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第317号:多様な採用手法に込められたメッセージ

最近の採用活動のトレンドは、採用方法そのものを広報手段とすることです。大規模な母集団形成ではなく、自社の求める人材にターゲットを絞り、選択的な母集団形成をすることです。そのため、他社とはひと味違う多様な採用手法をあみ出し、刺激的な広報で惹き付けています。

 

ユニークな採用活動を行っている企業のまとめサイト(こうしたまとめサイトができるということからも、ユニークな採用手法が流行しているとわかります)は文末の参考URLでご覧頂けますが、本当に百花繚乱です。一見、真面目にやっているのかな?と思わされるものもありますが、採用担当者は真剣に取り組んでいるのです。

 

例えば、広告業界である東急エージェンシー社の「顔採用」というのはひときわ目立ちますね。人によっては怪訝に思ったり、面白いと思ったりすることでしょう。これは、あえてネガティブなキャッチコピーを使うことによって目立たせ、これまで広告業界に関心のなかった人にも振り向かせるのが狙いです。そして、こうした人の好奇心をかき立てる行為が広告業界(東急エージェンシー社)の仕事であるとのメッセージが込められています。

 

という意図なので、「顔採用」という言葉を四角四面に捉えておこるような人はこの業界には向かないよ、という選択的広報がなされているのです。勿論、実際の選考で容姿を採用基準にいれているわけではありません。同社の広報サイト(以下URL参照)をご覧頂ければわかりますが「顔採用」の結果で得られるものは、面接希望日が選べる等のものでしかありません。

 

これとは真逆の四角四面型採用手法といえば、チームラボ社の「卒制/卒論採用」でしょう。同社はユニークなデジタルアートの開発で急成長してるいベンチャー企業ですが、東大・東工大の理工系学生達による創業です。そのため、モノヅクリ(システムインテグレート)が基本で、面接で見るコミュニケーション力よりも、論理的にアウトプットを出せる力が重視されます。その資質は卒論の書き方ではっきりわかるわけです。(以前のコラムで書いた通り、これは文系学生でもある程度わかります。)

そのため、卒論をしっかり書かない(書けない)学生は、同社を避けることになるでしょう。

 

このように、採用手法に個性を出すということは「求める人材」のメッセージを明らかにするということです。企業セミナーで「我が社の求める人材像は・・・」等と何処でも似たような要素を挙げるのではなく、採用手法を通じて具体的に示しているわけです。学生にはこうしたメッセージをちゃんと読み解いて応募してほしいものですね。

 

▼【ちょっと変わった】面白い選考方法取り入れている会社【就活】

http://matome.naver.jp/odai/2132949328677520401

▼東急エージェンシー社の「顔採用」(YouTube)

https://www.youtube.com/watch?v=bHTy_0mdCdM

▼チームラボ社「卒制/卒論採用」

http://sotsusei.team-lab.com/

第316号:経済三団体の発言の違い

倫理憲章を巡る論争は決着がついたようですが、この問題についての経済三団体(日本経済団体連合会、日本商工会議所、経済同友会)トップの発言を聞いていると、それぞれ個性があって面白いです。意外とこの三団体についてご存知ない方が多いので、整理しておきましょう。

 

日本経済団体連合会(経団連)は大企業中心の約1400社からなる団体(一般社団法人)で、その代表者(榊原定征氏:東レ会長)の発言は財界の代表として政治に大きな影響力を発揮します。労働問題についても議論して倫理憲章を定めていますが、歴代代表者はあまり新卒採用については詳しくなく、事務局の用意した内容を発表するだけにとどまっているようです。そのため記者会見で突っ込まれると、ポロッと感情的な発言をすることがあります。倫理憲章を設定している団体ながら全体の調整的な見解が多く、最近は確固たる信念や方針がないままに右往左往しているようです。(きっと他のもっと重要な案件で大変なのでしょう。)

 

