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第147号:社会人キャリア力育成検定のシンポジウム

去る10月17日に日本インターンシップ推進協会(JIPC)主催の「キャリア教育とインターンシップ」というシンポジウムにパネラーとして参加してきました。これは同推進協会が12月に実施する「社会人キャリア力育成検定」の実施に先立つ企画です。当日の聴講者は大学関係の方が中心で、残念ながら企業採用担当者の方は少なかったようです。

 

「人間力」「就職基礎力」「学士力」等々、こういった社会に通用する共通な能力を明らかにしようという取り組みは盛んですが、肝心の企業があまり乗り気でない理由は単純です。採用選考における金銭面と時間面のコストダウンに効果があるか不明だからでしょう。民間企業が開発した適性検査(筆記試験)が普及しているのも、過去のデータの蓄積と能力試験で応募学生のレベルが統一基準で評価できるからです。つまり、採用面接の時間コストを金銭コストで替えているわけですね。

 

今回の「社会人キャリア力育成検定」は、ご存知の方もおられるかと思いますが、経済産業省が推進する「社会人基礎力」に「社会常識力(日本語力、社会マナー、時事問題、計算力)」を加えたもので、時事問題や計算力等の客観基準による評価が加わっています。前者の「社会人基礎力」は筆記試験ではなかなか測定が難しいと思いますが、後者の「社会常識力」は採用選考基準に準用できるかもしれません。シンポジウムでも会場からのご意見では、キャリア教育の前にまずは基礎学力を重視すべきだ、というご指摘がありましたが、まさにその通りだと思います。これは大学全入時代になったからこそ、重要になってきた新たな課題です。

 

経済状況が混沌してきたいま、企業の採用活動もまた大きな変化の時期になりました。企業の採用担当者の現場まで具体的な方針が落ちてくるのは、年明けではないかと思います。米国のクリスマス商戦の影響と国内の年末の消費動向によって、多くの企業の3月決算の見通しが出てきます。その結果来期の予算が決まり、企業の人員計画(新卒採用数)が決まります。今週の日経新聞にも出ましたが、現時点では多くの企業が採用数削減・少数精鋭採用に動きだすことでしょう。

 

さて、こういった状況で強いのはやはり基礎的な能力をしっかり持っている学生です。どんなに不況であっても、社会人たる基礎知識やマナー、大学生としての基礎学力や行動力をもった学生は就職に強いですね。しかし、これらは一朝一夕に身につくものではありません。世の中に溢れてくる不安なニュースなどに惑わされずに、こんな時こそ晴耕雨読。企業も大学も学生も本当に社会で役立つ実力とは何かを深く考えて、質の高い就職・採用活動を行う時期でしょう。不況の時こそ底力が必要だ、そう思わされたシンポジウムでした。

 

第146号:金融破綻について思う

米国の金融破綻による経済混乱が収まりません。リーマン・ショックは単なる予兆で実態が明らかになるのはまだこれからです。私はよく大企業リストラを豪華客船の遭難に例えますが、もっとも心配なのは乗員のパニックです。必要以上に慌てふためくと思わぬ二次災害を引き起こします。こんな時は慌てずに落ち着いて対処することが、被害を最小限に食い止めることになります。

 

つい先日、外資系金融企業から内定取り消しをされた学生からの相談を受けました。企業の言い分では「内定」は約束していないということでしたが、これは採用担当者が狡猾なのか無知なのでしょう。他にも「内定取り消しにはなっていませんが、このままで大丈夫でしょうか?」という相談も数件ありました。有名大学を出て外資系金融を目指す位なんだから、自分のキャリアのリスク・ヘッジや覚悟はしておいた方が良さそうなものですが、そこは就業経験の無い日本の新卒大学生ですから致し方ありません。頭は強くても心はそれほど強くないのでしょう。実際、今回の金融破綻は戦後最大の危機といいますから、私だって不安です。

 

