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第67号:電車事故を機会に考える

尼崎の電車事故については学生の方の被害者も多く、ご関係者の方々には深くお悼み申し上げます。既に多くの報道がなされているとおり、この事故からは当該企業のモラルや組織文化だけではなく、日本社会の問題も浮き彫りにされておりますが、少し考えてみたいと思います。

・組織独特の文化:

どこの企業も事業内容や属する業界や取引先の影響を受けております。ベンチャー企業においては公共性の高い事業よりも遙かに個人の意見や意志決定を求められますが、後者においては独自性よりも組織の目的(ここでは公共の目的を達成するための組織目的であり、営利目的のことではありません)が優先され、規則正しく行動することが求められます。前者も後者もどちらが良いというものではありません。ただ、今回の当該企業では民営化になって従前の組織文化からの切り替えの際、守るべきことと、変えるべきことを忘れたのだと思います。特に大企業ほど組織における行動パターンや従業員の意識は簡単に変わるものではありません。

当該企業の社長の嘆きの声は現場に届いているのでしょうか?同様に、学校長や総理大臣の声が、職員や学生や国民にちゃんと届いているのでしょうか?

・知らない間に鈍感になる現代:

「みなさん、中におられる人はみんな一生懸命やっておられたよ。その人たちを責めたってしゃぁないわけでしょ。みんな、あなた方含めて日本の社会のゆるみがこういう事を起こしているんですよ。私もそうかもしれんけど。誰かを責めて、責めて済む話じゃない。何もかもがゆるみきった社会がこの犠牲者ですよ。」

ご遺族の方の重い言葉です。とかく他人に無関心になって自己中心的になりがちだったり、とかく自分で判断しないで誰かに意志決定をして貰ったりしがちな現代社会の危険がここにあります。

学生は自分の意志決定を無意識に誰かのせいにしていないでしょうか?キャリアコンサルタントは知らないうちに自分の考えを学生に布教していませんでしょうか?

・情報の発信責任:

今回の事件ではマスコミ(記者)の報道姿勢も問題視されました。マスコミに就職した途端、その人の個人の意見があたかも公共の代表になってしまう危険性を、どれだけの関係者が意識されているのでしょうか?少し前の放送局とIT企業の闘争では、メディア軽視のようなマスコミ報道もされていましたが、公共性・中立性を訴えるマスコミが(特に当該企業は鮮明に)ほぼ一色な報道をしていたことに気づいていたのでしょうか?

企業セミナーで、社員は自社のアピールを致しますが、私たちはどれだけ他社や他業界のことを知って自社の優位性を説明できているのでしょうか?(企業セミナーは営利目的なのでマスコミと報道とは同一には語れませんが、学生に与えるインパクトは大きいです。)今回の事故当該企業に限らず、社外のことを知らないで自社のことを語ることは恐ろしいことです。

今回の事故をもとに我が身を振り返ってみることが、犠牲者の方々への大事な供養だと考えました。改めてお悔やみ申し上げます。

 

第66号:企業の学生呼び出しパターン

早いもので4月も中盤を過ぎ、大手企業の採用選考もドンドン進んでいます。まだ今年の戦線の傾向を判断する時期ではありませんが、企業が学生を呼び出すタイミングを見ていると、業界毎の特色が表れていてなかなか面白いものがあります。

・金融系(特に銀行)・・・4月に始まり一気に呼び出し。有望な学生は3日間連続で呼び出して短期決戦内定出しをすることも。(お上が絶対型呼び出し

・製造業・・・倫理憲章をしっかり守り4月1日に始まるが、真面目に集団毎に管理して1週間おきに選考呼び出し。なので、全部終わるのに3週間位かかることも。(生産管理型呼び出し

・総合商社・・・4月に入ったら自信満々マイペースで呼び出し。4月後半頃に余裕をもって内定出しをして、学生のもっている他社の内定を辞退させる。(殿様商売型呼び出し

・ベンチャー系・・・2~3月から早期決戦で出会った学生はすぐに面接に呼び出して結果を出す。内定辞退されてもへこたれずに説得、またはすっぱり諦めて次の応募者を呼び出す。(ホリエモン型呼び出し

こうしてみると、それぞれの業界文化というか企業のカラーというか、上司からの呼び出され方や、仕事の進め方もこんな感じかもしれません。知らないうちに企業の仕事スタイルが採用スタイルにも現れているのでしょうね。

