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第127号:企業の採用本気度、学生の志望本気度

今年の採用戦線の過熱ぶりは本当に凄いですね。いよいよTVにまで新卒採用のCMが登場してきました。人材紹介業者のCMが初めてTVに流れた時にも驚きましたが、今の採用戦略は資金力(広告宣伝費)が成功を左右しそうです。そうなると、ますます苦しいのが中小企業です。今年は大手企業が相当の予算と人員(採用担当者以外のリクルーター)を導入してきているので、手詰まり感があります。そのため、今季は例年より多くの中小企業が大学就職課・キャリアセンターの皆さんのところへ訪問されているのではないでしょうか?

 

就職ガイダンスで地方の大学にお伺いするとき、いつも拝見しているのは就職課に掲示されている求人票です。どんな企業がその大学に求人に来ているのかは興味深いです。その多くは地場産業のものですが、遠く都心から地方の大学にまで求人を出されていることも珍しくありません。特に最近は、中小企業の採用担当者の多くが首都圏での厳しい競争を避けて地方に活路を見出そうとしているのでしょう。(しかし、最近はそちらにも大手企業から求人が送られていて苦戦しています。)

 

大学の求人掲示をよく見ていると、『来訪企業』等のシールや印が押されているものがあります。求人票を送るだけではなく、採用担当者がその大学を訪問されたことを示しているのですね。学生に対してどれだけのアピール効果があるのかはわかりませんが、少なくとも機械的に求人票を送っている企業とは区別されるでしょう。そうやって企業の採用本気度を支援してくれる大学は有り難いことです。

 

企業側でも、学生の志望本気度は知りたいところです。今は売り手市場になったのでやや陰を潜めた感じがありますが、何人のOB/OG訪問をしたか、何回ホームページを訪問して記事を読んだか、で学生の熱意を測ろうとする企業もあります。実際、面接していて、「御社が第一希望です!」と言われるよりは、「御社の社員、10人に会いました。」という学生さんの方が信じられますしね。営業活動と同じですが、一番わかりやすい熱意の表し方はやはり行動実績なのでしょう。

 

今年も押し詰まって参りました。多くの大学が冬期休暇に入られると思いますが、来年の皆様のご活躍とご健勝をお祈り致します。どうぞ良いお年をお迎え下さいませ。

 

 

第126号:採用活動に関する大学との共同研究-2

昨年もお伝えしましたが、今年も企業の人事労務管理を研究している大学のゼミ学生と採用活動に関する共同研究を行っております。そのシーズンに顕著に見られる傾向を課題として選び出しているのですが、今年は「内定辞退者の増加の原因」というテーマです。企業採用担当者側だけではなく、大学職員側にも悩ましい問題ですね。

 

このテーマを選んだのは、買い手市場から売り手市場への変化により求職者(学生)が有利になり、多くの内定を獲得するだろう、そしてそれだけ内定辞退数も増えるのではないか、という仮説からです。大手就職情報企業による企業のアンケート調査でも内定辞退数がここ数年で増加しているとの回答結果が出ています。

しかしながら、すべての学生が就職活動を楽観視しているかというと、そうではありません。内定を数多く獲得出来る学生と出来ない学生、いわゆる学生の質の二極化があります。今回の研究では、内定辞退の増加という現象が、どのような学生のどのような考えや行動から引き起こされるのかを明らかにすることが狙いです。そして、特に内定辞退が多いだろうと予想される中堅企業の採用戦略に対する提言を考え出すのが目的です。

 

ところが、先日とある訪問先から厳しい言葉を戴きました。

「この研究では中堅企業を対象にしているとのことですが、そうは言っても研究をしている学生さんもやっぱり大企業に入るんですよね?」

確かにそのとおりで、返す言葉がありませんでした。

 

これは日本の大学生の特長と言えるかもしれませんが、大学で学んだことを直接活かす企業や分野に就職する方が少ないでしょう。人事を研究している学生が人事を必ずしも希望しませんし、ベンチャー企業を研究している学生は殆どベンチャー企業には入社しません。多くの学生がいわゆる就社に近い感覚で就職を決めていることでしょう。また企業側も、大学生の勉強を選考基準で最重要と考えているわけではありません。全く米国とは正反対のことです。

 