しかしながら、日本の状況をよく見てみると、欧米とは異なって幸か不幸かバブル崩壊から立ち直ってきたところでしたから、米国のサブプライム・ローン等の影響は少なく金融も実体経済も(元気とまでは言えませんが)そう痛んではいません。つまり、日本は世界でも安定している方です。しかも、不況の時には現金を持っているのが一番安心なのと同じで、日本は世界に冠たる大貯蓄国です。

 

それに金融破綻がこの時期に起きたのは就職内定者にとっては幸いです。この10月1日は、相も変わらず内定式に繰り出す4年生が大勢、ターミナル駅を占領し、企業では書面での内定通知と引き替えに誓約書の提出という儀式が終わり、労働者の地位は一段と高くなりましたから。これがもし春先に起きていたら、内定そのものを得られなかったかもしれません。

 

正直なところ、この状況では日本にどのような影響があるかはまだわかりません。就職課の皆さんのところにも欧米の銀行に押しかける預金者のように、不安を抱えた学生がやってくるかもしれませんが、こんな時こそ、落ち着かせてあげて下さい。おそらく先日の企業の内定式でも、しっかりした企業の採用担当者は「心配ありません。」と内定者を安心させていることでしょう。

今の若者は、生まれたときから好景気というものを見たことがありませんが、今の世の中が相当に豊かなことも、本当に苦しい社会もまた知りません。経済がこけても人類の歴史が終わるわけではありませんし、人類は過去何度もそれを乗り越えてきました。

 

最後に、就職セミナーやキャリアの講義でも良く引用される言葉をご紹介したいと思います。

 

「悲観は気分、楽観は意志」 アラン『幸福論』

 

就職活動ではまさにこれが求められると思います。勿論、企業の採用活動も。

第145号:必要悪の採用活動

大学の新学期も始まり、就職課の方々も3年生向けの就職ガイダンス等で気を引き締める時期ですね。企業採用担当者の方も本来なら腕まくりをするところなのですが、どうも今期は怪しい雰囲気です。景気が下降局面に向かっているところに、突然の米国リーマン・ブラザーズの経営破綻です。日本へのインパクトはまだ大きくないようですが、これから少なからず影響が出てくるのではないと思います。

 

経営破綻やリストラは米国では珍しいことではありませんが、今回のリーマン・ショックはその規模が桁外れです。しかもまだその全容がわかりません。米国政府の不良資産買い取りの対応は非常に速いとはいえ、金融機関は各業界に深く絡んでおりますので影響の実態が現れてくるのにはもう少し時間がかかることでしょう。

 

こういった先が不透明な状況で採用担当者はとても辛い心境で過ごしています。採用予定数や採用予算が大きく変化することが予想されながらも採用活動を休止するわけにもいきませんから。採用担当者は心の中で「大丈夫かな・・・」という気持ちを抱えながらも、それを隠してこれからの就職セミナーでは精一杯の笑顔で対応します。

 

私も長年、採用予算を預かっておりましたが、採用数が少ないならば、できるだけ無駄な経費をかけずにいたいものです。採用活動予算の多くは広告宣伝費用なのですが、もし採用予定数がいきなり削減されるとそれまでの仕込みが水泡に帰します。それがわかっていながらも、やらなければならないのがこの仕事の辛いところです。経営の視点からみたら必要悪ですね。

 

この点、外資系企業の判断は非常に速いです。日本のような超長期の採用活動(就職活動)はありませんから、仕込み期間(広告宣伝・募集期間)も短期です。景気が良くないと見るや、すぐに予算の削減や場合によってはいきなり採用活動の凍結になったりします。実際、現時点でもいくつかの外資系企業には既に予算縮小の指事が本国から来ています。

逆に日本法人の外資系の採用担当者は、いきなりまた採用しろとトップダウンの指事が来ないか冷や冷やしています。今期も5月になってから新卒採用しろと言われて頭を抱えている採用担当者がおりました。

 

