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第167号:政府の「若年雇用対策プロジェクトチーム」

就職支援関係者には周知の通り、若年者の雇用対策を検討する政府のプロジェクトチームが麻生総理の肝煎りで7月末に緊急に立ち上げられ、その骨子案(若年層に対する重点雇用対策)が8月13日に発表になりました。企業の採用活動が2011年卒業者向けに移行しつつあるなかで、どこまで実行性があるかはわかりませんが、この対策のスピード感は好ましいです。採用担当者の視点からこれらの対策について見てみましょう

 

■若年者雇用対策の骨子

・専門相談員による継続的な就職支援

・省庁横断による就職支援専門組織「新卒者緊急支援チーム」の設置

・官民連携の就職支援組織「若者雇用推進会議(仮称)」の設置

・医療、介護、保育など成長分野への若年雇用促進

・企業側に通年採用と就職採用活動の早期化見直しを呼びかけ

 

これらの対策を俯瞰してすぐに気づくのは、新卒採用とフリーター&ニートの対策の両方が盛り込まれている点です。まさか2010年卒業生が内定できずフリーター&ニートになった場合まで想定しているわけではないでしょうが、この二つの分野は相当に対策が異なると思われますので、しっかり区別することが大事ではないかと思います。特に今、“緊急”対策と謳うならば、新卒採用にもっと集中すべきだと思います。例えば、フリーター&ニートの方々には本人に対するカウンセリングが重要ですが、新卒採用の場合は学生よりも企業採用担当者へのアプローチ(求人開拓)をより重視すべきだと思いますし、フリーター&ニートになった場合のデメリットの知識を正しく教えるような指導の方が効果的だと思います。

また2010年卒業生にとって、将来の成長分野における(未来の)雇用創出では間に合いません。勿論、それは進めるべきことですが、今必要なのは既にそこにある雇用とのマッチング支援です。具体的には、2010年新卒を対象に採用選考活動を行う企業に対して補助金を支給することです。例えば、全国の中小企業を対象に、首都圏での就職セミナー会場を斡旋したり、その広告宣伝費・交通費(採用担当者の都心への出張)を支給したり、少しでも採用担当者のコストを軽減させることです。大学側もこうしたセミナーに会場を提供する等、協力できることはあるでしょう。

 

この骨子案は、かなり具体的なところまでよく考えられていると思いますが、就職支援側の視点だけではなく、採用担当者側からの視点ももう少し加えて欲しいと思いました。今月末にはこの骨子案が取組開始になるそうですが、期待をもって見ていきたいと思います。

 

▼参考URL:

「若年雇用対策プロジェクトチーム」について(内閣府)

http://www5.cao.go.jp/keizai1/2009/0730jakunenkoyou.html

「若年層に対する重点雇用対策(骨子案)」(内閣府)2009年8月13日

http://www5.cao.go.jp/keizai1/2009/0302shiryou2.pdf

 

第166号:大学生研究フォーラム2009から

去る7月25~26日に、京都大学高等教育研究開発推進センターと電通育英会の共催で『大学生研究フォーラム2009』というセミナーが開催されました。私も大学で非常勤講師をする身であり、また企業採用の視点でも興味があって参加して参りました。

 

フォーラムの参加者は、キャリア教育やFDに関わる大学教員、教育センターやキャリアセンターの大学職員、そしてこの分野の研究者と企業の人材開発系の方々、在野の実務家(NPOが多い)が主でした。

今回のテーマのひとつは、「大学生の何が育っていて、何が育っていないのか?」というもので、大学のキャリア教育で学生は何を学び、そしてそれが社会に役立つのか?ということが、研究者の報告とともに各大学の事例やパネルディスカッションで討議されました。

 

議論は「学力志向」と「対人志向」についてが中心で、労働政策研究・研修機構の研究員の方の報告では、この二つの志向性の高い学生は、就職活動において第一希望の企業に決定する可能性が高いということでした。聴いていて、なるほどと思う点もあり、当たり前だなと思う点もありましたが、こうした研究は大学生の学びがどのように社会で活きるか、就職活動につながるのか、ということにもつながり重要なものだと思いました。採用担当者の流行言葉で言えば、「地頭」と「コミュニケーション力」ですね。