ともあれ、内定辞退という学生・企業そして大学の3者に大きな負担となるこの現象を明らかにして、少しでも社会に役立つような知見を提供できれば幸いです。(研究成果については、また後日こちらでご報告したいと思います。)

 

▼アンケートのお願い:

この研究ではフィールドワーク(企業を訪問しての取材調査)による定性調査と、Webアンケートによる定量調査を行っておりますが、今年は学生側の意識変化も重要なので学生および大学就職課(キャリアセンター)への取材調査も行っております。お手数ですが、このメールマガジンをご覧になっている大学職員の方にも下記アンケートにご協力戴ければ幸いです。(5分で終わります。)

ご回答戴きました方には、集計結果報告をお送り致します。

http://www.recruiter.jp/enqout02/modules/bmsurvey/survey.php?name=2007questionnaire02

 

第125号:リアルな出会いに苦労する採用担当者

この時期は大学での就職セミナーに伺うことが多いですが、キャンパスを歩いていて昨年との明らかな違うを感じることは、リクルート・スーツの学生を良く見かけることです。昨年であれば冬休みに入る頃が多かったのですが、今年は11月に入ってから急に増えてきたようです。

 

おそらくその背景にあるのは、企業主催のセミナーが本格的に始まってきたことでしょう。特にこの時期の企業の動きで目立つのは、1~4日間程度の短期インターンシップです。昨年までは大学授業期間中である11月にはあまり見られませんでした。前回、「場つなぎに苦労する採用担当者」と書きましたが、それがこのような形で現れているのですね。

 

10月に就職Webサイトがオープンして企業の応募者受付が始まると、かなりの母集団(初期応募者群)が形成できて順調な滑り出しだ、と喜ぶ採用担当者がここ数年は多かったのですが、その後の実際の採用選考に関わるセミナー(1月以降)になると応募者がやってこない、と顔色を変える方が増えてきています。そのため、”繋ぎ止めるためのセミナー”を開催しているわけですね。ネットでの出会いを、早くリアルなフェイス・トゥ・フェイスの出会いにして少しでも応募意欲を高めたいということでしょう。

 

更に現在、実施されている短期インターンシップを見ていると、比較的小規模でセミナーの目的が特定の分野や特定の学部・専攻に向けて特化しているものが増えています。この時期、あまり大規模なセミナーを開催しても大学の授業で参加できない学生が多いのと、やはりフェイス・トゥ・フェイスの出会いを濃くするためには小規模な方が望ましいからでしょう。そして、その小集団も特定の目的を持たせた方が、企業も学生も無駄がありません。

 

ただ、こういった状況となると、やはり大学の授業への影響が気になります。前回、こういったセミナーが社会人教育とかキャリア教育になりうると、半分冗談・半分本気で書きましたが、そのためには授業期間中に開催する企業セミナー類も何らかのガイドラインまたは規制が求められてきそうです。

学生が教室から消えるのが、春先だけでなく秋にまで及ぶとは何とも悩ましい課題です。

 

第124号:場つなぎに苦労する採用担当者

スタートダッシュで始まった今シーズンも学生達の動きをを見ていると、やや落ち着きをみせてきた感じが致します。なんと行ってもまだまだ先は長いですからね。しかし、企業側にはこれまでに無い変わった苦労が生まれているようです。夏のインターンシップや早期の企業セミナーでコンタクトした学生達をいかに繋ぎ止めるかということです。

 

この夏に開催されていた企業のインターンシップやセミナーを見ていて一つの傾向があるのは、自己分析・自己啓発系のセミナーや、ビジネスマナーやコミュニケーション・スキル、更にはビジネスのイロハのトレーニングが多くなっていることです。学生の感想を聴いてみると、「とても社会勉強になったし就職活動の参考になったけれど、肝心の企業のことはあまりわかりませんでした。」という声が意外と多いようです。学生にとっては不満ではないですが、ちょっと肩すかしを食らった印象ですね。

 

これには企業側の理由があります。昨年の苦労から早期に学生にコンタクトしたのは良いものの、さてそこで通常の詳細な企業セミナーを行ったら、次に行うのは採用選考しかありません。しかしながら、この時期に面接を行っても、さすがに1年半も先の内定を出せる企業はまずありません。それを出せるのはアナウンサーや外資系コンサルタントのようなごく小規模の特定職種採用だけでしょう。そのため本番の企業セミナーに入る前に、ウォーミング・アップのイベントやセミナーを行い、とりあえず企業名だけは認知して貰おうという作戦です。

