字は、「この位は売りたい!」という意志というか目標であるのと同じです。しかも今は超早期化した採用活動であることと、まれに見る経済の激変期なので、3ヶ月先だって予測は困難です。

 

しかし、それでも採用担当者はこれまでのしがらみから採用活動を始めなければなりません。既に広告もセミナーも行ってしまい、学生に選考案内やDMまで流しておりますし、もし万が一景気が急速に好転した場合は採用数が不足することになりますから。そんな想いを抱えながら、企業セミナーでは不安な顔をせずに笑顔でプレゼンテーションをするのはなかなか辛いものがあります。

 

こういった状況では当然ながら企業の採用選考ハードルは上がります。採用数を必要最低限に絞った場合、以下の5つ方法をとるのが普通です。

1.縁故だけ・・・どんな企業にも多少のルートはありますし、縁故者にも優秀な人はいます。

2.理系だけ・・・メーカーの場合ですが大学の勉強が重視されない文系は不況期に絞られます。

3.推薦だけ・・・「理系だけ」に含まれますが、理工系大学教授とのパイプを死守します。

4.都心だけ・・・不況では出張費用が真っ先に削減されますので近郊大学だけ訪問します。

5.有名校だけ・・・大学偏差値は不況期にこそものを言います。

 

これらの採用手法はコストがあまりかかりませんし、小規模な採用ならこれだけで十分な場合もあります。不況期になると縁故紹介も増えてきますが、断る理由も「不況なので」「人員整理中なので」と楽になりますし、縁故応募者のレベルも上がります。逆に、縁故応募者も1社では不安なようで、縁故で数社に応募する場合さえあります。かつて内定を出したら「御社は(縁故応募の)第3希望なので、ちょっと待って下さい。」と言われたことがあります。

 

さて、こんな不景気だからこそ大企業に入りたいという応募者の気持ちはわかりますが、今年は採用数が少なくなった上に応募者数は例年より2~3割の増加傾向なので、大手企業志望だけは非常に危険です。先日、経済産業省が新人の採用と教育に熱心な企業という報告書を出しました。不況期にはこういったところも是非、根気よく回ってみて欲しいものです。

▼雇用創出企業1400社(経済産業省)

http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/sokeizai/kigyogaiyosyu.html

第155号:就職課職員の専門教育

春休みに入り、大学入試もいよいよ大詰めですね。皆さんの大学では順調に応募者が集まっているでしょうか?この不景気で、学生の大学出願数も絞り気味だとか、地方の学生が都心に出てこなくなったとか聞きますが、こういった不景気の時にはジタバタしないで勉学に励むのが一番です。晴耕雨読というやつですね。実は、私も昨年の春に社会人大学院院に入学し、この1年間は勉学に励んできました。就職課の皆さんの中にも大学院で学んでいる方が居られるかと思いますが、就職課(キャリアセンター)も本当に専門性が求められる時代になったと思います。

 

私が入学したのは法政大学大学院の政策創造研究科というコースで、雇用プログラムというのを専攻しています。指導教官は、「社会人基礎力」や「キャリア権」の研究で有名な諏訪康雄教授ですが、なかなかご指導が厳しく日々しごかれております。私は4年制コースという社会人向けの長期履修コースで、2年分の単位を4年間でゆっくり取れば良い社会人向けのコースです。

 

大学職員の方が学ぶ大学院としては、桜美林大学の大学アドミニストレータ専攻を良く伺います。こういったプロの大学職員を養成するコースは日本では少ないようですが、それは大学の人事制度が、日本企業と同様に、定期的ローテーションによるジェネラリスト育成だからなのでしょう。特定の部門のプロ(スペシャリスト)を養成するという発想が弱いのでしょうね。実際、私も数多くの大学就職課にお伺い致しますが、2~3年で新しい方に変わることが多いです。

 

しかし、大学就職課(キャリアセンター)の仕事は、近年、ますます広範囲かつ高度になってきていると思います。就職指導期間も10年前とは比べものにならないほど長期間です。しかも、最近は卒業後の相談まで行うところもあり、ますます就職課職員の仕事は難しくなり、高い専門性が求められてきていることでしょう。ところが、大学職員の勉強会は数多く開催されておりますが、なかなか体系だった専門教育を受けられるところは少ないようです。大学生に良い就職誌支援を行うためには、まず良い職員を育成する教育機関が増えて欲しいものですが。

