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第287号:アルバイト今昔

大学の夏休みも終盤となりました。早い大学では来週から授業が始まることでしょう。大学生にとって夏休みといえばアルバイトですが、今はアルバイトの内容も目的も昔とはだいぶ変わりました。その過渡期は、バブル崩壊からIT時代の始まりである90年代です。アナログ時代からデジタル時代への変化と言っても良いと思います。その変遷を考えてみましょう。

 

バブル崩壊までのアナログ時代(80年代まで)は、学生のアルバイトは社会の中で中心的な労働力ではなく、正社員中心の中での補助的な存在でした。企業での仕事もネットはなく、パソコンも限定的な使い方をされていました。こうしたアナログ時代では、職場の社員のコミュニケーションも会話や電話が中心で、事務のアルバイトに就いた学生は知らぬ間に門前の小僧となり、社会人(正社員)の仕事ぶりを感じ取ることができました。

私は学生時代、お中元やお歳暮の宅配便のアルバイトを行っていたのですが、オフィス街を担当すると大企業の中まで入って配達することもありました、社会人のデスクやオフィスの掲示物などを見て、ビジネスの世界を垣間見ることができました。

 

しかしデジタル時代になると、こうした大人の世界は学生から隔離されてきます。情報漏洩防止のセキュリティ強化によってオフィスの中には入れなくなり、非正規社員の増大により仕事の内容も正社員とは切り離されてきました。その結果、正社員とアルバイトとの職場もデジタルに切り離され、アルバイトはアルバイトとしての仕事になり、どんなに頑張っても正社員の仕事を理解することは難しくなりました。

 

学生のアルバイトの目的も変わってきました。アナログ時代は何かの目的(スキーに行く、ギターを買う、旅行に行く、等々)のために行ったアルバイトが、アルバイトを通じてのコミュニケーション力向上、自己理解、友達作り等の自己啓発やコミュニティになってきています。手段が目的になってきたようです。

 

そしていま、インターンシップがそれに代わろうとしています。夏休みに頑張ったことは何ですか?という質問に「企業のインターンシップに取り組みました!」という学生が急増しそうです。日本で言うインターシップは期間も内容もご本家米国とは相当に違ってきてしまいましたが、アルバイトの敷居を越えて正社員の仕事の中にちょっとでも踏み入ることができるなら、それはそれで良いのかと思います。少子化で企業が求人不足になれば自然と競争が進み、インターンシップの内容は改善されてくるでしょう。現に採用時期の後ろ倒しで何をして良いかわからない企業採用担当者は、いまインターンシップのあり方を考え直しています。

 

上述の通りデジタル時代には門前の小僧は自然には生まれませんので、成長機会を意図的に作ってあげなければなりません。かつてアルバイトが社会の窓として機能していたように、インターンシップがそれに代わってくれれば良いと思います。職場と隔離された研修ではなく、職場から学び取れるインターンシップであって欲しいと思います。

 

第286号:期末試験答案を採用選考基準で見てみると

大学教員として期末試験の採点をしていると、最近の答案の解読が難解なことに悩まされます。学生の書いている内容が高度なら悩み甲斐もあるのですが、一見して(一読ではありません)、この文字はどう読むのだ?という象形文字のような字体が増えてきています。これらの答案を企業の採用選考基準で判定したら、半分も通らないでしょう。それらのケースをご紹介致します。

 

1.判読不能な文字(筋力・集中力不足?)

まずは冒頭に述べた、もの凄いクセ字で、何を書いているかわからないケースです。教え子の答案なので、なんとか読み取って単位を出してあげたいのですが、あまりにも個性的すぎて判読できない文字(?)が増えています。スマホでキーボードばかり使っているからでしょうか。特に、最近流行のキラキラ名前は、「薔薇」のようにとても画数が多くて書きにくい漢字をもった子が増えています。他人事ながら、自分の名前をそんな字体で書いて恥ずかしくないのかなあ、と感じさせられます。親御さんもそうした名前をつけるなら、必ず書道教室に通わせて欲しいものです。

 

2.与えられたスペースの半分も書いていない(忍耐力・思考力不足?)