 

しかし、相当な大企業でもない限り、そういったプログラムのバリエーションは多くありませんからネタに困って、私のような外部講師や研修会社にキャリアアップやコミュニケーション・スキルのセミナーの依頼が来たりします。最近は就職に関係の無い芸能人を呼んだりした講演会まで見かけます。かつて早期の企業セミナーをあえて「業界セミナー」と呼んでいた頃を思い出しますが、今は本当に業界・社会セミナーになっているわけですね。

 

よく考えると、これは企業負担でキャリア教育(社会人教育)を行っているわけです。企業にとっては負担増ですが、それは早期に学生に火を付けた自業自得ということでしょう。こういった傾向がいつまで続くのかは分かりませんが、学生も賢くそのような機会を活用して社会の見聞を広げてしまえば良いと思います。企業にとっては、せっかく投資した(囲い込んだ)学生は逃がしたくないと思うでしょうが、仮にご縁が無かったとしても、いま流行のCSR活動と思って頂ければと思います。

(いやはや、採用担当者の心労はいつまでたっても耐えません。)

 

第123号:裁判員制度の判決と採用担当者の評価

今、大きな注目を集めている日本の法制度の大改革である「裁判員制度」があります。これまでは職業裁判官のみの判断で判決・量刑が決まっていたわけですが、今後は一般市民が裁判員として判決を下すようになります。つい先月、全国でその模擬裁判が実施されたところ、同じケースであるにも関わらず、一般市民の判断には大きなバラツキが出てしまいました。実は、この状況は企業人事部の内部事情ととてもよく似ているのです。

 

今回の模擬面接は、架空の殺人事件をケースにして全国35カ所で実施されましたが、一般市民の判断は、無期懲役から懲役16年まで約7つに分かれてしまいました(最も多かった判決は懲役20年)。その判決が分かれた理由はいろいろあるようですが、最も大きなものは裁判員の量刑に対する「相場観」だそうです。プロである職業裁判官の場合は、ある事件のケースにおいて、「この事件ならこの位の量刑だろう・・・。」と他の判例を考慮しながら懲役を決めるのです。ところが、一般市民の場合は、その相場観が殆ど無いためにこのようなバラツキがでたようです。(ちなみに、模擬裁判の被告人の演技はあまり影響が無かったとのこと。)

 

さて、この状況と企業の採用面接が似ているのは、人事部の面接者は職業裁判官と同じく”プロ”であり、現場の社員が面接に加わる場合、これが一般の裁判員に当たることです。人事部の面接者は数多くの応募者に触れて、合格・不合格の結果まで見ており、ベテランになると応募者とちょっと話しただけで、すぐにその応募者が、内定・ボーダーライン・不合格のどの辺かと直感が働きます。つまり面接者としての「相場観」を持っているのです。

ところが、人事部から依頼されて面接に加わった経験の少ない一般社員にはこの相場観が無いので、やってきた応募者についての判断にバラツキが出がちです。その結果、現場面接者は不合格の判断をなかなか下せず、内定またはボーダーラインにすることが多くなります。(ここが人間の心理で、面接で不合格を出すというのは相当なプレッシャーなのです。)

 

そこを補強するのがプロである人事部の面接者なのです。一般社員の意見を聴きながら意見交換し、今の応募者が自社にとって希有な存在なのか、平均的な存在なのかという「相場観」を伝えながら最終的な判断を下します。しかしながら、人事部の面接者でも自分の知識や経験値の弱い分野、例えば文系人事部員が理系応募者を面接するような場合は、逆に人事面接者は一般社員の判断に引っ張られがちです。

 

採用選考では現場の求める人材を的確に判断することが大事なので、業界や企業の方針によって異なりますが、こういった人事部と現場社員の交流による採用判断は今後ますます増えてくると思われます。しかし、裁判員制度同様、人事部から面接を依頼された一般社員は相当なプレシャーでしょうね。たまに応募者より緊張している面接者が居たりします。こちらも模擬面接をやらないといけませんね・・・。

 