 

また、大学院で得るものは「専門性」の他に、情報交換できる「人的ネットワーク」があります。これは企業人事担当者でも同じなのですが、日々の仕事における外部の相談相手が居るというのは心強いものです。これがあれば、自分の実力の何倍もの仕事ができることもありますし、苦労話を分かち合える「同期」を得られるのは素晴らしい仕事の楽しみにもなりますね。どうぞ皆様も機会があれば、学びの場と仲間をお求め下さい。

*参考URL:

▼桜美林大学大学院国大学研究科 大学アドミニストレータ専攻

http://www.obirin.ac.jp/graduateschool/300/312.html

▼法政大学大学院政策創造研究科

http://chiikizukuri.gr.jp/main2.html

▼上智大学コミュニティ・カレッジ「大学教育とキャリア支援~FD・SDのための基礎知識~」

http://www.sophia.ac.jp/J/ext.nsf/Content/kyoujitsu0125

⇒この講座では私も一コマ講演致します。新職員の方には良い講座です。

第154号:採用活動に関する大学との共同研究-4

恒例の企業の人事労務管理を研究している大学のゼミ学生と採用活動に関する共同研究を行いました。今年は「リクルーター制度の役割」というテーマです。リクルーターの位置づけや活用方法は企業毎に異なり、またこの制度そのものの実態が見えないので調査には苦労しました。企業の声で面白かったのは、リクルーター制度の運営に重要なのは「社内の協力体制」だということです。ということは、リクルーター制度を導入している企業は、良い社内コミュニケーションを行っている企業かもしれません。

*ここで言うリクルーターとは、人事部以外で採用活動を行う一般社員のことです。

 

リクルーター制度を研究するのに際し苦労したことは、リクルーター活動を行っている企業で調査に応じてくれるところが少ない点です。学生200人を対象に行ったアンケートでは、最もリクルーターの接触が多かったのは金融業界でしたが、訪問調査は殆ど断られてしまいました。そもそも秘匿性の高い採用手法なので、自社のノウハウや訪問先大学を知られたくないという心理があるのでしょうか。

逆に訪問調査やWebアンケートにも快く応じてくれたのは製造業です。こちらは理系採用が中心となりますが、足繁く大学に通うリクルーターの実態がよくわかりました。

 

回答数は少ない(23社)ですが、企業がリクルーター制度の運営で重要だと思っていることは、以下の通りです。(複数回答中、上位回答のみ)

 

1.社内の協力体制   ⇒60%

2.採用担当者の熱意 ⇒47%

3.熱心なOB社員   ⇒39%

4.人事部の統率力   ⇒26%

5.リクルーターの研修      ⇒21%

 

質問の回答選択肢には、リクルーターへの報酬や評価、経営トップの理解等もあったのですが、意外にもこれらはあまり重視されておらず、冒頭に述べた通り、リクルーター制度は人事部と一般社員のボランティア的な活動だということです。「人事部に協力してやろう」「仲間を集めなきゃね」そういった社員が居ないとリクルーター制度は上手く運営できません。

対照的に、今回調査研究に応じて戴けなかった企業はノルマとしてリクルーター制度を運営し、学生何人と会うことを義務づけていることが多いようです。(学生側のアンケート回答から)

 

社員の自発的な行動から、人事部の指令から、どちらもリクルーター制度を動かすエネルギーですが、できれば前者を「正統派リクルーター制度」と呼びたいものです。というのは、そういった採用活動は社員の愛社精神の醸成や社員教育という意味もあり、日本企業の特異とする長期的信頼関係の構築そのものですし、そういった企業で若者が育って欲しいと思うからです。

 

第153号:「便乗」内定取り消しにご注意を

メディア報道は一段落してきた気配ですが、その後の大学生の内定取り消し数は文部科学省によると732人(264校)になったそうです(1月24日現在)。昨年(302人)との比較では倍増とのことですが、経済状況の違いも比較しないと、どちらが深刻かは言い難いと思います。それよりも気をつけたいと感じるのは、どさくさに紛れて出てくる「便乗」内定取り消しです。