採用担当者はこれから市況がもっと厳しくなるのか、それとも復活するのか、リーマン・ショックのインパクトを見極めているところです。いっそのこと倫理憲章遵守を御旗の印に採用活動を遅らせてしまおうか・・・と考えながら。

 

第144号:リーダーの能力・資質

採用担当者が求める学生の能力・資質では、コミュニケーション力が圧倒的に多いですがリーダーシップもその一つでしょう。どちらも組織活動の一員としては不可欠なものであり、どちらも生まれながら兼ね備えているものではなく、後天的に開発されるものと考えるのが人事部の見方です。

 

採用面接で自己PRを求めたときにもリーダーシップをあげる学生は多いです。しかし、そのスタイルや体験談を聞いてみると、次の例のようにワンパターン化しているような気がします。

「私は引っ張っていくタイプではありませんが、メンバーの意見をよく聞いてまとめていくタイプです。」

まるで今の総理大臣のようなタイプですね。リーダーのスタイルは、その人の個性と属する組織によって異なるので優劣で語れるものではありませんが、仕事をするうえでリーダーの一番大きな役割は「調整」だけではなく「目標設定」や「意志決定」だと思います。それは最終的には自分で判断して自分で責任をとることです。

ですから、上述のような自己PRをする学生を面接したとき、はたしてこの人は会社組織の中でやっていけるだろうか?と心配になることがあります。そのため、面接では更に続けてこう質問します。

「メンバーの意見が統一できなかったとき、リーダーとしてどうしていましたか?」

(あまり大きな意志決定をしない組織では参考になりませんが。)

 

つまりリーダーの資質を質問するということは、その学生がどんな組織体験をしてきたのか、ということを聞いていることに他なりません。ゼミでもサークル活動でもアルバイトでも場面は何処でも良いのですが、誰かに言われたままに行動するのではなく自分で意志決定して実行してきたかがポイントです。更にその力はその組織のリーダー(先輩)や文化の影響がとても大きいです。

 

さて少々脱線しますが、リーダーの中のリーダーであるはずの「総理」と「理事長」が手本を見せられないと、我が国の将来が心配になってきます。総理と理事長も「日本の顔」で国民の手本であるべきだと思いますが、辞めではいけない時に辞める、辞めるべき時に辞めない、どっちもフツーの国民目線では理解不能です。それぞれに事情はあったとしても、それが子供や若者のリーダー像に与える影響は計り知れません。

 

若者が尊敬して真似したくなるリーダーが居て、そんなリーダーを目指す若者に次代を引っ張って欲しいものですね。リーダーは良い社会で育つものだと思いますから上も下も頑張らないと。

 

第143号:オリンピック選手から学ぶこと

北京オリンピックもいよいよこの週末で閉会ですが、今年も数多くのドラマを見ることができました。大きな重圧に耐えて期待通りの結果を出せた日本選手の輝きは、多くの人々に勇気を与えてくれますね。その選手のコメントにはこれから就職活動に向かう学生にも学んで欲しいことがあります。

 

今季のオリンピックだけではなく、また日本選手だけではないのかもしれませんが、水泳の北島選手をはじめメダリストのインタビューで多く聞かれるコメントは、自分一人ではなく大勢の人に支えられて出せた結果だということです。

これはまさに就職活動で内定を取れた時と同じでしょう。内定を多くとる学生にはいろいろなタイプがありますが、わりと共通して言えるのは豊かな人的ネットワークを持っていることです。大学の友人や先輩、就職課の皆さん、就職活動中に出会う企業の採用担当者や他大学の同志、そして家族まで。身の回りに居る人達から叱咤激励されて成長した末に、内定という結果が出るのでしょう。

その反対に、周りの人的ネットワークを使わずに自分一人で頑張り過ぎたり意固地になってしまうと、どうしても結果はでてきません。そういう方を採用担当者が面接で見ると、深刻なのはわかりますが、孤独な悲壮感が漂っているように感じます。