ところで、選考に合格した応募学生に企業が結果を伝えて次の選考に呼び出す手段は今でも電話が中心です。電話は一度のコンタクトで結果通知と次の面接の出席確認がとれるのでもっとも効率が良いのです。最近はインターネットでのメールで連絡をする企業も増えてきましたが、結果通知メールを発信しても学生からの返事がないと面接スケジュールが確定できないので、却って非効率になる場合があります。(最近は面接日時をいくつかの候補の中から選べるシステムもありますが。)

最終面接で役員や人事部長等のオエライ様の面接スロット(面接に呼び出す時間割)に穴を空けてしまって時間を無駄にするのは恐ろしい事態なので、採用担当者は必死に面接スロットを埋める努力をしているのです。

携帯電話の無い時代の電話連絡では、学生の不在時には家族への伝言、一人暮らしの学生へは留守番電話にメッセージを残していました。ご家族の方が出られたときは、そのご家庭の様子が垣間見えてホノボノしたものです(親御さんから「どうぞ娘を宜しくお願いします!」と頼まれたりして・・・)。

いまは携帯電話への連絡が中心になりました。企業からの電話は通常、発番号非通知で連絡しますので、この時期は非通知の着信記録に「どこの企業からだろう?」と学生は疑心暗鬼になっておりますね。無機質な世の中になってしまったものです。

 

第65号:採用選考の「合格」と「内定」

4月の1週間が過ぎました。今年の桜は遅咲きですが、企業の内定出しも同様でチラホラ開花の便りを聞くようになりました。花の命は短いですが、就職内定桜の花見時期は一斉に満開ではなく、ちょっと長目ですね。桜の開花予想や桜前線の情報は天気予報で聞けるのですが、就職内定の動向のリアルタイム情報があれば採用担当者も是非聞きたいものです。自社の桜がいつ満開になるかとても気になるものですからね。最近は、開花できずに終わることもありますし。

少し早く咲いた桜、いやもとい、いくつかの内定を戴いた学生の話を伺っていて「第一希望」と言わないといけないか?という相談がやや増えてきてきます。昔から多い相談なのですが、最近はこれに対してのアドバイスも難しくなってきました。

多くの企業は、以前ほど学生の志望度合いを気にしなくなってきて、本人の実力が理解できて将来性高しと判断すれば、内々定を出すようになってきましたが、一度、内々定を出したら、いきなり企業と学生の立場は180度逆転し、学生がアドバンテージをとってしまいます。そのため企業も内定の出し方にいろいろ策を講じます。

もっとも多いのは、採用選考の考合格」と「内定(内々定)」を区別するやり方です。最終選考が終了した時点で、選考合格の結果を伝え、そこで改めて入社の意志を確かめます。そこで「お世話になります。」という言質が取れたら内定を伝えますが、もしそこで「まだ迷っています。」という発言が出たら、「内定保留」ということを伝えます。

本気でその学生を採用したいと思う企業は、学生が回答を保留する原因を丁寧に聞き、それに対しての相談にのったり、企業の理解不足であれば社員との面談を設定してくれたりします。大量に学生を採用する企業や人気企業では、日限を切って回答を求めたり、逆に放っておかれたりしますので、こんなところからもその企業のカラーがわかります。

一方で注意したいのは、上記と似たような対応でありながら、選考合格の結果を伝えずに学生の選考保留を長期に渡って引き延ばす企業です。選考途中で第一希望でないとわかると「企業理解が足りないね。社員との面談を設定しましょう。」ということで、数回に渡って面談を続ける企業があります。企業はその間、もっと有望な候補者が居ないかを探しています。

志望動機の書き方から面接テクニック、そして内定を貰うまで、学生の相談もますます高度で複雑になってきましたが、企業採用担当者も大学就職課職員もよりますます頑張らなければなりませんね。これからの1ヶ月は山場ですが、皆様のご健闘をお祈り致します。

第64号:採用担当者が描く応募者のキャリア・プラン

ようやく春らしい季節となってきましたが、花粉症に悩まされている方はご愁傷様です。この時期になると学生もだんだと面接にも慣れてきて、ぎこちない志望動機や自己PRもスムーズな「会話」になってきます。ウォーミングアップも済んで、いよいよ就職戦線キック・オフですね。既に結果の出ている企業もありますが、内定した学生のことを振り返ってみると、自分のキャリア・プランをしっかりもっている方が多いです。しかし、それは採用担当者の考えるキャリア・プランとは必ずしも一致しているとは限りません。