期末試験の立ち会いをしていると、退出可能な時間になると、すぐに答案を提出して立ち去る学生が居ります。そうした学生の答案の殆どが白紙に近い状態で、諦めが良いものだと感心します。しかし、少しヤマが外れた位で白旗を揚げるということは、正解が1つしかないと思い込んでいる中学生と同じです。都市伝説になっているカレーライスの作り方を書かれても困りますが、目の前の問題を如何に解釈し、如何に自分の論に展開し、それを丁寧に書いたなら、少なくとも情状酌量されるかもしれません。与えられた課題を持っている限りの知見で何とかするのが社会人で、一見して無思考でやる気がないとわかるのは困ったものです。

 

3.品格がない(常識・コミュニケーション力不足?)

設問とは関係のない授業や社会の不満等を長々と書いているケースです。こうしたことを書く学生には乱文&毒舌家が多いです。仮にそうしたことを書きたいのなら、表現・敬語を工夫すれば、採点者に知的水準を感じさせることもできるでしょうに。どんな試験でも、評価する人間は自分ではなく他人になります。この答案はどのように読まれるのか、ということを考えたこともないような答案では、コミュニケーション力(人を動かす力)がないなあ、と感じます。(本人は気分良く書いて、単位を捨てているのかもしれませんが。)

 

現代は手書きの機会もどんどんなくなっており、多忙で、ストレスが多いです。しかも自分らしさが大切にされていますから、これらは若者の現代病といえるかもしれません。学生は男女とも、ファッションやお洒落には熱心ですが、1日3分でも良いので心を落ち着かせ、自分の名前を清書して「ありのまま」を見直すことを勧めたいと思います。ちなみに私は、来期のシラバスの評価項目には「この授業の評価基準は企業のエントリーシートと同じにする」と記載しようかと思っております。

 

第285号:オープンキャンパスとリクルーター育成

大学は夏休みに入り、キャンパスは静けさを取り戻しました・・・、というのは昭和の時代のお話しで、夏休み突入は、即オープンキャンパスのシーズン突入ですね。私も期末試験の採点をちょっと横に置いて、保護者向けのセミナー等に駆り出されています。猛暑の中をお集まりの親子連れの来訪者に向けて講演をしていると、採用担当者として企業セミナーをやっているデジャブ(既視感)におそわれます。自社のここを見て欲しいなあ、という点は、きっと大学でも同じなのだと思います。

 

私は大学側の人間としてはまだキャリアが浅いので、オープンキャンパスの本当の見所を理解しきっていませんが、企業採用担当者の目線で思うのは、ハードだけではなくソフトをしっかり見て欲しいということです。ハードとは校舎や設備やキャンパスの場所等で、ソフトとは授業内容や学生支援制度、そしてなにより現役の学生達です。企業で言うならば、現場の社員を見て欲しいということですね。

 

これを感じた理由は2つあります。1つめは、オープンキャンパスで熱心に活動する学生スタッフ(ボランティア)の姿を見たからです。猛暑の中、大学正門で「ようこそ、○○大学へ!」と大声を張り上げ、笑顔でパンフレットを配る様子はまるで体育会の夏合宿です。キャンパスツアーでは年配の保護者や年下の高校生を引き連れ、小旗を片手に大学の歴史を熱く語っています。

 

2つめの理由は、先日、学生スタッフの研修を引き受けたからです。オープンキャンパスや、多くの大学で導入されているピアサポート(在校生による学習指導・相談等)を志望する学生達に、チームビルディングの研修を行いました。新入生や高校生への対応や、チームリーダになる上級生に役立てればと、企業研修で良く使われるチームビルディングのプロセスを学生向けに簡単に説明してワークショップに落とし込んで実施しました。志願してくる学生達だけに、多くの者は積極的に取り組みますが、なかなか溶け込めない学生も居ます。

 