日本商工会議所(日商)は約125万社の中小企業からなる団体(特別民間法人)で、全国に514箇所の拠点を構えています。代表者(三村明夫氏:新日鉄住金相談役名誉会長)は大企業の方ですが会員の殆どである中小企業の意見を述べています。法律に基づいてできた団体であるため社会福祉のための公的な性格の活動です。今回の倫理憲章の6月への前倒しを経団連に泣きつくような形で提言しました。しかし、倫理憲章は学生のために作られたものなので、こうした企業の便益を図るために変更するというのはちょっと変ですよね。

 

経済同友会は戦後すぐに出来た経営者同士の勉強会がルーツで、企業経営者約1300人が個人の資格で参加する団体(公益社団法人)です。先進的な経営を目指した提言をしており、経団連や日商とは違って、代表者(小林喜光氏:三菱ケミカルホールディングス会長)個人の考えを元に歯に衣着せずに話すので説得力があって面白いです。先日も倫理憲章についての見解を述べられましたが(下記URL参照)、理想は世界の常識である「通年採用」であり新卒一括採用からの移行を提言しています。

 

さて、これら経済三団体のそれぞれの意見の中で傾聴すべきは、やはり経済同友会のものではないかと思います。というのは経団連と日商は最終的なあるべき姿が描かれていないからです。倫理憲章で時期の問題だけを論じるのはその時々の社会背景や特定の団体の利益に左右されてしまいます。そうではなく、段階的でも良いから理想を描いて目指すべきです。

 

こうした理想(あるべき姿)を描く場合、やはり総合商社で世界を見てきたビジネスパーソンの見識が役立ちます(下記URL参照)。太平洋戦争開戦前夜、世界の情勢を良く見ていて開戦絶対反対を主張したのもかつての商社マンたちでした。しっかり世界を見据えて倫理憲章を論じるべきですね。

 

▼小林喜光経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨(2015.11.12)経済同友会

http://www.doyukai.or.jp/chairmansmsg/pressconf/2015/151112a.html

▼国際大学学長(槍田松瑩氏:元三井物産会長)の倫理憲章についてのコメント

http://college.nikkei.co.jp/article/47141710.html

第315号:卒論イロハを知らない学生&社会人

灯火親しむ晩秋の候、勉学にじっくり打ち込むには最適の季節ですが、大学では卒論の締め切りを前に右往左往している学生も見かけます。私は任期付き教員なので正規のゼミはもっておりませんから、直接卒論の指導をすることはありません。しかし、たまにアドバイスを求めて駆け込んでくる学生がおります。状況を聴いてみて、卒論の書き方の無知さに愕然とすることがあります。

 

まず、なぜ指導教官ではなく、私のような授業や就職支援で縁のある教員に相談に来るのか尋ねてみるのですが、「先生が放任主義なのです」と回答はほぼ同じです。論文の作成においては、通常の授業のようにシラバスや教科書はなく、参考文献は自分で探し不明な点は教員のアポを取って指導を求めていく能動的な学習(というより研究)スタイルが求められますが、それが「教えてくれない」という生徒意識から変わっていないのですね。座学で出席しさえすれば単位の貰える科目ばかり履修していた学生には卒論の指導教官は不親切に見えるのでしょう。

 

次に、論文のテーマや問い(リサーチクエスチョン)を尋ねますが、あまりにもテーマが大きすぎたり、問いが漠然としていたり、そのままでは締め切りはおろか10年かかっても仕上がらないような設定になっていたりします。(恥ずかしながら、私も最初はそうでしたが。)そして、調査対象や方法を聞いてみると、身の回りの友人100人にアンケートをとる等、新橋のサラリーマン100人も驚くような偏りかたです。

 

さて、こうした学生の勉強不足に嘆息しながら新聞を見ていると、ここにも不可思議なアンケートや分析の記事が出ていたりします。例えば倫理憲章の記事等では以下の様な表現は気になります。

 

「8月への後ろ倒しは失敗だった」⇒内定率は良く失敗の定義が不明

「就職活動期間が長くなった」⇒後ろ倒しになったので今期は当たり前

「今年は昨年より大変だった」⇒学生は毎年就活をしないので比較困難

 