学生との模擬面接や個人面談(キャリアカウンセリング)を繰り返していると、有望な学生ほど就職活動で社会を知り始めて、目がキラキラしてきます。同時に「これまで自分の大学生活は何だったんだ?」「もっと早くこんなことを知っていたら学生生活も変わっていたのに。」と自分の無知に気づいてきます。そんな学生は志望動機や自己PRもどんどん良くなり、「この会社にはどういえば受かるか?」ではなく、「自分はこの会社にはこう主張していこう。」と主張の軸が定まってきます。そうなってくると迷いや悩みが減って自信が出てくるので、結果的に面接でも良い結果がついてくるようになります。迷いながらも、自分はこんな風に生きていこうという信念(キャリア・プラン)が生まれてくるのですね。

さて、採用担当者はそんな学生が主張するキャリア・プランをそのままに受け止めるかどうかはまた別の問題です。メディアでは「自分のキャリア・プランをしっかりもっている学生が求められている」、というように書かれていることもありますが、正確に言うと「採用担当者が応募者のもっているキャリア・プランを聞いて、その応募者のキャリア・プランをイメージできたら内定を出す」ということではないかと思います。つまりポイントは、学生がしっかりとしたキャリア・プランをもっているかどうかではなく、採用担当者が応募者のキャリア・プランを描けたかどうか、ということです。

上述の通り、学生の描くキャリア・プランは限られた経験や耳学問によるもので必ずしも現実的ではなかったりしますし、採用担当者が企業の内部からの視点でその学生をみた時に、異なるキャリア・プランを描くことも多いです。学生のプランを軽視しているということではなく、「そんなキャリア・プランを志望するならこんなキャリアも歩んでくれるだろうな。」という想像を働かせているということですね。企業内部には、とても学生に説明しきれない仕事情報(キャリア・プラン)があるのです。

最近、大手電機メーカーの中途採用で細かい職種別募集は止めて大まかなくくりで募集し、やってきた中途応募者と採用担当者がキャリアカウンセリング風に話し合いながら具体的志望職を決めていくという方法をとるケースが出てきました。新卒採用の場合、採用担当者が描いたキャリア・プランを選考中の段階で学生自身にフィード・バックすることはあまりありませんが、お互いがそんなプランを描けたら採用担当者は安心して内定を出すことができますね。

第63号:「三方良し」の志望動機

近江商人の古くからの商売の理念に「三方良し」というものがあります。商売は、売り手と買い手という当事者に都合がいいというものだけでなく、その取引が世間にとっても好都合(有意義)でなければならないというもので、「売り手よし、買い手よし、世間よし」それを「三方良し」と言います。採用面接で伺う志望動機もそんな考え方を持って貰えると良いのですが、最近はなかなか商売ッ気のある学生さんは少ないようです。

就職活動は、言うまでもなく自分自身を企業に売り込むための営業活動です。採用担当者が内定を出すということは、企業が「君の将来を買った!」と判断したわけですね。ところが、最近の採用面接ではどうもその点がうまく売り込めていない学生が多いようです。(相手の買いたい)自分のセールスポイントをまとめるのが自己分析の主な作業であり、それを整理したセールス・トークが志望動機ということなのですが、それが「三方良し」ではなく、「一方良し」になっていることが多いです。

「三方良し」の理念に沿った志望動機とは、下記のような内容がしっかりまとまっていることです。

・売り手よし・・・自分のやりたいことができる、やりがいがある

・買い手よし・・・企業がその学生を採用して業績が伸びる、採用担当者が評価される

・世間よし・・・その学生を採用した企業が(その学生の業績によって)社会からも評価される

「三方良し」の志望動機を話せる学生は、人生に対する視野の大きさや、仕事や社会における自分の位置づけも感じさせてくれます。これが「一方良し」になってしまっているということは、自分の利益・メリットだけを述べている、自分の熱い気持ちだけを述べている、ということです。

先日とある面接の場で、最近増えている大学院生の就職面接に立ち会いました。その方は自分が学部生に比べどれだけ勉強しているかを一生懸命に述べておりました。専門的な勉強に力を入れていた分、却って熱が入ってしまったのかもしれませんが、それを聞いている私がどれだけそれを評価しているか、という視点には欠けていたようです。こちらから「では何処でも貴方の希望する部署に就かせてあげますので、そこで何がしたいか、何ができるかを述べて下さい。」と質問したところ、具体的な話が殆ど出てきませんでした。つまり、「買い手よし」の視点が無いのです。