 

「赤信号みんなで渡れば恐くない」ではありませんが、日本人の行動特性に「バスに乗り遅れるな」があります。内定取り消し騒ぎが大きくなると、これに感化されて以下の3者の悪意に基づいた「便乗」型の内定取り消し騒動が現れる可能性があります。

 

1.企業の悪意によるもの

企業が第三者を使って内定者に内定取り消しの連絡をするケースです。直接内定者本人に電話があり、内定企業の社名を名乗り、一方的に内定取り消しを行うケースです。内定者が説明を求めても「理由を説明する必要は無い。」と早々に電話を切られます。法律知識に乏しく泣き寝入りをする精神的に弱い内定者を狙います。内定者が当該企業に改めて電話をしてみると、知らないふりをして「そんな事実は知りません。」と何も無かったようにしらばくれます。

 

2.内定者の友人の悪意によるもの

内定者本人になりすまし、内定企業に電話をかけて辞退を申し出るケースです。昨年あたりからチラホラ現れてきました。しっかりした企業であれば本人確認や内定辞退の理由まで求めますが、今年のように経済状況が急転して内定者数が過剰になってしまうと、企業も詳細を聞かずに喜んで受け入れてしまう場合があります。内定者本人は自分が内定辞退扱いになったことに気づかないでいることもあり、非常に危険な状態におかれます。ちなみに私が在籍していた企業では、内定辞退の連絡があった場合は、その場で受け付けずに必ず面接を担当した採用担当者に電話を代わり本人確認をしていました。相当大規模な企業でない限り、採用担当者は自分が内定を出した応募者はハッキリ覚えているものです。

 

3.内定者本人の悪意によるもの

まれなケースですが、内定者自身が「企業に内定を取り消された」と就職課等に訴えるケースで、内定者の狂言によるものです。何らかの理由で内定者が内定取り消しの身分を得たい場合です。精神的に問題があって(ノイローゼ)発作的に行動する、留年が決まって卒業ができなくなったとき等です。今年のように内定取り消し者向けに大学が授業料減免等の救済措置を行うようになった場合、後先考えずに飛びつく学生が現れる可能性があります。

 

いずれにしても犯罪になる可能性があり、関連3者(企業・大学・内定者)が冷静かつ早急に状況を確認して対応すれば、これらの悪意から逃れることはできるでしょう。振り込め詐欺のような悪質な犯罪が信じられないほど頻発する時代ですので、こういった可能性を考えた対応策を用意しておく必要がありそうです。いやはや寒い世の中になったものです。

 

第152号:消費者教育と労働者教育

自由民主党が小中学生向けに「消費者教育推進法案(仮称)」を議員立法で制定する準備を進めているとのことです。マルチ商法対策やクーリングオフ制度等を教えるそうです。なかなか良いことではないかと思いますが、ついでに高校生向けには「労働者教育」も始めて欲しいものです。

 

日本でも第三次産業が産業規模でトップになり、サービス業の発展は著しいですが、詐欺まがいの強引な商法もますます増えてきているようです。振り込め詐欺の国内被害総額(2006年)が250億円にも上るのは驚きました。そんなご時世ですので子供達にも早いうちに経済感覚を身に付けさせるのは大事なことでしょう。もっとも、金融教育と称せられるような資産運用などは必要なく、自分の資力以上の消費はしないこと、騙されないようにすることをシンプルに教えることで十分です。海の向こうの先進国で金融破綻になっているのも根本はこれが原因でしょうから。

 

さて、金融問題から発生したもう一つの大問題が雇用問題です。「派遣切り」「内定切り」という言葉がすっかり一般的になってしまいましたが、こういった事態にならないためにも若者への「労働者教育」が今こそ必要でしょう。かつてのように正社員が労働者の中心で企業の長期安定雇用が当然だった時代では、それは企業の人事部や労働組合が代わって考えてくれており、一般社員は仕事に身も心も捧げて集中できました。