極めつけは「就活で学生が学業をおろそかにした」ですが、解禁日を4月や6月にして学生が勉強に励んでくれるなら諸手を挙げて賛同します。そんなに簡単に学生が勉強してくれるなら親も教職員も苦労しませんね。時期を前倒しにして学生が勉強するようになったかを是非検証して欲しいです。

 

こうしてみるとマスコミ関係の方々は、もしかすると卒論を書かずに卒業した方々ではないのかな?と思わされます。つい先日も国連関係者が「日本の女子生徒の13%が援助交際に関わっている」との根拠不明な発言をされましたので、世界的な傾向かもしれません。

 

正解の無い問題を考える、事実をもとに意見を展開する、受け売りはしない、卒論で教えるべきことが改めて大事になってきたと思うこの頃です。

 

第314号:「容姿端麗」の風評利益

就職活動で常に高い人気を誇るのがキャビンアテンダント(CA)ですね。航空業界はグローバル市場の乱気流に巻き込まれて業績も乱高下ですが、日本のCAだけは常に安定した高高度人気職種です。労働条件もますます厳しくなりながら、この業界は「風評利益」に恵まれています。

 

つい先日、私の女子学生から就職相談がありました。まだ1年生なのに早いなあ、と思いつつ話しを聴いてみることに。

学生「CAになりたいのですが不安なのです・・・」

私 「ほう、何が不安なの?」

学生「周りにCAを志願している人が多くて・・・」

私 「うん、人気職種だからね。」

学生「部活の先輩がCAに内定したのですが・・・」

私 「おお、それはいろいろ教えて貰えるね。」

学生「でも先輩はとても美人で勉強もできて・・・」

私 「まだ1年生だから頑張る時間はあるよね。」

学生「でも容姿はもう変わらないと思うので・・・」

私 「じゃあ、諦めるの?」

学生「子供の頃から夢なので諦められなくて・・・」

私 「じゃあ、頑張ろうよ。」

学生「でも、本当になれるのかどうか不安で・・・」

 

と、小一時間、自分探しの旅にお付き合いしましたが、相談後にだいぶスッキリした顔つきになったのは良かったです。(容姿はそうすぐに変わりませんが、顔つきは変わりますね。)

 

乙女心をかき立てる航空業界は罪深いなあと思いつつ、たまたま人事の方に聞いたら「いや、それはこちらも困っているのです。人気が先行してしまって・・・」との当惑したご様子。一般企業からすれば、相当な費用をかけて知名度向上をはかるのに羨ましいことですが。

 

ここまでは良くある話しですが、先日、大学内でもこうした『風評利益』が起きていることを発見して驚きました。大学は来期のゼミ選考の時期ですが、その中に美人ばかりのゼミがあるのです。学生達は「昔からあの先生は面食いだから」といいますが、先生は頑なに否定しているとのこと。ことの真実はさておき、そうした過去の実績のせいで学生間では「あのゼミに入れたら美形!」との風評が確立し、宣伝も何もしないのに毎年美形が集まり続けています。

 

これは最新のマーケティング4.0か!と思いつつ、一般企業で妙に美形社員を採用担当者に据えている企業が数社浮かびました。げに採用戦略とは罪深く悩ましいものです。

 

▼参考URL:「容姿端麗」は、CAになる必須条件なのか(東洋経済オンライン)

http://toyokeizai.net/articles/-/86875

第313号:キャリアコンサルタント法制化

就職課の皆さまも採用担当者もキャリアコンサルタントの資格をお持ちの方は多いでしょう。周知の通り、キャリアコンサルタントは平成28年4月に法制化(国家資格化)される予定です。たまたま厚生労働省の方がこの法制化について解説するセミナーがあるので受講してきました。

 

私がキャリアカウンセラーの資格の一つであるGCDFを取ったのは10年前になります。今でも資格更新は続けていますが、最近は大学キャリア教育の方に注力していますので、この法制化については注意していませんでした。そのため勉強に行ったのですが、正直、この法制化の意義がよくわからず、逆に新たな課題が見えてしまいました。

 