 

ところで、これはここ数年で感じることですが就職相談を行って後、その結果をご連絡戴けない学生が急増しています。ほんの4~5年前まではキャリアカウンセリングや大学での就職相談を行えば、その結果をメールや葉書で教えてくれるのが普通でした。こちらは特にご連絡を求めているわけではありませんし、教えて下さいと伝えているわけでもありません。しかも上記のように良い結果が出た学生からも音沙汰が無くなりました。偶然に大学で出会うと、「先生、内定決まりました!」と笑顔で話してくれるところを見ると、これは礼儀を忘れているということではないのでしょうし、周りへの感謝を忘れているということではないのでしょう。

 

しかし、オリンピックで選手のこのような発言を聞いたとき、「ああ、あの人にお世話になったから残暑見舞いでも出しておこう。」という気持ちをちょっとでも思い出して欲しいと思います。(最近はメール文化のせいか、暑中見舞いの葉書は減ってきましたね。)

 

良い結果が出せたとき、奢らずに周りへの感謝を思い出す、それが日本人の美徳だと思いますから。

そして、きっとそれは社会人になってからも成功する秘訣でしょう。

 

残り少ないオリンピックですが、日本人選手の堂々たる戦いぶりを期待しながら応援したいと思います。

 

▼北島康介選手の公式ブログ(8月14日のコメントが良いですね。就活学生に見せたいです。)

http://www.frogtown.jp/kosuke_mail/

 

第142号:いまどきの中学生

大学生の夏のインターンシップは珍しいものではなくなりましたが、最近は中学生にも「職場体験学習」というものがあるのですね。夏休み中に1週間程度、地元のいろいろな職場を見学してくるというものです。「企業訪問前に社会人の心構えを話して欲しい。」と知人の公立中学校の先生に依頼され、初めて中学生に向けて話をしてきました。

 

先生から戴いたお題は「会社で求められる人材とは」と、まるで大学の就職セミナーのようです。勿論、難しい話をしてもわかりませんので、もっとわかりやすく「面接試験で受かる人」と「採用担当者が好きな人」という話をしてきました。自分が中学生の頃を思い出しながら話をしたのですが、生徒の反応はそれぞれです。大学と違って(いや、今の大学生は中学生並かも?)、集団の水準の幅が広いのでどこにフォーカスするか難しかったです。冗談ではありませんが、中学生の言動を見ていると、今の大学生の言動を見ているようで興味深いです。いくつか感じた気になる印象をご紹介します。

 

・自分の意見を言わない、他者にふる

質問を投げかけて尋ねてみても自分の意見をなかなか話せません。何か言いたいことがあっても言葉にならないということはありますが、そうやって考え込んだり回答を迷ったりするのではなく、即座に他の子に話しかけて「××だってさ!」「××って知ってる?」自分の意見を「考える」とか「作る」とかではなく、「探す」「選ぶ」という思考停止状態を感じます。しかし、それ以上に怖いのは、自分で責任を負わずに誰かに押しつけようとする感覚です。

 

・回答しようとする子を冷やかす

質問された生徒が少し考え込もうとすると、回りの数人が「早く言えよ」「××って言っちゃいな」とすぐに突っ込みをいれてきます。昔の教室はそれほど賑やかではありませんでした。しかもその集中攻撃的なやり方では被害者・加害者(?)という立場がころころ入れ替わっています。気になるのは攻められた子が、相手に対して本気で(?)憎い目で見返して、次にやり返しているところです。もしかすると、こんな風に冷やかされるので自分の意見を言うのを避けているのかもしれません。

 

・相手の目を見て話せない

これは地方の大学でもわりと多く見かけるのですが、気が弱いのか大人が怖いのか、目を合わせることができません。その子に近づいて目線を下げて話しかけてみても、どんどん顔を伏せてしまって最後は机に突っ伏してしまいます(その間、ずっと無言)。

 