ふと、ここでまたデジャブにおそわれました。「ああ、これはリクルーター研修と同じじゃないか!」と。企業でもリクルーターを募集して対人スキルのトレーニングを行います。大学と違って、志願者だけでは人数不足になることが多いので、業務として現場社員を駆り出すこともあります。この場合、必ずしもやる気のあるメンバーだけにはなりません。しかし面白いもので、文句を言っている社員も訪問してきた大学生と向き合うと、中々良い話しや対応をしてくれます。

 

学生に授業で大学の理念や精神を一所懸命に説明しても居眠りをされるように、企業の社員に経営理念や創業者の精神を話してもなかなか響きません。そうした話しを無理に聞かせるよりは、学生や社員を信頼して現場に出せば、そこから自然に愛校心や愛社精神が生まれてくるものなんですね。

 

何処の大学でも企業でもこうした取り組みを行っていると思いますが、こうした学生や社員の育成と自慢の競い合いは素晴らしいことだと思います。今年も酷暑になりそうですが、知恵と汗を絞って頑張りましょう!

 

第284号:お客さん化する学生

私立大学では春学期(前期)の期末試験の時期になりましたが、私の授業を履修している学生から、「企業のインターンシップに行くので、試験が受けられません。どうすれば良いですか?」という相談が増えてきました。来年への布石として、企業による夏季インターンシップの早期コンタクトが増えてきているのを実感します。キャリア教育の担当教員としては、できるだけ学生の希望は聞いてあげたいのですが、学生の態度を見ていると悩みます。

 

私の昭和時代のノスタルジーかもしれませんが、こうした場合、学生から「スイマセンが・・・」という配慮の一言が欲しいと思います。期末試験期間というのは学期の最初から決まっていて、シラバスにも試験実施と書いてあるのですから。にもかかわらず、当然の権利のように自分の都合への対処を求めるのは如何なものでしょう?企業から一方的に呼び出されるインターンシップならまだしも、中には「サークルの合宿があるので」「友人と旅行に行くので」という私的な理由を臆することなく主張する学生もおります。

 

そこで頭に浮かぶのは、この学生は企業のセミナーでもこんな態度をとるんだろうなあ、ということと、ああ、またバブルの売り手市場と言われた頃の再来か、ということです。

 

好景気の際の企業セミナー開催では、多くの採用担当者が学生集客に躍起になります。如何に多くの母集団を形成するかが使命ですから。その結果、学生には無数の企業からセミナーから案内が届きます。ネット時代の学生側からは当然のことですが、多くの会社にエントリーをして、結果ダブルブッキングでドタキャン&ブッチ、無理してセミナースケジュールを詰め込んではセミナー会場に滑り込む・・・。

 

授業での学生の態度を見ていて更に心配になるのは、学生の態度は相手に対して相対的だということです。マナーとかモラルというしっかりした自分軸をもって振る舞う学生がだんだん減り、教職員の対応によって自分の態度を決める学生が増えています。学生に対してちょっと配慮をしてあげると、どんどん要求がエスカレートしてきます。つまり優しい教職員ほど、苦労が増えるわけですね。

 

私の授業でも、いつも遅刻する学生が居るので注意したところ、既に企業で見習いのように働いているとのこと。それは大変だとその時は不問にしてあげたら、どんどん遅刻時間が遅れるので再度また注意したところ「先生、何も注意しなくなったので、認めてくれたと思いました。今日は30分遅れましたけど、タクシー代、5000円使ったんですよ!」と主張されました(何処から来たんだ?)。

 

そういえば、第二次大戦における日英の外交に於いて、チャーチルが議会の無理な要求を日本に突きつけ続け、日本はいつかわかってくれるだろうと要求をのんできたところ、英国議会の要求はどんどんエスカレートし、日本はもう堪忍袋の緒が切れた!と開戦に至ったはずです。学生と企業が開戦する前に、しっかり大学で教えなくては、と意を決した春学期の終わりでした。

 