国家資格化によりキャリアコンサルタントの認知度やステイタスが上がるのは良いことだと思います。しかし、税理士や社会保険労務士とは異なり、キャリアコンサルタントでなければできない仕事というのが明確ではないと思います。衛生管理者のように一定規模の企業にはキャリアコンサルタントの配置が義務づけられるというなら別ですが、受講していたキャリアコンサルタントの方々の発言で多かったのも、資格はとったけど仕事がないというものでした。

 

私が大学教員になったのも10年前ですが、キャリアコンサルタントの方から「どうやって大学教員になったのですか?」「キャリア教育の仕事があれば紹介して下さい。」と問われることが増えてきました。私も任期付き教員・非常勤講師という不安定な雇用状況なので、そうした方々の気持ちは痛いほどわかります。大学キャリア教育もだいぶ普及してきましたが、良いキャリア教育のできる教育者は少ないし、内容の充実度もまだまだです。しかし、キャリアコンサルタント資格保持者はコンサルティングはできても、キャリア教育は実務経験がないと難しいです。

 

こうした状況の中で、就職課職員やキャリアコンサルタントを対象に法政大学でビデオ教材の研究会を始めたのもこうした方々に機会を作れたらと思ったからです。(ちなみに、国もキャリアコンサルタント向けのキャリア教育支援の講習会を実施しており、法政大学の事例も紹介されています。)

 

就職活動に悩む学生を支援するには、まずはキャリアコンサルタントが自分のキャリアに悩むというジレンマを解消しなければならないと思うのです。

 

▼参考URL:キャリアコンサルティング(厚生労働省)

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/shokugyounouryoku/career_formation/career_consulting/index.html

 

▼法政大学のキャリア教育事例(厚生労働省)

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000090424.pdf

 

第312号:就職と結婚との共通点

就活はよく恋愛に例えられてきましたが、10月1日に多くの企業で行われる内定式はさしずめ結納にあたるのでしょうか。ならば、その次に来る結婚のことも考える成長機会にして欲しいと思います。それは大人の恋愛(結婚)とビジネスの共通点を知ることでもあります。

 

就活を恋愛に例えるというのは、そのプロセス(選考過程)を中心に考えることといえますが、大人の恋愛はその後の結婚生活(結果とその先)まで考えることです。恋愛時代は自由に相手を選んだり迷ったり出来ます。しかし、結婚(就職)となると相手は特定され、不自由の中での工夫を考えなければなりません。その場合、以下の3つのポイントが大切です。

 

1.卒業時期は自分で決める

結婚までの恋愛期間は人それぞれです。小中学校の幼馴染みが結婚相手になる人もいれば、社会人同士の合コンで出会って数ヶ月で決める人もいます(ちなみに私の友人には3日で決めた人がいます)。結婚するための恋愛期間は長い方が良いか、短い方が良いか、こうした議論はナンセンスです。長すぎて飽きてしまった、一目惚れで盲目的だった、いずれにしても自由恋愛期間を卒業して結婚する時を決めるのは自分自身なのですから。

 

2.自分の言動に責任をとる

結婚に至るのがお見合いであろうが自由恋愛であろうが、結婚後に失敗したと思っても、それを他人のせいにしてはいけません。これは採用担当者の中で良く話題になりますが、入社した新卒社員が「採用担当者にだまされた」と不満を言います。しかし、これだけ情報が社会に溢れている時代で入社前にまったくわからないというのもおかしなことです。仮に採用担当者が巧妙に採用広報をしていたとしても、一つだけの情報だけで意志決定せず、できるだけ調べて決めるのが大人の恋愛です。ついでに言えば、大学でも一次情報(フィールドワーク)の重要性は教えていますが、たった一つだけの情報を一般化しないようにとも教えていますね。

 