総じて、自己主張しない、自分の姿を明かさない正体不明系の子供達、という感じです。勿論、ハッキリ自分の意見を話すしっかりした子もおりました。しかし、相対的にそういった(真面目な?)子が少なくなって、Always三丁目の昭和時代とは勢力図が入れ替わった感じです。

 

ほんの短い時間でしたが、今回の体験で今の大学生の授業や就職セミナーでの態度がわかってきた気がします。やはり中学生の教育は大事だと感じた1日でした。

 

第141号:国立大学協会の採用活動改善依頼

周知の通り、国立大学協会は7月9日(水)に公立大学協会及び日本私立大学団体連合会と連名で、日本経済団体連合会に対し採用選考活動の早期化の是正を強く求めるため関係団体に対して下記の要請書を送付しました。さて今回はどこまで本気なのでしょうか?これが本当に実効されるには何が必要なのでしょうか?

 

今回の依頼書には文書だけではなくグラフ資料も添付され、”昨今の採用選考活動の早期化は国際的に見ても異常”とかなり強い調子で書かれています。私自身、大学の授業を行っていて、4年生を対象とした前期の授業は殆ど壊滅状態であることはわかります。日本の若者の学力や人間力の低下が言われるなか、社会に出る直前の最も重要な時期に、学業や課外活動・学外活動にもリーダーシップを発揮できなくなるのは国家的な損失だとさえ思えてきます。

 

早期化の原因は何か一つに特定できるものではないので、法的に規制でもしない限り解決は難しいですが、少しでも効果を出そうと思うなら、まずはリーディング・カンパニーたる有名大企業が徹底して手本を見せるべきでしょう。良識を持った企業採用担当者なら今の異常な早期化を良しとしている方は少ないでしょうし、ホンネのところでは採用活動の工数増大からむしろ遅らせたいと思っている方が多いです。倫理憲章を無視して早期に活動している有名大企業は特定の業界に限られておりますし、真面目に遵守している企業にとっても不公平です。景気もやや翳ってきた感もありますので、早期化を見直すには良いタイミングかと思います。

 

さて、一方で大学にも協力をお願いしたいと思います。学生の学習環境を守るのは大学の重要な役割でしょう。米国のトップ大学では企業が学生にコンタクトすることを卒業の六ヶ月前まで禁じているところもあるそうです。(それに反してコッソリ学生にコンタクトした企業はしばらく大学に出入り禁止になりました。)卒業後から就職活動を始めるのが一般的な国とは一緒にできませんが、日本のリーディング・ユニバーシティーたる有名大学から就職セミナーは3年試験後の春休み以前は行わないという程の英断と気構えを見せて欲しいものです。

 

一方で、就職セミナーとは別にキャリア教育の充実を図って欲しいと思います。ビジネスマナーとか面接テクニックなどではなく、本来の専門教育を活かしていける手法について大学の研究機能の底力を発揮して欲しいと思います。必要であれば外部の機関(民間企業)を活用すれば良いでしょう。

 

最後に、要請の中には「可能な限り休日や祝日等、例えば長期休暇期間に行う等、大学の教育活動を尊重した採用選考活動を行うこと。」という要請もあるのですが、採用担当者も労働者です。これは是非、早期化の改善と一緒にして欲しいです。現場では今でも過労死しそうな位、通年採用で頑張っているのですから。

 

第140号:二極化する学生の理由は?