 

私が個人的に非常に感銘を受けたのは、弘前大学の先生のご報告です。ここで詳細はご紹介できませんが、要するに予習・復習をしっかりさせて(予習しないと授業に出席させない、図書館で文献を見るのを必須にする)、学問への関心と意欲を自然と高めるということです。授業重視で教育の本筋をしっかり極めていると思いました。

この授業を受けた学生自身からもここで何を学んだかという報告がありましたが、この回答を聴いていて、思わず内定を出したくなりました。知識が問題ではありません。学習の重要さと意志決定がしっかりできているのです。これこそが一番の就職活動ではないでしょうか。

 

さて、今回のフォーラムで残念に感じることがありました。それは、この会場に企業採用担当者が殆ど居ないことです。「大学生の何が育っていて、何が育っていないのか?」を考えるのなら、それを一番良く見ている採用担当者を引っ張り出してくるべきでしょう。企業側も大学の授業に対してもっと関心を持つべきだと思います。これが日本のキャリア教育の一番の問題なのかもしれませんね。

 

▼参考URL:

「大学生研究フォーラム2009」

https://www.dentsu-ikueikai.or.jp/forum/

第165号:経費削減に走る採用担当者

この不景気は採用担当者の活動にも大きく影響しています。経費削減3K(交通費・広告費・交際費)が仕事の中心ですから。いま採用担当者は文字通り身を削る思いで経費を削減しています。しかし、経費を削減するということは仕事も削減されることになるので、結果的に学生の就職状況悪化につながってしまいます。

 

3K費用のそれぞれについて、採用担当者は以下のような経費削減を行っています。

▼交通費

採用担当者自身が地方に出張する回数を減らします。そのため、大学訪問も効率の良い大都市圏に絞り、地方の大学は避けていきます。悩ましいのは、大都市圏でもちょっと都心から離れたキャンパスです。東京から関西へ出張する採用担当者が、京都大学・大阪大学を回った後に、神戸大学に行かずに市内の私立大学を回るというようなことがあります。

もう一つは、採用選考についての学生交通費の支給を止めることです。景気が良いときには企業セミナーや一次選考から交通費を出す企業もありますが、その支給開始時期を二次選考以降(人事部長面接あたりから)にする、または全額停止する、ということになります。学生にとって評判が悪くなるので、交通費のかかる大学からは募集しないということもあります。

▼広告費

採用関係で使う広告費は、会社案内冊子・ビデオの作成やDM発送等ですが、これも経費削減の対象になりやすいです。冊子やビデオの改訂をやめて昨年と同じものを使ったり、プレゼンテーション・ツールも自前で作ったり、ビデオ撮影もハンディビデオカメラを片手に採用担当者自身が取材に行って原稿を書いたりします。こういった作業はプロの業者に任せた方が楽で綺麗なものができるのですが、背に腹は代えられません。

今の広告の主軸メディアはインターネットですが、これはなかなか止めるわけにはいきません。というのは、インターネットは広告宣伝というよりは、セミナー受付機能・応募者連絡管理機能として使われる方が多くなりましたから。また、インターネットでの広告は効果が測定しやすいので、マスメディアの広告より費用対効果が見えやすいです。

▼交際費

採用担当者が使う交際費というのは、大学訪問をする際の教授への手土産や、学生と懇親会をしたときの飲食代等ですが、これはそれほど多くはありません。接待交際費には税金がかかるので、低額の会議費にするという工夫は、大学の皆さんと同じかもしれませんね。

 

こうした費用削減努力は大変ですが、採用活動にはイニシャルコスト(初期費用)がかかるので、10人採用するのも100人採用するのもあまり予算は変わらないことがあります。(インターネットの就職サイトの費用は採用人数に応じて決まるのではなく利用するかしないかで決まるものが殆どです。)そういった事情を知らない経営トップから「採用数を半分にするから費用も半分で済むな!」と言われると思わずため息が出ます。「いっそ、採用ゼロにしてくれ!」と言いたくなりますが、そうなると「採用担当者も不要だな!」と恐ろしい返事をもらいそうです。早く景気が回復して欲しいものですね。採用担当者の雇用政策として国の支援を望みたいところです。