第283号:動活(動画を使った就職活動)2.0とは

皆さんは「ドー活(動活)」という言葉はもう耳にされていますか?この春の就職活動を終えた学生に様子を聞いたところ「最近、動活というものが出てきたらしいですよ。」とのコメント。さてはまたブラック企業に面接で脅された(恫喝)のか?と思ったところ、動画を使った就職活動(自己PR)のことだそうですね。

 

このサービスは、昨年の秋からチラホラ聞き始めました。上位大学の学生がスマホで自分のPRを撮影し、企業採用担当者むけの求人サイトにアップする仕組みです。いわゆる逆求人企画のネット版といえばわかりやすいでしょう。このシステムの最大の魅力は、動画の効果と言うよりも、上位校の学生に絞られているという初期選考の労力削減になるところです。いくら机の上で学生の生の姿が見られるといっても、膨大な応募者全部を見る時間は採用担当者にはありませんから。

 

一方、企業側も採用広報セミナーをビデオで収録し、オンデマンドで学生が時間や場所に囚われずに見たい時に見られるシステムも現れ、なかにはリアルタイムに学生とコミュニケーションできるサービスも出てきましたから、地方学生には朗報でしょう。こうした企業側の動画の活用は、今後ますます進んでいくのではないかと思います。動画のコンテンツは作成は手間がかかりますが、一度作ってしまえば何度も再生ができますし、ネット配信ならばセミナー会場の確保というコストもかかりません。どの程度見られたかという聴取率も測定することも可能です。

 

さて、では大学では動画をうまく就職支援に活用できているかというと如何でしょうか?キャリアセンターでは、模擬面接やグループ・ディスカッションの対策ビデオを用意して誰でも閲覧できるようにしているところもありますが、上述の学生・企業との使い方での大きな違いは、動画を一方向の情報提供だけで使うか、双方向のコミュニケーションとしても活用するかの違いです。手垢の付いた言い方ですが、動活2.0ですね。

 

そんななか、大学でも動活2.0的な使い方が出てきたと感じています。それは授業での動画を使った課題作成&報告です。経営学関係のゼミ等で、研究対象企業に協力して貰い、学生にビデオで調査報告させるものです。これはビデオ制作という作業を通じて企業と学生(大学)がコミュニケーションをとり、相互理解を深めることができます。そうしてできたコンテンツが、ゼミ報告だけではなく、大学の資産として活用されるようになれば、素晴らしいのではないでしょうか。採用活動が大きく変わろうとしている今、動活は大学と企業が直接に関係をもつために絶好の機会になると思います。

 

さて、今年も法政大学で新しいビデオ教材の研究報告会を開きます。今回はキラリと光る中小企業(製造業)と流通小売業(百貨店)を舞台にした新作2本と、新たに「ビデオ教材の活用法」という教職員向けのビデオ(参加者に差し上げます)も作成しました。動活2.0も話題にしながら情報交換をしたいと思いますので、ご関心のある方は、どうぞお越し下さい。

 

▼「新作教材ビデオ」ワークショップ(8月1日)⇒教職員向けです。

http://3dep.hosei.ac.jp/event/details/2014/06/16/id3290

第282号:「夏採用」での課題とは

採用の人材ニーズというのはバーチャルなマーケットで、マスコミが作り出すムードに大きく左右されます。「夏採用」という文字がだいぶ増えてきたので、これまでやっていなかった企業も「周りが始めたからちょっとやってみるか」と動きだし、あれよあれよという間に市民権を得てくることでしょう。この動きは、来年の採用活動の時期変更に向けてのリハーサルのようなものかもしれません。

 

春採用(という言葉もこれから定着するかもしれません)の場合は、応募者の集団に大きなバラツキはありませんが、夏採用の場合は多くの学生が採用選考の洗礼を受けてきます。そのため学生の面接は、比較的に容易です。春先の就職活動でどんな企業を回ってきて、どんな結果が出たかを丹念に聴けば良いわけですから。それは募集の際に選考がある人気企業のインターンシップを受けてきた学生のようなものです。