第122号:スタート・ダッシュで始まった09シーズン

後期授業が開講し、大学内での就職ガイダンスが本格的に始まりました。多くの大学で企業合同説明会や就職活動に関するセミナーが開催されていますが、今年は非常に、というよりも異常に学生の動きが早いように感じます。

 

例年、この時期には大学に呼ばれて自己分析や業界研究等のセミナーを行っております。既に数校回っていて驚いたのは、例年と比較して参加学生が異様に多いことです。若干増どころではなく、2倍・3倍となっており、余裕をもって用意したはずの会場に受講者が溢れて大学職員の方が慌てております。売り手市場と言われる中で、学生の動きがスローになるならわかりますが、何故この様な動きになっているのかはまだわかりませんが、いくつか要因を想像してみます。

 

  • 企業側の要因

・今年は企業の夏休みインターンシップが急増して学生に火を付けた。

⇒昨年と最も異なるのはこの点だと思います。学生と話していても夏のインターンシップに参加した学生が非常に増えています。

・インターンシップで仕事や企業の本質は理解していない

⇒今はOne-dayのような仮想的なインターンシップが多く、参加しても仕事の実態が理解されずに期待だけが膨らんでいます。(通常のインターンシップでは、現実を知って進路を考える学生も出ますが、最近はゲーム・イベント感覚で関心を高めるタイプが多くなっております。)

 

  • 学生側の要因

・マスコミやメディアに影響されやすくなり、周りと一緒でないと安心出来ない。

⇒IT環境の進化等により、情報が高速大量に流れて今の若者は非常にマスコミやメディアの情報に敏感であると同時に、自分独自の判断で動く学生が少なくなっているように見えます。これは昨年から急に変化したわけではなく、IT環境の進化は90年代後半から始まった来ていることですが、企業からの採用情報がシーズン前から準備万端、満を持して配信され始めたのは今シーズンからです。(昨年はまだ業界や企業によってムラがありました。)情報が長期間大量に流れると、多くの人間は画一化された意識と行動パターンをとるようになります。企業の採用担当者が広報活動に全力を尽くすようになったのも全く同じです。

 

さて、シーズンが始まったばかりの今、この動向が何処まで続くかわかりませんが、先日の大学での内定者による就職体験談の司会を行ったとき、ちょっと感動した学生(有名企業内定者)がおりました。

「私は留学のため、実質、1ヶ月間しか就職活動はできませんでした。」

留学自体はもう珍しくはありませんが、このセリフを自信をもって発言した学生が光って見えました。もしかすると、この学生に内定を出した採用担当者も私と同じ印象をもったのかもしれません。就職活動は、最終的に自分と他者の相違点をアピールすることなのですから。

 

第121号:改正雇用対策法の求人年齢制限禁止

この10月1日から施行された改正雇用対策法では、企業の募集・採用時の年齢制限の設定が禁止されました。米国では人種・性差別と同様に以前から法律で禁止されておりましたが、ようやく日本でも適用されたわけです。ところが、日本企業の雇用慣行の主流である新卒採用については例外として見送られ、新卒募集要項には応募資格に「××年卒業見込」という表記が許されています。

 

このような例外が認められたのは、今回の年齢制限禁止の狙いが中高年や30歳を超えた年長フリーターなどの就職機会を広げる点にあったためですが、新卒採用という日本独特の雇用慣行にはまだ社会的に合理性があるということなのでしょう。もしも、いま新卒採用に年齢制限が禁止されたら、学生と企業の双方にデメリットが生じます。

 

学生が卒業後いつでも企業に応募出来るようになると、既卒の方の経歴はかなり多様になるので面接選考にコスト(時間・手間)がかかります。実際、採用担当者で既卒(中途)採用に慣れている方もそうは多くありません。採用担当者も転職経験のある人の方が少ないですし、大企業では新卒と中途採用の担当者は完全に別になっていることも多いです。

 

もし、こういった現状を踏まえなずに新卒採用の年齢制限が撤廃されたなら、企業側に採用する意思がないのに採用される可能性があると考える応募者が増えてしまい、結果的に双方が無駄な労力を費やすことになります。法的な見地からは不公平なことですが、雇用機会均等法で女性差別が撤廃されても、未だに「一般職採用」が残っているのと同じです。(寧ろ、復活を喜ぶ学生・企業がある位です。)