3.意志決定が更に良くなる努力をする

最後に大事なことは、結婚後(就職後)は自分の意志決定が良い方向に向かうよう努力することです。家庭も企業も相手と一緒に作る社会です。考え抜いて最良の選択をしたつもりでも、思い通りにいかないことがありますし、自分自身も相手にとって期待通りの人物ではなかったと思われるかもしれません。だからこそ、卒業は始まりであり就職はスタートだと言われるのですね。少しの失敗で簡単に意志決定を翻したり不満を言っているようでは結婚も仕事も一人前にはなりません。自分の意志決定を本当に最良の結果にする努力がなにより大切です。

 

内定式が近づいて、多くの採用担当者が期待と不安におそわれながら、内々定を出した学生との再会を楽しみにしています。実は上記のポイントは私が採用担当者としてこの時期に内定者に伝えていたことです。学生には説教に聞こえたかもしれませんが、社会に出る前の学生に大人の心構えを教え、不安を取り除くのも大事な仕事です。採用担当者が求めるのは、こうした大人の恋愛、つまりビジネスができる若者なのです。

第311号:フリーライダーの成れの果て

大学教育では、「アクティブラーニング」が盛んにいわれています。座学だけではなく能動的な学習が大事だという点には異論はありませんが、運営するには準備やノウハウが必要でなかなか大変です。その課題の中には「フリーライダー(ただ乗り)」があります。これはこれまでの大学教育では出てこなかった大きな課題ですが、うまく指導できれば良いキャリア教育となります。

 

「アクティブラーニング」が出てくると「フリーライダー」が大きな問題になるのは、アクティブラーニングではグループワークを導入することが多いからです。経産省が主張する社会人基礎力にもある

「チームで働く力」の養成のためですが、残念ながら大学の授業はそれを養成するようにはできていません。(そもそも成績表に「チームワーク力」という項目がありませんし、大学教員もチームワークは苦手そうです。苦笑)

 

一方、社会では逆で、コミュニケーション力を発揮してチームワークができなければ仕事は進みません。それが如何に求められているか、そして学生のチームワーク力が如何に低下しているかは、多くの企業が採用選考にグループワークやグループディスカッションを導入していることからもわかります。

 

企業の中にも昔から働かない人は「給料泥棒」などと言われており存在していましたが、以下の理由であまり目くじらを立てられませんでした。

1.体を使う仕事が多かったのでサボると目立ってしまう

2.個人の成果より組織の成果が優先だった

3.個人の業績を測定する意識や手法がなかった

 

ところがこれらの理由が、ITの進化でPCに向かうようになり、個人の目標管理が設定されるようになり、個人の成果に応じて評価するようになってきたため、周りの人への気遣いがだんだんと忘れられてきたようです。政府が勧めるメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ移行していくと、この傾向はますます加速されるでしょう。その結果、企業においてもフリーライダーが注目されてきて、書籍や雑誌にも扱われるようになってきました。

 

社会を見ていても、こうした周りを気にしない人は増えていますね。電車の中でミュージックプレーヤーでヘッドホンをシャカシャカ鳴らしている人、真剣に化粧している女性、等々。

先日、ある企業採用担当者からもこんな話しを伺いました。経理部長が部下について嘆いていたそうです。仕事もろくにできない社員が事務所でスマホばかりいじっているので注意したところ、次の言葉が返ってきたそうです。

「誰に迷惑をかけているわけじゃないから、いいじゃないですか。」

 

こんな社会人にしないためにも、アクティブラーニングは真剣に取り組まなければなりませんね。

 

▼参考文献「フリーライダー あなたの隣のただのり社員」渡部幹(講談社現代新書)

http://www.amazon.co.jp/dp/4062880563

第310号:学内選考会でわかる学生の資質

日頃キャリア教育でお世話になっている企業への支援で、今年も学内選考会を開催しました。採用人数がそれほど多くないということで、マスメディアを使わない「ダイレクト・リクルーティング」のお手伝いです。集まった学生の中には私の教え子も居りましたが、日頃授業で身に付いている言動は、良くも悪くも出てくるものですね。

 