第164号:「新卒就職戦線総括」から

今週発売された週刊ダイヤモンドの特集に「新卒就職戦線総括」が掲載されています。今年の就職戦線の問題点をなかなか公平に指摘しておりますのでご参考になると思います。その中でいくつか気の付いた点をあげてコメントしたいと思います。

 

▼企業の問題:

「年末には内定を出し始めるテレビ局や外資系金融の狼藉ぶりも相変わらずだ。」

年末の寒い中、テレビ局の前に長蛇の列を作る大学3年生の状況を何故、報道しないのでしょう。今回の不況は、学生・大学・企業、それぞれに不毛な消費をもたらす就職・採用活動の早期化・長期化を本気で問題にして対処をすべきです。一部の識者が的確に指摘しているにもかかわらず、そういった声を大きくとりあげて欲しいと思います。何度でも言いたいと思います。

 

▼大学の問題:

「この10年大学はキャリア教育に力を入れてきたと“自己評価”しているが、・・・。」

大学におけるキャリア教育自体が未発達な状態ですが、大学が力を入れるべきは大学本来の授業を通じて高度な見識と実行力をもった人材を育成することでしょう。企業が求めるダントツ1位の「対人コミュニケーション力」は、ゼミ活動を工夫することで十分に養うことができます。それを行わずに、親に向けての就職説明会や下手な自己分析など行うのは本末転倒です。30年前の大学ならば、そういったノウハウが無くとも学生自身が考えて自己責任で行動したものですが、大学大衆化の現代では新たな手法が必要です。企業との連携によるプロジェクト・ベースの授業も結構ですが、企業の求める人材像などに迎合せず、企業に対して誇れる人材像を提案する矜持が欲しいです。

 

▼学生の問題:

「就職の厳しさを目の当たりにした今年の学生の多くは、早々に見切りをつけてしまったのである。」

今年の就職活動が本当に厳しいのはもう書くまでもありませんし、1年以上も就職活動を行っても内定の得られない学生には本当に同情します。しかし、あえてここで言いたいのは、今年内定した学生の共通点です。毎年この時期は就職活動を終えた多くの学生に体験談をヒアリングしており、「この急激な経済不況で大変だったでしょう?」と聞いてみると、内定を獲得した学生は全く同じ言葉を口にします。『確かに大変でしたが、環境のせいにしたくはないですからね。』

聞いていて思わず、膝を打ちたくなります。こうした学生は就職活動だけではなく、おそらく勉強やサークル活動やアルバイトにも同じ意識で取り組んでいることでしょう。

 

前回も書いた通り2010年卒学生の就職活動は終わったわけではなく、「総括」という言葉で締めくくる時期ではありませんが、こうした環境をしっかり受け止めて次のステップを踏み出したいものです。企業も大学も学生も。

 

*引用雑誌:「週刊ダイヤモンド(7月11日)28号」118頁

 

第163号:2010年卒を支援しよう

梅雨に入りました。夏休みが近付いてくるとサマーインターンシップの告知を始める企業が出てきます。夏休みは採用担当者にとって休息の時期だったのは何時の頃だったのかもう記憶の彼方となりました。しかし、まだまだ忘れてはならないのは、2010年卒業の学生達です。今シーズンの就職戦線の厳しさは、個人の努力だけでカバーできるようなものではありません。企業も大学も連携して支援すべきです。

 

既にいくつかの企業は既に2010年卒の採用活動に見切りをつけて、2011年卒への対応を初めています。だんだんと底が見えてきたこの経済不況とはいえ、2010年卒の採用活動については追加募集を出すほどの判断ができないのが多くの企業の本音でしょう。追加募集を出すには、もう少し実需での景気回復が欲しいところで、それは下半期(10月以降)の経営判断になるのが普通です。