西の方から梅雨が明けてきましたが、採用シーズンも切り替え時期になりました。いよいよ2010年卒の3年生を対象とした採用活動が始まります。とはいうものの、やや景気の見通しには暗い材料が増えてきていますので、企業の採用戦略も慎重になりがちです。自社を取り巻く経済状況と今年の採用活動の成果を睨みつつ、来期はどうするか?と思案している企業が多いことでしょう。

 

企業採用担当者に学生の傾向を聴いてみると今シーズンも「二極化している」という声をよく聴きます。すっかり耳にタコができてしまったので当たり前のように感じてしまいますが、改めて何故そのような現象になったのかをと理由を考えてみるとなかなか難しいです。というのは、学生の学力が低下と言われていてもそれは二極化するものではなく、全体の平均値が下がりつつ正規分布するのが自然だからです。今の時代の経営戦略のように、トップレベルのシェアが取れなければその市場から撤退するというような何らかの意図を持った選択行動があれば別ですが。

 

いくつかその不自然な理由を以下の通り想像してみました。

 

・就職活動が厳しいからと早期に諦めた学生が就職戦線から撤退している。

⇒多少その可能性はあったとしても応募者数自体はそう変わっていません。

・大学生の就職指導やキャリア教育の成果に差がある。

⇒それならば大学間格差が出てきそうですが、同じ大学内でも二極化していると聴きます。

・AO入試&推薦入試で入学した低学力の大学生が増えた。

⇒いまや4割の学生がAO&推薦入学だそうですが、最近始まったわけでもありません。

・利用している就職メディア情報に差がある。

⇒学生は単一の就職メディアを見ているわけではありません。

・採用担当者の選考基準が変わって中間層が消えた。

⇒売り手市場とはいえ「迷ったら落とす」企業が増えているかもしれません。

・家庭の経済事情が二極化して学力も二極化した。

⇒東大生の家庭は必ずしも高収入ではないと言われています。

 

以上、二極化の原因を、学生側、大学側、企業側、家庭側といろいろ考えてみましたが、どうもこれが一番怪しいと思えそうなものはありません。となると、全部が組み合わさった複合的な理由なのか、または二極化自体が幻想なのか、ということでしょう。(意外と採用担当者の気のせいなのかもしれませんが。)

いずれにしても、二極化の上位学生が奪い合いになる中、「中間の学生」は一体何処に居ったのか?というのが採用担当者にとっての大問題です。みなさんの大学では如何でしょう?本当に学生は二極化していますか?だとしたら、その原因は何でしょう?

これは大学と企業が一緒に考えなければならない問題かもしれません。

 

第139号:二人の新社会人からのメール

この週末、春に就職した二人の新社会人からメールが届きました。 一人は「元気に頑張っています!」、一人は「心が折れそうです・・・」というまったく対照的な内容です。 雇用のミスマッチということが言われますが、改めてこの言葉の意味を考えさせられました。

 

この二人の状況で興味深いのは、両者とも1~2ヶ月の新入社員研修を経て現場に配属されたのですが、その環境が想像とは異なるものでもあるにかかわらず、反応が正反対なことです。元気に頑張っている方は「現場の方は人間的に素晴らしい方が多く人生の勉強になっている。」と書き、心が折れそうな方は「希望通りの仕事ですが、子会社の方とは気が合わなくて・・・」書いてきています。この違いは何から来るのでしょうか?

 

一般に就職(雇用)のミスマッチを言うとき、それは労働者のやりたいこと(活かしたい専門性)と使用者の求める能力のズレのことですが、もう少し広く見てみると会社のもつ資産との相性と考えられるでしょう。

ヒト ⇒経営方針、企業文化、社風、配属された職場の人間関係

モノ ⇒勤務地、労働環境(研究設備、生産設備、OA、IT等)、福利厚生施設

カネ ⇒給料、労働時間、社会保険関係、企業研修制度

 

上記の会社資産の何に対して多くを望むのか、ということが応募者の就職企業選定基準になります。最近の売り手市場の状況で学生が多くを望むのは当然ですね。採用担当者にインタビューすると、今年は福利厚生関係や労働条件(残業時間・ボーナス)について詳しく尋ねてくる学生(内定者)が増加したとか。

 

さて、この二人の新社会人は、人間関係について相反することを語っています。それぞれの詳細はわかりませんが、社会に出るとこれまでとは異なる人間関係にぶつかり楽しんだり悩んだりすることでしょう。大学と違って同質・同文化・同年齢・同価値基準ではない人々と触れ合うわけですから。