しかしながら、今回の派遣切り問題で明らかになったとおり、派遣社員は「社員」という名はついておりますが、雇用関係ではなく企業側の都合で合法的に中止にされてしまう身分です。はたして若い派遣労働者の方々のうち、どの位の方がこういった事実をちゃんと知っていたのでしょう。バブル崩壊後、企業側の方は「個人の自立」「企業と個人の新しい関係」というスローガンで雇用ポートフォリオ型経営(非正規社員の導入)を導入し、人件費の変動費化を進めてきたことを。

 

勿論、派遣労働制度全部が悪いわけではありません。エンジニアのように非常に高い専門性を持ってこのような働き方をするならば、「ライフスタイル重視」「組織に縛られない働き方」という労働形態を謳歌することもできるでしょう。しかしながら、自分の専門性や職業経験が未熟なうちはリスクの高い働き方です。日本企業の大きなメリットである「新人研修」が受けられません。こういったことを、社会に出る前にしっかりと学校で教える必要があるでしょう。それが若者の自立にもつながると思います。

 

ところで、大変な経済環境で世間は騒然としておりますが、高校時代の恩師からの年賀状にこんな一言がありました。

「平成20年は激動の年でしたが、空襲に逃げ惑い、飢餓に苦しんだ昭和20年に比べれば何程のこともないと思います。」

私の地元の江東区は東京大空襲で一夜にして10万人が亡くなった下町です。そんな時代に比べたら、まだまだ我々は元気に生きていけると思います。 新年、頑張って行きましょう!

 

第151号:『チェンジ(変)』はチャンス

次期米国大統領も日本人が選んだ今年の漢字も、今年の締めくくりは『チェンジ(変)』ですね。採用担当者は変化対応に慣れているとはいえ、流石に100年に一度とか言われる大きなものだと不安になることも多いです。しかし、必ず対応策はあるはずですし、特に今の時代の変化(特の現在の経済システム)は人間の心理が大きく影響しているので、一番の対策は楽観的な意志をもつことだと思います。

 

米国の金融破綻と見ていて日本人に不思議に思えるのは、どうして政治家も官僚も経済学者もあんなに楽観的なんだろう?ということです。桁外れの損失を前にしても『これはこうなるから大丈夫だ!」と熱弁をふるいます。「全世界に一言、謝れよ!」と言いたいところですが、翻って我が国は世界でもましな方なのに、政治家もニュースキャスターも悲観論のオンパレードです。唯一、楽観的な首相が頼もしく見えたりします。

 

さて、こういった経済不況となると企業の経費削減圧力は激しく、いわゆる3K=広告費、交際費、交通費、が大幅に見直されます。採用担当者のもつ予算(採用関係費用)は、まさにこれが中心ですから、採用予定人員も採用予算も失い商売あがったりになってしまいます。(バブル崩壊時にはついでに採用担当者も削減されました。)

 

しかし、ここでその『変』に対応していくのも採用担当者の重要な課題です。採用活動の方針を変えて費用がかからない方法に切り替えていきます。例えば『広告メディア』から『人メディア』への切り替え等を考えます。マスメディアの広告宣伝には莫大な費用がかかりますが、人間関係を通じた広報活動には費用よりも信頼関係が重要で、費用ではなく手間暇をかければ方法はいろいろあります。あまり遠くへの出張はできませんが、不況期でも足繁く大学訪問したり電話やITで関係維持を行う企業は頼もしいし、信頼できる会社が多いです。「金の切れ目が縁の切れ目」になってしまっては、採用担当者の能力も問われます。

 

やはり『チェンジ(変)』はチャンスですから、こんな時にこそこれまでできなかった冒険もできます。思い切って採用選考活動を遅らせてみるとか、採用選考もエントリーシートやWebテストは止めて全員面接にするとか、清水の舞台から飛び降りる覚悟があれば、何でもできるでしょう。

 

同様に、大学就職課の皆さんに求められるものも大きく変わってくることでしょう。経済環境変化対応に加えて、ゆとり世代学生の就職支援もこれまでと同じでは難しくなってくるように思われます。

 

サブプライム・ローンのように、今の採用活動・就職活動における『変』も複雑に絡んで大きくなっておりますから、1企業や1校だけでの対応では解決できません。少しは米国の楽観主義を見習いつつ、

是非、企業も大学も一丸となってこの苦境を乗り越えていきましょう。

どうぞ良い年をお迎え下さい。

 