 

しかし、それも時間の問題でしょう。というのは、少子化という人口構造が変化しない限り、企業はいずれ中途採用(年齢不問採用)に力を入れざるをえませんから変化は確実に進みます。既に、同じ既卒でも他社で良い職業経験のある「第二新卒」は人気の的になっており、水面下の奪い合いになっています。

 

あまりのんびりともしていられませんが、日本は欧米社会の短期契約関係とは違って長期信頼関係を重視する農耕型民族です。流血革命は苦手で世界からは遅れているように見られるかもしれませんが、雇用問題というのは民族の労働観や文化的な側面も大きく、優劣で語るものではないと思っています。

 

第120号:「学士力」と採用選考基準

去る9月10日に中央教育審議会の大学分科会小委員会から、採用担当者にとって嬉しいニュースが流れました。ご存知の方も居られるかと思いますが、大学卒業までに学生が最低限身につけるべき能力を「学士力」として定めて卒業認定を厳格に行うとのこと。これが本当に実現するなら画期的なことです。

 

ほぼ全入時代の現在、採用担当者にとっての大きな悩みは「採用基準に達する応募者の不足」です。散々、言われているようにこれは大学だけではなく、社会環境の変化・家庭の躾に始まる日本の大きな問題です。「学士力」の概要説明を見ると、「知識」「技能」「態度」「創造的思考力」の4分野13項目で構成されるそうですが、これはまさに企業の採用選考基準と同じです。

 

更に大学毎に成績評価の基準が設定され、卒業試験による「厳格」な認定が行われるとのことですが、もしこれが本当に出来たら、採用担当者にとっては応募者への大きな採用選考情報になります。大学の成績が採用選考に真面目に取り込まれるとは画期的なことです。

 

こういった記事が流れると、必ず「大学は就職予備校ではない。」「大学序列に繋がる!」等とおっしゃる教員がおられます。(一方で同じ先生が「企業は雇用責任を何と考え得ているか!」と批判されることがありますが、こんな矛盾した言い分はありません。そういう高貴な先生は俗世の就職率など気にしてはいけません。)

 

しかし、詳細はまだ知りませんが、企業採用担当者が期待する「学士力」とはセンター試験のような共通学力を求めるものではないと思います。それは入学時に確認しているはずですね。「学士力」は寧ろ、その大学が育成したい人物像に合わせて大学毎に個性化すべきものでしょう。それが大学のカラーにも繋がるものだと思います。基礎学力は入試で、卒業能力は学士力で評価です。

 

企業が学士力に協力できるとしたら、盛んになってきた寄付講座や(本当の)インターンシップで社会のニーズを伝えることでしょう。「学士力」が何処でどんな風に応用出来るか社会の窓を開けて見せることです。一部の採用担当者が誤解しているのは、「大学で学ぶのは勉強だけでは無い。」と言って大学教育を軽視することです。確かに「勉強だけ」ではないのですが、勉強が第一でないのは世界の大学教育・企業の採用選考基準から見ると不思議なところです。

 

政府が混沌としてしまっていて教育再生会議がどうなるか心配ではありますが、こういった取り組みがどう実現するか楽しみです。

 

 

第119号:大学内就職セミナー参加に苦労する無名企業

9月に入り、多くの企業では2009年卒業学生向けの具体的活動に動き始めました。前半戦(年内の活動)の活動の中心は企業広報で多くの母集団を形成することです。今は売り手市場になりましたので、企業も多くの予算をかけておりますが、なかなか苦労しているのが大学内で開催される就職セミナーへの参加です。

 

周知の通り、大学内で開催される就職セミナーを主催者別に整理してみると下記のタイプがあります。

・大学就職課(キャリアセンター)

・理工系就職担当部署

・就職には直接関係ない部署(生協、リエゾンオフィス、大学OB会等)

・公認学生団体(ゼミ、研究室等)

・未公認学生サークル(イベント、自己啓発系)

 

大学内での就職セミナーは、大学外で開催される就職業者の合同説明会と違って来場される学生の資質が一定であること、特定の研究分野に絞られていること、また費用も低価格・無料であること等が好まれ、企業の採用担当者は熱心に参加努力をしています。

