先日の新聞で「大卒後3年は新卒扱いを」という提言を日本学術会議がまとめたという記事を見て、学術会議とあろうものが、そのような単純不毛な提言をするとは・・・と唖然と致しました。念のため、原典に当たってみたところ、確かに最終的な提案にはそのような内容は書かれておりますが、全体(かなりのボリュームです)を見てみると、今回の回答書はなかなか良く書かれたものだとわかりました。マスコミの単純な言説に惑わされてはいけませんね。(原典にあたるというのは大学で学んだ社会で通用する実力です。)
「大卒後3年は新卒扱いを」という記事は、今回の回答書がまとまる前(3月)にも報告書案として報道されておりましたが、多くの採用担当者からは「またまた自己改革を棚に上げた学者さんの企業への要求か」と思われたのではないかと思います。しかしながら、今回の回答書では大学・企業・学生の課題をかなり客観的かつ現実的にまとめていると思います。「戦後の経済社会の構造的な変化からその将来展望を踏まえて、なおかつ現在の就職活動と採用活動の実態まで含めて論じた例は、学術会議においてはもちろんのこと、他の団体を見渡しても今回が初めて試みではないかと思われる。」と自負しているのも間違いないでしょう。そもそも、この回答書のタイトルが「大学教育の分野別保証の在り方について」という自己批判的なものなのですから、報道の中心が「大卒後3年は新卒扱いを」と書く方が理解不足です。この回答書の中では、そうした企業への要求や規制は現実的でないことも、大卒後3年位は大学側の就職支援が必要であるということもちゃんと書かれています。
しかし、百歩譲って採用担当者が「大卒後3年は新卒扱いを」という提言を受け入れるためには、かつての受験戦争時代の浪人生のように、若者は時間が経てば何らかの形で成長・学習するという前提が必要です。企業は基本的に営利団体なのですから福祉や社会貢献のために雇用を行うことは、よほど余裕のある時代にしかありえません。政治家も「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と訴えますが、雇用政策が経済を盛り上げることはまずありえません。事業見通しが未定のままに、まず人材(それも即戦力にならない新卒)を雇用してから考えるという経営者が居たら、採用担当者は不況でも仕事があって嬉しい(怖い)です。話は逆で、景気の良い企業はいつも人手不足で雇用は自然に生まれています。
せっかく力の入った回答書がまとまったのですから、マスコミの企業批判や政治の道具にして欲しくはないものです。この回答書がどのような形で政策になってくるのか、注意深くみていきたいと思います。採用担当者だって、大卒後3年間成長し続ける人材なら大歓迎ですからね。
*参考URL
▼大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会:
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/daigaku/
▼報告「大学教育の分野別質保証の在り方について」:
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-k100-1.pdf