 

経営判断に加えてもう一つ、採用担当者が追加募集をする時にキーとなるのは採用活動の予算です。上半期(4~9月)については仮に追加募集の採用枠が残っていても、採用活動にかける予算が無く、思うように動けない企業があります。周知のとおり、採用活動にかかる費用で大きいのは、募集にかける広告宣伝費と地方への旅費交通費です。緊縮状態にある企業ではこれらが今、バッサリ切られていて身動きができません。

 

こんな時に頼るのは皆様方、大学就職課ですね。少数の採用数なら、懇意にしている大学に対して求人票や自社での小規模セミナーの案内を送ったり、直接電話で学生の紹介や推薦を依頼したりします。

しかし、それもなかなか手間暇もかかりますし、肝心の就職活動を継続中の学生が大学(就職課)に来なければ話になりません。

 

そんな中で、先日報道された明治・法政・中央・日本女子大学の4大学による「スクラム合同説明会」は素晴らしい企画だと思います。4年生に対してこの時期にこうした大規模なセミナーは、なかなか開催されるものではありませんし、規模の大きさは学生と企業のマッチングに効果が大きくなります。

 

国としても、こうしたイベントには緊急に予算を振り向けて支援すべきだと思います。現状のまま2010年卒の学生を放っておいては、大量の大卒フリーターを生み出しかねません。新卒就職で正規社員として就職できないと、その後のキャリア形成に不利になることは既に多くの研究からも明らかにされていることですし、日本の大きな損失です。こうした不況期こそ、日本人独特の助け合いの精神であたりたいものです。

 

 

第162号:貴方を採用する理由が欲しい

今シーズンは応募者増加に反して採用数激減という買い手市場になったため、採用担当者側も選考合格を出すにはかなり迷います。例年に比べて、最終面接で不合格になる応募者が増加しているようですが、これはそれだけ人事部が迷っているということでしょう。採用選考の裏側からこの辺の事情を考えてみます。

 

多くの企業では採用面接が終わったその日のうちにミーティングを行い、各面接者が選考した学生の評価を話し合い、次の選考に呼び出す学生を絞り込む作業を行います。面接の印象というのは意外と早く忘れてしまうもので、当日のうちに確認しておかなければなりませんし、有望な学生は早く選考を進めたいという気持ちもあります。このミーティングでは、面接者は自分が選考進めたい(合格を出したい)学生の何処が良いのかを他の採用担当者に説明しなければなりません。その説明はまちまちですが、何故、その応募者が有望なのかしっかりした理由が無ければ、採用面接者としての資質を問われてしまいます。

こうして二次面接に呼び出す学生のリストができあがり、上位の選考者が面接を行いますが、その結果は下位の採用担当者にフィードバックされ、自分の選考基準を見直したり、上位選考者と意見交換をしたりします。こうしたプロセスを経て、採用担当者は徐々に自分の選考基準を身に付けていくのですが、上位の考課者に合わせていくか、それとも自分の選考基準を貫いていくかは、企業のカラーや採用担当者の性格にも左右されます。

 

いずれにしても面接を担当した採用担当者にとっては、その学生を何故採用するのか、という理由が明らかな応募者は助かります。ですので、実際に「当社が貴方を採用するメリットは何ですか?」とストレートに質問してくる面接者も居ります。

(逆に「不合格の理由が明らかな学生の面接の方が楽で助かる。」とひそかに考えている採用担当者も居ります。)

 

ですから、学生の方に知っておいて欲しいのは、目の前の採用担当者が求めているのは、他の採用担当者を説得するのに有望な理由だということです。それを簡潔に伝えて欲しいと思います。

視点を変えれば、如何に目の前の採用担当者を自分の味方にするかを考えて欲しいということですね。面白いもので、採用担当者は自分が合格を出した応募者についてはつい心情が入り、味方になることが多いものです。というのは、自分が合格を出したということは、自分の判断基準を上位考課者に仰ぐということですから、その応募者は採用担当者の分身のようなものです。

 