問題はそんな時にどんな対応をとるかです。言い方を変えればミスマッチにぶつかったらどうするか、ということです。そして、ここが今の学生の弱点(課題)だと思います。

どんなに業界研究をやっても、どんなにインターンシップを行っても、人間関係のミスマッチを無くすことは不可能でしょう。最終的に配属される部署(一緒に仕事をするヒト・組織)は入社前に確定はできませんし、会社訪問やインターンシップでの人間関係と、実際に配属されて仕事(ビジネス・利益)が絡んだ人間関係とは異なりますから。

 

ミスマッチという言葉に慣れてしまうと、ミスマッチ自体が問題であるように思われますが、本当の問題はミスマッチにぶつかったときにどうするか、どう支援するか、です。景気がやや怪しくなってきた現在、売り手市場が意外と早く変わるかもしれませんが、そういった環境変化に自分を変えていける人が最後まで生き残るし、企業からも求められるのだと思います。

この二人の新社会人はこれからが本当の勝負です。暖かく応援していきたいものです。

 

第138号:あと一歩、内定のとれない学生のタイプ

企業での採用選考や大学での就職相談を行っていて、この時期に内定が取れない学生にはちゃんと理由があることがわかります。自己表現(プレゼンテーション)で失敗しているのが共通点ですが、この時期よく見受けられる、あと一歩が足りなくて内定が取れない学生の二つのタイプをご紹介しましょう。

 

  • 自己主張力(発言力)はあるが、他責的で自己のふり返りがないタイプ

アピール力(発言力)はあるのですが、内定が取れない理由が自分の何処にあるか客観的に見て反省する意識が弱く、次々に企業をまわります。強情でなかなか自分の考えや行動を変えようとはしないので、採用担当者からは自己中心的で扱いづらい人物と見られてしまいます。ちょっと意識を変えれば、その強情さは意志の強さになって長所になるのですが、それがなかなかできないのです。

 

2.セールスポイントはあるにも関わらず、プレゼンテーション力不足のタイプ

対人スキル(特に自分を上手に表現するスキル)が弱く、採用担当者に自分をうまく伝えられず、弱い人物と見られてしまいます。誤解されやすいタイプです。以下のようなタイプがあります。

・話す論理構造(結論・理由・事例)はある程度できているが、一般的すぎて印象に残らない。

・話す力はあるが、アガリ症で早口であったりして、話すうちに論理が崩れてしまう。

・話す内容が整理できていないので論理がたっていない。

*プレゼンテーション力不足の多くは、「話し方」の巧拙ではなく、「話す内容」が整理できていなくて自信がもてずにアガルという傾向が強いです。

 

上記の2タイプは、自分の課題に気づけば、比較的早期に選考合格することができますが、意外とできないのが自分の課題に気づくことですね。これは自分自身ではなかなかわかりませんから、就職課の職員の方などが上手に支援してあげる必要があります。(1のタイプは、就職課の言うことも聞かない傾向がありますが。)

 

他に、この時期に内定が無い学生に対して共通に指導すべきコトは、「内定がとれなかった理由」をちゃんと反省(分析)して、現時点の就活や自己理解にどれだけ活かしているかを話せるようにしておくことです。というのは、採用担当者はこの時期にやってきた応募者には必ず就職活動の経緯を質問してきます。そして、この時期に「内定無し」となると、「何が理由だろう?」と根拠を考えます。

 

つまり、春先の失敗経験は反省するかどうかによって、その後の成功につながるか失敗のまま継続するかの大きな分かれ目になるのです。これはとりもなおさず、学生自身の自己理解能力・現状把握力の開発および発揮でもあり、企業の採用担当者が重視するところです。人間、誰でも失敗はしますが、それを認められるかどうかがポイントなのですね。誰でも自分の若さ故の過ちは認めたくないものですが。