第150号:内定取り消し報道の影響

少し前に内定取り消しについて触れましたが、一般的にも報道されるようになって新聞紙上を賑わしております。現時点で厚生労働省が把握している件数は約300件で、珍しく迅速に国の雇用政策として取り上げられていますが、状況を冷静に見ることが必要だと思います。一見、社会への影響は大きいようですが、今回のケースをよく見てみると、特定の産業の特定の企業による事件で、殆どの真面目な企業には縁のないことです。ですから、以前も書いたとおり、あまり慌てることはないと思います。

 

いま大きく報道されている不動産会社は、内定取り消しに対して100万円の「迷惑料」を支払うことを発表しております。他に外資系金融機関も数百万の迷惑料を支払ったとの怪しい噂がネット上で飛び交っておりますが、実態は定かではありません。私はこれらの事件の全貌がわからない限り、その是非を論じることにはあまり意味はないだろうと思いますが、前者のような事例は今後の企業の採用活動に影響を与えると思います。

実際にやったことはないけれど、『内定取り消しを行ったら、どうなるかな・・・?』と考えたことのある企業は多いと思います。そういった経営者や採用担当者にとっては、今回のケースはとても参考になると思いますし、そういった意味では、厚生労働省が悪質な当該企業の実名を公表する規定を設けようというのは大きな抑止効果あると思います。また今後、採用担当者は「選考合格」「内々定」「内定」という企業毎に異なる曖昧な意味を慎重に運用するようになるのではないでしょうか。密かに内々定取り消しや内定取り消しの実行まで考えていた企業も、今回の件で改めて気を引き締めることでしょう。

内定取り消しについての法的意義については、就職課の皆さんもご存知かと思いますが、実際の判例は意外と少なく、しかもかなり以前(有名な最高裁判例は昭和54年)のものです。今回の事件が裁判にはなるかは定かではありませんが、企業の実名と「迷惑料」金額が明らかにされたというのは、判例と似たような効果があると思われます。

 

ということで、現時点で考えると内定取り消しの現実的な影響はあまり出てこないと思います。皆様、就職課への相談は増加しておりますか?私の知る限り、内々定というグレーゾーンでの取り消しはたまに聴くことがありますが、10月以降の書面での回答後に内定を取り消したケースは殆ど無く、それも冒頭に述べた特定の産業の特定の企業に限られるのではないかと思います。

 

メディアが騒いでいるのはこの事件の希少性(ニュース性)のためであり、国が迅速に動いたのも件数が少なく予算(税金)の投入も少ない割にはアピール度が高いからでしょう。そういった意味では「ネットカフェ難民」の時と似ています。

 

当事者の方々には大変なことですが、状況を冷静に見て慌てずに見据えること。やはりそれが大切だと思います。

 

 

第149号:大学祭で知った学生の資質

今年も残り一ヶ月となりました。先日の3連休で大学祭のシーズンも終了しましたね。これで3年生も心置きなく就職活動に入れることでしょう。さて、今年は私が非常勤講師でお世話になっている大学で学生と一緒に大学祭に参加する機会がありました。日頃、授業で良く知っている学生達と一緒にとあるイベントを企画実行したのですが、この経験から全く見たことのない学生の性格や資質が見えてきました。それは教師としては嬉しいことでもあるのですが、採用担当者としてみると、改めて採用選考の難しさを感じてしまったのです。

今回、私が関わった大学祭のイベントはクラシックを中心としたコンサートの開催です。大教室を予約して外部から音楽家を招いてチケットを販売するという大学でよく見かける企画です。10名ほどの学生が主体となって運営したのですが、その殆どは私の授業(キャリア論)の履修者でした。授業ではレポートや質疑応答をはじめ、グループ・ディスカッション等でも良く知っているはずでしたが、こういったイベントを通じて深く触れ合ったのは初めてのことです。

まず驚かされたのが「自主性」「行動力」の発揮です。メンバーに分担を決めて仕事を進めていったのですが、どうしても想定外の仕事が発生してきます。その際に「あ、それ私がやります。」「チケットは私が食堂で売ってきます。」という言葉とともに引き受けた学生は、授業の中では控えめな学生でした。