というわけで、今シーズン、最終面接でかなり不合格になるということは、その前の人事部の選考で合格判定が多く出ているということです。人事部でも絞りきれず、おそらく紙一重の最終判断が出ているのだと思います。

 

第161号:「覚悟」を求める採用担当者

企業の採用活動は時代や景気の変化に敏感に影響されます。特に今年のような売り手市場から買い手市場への急速な転換が起きると選考ハードルが上がり、面接の方法・形式・質問内容が変わってきたようです。その傾向をいくつか見てみましょう。

 

まずは採用選考(面接)の形式です。今シーズンの大きな特長は、グループ面接(複数の学生と複数の面接者)の増加です。これまでグループ面接というと、一般事務職の一次選考で使われることが多く、総合職については1対1の個別面接の方が多数を占めていました。ところが今シーズンは、総合職でも最初からグループ面接を行い、中には最終面接までグループ面接を行う企業まで出てきました。

その背景には、以下のような理由があげられます。

・採用数が減少し応募者増加したので、選考の効率をあげるため

・KY学生を見抜く(回りのペースを見ながら話のできる学生を求める)

・学生が自然に自分の選考結果を感じ取れる(不合格の場合に納得できる)

 

次に質問内容ですが、前回も触れた通り、ここ数年で自己PR(大学時代に頑張ったこと)を行動実績とともに聴くいわゆる「コンピテンシー面接」が主流になりましたが、今年はこれに加えて改めて志望動機を深く聴く企業が増加してきました。それが人事部長面接・最終選考において不合格になる学生が急増している理由です。最終選考で採用決定権を持った役職者が最も聴くのは志望動機と入社後の夢(キャリアプラン)で、それが自社の方向性と合っているか、本気度・覚悟を感じられるかです。その質問の仕方も、かつては「当社は第一希望ですか?」という単純な質問から、「貴方の企業選択基準をお話し下さい。」と第一希望の根拠まで深く聴くようになってきました。

これまで面接を企業広報の有力メディアとして活用してきた企業も、覚悟をもって方針変更を行っているようです。

 

こうした採用担当者側の急変化に対して、学生側の対応は十分ではありませんでした。志望動機が弱い学生の主な原因は、企業取材を自分で行っていないからだと思われます。自己PRは自分の材料を自分のペースで書けるのに対し、志望動機はまずその企業の材料(データ)を仕入れる必要があり、手間暇がかかります。そのため、学生はインターネットやセミナーのような手っ取り早く情報を得られるものから志望動機を考えがちですので、結果的に志望動機が似てきてしまいます。企業がOB訪問を勧めるのは、自社をよく理解して説得力のある志望動機で熱意を示して欲しいという気持ちの現れでしょう。(実際、そういった行動的な学生は内定獲得率が高いです。)

 

採用担当者の面接の傾向の変化は、テクニック本にもよく現れています。今、店頭に並んでいる多くの書籍は売り手市場の頃に書かれた(学生への丁寧な対応を勧める)ものなので、厳選採用に対するものはまだ殆どありません。少し前は「採用氷河期」という本が販売になったばかりですから、今回の変化が如何に速かったかを物語っており、著者(出版社)も泣いていることでしょう。バブル崩壊後に書かれた本がまた売れるかもしれませんね。

 

第160号:就職活動リターンマッチ

メディア各社から就職内定状況の速報が出始め、今シーズンの厳しい実態が明らかになってきました。4月末でのダイヤモンド・ビッグ&リード社の調べでは、内定獲得者は32.4%であり、昨年同時期が45.5%だったのに比べると約2/3という落ち込み方です。例年であれば、「まだまだ先は長いですから心配ありません。多くの企業が募集活動を行っています。」と言いながら学生のお尻を叩くところですが、相当に気を引き締めて行う必要がありそうです。

 

今シーズンの異変を示すもう一つの数値は、セミナー(企業説明会)や筆記試験への参加率と通過率です。同じくダイヤモンド・ビッグ&リード社の調べによると、セミナー参加から一次選考まで進めた応募者の状況は下記の通りです。