採用担当者はキャリアカウンセラーでも人生相談役でもありません。面接は営業活動であるという原点にかえって、「よし、君を買った!」と言わせるような志望動機や自己PRを聞かせてほしいものです。

 

 

第62号:「自己紹介」と「自己PR」

就職活動では、採用担当者がどうでも良いと思っていることに意外と悩んでいる学生が多いです。前回、模擬面接について書きましたが、参加学生から一番多かった質問は「『自己紹介』と『自己PR』は何が違うのですか?」でした。面接者は厳密にこの言葉を区別していませんし、面接者毎に定義が違いますから正解などないのですが、デジタル時代で単純にA=Bとの公式でつながらないと動けないのは今の学生の大きな傾向のようですね。

あまりに悩んで眠れそうもない学生が居たので、下記のようなアドバイスを伝えました。

「自己紹介」=口頭で伝える自分の名刺、インデックスのようなもの、1分程度。

「自己PR」=自己紹介で出した項目(インデックス)の具体例等をあげながら自分のアピールポイントを説明すること。長くても3分位まで。

ということで、もし面接者が「1分程度で自己紹介して下さい。」と言われたら、その企業で伝えたいこと(主な活動や長所等)を3件位あげてみる。

もし「3分位で自己紹介(自己PR)を・・・」と言われたら、上記のインデックス(自己紹介)から始めて詳細(自己PR)を付け加える。用意した内容を全部話す必要はなく「3件有りますが、特に××について述べます。」とその企業に一番適していそうな1件(自分が一番、その企業の採用担当者に売り込みたい点)を集中的に話しても構いません。

特に時間指定もなく「自己紹介(自己PR)して下さい」と言われたら臨機応変に判断して(どうもデジタル世代にはこれができないようですが・・・)、まずは1分位話してみて、面接者の反応を見ながら続けるかどうか判断すれば良いです。よく考えればわかることですが、初対面の人間に最初から3分間も話されたら、それだけで第一印象はあまり良くないでしょう。

一番、面接者が聞かされたくないのは、用意したことをテープのように話されることです。特に履歴書やエントリーシートのままに話されたら、面接者の心情は間違いなく「早く終わってくれ。」となっています。とはいうものの、就職活動の最初の段階では決められた文書を話すことから始める方がとりつきやすいのも確かです。早く「会話」としてそれを伝えられるようになって欲しいです。スポーツでも芸術でも基本の型の練習はつまらないですが、それを踏まえて応用ができて個性が出てきます。

とある週刊誌の記事に「内定とれる面接」という特集がありました。その中で超有名企業の採用担当者が、「志望動機・自己PRは聞かない。行動事実だけを話せばよい。それで会社の方が判断する。」と発言されておりました。この記事だけでは真意はわかりませんが、私には何とも学生を見下した書き方と映りました。背景には、確かに年々低下(超マニュアル化、生徒化)する大学生の実態があります。行動実績中心に質問するのが最近の面接の主流であり、採用担当者の判断のバラツキもなくなるでしょうが、肝心なのは行動実績を学生がどう捉えて今後に活かしていくかという点だと思います。それが志望動機と自己PRに繋がっていれば、何の問題もありません。私は過去の行動実績を本人がどう捉えているか、その見方や発見こそが良い自己PRと考えております。そんな志望動機や自己PRは是非、聴かせて戴きたいと考えています。

 

第61号:模擬面接参加は“とりあえず”思考?

採用担当者はこの時期ご縁のある大学に招かれて模擬面接の面接官もよく行います。昨年からProfessional Recruiters Clubで就職指導のお手伝いを引き受けている大学でも模擬面接を行いましたが、採用面接という特種な環境下でふつうに会話するというのはなかなか難しいことです。今回、参加して戴いた学生の一部の方は、以前にお会いしたこともあるのでふだんの会話でどれだけしゃべれるか、どれだけ良い人物かを知っているのですが、模擬面接では実力を発揮できない方が殆どです。

ふつう、企業の採用面接では以下の5段階で応募者の合否判定をしているでしょう。

レベル1:立ち居振る舞い(第一印象)

レベル2:話し方(敬語、積極性)

レベル3:話しの構成(論理的思考)

レベル4:話しの内容(実体験の難度、行動力、学習能力)

レベル5:人間的魅力(人間性、本人のもつ哲学)