指導力」を発揮した上級生も居りました。日頃は一歩下がっていて何もしないでいるように見えたのが、下級生が経験不足で壁にぶつかっているのを見るや、的確なアドバイスをして対処の知恵を授けていました。なかなか動けない下級生に対して大胆な「決断力」を発揮しています。後で聞いたところによると、後輩のために最初はあえて黙っていたとか。私はこの学生の模擬面接も行ったことがあるのですが、そんな指導力には気づきませんでした。

反面、日頃から「責任感」が強くてしっかりしているように見えた学生は、依頼されたことを自分中心に考えてしまって最終的に目標が達成できないことがありました。その成果はともかく、心配になったのはこの学生は自分の仕事には満足していて、「(自分のできることは)しっかりやった。」と思い込んでいるところです。いわゆる「自分に正直な等身大の学生」なんですね。会社で一緒に仕事をすると一番、困る部下のパターンです。

こういった学生の資質は、大人数の授業では把握することはできません。当然ながら、どんなに工夫しても面接という手法で見分けるのも困難でしょう。ゼミ活動や(正当な)インターンシップなどの一定期間一緒に過ごして、かつ仕事と同様にストレス下の状態で観察して初めてわかることです。

そういう点では、改めて採用選考の難しさを感じると同時に、学生自身も自分の資質に気づいていないのではないか、と深く考えさせられた大学祭でした。お互い、もっと良いマッチングの方法はないものでしょうかね。

 

第148号:農耕型採用・狩猟型採用・養殖型採用

経済環境が大きく変わるときには企業の採用活動も変わります。私は1990年のバブル期前までの採用活動を「農耕型採用」、バブル期後を「狩猟型採用」と区分してきましたが、日本のITバブル崩壊の2002年以降を「養殖型採用」と名付けています。この造語は、このメルマガでは2年前に初めて使いましたが、大手企業を中心にだんだんと増えてきたようです。その動きはこれからのキャリア教育や就職セミナーは勿論、大学のアイデンティティにも影響を及ぼしてくるのではないかと思っています。

 

それぞれを簡単に説明すると以下の通りです。

「農耕型採用」・・・大学の勉強にはあまり期待せず、白紙から企業が新入社員を教育する。経済環境が良くて企業に人材育成の余裕があり、大学進学率がそれほど高くなかった売り手市場の時代の形態。

「狩猟型採用」・・・経済環境が厳しくなる一方で大学進学率が向上し、買い手市場の採用活動で企業が少数厳選採用を行う形態。新入社員の早期自立を求めて「即戦力を求める」という文言が流行る。

「養殖型採用」・・・経済環境が復調したものの大学の大衆化はますます進み、入社前から企業が大学生の能力開発に着手し始める。寄付講座、長期インターンシップ等が代表的事例。

 

つまり「養殖型採用」とは産学連携の人材育成のことですが、採用活動に直結しているわけではありません。間接的な特定企業と特定大学の関係強化です。つい先週もソニーと慶応大学による技術者育成の共同プロジェクトが報道されましたが、こういったケースはこれからますます増えてくると思われますが、以下のような問題も出てきます。

 

・大企業が有利になる。・・・寄付講座には相当な企業の資金負担や余力が必要です。

・大学のアイデンティティが変わる。・・・アカデミズム(学術中心)からプラグマティズム(実用中心)へ。

 

結果的に、大学が「職業予備校」に向かう可能性が高くなります。(私は、それはそれで一つの選択肢だと思っています。大学も大学生も増えすぎてしまった現在、全ての大学が同じアイデンティティでは存在価値が無くなるでしょう。)それが良いことかという議論はさておき、経済環境が厳しくなるこれからは、企業が大学に求めるものはプラグマティズムに向かわざるをえませんし、その期待に応えることによって大学もまた社会と連携した人材育成ができるようになるのではないかと思います。

 

とても難しい問題ではありますが、大学祭のようなお祭り騒ぎや受験テクニックのような就職活動はそろそろ止めて、今回の経済危機が企業と大学の良い関係作りのキッカケになればと期待しています。

それが企業の採用活動と、学生の就職活動を是正するものであれば尚、幸いです。