◆現在の就活進行状況は?  ( )は09卒調査

セミナー・説明会参加まで・・・ 76.6% (45.7%)

筆記・適性テストまで  ・・・ 74.2% (47.8%)

一次面接まで      ・・・ 74.7% (59.2%)

このように、学生は昨年よりも相当に活発に動いているにもかかわらず、結果は非常に厳しいです。もう少し詳細のデータ分析をしてみないと確かなことは申し上げられませんが、私が就職相談や模擬面接で感じているのは、学生の思考(指向)がかなり単純化・画一化していることです。国際経済の低迷により、内需関連(インフラ系・食品系 etc.)を志望する学生が急増し、その志望動機も「環境」「規模」「安定性」等、酷似しており、個性が見えません。例えば太陽電池という国家プロジェクトとしても脚光を浴びる企業を例にすると、その企業が太陽電池を扱う企業の事業規模(人員数)を詳しく調べると、とても多くの新卒採用はあり得ないのに殆どの学生が志望し、また太陽電池にかかわる企業は中小多くあるのを知らず、大手2~3社に学生の志望が偏っているように感じます。

 

その結果、採用担当者の意見を聞いても今年の面接不合格の理由は「志望動機が甘い」というものが増えてきました。昨年までは、形ばかりで聴いていた「志望動機を重視」してきたということは、これまで代表的な質問だった「学生時代にもっとも頑張ったこと」だけでは合格ラインに達しなくなってきたということです。更に、それが当社にどのように活かせるのか、どこまで本気なのか?という「覚悟」まで求めるようになってきたということでしょう。

 

こういった状況になると、学生の就職指導のポイントも、面接テクニックだけでは片付かなくなってきました。今月は、久しぶりの企画ですが神戸大学で就職リターンマッチを行います。ここ数年、必要なかった企画なのですが、ここにきて面接に通らない学生が急増したために、継続採用活動をしている企業の採用担当者を招き、リアルな模擬面接をしながら志望動機を厳しく指導するというスパルタ式です。同時に、もし良い学生が居たら企業の方にそのまま連れて行って戴いたり、逆に学生から積極的に自分を売り込んで貰ったりする企画です。このような企業開拓まで含めた就職支援をしていかないと、2010年卒業の学生のキャリアが危ぶまれます。公的機関のハローワークと同様、待っていて企業が求人を送ってくれる時代ではなくなってきたのですから、リターンマッチはすぐに始めるべきだと思います。

 

第159号:過去最長の就職活動?

大手企業からの内定が出始めて、長かった就職活動にやっとピリオドをうてる学生が出たかと思えば、ESの選考と同様に、まったく結果の出ない学生もおります。これまで言われてきたとおり、今シーズンは本当に厳しい状況ですが、例年なら内定の取れる中堅層の学生が苦戦しているのは大変なことです。今シーズンの学生は、過去最長の就職活動になるかもしれません。

 

世界の経済助教がまだまだ不透明なため、企業の採用活動はどうしても慎重にならざるをえず、採用担当者にとってはなんとも力が入りません。いつもならせっせと面接を行っては、ライバル企業に逃げられないように内定者の入社意志を確認しつつ、「採用予定数まであと何人・・・」と神経をすり減らして皮算用を行っているはずなのですが、今年は経営者から「無理をするな」と言われるような状態です。内定をとった学生の就職活動体験談を聞いていても、採用担当者から「しばらく待ちますので、じっくり考えて入社意志をお伝え下さい。」というコメントを貰ったなどと、内定者を絶対囲い込もうという温度が低いようです。

 

欧米経済の先行きが見えない以上、これから企業の採用活動もしばらく停滞するでしょう。4月になって新しい期に入りましたが、上期(4~9月)の採用予算は既に相当削られていますから。実際、電車の吊り広告の求人情報も激減してきましたし、大学に掲示される合同説明会の参加企業の顔ぶれも元気が無い感じです。

この状況が改善されるタイミングがあるとすれば、下期(10月以降)ではないかと思います。仮に経済が好転しても、採用活動を再開させるには予算を確保したうえで集団形成等の準備が必要になりますので。