今回の模擬面接で、レベル4まで会話が進められたのはごく少数でした。

思うように話せなかった学生が多かったのは、模擬面接の実施時期が昨年よりも1ヶ月ほど早かったせいかもしれません。企業の先行早期化に対応して大学内指導も早期化しているようですね。しかし、もっと気になったのは、学生の“とりあえず”思考です。模擬面接を受講するに際し、事前準備をしてからやってくる学生は少なく、まず体験してから考える、という学生が殆どです。そのため、せっかく採用担当者が腕まくりをして望んでも、たった1回の模擬面接ではこちらが指導したいレベルの「会話の構成・内容」まで行けることは少なく、それ以前の「入退室の立ち居振る舞い」「履歴書の書き方」「話し方」までで終わってしまうことが殆どです。

学生の“とりあえず”思考を生んでいる原因に思いを巡らせると、やはり情報過多社会、スピード社会という現代の世相が浮かびます。特に就職活動はそれが凝縮されているようです。企業は早期に、一時期に、大量に、学生への応募エントリー、セミナー参加を求めます。学生は企業が開催する就職セミナーに十分に調べていく間もなく、“とりあえず”参加して、その雰囲気や印象で応募するかどうかを決める。こんな構図を見ていると、採用担当者が学生の準備不足を嘆くどころか、企業の作る情報津波が“とりあえず”学生を生んでいると言っても良いかもしれません。

しかしながらこんな時代だからこそ、事前にしっかりと準備して就職活動に臨む学生が光ってくるのも確かなことですね。努力をする学生にとってはやりやすい、採用担当者にとっても見分けやすい、それが今の少数精鋭採用を生んでいるのかもしれません。

 

第60号:企業も大学も採用が死活問題

新年になり大学も活気を取り戻してきているとことと思いますが、本年も宜しくお願い致します。

昨年も多くの大学にお伺い致しましたが、最近、目に付くのがオープンキャンパスの催しです。ボランティアとおぼしき学生が、年配の方々や高校生を引きつれてキャンパスを案内しているのを本当によく見かけるようになりました。大学も採用活動(新入生獲得)には本当に努力しているんだなとかんじさせられるシーンです。企業であれ大学であれ、どんな組織にも新しい血というのは不可欠なんですね。

海外の大学でのキャンパス・ツアーというのは殆どが観光客向けですが、今回、例にあげたのはその大学に子女を入学させようという親御さんたち、またはご本人たちです。自分の人生の一部を過ごす大切な学校を自分の目で見ることはとても大事なことだと思います。受験する上でも気持ちが乗ってくるものですね。多くの大学がこういったキャンパス・ツアー等の広報活動に力を入れてくることでしょう。

さて、採用活動は釣りのようなものです。漁場が豊かな時は簡単な仕掛けで誰でも釣れますが、魚が減ってきたら自ら魚を探しに行かなければなりません。その努力や技で釣果が決まるのですね。私たち採用担当者も良い学生を求めて遠く海外まで求めていくこともあります。この仕事の大変であると同時にやり甲斐のあるところでもあります。

ところが、最近は大学にもそんなプロの釣り師が現れてきているようですね。同志社大学が中国で入学試験を行ってより良い留学生の獲得に乗り出すそうですが、素晴らしい試みだと思います。国内に居て待つだけではなく積極的に海外に優秀な若者を求める姿は海外の大学のスタイルを思わせます。ご存知のとおり、アジアの諸国ではトップレベルの留学希望者は米国の大学を目指しますが、少しでも日本に目を向けさせて欲しいものです。

グローバル展開をしている企業は一足早く中国の留学生に目をつけております。既に日本の若者と中国の若者の質と人材コストの比較を行っており、どちらで採用した方がコスト・パフォーマンスが高いか検討しています。アジアの優秀な学生を獲得するのは、国家レベルの課題になってきていると思います。企業も大学も採用が死活問題になってきましたね。今年も視野を広く志を高く、頑張りましょう!