しかし売り手市場になったいま、ここでも大学の二極化が進んでいるようです。いわゆる有名大学では無名の企業が大学内セミナーに参加を希望しても簡単には入れて貰えません。先日、とある企業(なかなか業績も良いが無名の新興中堅企業)の採用担当者が某有名大学の就職担当者に大学内就職セミナーへの参加を申し込んだ所、下記のようなご対応で残念ながらご縁はできませんでした。

 

職員「御社には当大学の卒業生(採用実績)は居りますか?」

採用担当者「いえ、まだ実績はありません。」

職員「では、これまで当大学のセミナーに参加されたことは?」

採用担当者「いえ、初めて参加させて戴きたいと・・・。」

職員「残念ですが、当大学では先の二つが参加の条件ですので・・・。」

 

売り手市場になったとは、まさにこういうことなのでしょう。これでは新興企業の出場機会は全くありませんね。かつて企業にも指定校制度というのがありましたが、大学にも見えない指定企業制度があるようです。大学側も企業側も実績のあるところとの縁を大事にすると言うのはよくわかります。

しかし、マーケットはいつか変わるものです。大学にお奨めしておきたいのは、余裕のある今のうちに良い新興企業をしっかり見極めてチャネルも作っておくことです。大企業は放っておいても学生がコンタクトします。特に今の学生は視野が広いように見えて、知名度で企業の選択をしがちですから。日本を支える無名企業にも是非、愛の手を。

 

第118号:今年最初の就職セミナーにて

いよいよ就職世代の交代時期のようですね。先日初めて3年生対象の就職セミナーに行って来ました。期末試験直後でしたが大勢の参加者でなかなかの盛況でした。初回のセミナーなので、まずは就職活動全般を理解して貰うことが目的なのですが、特に重視したのは就職活動を多面的に理解することです。企業の採用選考の場では、自分自身が外部基準によって多面な評価に晒されますからね。

 

「自分軸」、「鉄則」、「ホンネ」・・・最近の学生が就職活動で好んでよく使う言葉ですが、不安定で先が見えない活動の中で、「絶対的」にぶれないものが欲しいのでしょう。(もしかすると、就職ハウツー本のタイトルの影響かもしれませんが。)しかしながら、就職活動においてはそういった絶対的な回答が存在しない点が悩ましいところです。企業人事の採用担当者自身も、この時期は「求める人材像」は何だろうか?と見直しながら来季の戦略を考えているのですからお互い様です。

 

余談になりますが、採用担当者も自分の所属する企業の「求める人材像」がわからなくて悩むことが本当にが多いです。採用コンサルティングの仕事をしていると、社内会議で延々とこれについて議論している企業がありますが、最後に落ち着くのは「一緒に働きたくなる人材」とかになったりします。

 

ともあれ、社会へ出る準備を進める学生にとっては、まずは「絶対的」な価値基準の世界から、他社の価値観を受け入れて「相対的」な価値基準の世界へ進んで貰う必要があります。「自分軸」に加えて「他人軸」もあるんだな、と気づいて貰うわけです。就職セミナーでそれを伝える場合、一つの課題に対して多様な立場の回答や見方を提供することが一番です。

 

そこで今回のセミナーでは参加学生からの質問に対して、4年生(企業内定者)、卒業生、企業採用担当者、そして場面に応じて大学就職課職員の方からもコメントを戴きました。一般の就職セミナーでは(学生だけで運営するものは特に)学生の質問に対して一つの見方を提供するものが多いのですが、同じ質問でも学生と採用担当者では異なりますし、ホンの1年でも社会人になった卒業生と現役学生ではものの見方に雲泥の差のあることも多いです。今回はコメントからコメントが生まれて、そこから質問がまた生まれ、最後まで質疑応答が途切れなかったのは印象的でした。

 

また、このように多面的な見方ができるようになるとストレス耐性も向上します。ストレスの原因は、自分の思うとおりにいかないということが大きいです。しかし、世の中は自分のためにできていない、ということを理解できるようになると現実的な対応に目が向きますし、多面的な見方(手段)を身につけていれば、切羽詰まってしまうことも少なくなるでしょう。

 

夏休み中に学生たちが多様な経験をして、多面的な見方ができるようになり、タフに就職活動を迎えることができるように祈っています。就職ご担当の皆様も夏期休暇でリフレッシュされますように。