(これだけ採用数が絞られていますので、私見ですが、秋以降になって人員計画が見えてきたところで、追加採用に動く企業が意外と出てくる気がしています。以前にも書いたとおり、現在の求人予定数は現実の人員計画を織り込んで決められたものではなく、絞るだけ絞り込んだ数ですから。)

 

ということで、この春に内定を得られない学生にとっては、夏休みをはさんで秋まで就職活動が続くことになりそうです。今シーズンも当初は超早期化でスタートしましたから、3年の6月頃からインターンシップ向けのエントリーシートや面接を行ってきた学生にとっては、実に1年半も就職活動をすることになります。学生にとっては、マラソンの終盤になっていきなりゴールが逃げてしまった状態で、精神的に相当きびしいでしょう。就職指導をするときには、「諦めずに頑張れ!」というべきか、「思い切って休め!」というべきか迷うところですね。

 

 

 

第158号:「新卒自宅待機」について

3月末に突然、内定取り消しや自宅待機(自宅研修)を企業側から伝えられて当惑している新入社員(まだ内定者?)が増えています。内定取り消しの不安を越えてようやく新社会人としての入社時期となったのに、今シーズンは本当に予期せぬ出来事が多いです。採用担当者にとっても慣れないことですが、この「自宅待機」というのがこんな形で使われたのはあまり記憶にありません。

 

これまでも大学卒業時期と入社時期がずれているというケースはいくつかあります。キャビンアテンダントのように採用募集時期にその内容を公示しているところもあれば、外資系企業のように、採用選考の過程において「いつ頃入社希望ですか?」と確認することもあります。(外資系企業の場合はそもそも卒業後に就職活動を始めることが多い。)なので、これらは厳密には自宅待機とは言いません。

 

「自宅待機」とは不況等によって正社員に仕事が無く、経営者から休業を命じられたことを言い、その場合には最低、賃金の6割が支給されます(労基法26条)。今回の新卒入社については、このケースを準用したものでしょう。自宅待機中に6~8割の賃金を支払うとしているところが多いです。

しかしここで注意しておきたいのは、その「自宅待機」が正社員として採用したうえで(社員としての身分を認めたうえで)支払っているかどうかです。入社時期の延期なのか、入社してからの「自宅待機」のどちらか?ということです。報道された事例を見ていると、入社時期を半年遅らせるだけではなく、半年後の入社も確約されずに曖昧な表現をしている企業があります。自宅待機になっていても、その賃金から社会保険がちゃんと支払われているかも確認すべきでしょう。

 

さて、こういった「新卒自宅待機」が起きた企業側の事情はどんなものでしょうか?

不況で当初の事業計画が変わり新卒の配属先が無くなってしまった場合、まずは4月に正社員として受け入れて、「現場実習」と称して工場の生産現場や販売現場に送り込んで一時期的に仕事をして貰うことが多いです。その期間中に景気の改善を期待して徐々に配属先を決めていくのです。ところが、今回の不況は派遣・請負社員を停止して正社員にその仕事を回しており、新卒に回せる仕事が無いという状態です。それに新卒社員の場合はすぐに仕事ができるわけではなく最低限の研修も必要ですので、言葉は悪いですが、必死に働く正社員の「足手まとい」になり生産効率を下げることになりかねません。正社員でさえ慣れない仕事に異動されて精一杯の状況なのですから。

 

余裕のある企業では、新人を現場から隔離して研修所にまとめてじっくり研修することもできますが、その場合は100%の賃金と追加の研修費用が発生します。そのため、採用担当者も断腸の思いで「自宅待機」を言い渡しているのでしょう。

 

内定取り消しのことでも同様ですが、こういった時世になると改めて新卒学生にも最低限の法律知識を教える必要があると思います。自由と自己責任の時代の労働者とはそういうことであり、それに合わせた就職支援が必要になると思います。大学を卒業されて一安心と思ったら、「自宅待機」について相談し来る学生がいたら、卒業生はサポート外と考えずに暖かくご支援下さい。