第59号:地上戦線盛んなり。

早いもので今年もカウント・ダウンの季節になりましたが、就職戦線の方は盛況のようです。戦線と言えばイラクですが、大規模戦争は収束したものの市街地を中心とした小規模なテロ活動は未だに続いており、出口の見えない混沌とした状況です。ベトナム戦争でも同じでしたが、大規模な戦いよりも小規模なゲリラ戦の方が大変なようですね。これは就職戦線でも同じなのかもしれません。

採用担当者の業界用語では、インターネット上での採用活動を「空中戦」、企業説明会等を開催して実際に学生とコンタクトする採用活動を「地上戦」と称します。採用戦線は秋の空中戦から始まり徐々に地上戦に主戦場を移していくのですが、今年は最初からかなり「地上戦」の方が盛んです。それというのも、最近は「空中戦」で囲い込んだ(ネット登録してくれた)学生が、なかなか現実の企業セミナーや採用選考に参加してくれないという悩みが採用担当者にあるからです。特に今春は就職協定による集中化現象があったことも大きな影響でした。大勢のエントリーに安心して蓋を開けたところ、出席率が50%以下だったということは珍しくありません。

そのためこの秋から多くの企業が大学に足を運び、直接に学生とコンタクトして印象を深めようとしているようです。まさに就職戦線も「地上戦」に主軸になったわけですね。最近は大学内でも学生の就職支援をする組織が増えてきました。就職課だけではなく、大学の学部毎のゼミ幹事会、OB会、学生サークル、内定者の4年生・・・それぞれの趣旨や目的、主義主張も様々ですが、これもイラクのように各派毎に信念を持って活動しているということでしょうか。

最近の「地上戦」でちょっと気になるのは「キャリア・セミナー」と言う名で開催されますが、内容は殆どこれまでと同じ「企業セミナー」であることです。(そもそも、企業セミナーも業界セミナーも境界は曖昧だと思うのですが・・・。)流石に秋から「企業セミナー」と名付けるわけにはいかないのでしょうが、「キャリア」と名付けるからには1企業知識や情報だけでなく、参加学生が職業教育として何らかの啓蒙を受けることが望ましいと思います。

空中戦、地上戦、協定に主義主張、そして溢れたモノと情報の戦後処理・・・、まさに就職活動は戦争ですね。戦う学生も採用担当者もタフに生き抜いていかなければなりませんね。

 

第58号:某野球選手の就職活動

プロ野球のリーグ統一問題が今年は大きな社会ニュースになっておりました。企業の採用担当者からみていても、「あれは経営者(オーナー)と労働組合(選手会)の問題だよね。」と外野から言いたい放題のヤジを飛ばしておりましたが、実際に裁判所の判断まで求められましたね。さて、リーグの統一問題は楽天の参入決定により一段落致しましたが、その楽天への就職が決まった某選手の最近の発言も採用担当者では話題になっております。

某選手についてはご説明するまでもなく、プロ球団からの金銭授受問題で話題になった有名大学のエースですが、いろいろあった末、無事(?)に新球団の楽天に就職が内定致しましたね。採用担当者で話題になっているのは、彼の発言内容の変化が一般の学生の就職活動での選考プロセスでの発言と全く同じだね、ということです。ちょっと彼の最近の発言を、採用担当者との会話風に書いてみましょう。

▼面接時:

採用担当者「まず志望動機をお話下さい。」

選手君「いろいろありまして野球をあきらめるつもりでしたが、新興企業である御社で活躍して恩返ししたいと思います。是非、貴社に入社(入団)したいです。」

▼内定者面談時:

採用担当者「君は5年後、10年後にどんなキャリアを描きたいの?」

選手君「小さいころから日本で活躍し、メジャーリーグに挑戦するというのが夢でした。貴社で結果を残してメジャーリーグに挑戦できたらいいと思っています。」

採用担当者「え?うちの会社で一生、頑張ってくれるんじゃないの?」

選手君「夢にウソつくわけにはいきません。」

同席の三木谷社長「男だったら世界を目指せ。オレたちはそれよりも魅力ある球団を作る。大リーグでそこそこやるより、このチームで歴史を作ろう!」

*この会話は、半フィクションです。 (^_^;

まあ、彼もフツーの大学生だったということでしょうね。内定を取ったら強いです。ただ、できれば早く大人になって、マナー(というかタテマエというか)も覚えて欲しいと思います。イチロー選手・松井選手ほどの人格者になれなくても、大リーグで活躍したいなら日本を代表する心構えで(今なら在籍大学を代表するような心構えで)礼儀とスマートさを身につけて欲しいものです。新庄選手も言いたいことを言いますが、ジョークとタイミングをよくわかっていると思います。

大リーグ志望というキャリアプランは素晴らしいことですが、彼の会話を聞いていると、「就職活動でよく見る『ホンネ信奉』の自分に忠実な学生のようだね。」と、採用担当者の飲み会で苦笑しておりました。