夏休みで使い放題の大学の教室に連携大学数校の就職課を通じて募集したところ、意外にも3日間で定員が一杯になってしまいました。1時間程度の企業セミナーを行った後に筆記試験を行い、通過すれば面接に進むという標準的な採用選考プロセスです。通常のWebからのエントリーに比べるとエントリープロセスが少なく選考期間も格段に短いです。応募した学生にアンケートをとってみたところ、大学内なので私服で良くて緊張しなかった等、好評でした(以下参照)。

 

▼学生アンケートから

・セミナーと選考を学内で行うものに初めて参加しました。普段の選考会と異なり、分かりやすく企業について説明して戴けたので良かったです。

・企業セミナーでは一部分を切り取ったビデオは良く見かけますが、仕事の始めから終わりまでどう対処するのかは初めて見ることができ、仕事の流れがわかりました。

・企業セミナーは理念のみを前面に押し出すものが多く、具体的に(その企業の仕事を)理解するのが困難ですが、今回はとてもイメージが持ちやすかったです。

 

私も一緒にセミナーを聴いておりましたが、注意して見ていたのは学生の反応の方です。流石に居眠りをしたり、後ろの席に学生が集まったりすることはありませんでしたが、セミナーを聴いている学生の反応は殆ど授業と同じです。採用担当者の説明に、頷いたり相槌をうったり質問をする学生は自然と印象に残ります。アンケートの書き方も上記のような具体的な例なら良いですが、「今までの説明会の中で一番、充実したものとなりました。」とだけでは何がどう良かったのかわかりません。

 

人間は、日頃から定着しているスタイルをすぐに変えられるわけがありません。ですからセミナーの受講態度を見ていると、学生のコミュニケーションスキル(スタイル)が一目瞭然です。学内選考だとリラックスしている分、企業内よりもっと現れやすいのでしょう。勿論、企業はこうした態度を採用選考に直結させませんが、結果的につながってしまうことが多いのは、採用に無関係のインターンシップに参加した印象の良い学生が記憶に残るのと同じです。

 

というわけで、私の授業では何度も学生に言っています。「私の授業の評価基準は企業のセミナーと同じです。私の話に無反応にならないで下さい。コミュニケーション力とは言動力です。特に非言語コミュニケーションは運動と同じで体を使わないでいると、使わないでいる方が身に付いてしまい動かそうと思っても動けなくなりますよ。」結果、昨年はこの学内セミナーから見事に教え子が内定しました。今年も吉報が届くことを楽しみにしています。

 

第309号:知らぬが仏も良いことも

残暑お見舞い申し上げます。早いものでお盆休みとなりました。このメールをご覧になるのがお休み明けという方も多いでしょう。今年の夏は、安保関連、原発再稼働、戦後70年、記録的猛暑等々、例年にはない大きなニュースがたくさん流れています。そのせいか、この8月1日からの就活解禁は、あまり世間で大きな話題にならなかった気が致します。ちょっと嬉しいような寂しいような気分です。

 

少し前までは、イスラム国、ギリシャ経済破綻が大きな話題でした。これらの問題は決着がついたわけではありませんが、ニュースにならなくなると私たちの意識から遠ざかり、あたかも片付いたかのような錯覚に陥ります。これだけの記録的な猛暑が続いたなら、水不足や電力問題だって大きな問題になっているはずですが、どうなっているのでしょう。

 

こういう話題を引き出してみたのは、世の中には知らなければ幸せだということもある、と言いたかったのです。自然環境破壊などの本当の大問題が人知れずに進行するというものと違って、人間社会における経済・社会活動では知らなければ何の不安も問題もなく過ごせるものがあり、大学生の就職活動や企業の採用活動は、そんな性格もあるのではないかと思います。

 

例えば、パワハラ面接・オワハラ問題についても何処まで実態の把握は本当に困難ですし、対策もたてようがありません。私自身が出会った無数の企業採用担当者の方々も、それは何処でやっているの?と思っています。特定の地域・業界・時期では頻繁におこっているのかもしれませんが、そうした局所的な事実がニュース報道されると一気に世間全体がそうであるかのように拡散、多くの学生を不安に陥れます。

 

そうしたブラック話題ではなく、もう少し身近なホワイト話題だと、友人の内定情報も同様です。早期に内定を貰った優秀な学生は、周りの就活仲間にはなかなか言えませんね。話すことよって友達が焦ったり、距離ができたり、場合によっては僻まれたり。内定を持っていない学生も、そうした情報を仲の良い友人から聴くと自分の面接に気負いすぎて悲壮感が出て失敗することもあります。

 

マスコミが社会の問題を取り上げて報道する使命はわかりますが、今年のように粛々と進んでいく状態は、あながちわるいものではないと思います。逆に、何処の会社がこんな良い採用活動をしている、こんな良い会社が若者を求めている、という報道を期待したいものですね。

 

さて、手前味噌で恐縮ですが、今春から毎月行っている法政大学でのビデオ教材研究会ですが、この夏休みは集中勉強会として、企業人事担当者と学生とこうした時代のキャリア教育や大学と企業と学生のあり方も討論してみたいと思っています。ご関心あるかたは、是非熱い話をいたしましょう。

 

▼8月27・28日 企業人事・学生とのビデオ教材研究会(法政大学)

http://3dep.hosei.ac.jp/event/details/2015/07/27/id4107

 

 

第308号:この時期を冷静に見る

いよいよ来週からは倫理憲章での採用選考解禁です。解禁日の後ろ倒しには「誰も得をしていない」という感情的な意見もありますが、損得や善し悪しはちょっと横に置いて、冷静に現象を見極めてみましょう。意外と見えてくるものがありますし、懐かしいと感じるものさえあります。

 

マスコミ報道では現時点での内定者は約30%とも言われています。大学や学生によって状況が異なるのでこの数値は参考程度ですが、春から相当数の学生が内々定を取得していることは間違いないのでしょう。私の教え子からも内々定の報告が届いて解禁前に既に就活を止めたという者がだいぶおります。

 

これらの内々定者は、既に就職市場から離脱して8月になっても(形式的に呼び出されても)本気の就活は行いません。競争力のある(優秀な?)学生ほど早くいなくなり、ふつうの学生の本番がやってくるのです。総合商社のように本気でトップレベルを待ち受ける企業もありますが、冷静に見ればその採用数は全学生のなかの少数です。これは30年前の就職・採用活動と同じで、解禁日前に既に優秀層は内々定が出ており、一般応募の学生が大企業のビルの周りに行列を作るのと同じ構造です。

 

リクルーターや学歴フィルターというものの存在もかつての指定校制度と同じで、採用市場全体の学生数の動きから見れば、差別しているというより順番を付けているという見方もできます。実際、今のネット経由での応募では、一時期に学生が一気に応募に来ると、企業のサーバーには相当な負荷がかかります。技術的な視点からは、学歴フィルターは応募者の集中を分散させているのにすぎません。

 

以上のように、学生の就活動態のトラフィック(移動量)を客観的に見ていると、今年の就職活動は見事に分散化・平準化しているともいえます。

 

先日、発表になった文科省からの調査では、今年度の就活は長期化して問題であるという意見も出ていましたが、これも冷静に動態を見れば、今年度のあり方がわからずとりあえず昨年度と同時期に始めた学生が多いのですから当然の結果です。学生や企業が困惑しているという指摘は間違っていませんが、これは時期が遅いとか早いとかよりも、昨年とは大きく変わったので「前年度の経験が殆ど役に立たない」ということが理由です。なので、来年になればこれらの不安はだいぶ解消されると思います。

 

巷では「誰も得をしない」との声もありますが、今年度の解禁日の変更は、学生の学習・生活環境を取り戻そうということが本旨なので「損得」という視点そのものが間違っていると思います。損でも得でも、守らなければならないものはあるのです。

 

この10年、大学教育に関わって学生の力の変化を目の当たりにしてきましたが、その低下には相当な危機感を感じています。読む力、考える力、書く力、話す力、期末試験の採点を採用担当者の視点で見ているとすべてにおいて不安を感じます。これからの本当の課題は、来たる4年の就活に向けて基礎力のある学生を育成する、というのが冷静な視点であると思うこの頃です。