 

しかし、夏採用での大きな課題は、春採用で良い結果を出した学生が、就職活動を継続してくれるかどうかです。春採用で内定を出した企業は逆に、必死に内定フォロー策を行って就職活動を止めようとするでしょう。採用活動の時期の移行(夏採用)は、今や国家政策にも上げられている程ですから、もし本気でこれを成功させたいなら、国の行うべきことは悪質なフォロー策に目を光らせることです。

例えば、法律知識のない学生に書面で誓約書を取って拘束する企業をブラック企業として告発することです。勿論、内定者懇親会というような良質(?)なフォロー策については問題ありません。

 

さて、夏採用といって思い出されるのは、キヤノンマーケティングジャパン社のことです。同社が春採用一抜けた宣言を行い、夏採用に移行して4年が経ちました。当時は「売名行為」「茶番劇」だと言った方もおりますが、同社はそのまま継続しており、そろそろ時代が同社に追いついたと言っても良いかもしれません。

 

同社のメッセージを見ると、学生の事情に合わせて理系学生には春採用も行うような対応をしており、更に改善しています。その中で、私が着目したのは、春採用も夏採用も選考基準は変わらない、という点です。これは、更に夏採用の向こうにある、「通年採用」へのステップのように感じられます。それは世界では当たり前のことですが、日本にとっての課題です。また長い目でみていきたいと思います。

 

 

▼参考URL:キヤノンマーケティングジャパン社採用メッセージ

http://cweb.canon.jp/recruit/students/message/2015-spring.html

 

 

第281号:広がってきた新卒人材紹介

大手企業から追加採用の求人がチラホラ出ています。比較的少人数の募集なので、景気浮揚で採用数が増えたというよりは、内定先を絞り込んだ学生に辞退され、欠員募集のようにみえます。しかし、こうした小口の採用を行うことは、簡単なようでなかなか大変ですが、新卒人材紹介は新たな流れになるかもしれません。

 

小規模な追加採用ニーズが出た時、採用関係費用を使い果たした企業では大規模ナビは使えず、また予算があったとしても、採用工数に手間ひま時間がかかりすぎます。そこですぐに浮かぶのは、今も昔も同じく、採用実績のある大学就職課に「良い人は残っていませんか?」という個別求人で、改めて求人広告を出したり、前回お伝えしたような大学内セミナーを開催してみるということですね。実際、私の方にもいくつかの企業から「良い学生居ませんか?」との問い合わせが来ておりますので、きっと皆様の方にも相当数の依頼が届いていることでしょう。

 

こうした状況の中で、私が最近、着目しているのが新卒人材紹介事業です。まだ新卒採用の本流ではありませんが、少しずつ世の中に広まってきているようです。試しに「新卒人材紹介」でググってみると、無数のサービスが検索できます。見ていて面白いのは、大手就職情報サービス企業が出ているの当然として、学生ベンチャー企業のような中小企業や、まった人材ビジネスとは関係のない大手メーカーも見つかることです。

 

リクルート社が学生の起業でスタートしたように、そもそも人材サービスは技術上の参入障壁が低く、ビジネスモデルもシンプルですから、取り組みやすい事業です。人材紹介の仕入れは、個人的な人脈でも可能ですから、ちょっと大規模なサークル活動をやっていた学生でも起業できます(周知の通り、職業紹介事業はオフィスの用意等が必要ですが、仕事の上のノウハウよりもはるかに準備は容易です)。就職活動がうまくいかない学生達が、もし大勢集まって協力したら、昔のドラマの「俺たちの旅」のような面白いことになるかもしれません。

 

もう一つの興味深い動きは、異業種からの参入です。私が外資系で採用担当者だった十数年前、数十社の人材紹介業者とお付き合いしておりましたが、オムロン社のようにまったく人材サービスとは縁が無いと思っていた企業が居ることに驚きました。翻ってみると、今は多くの大手企業が本業とは縁の無さそうな新規事業を始めてきています。JRが市場調査サービスを行ったり、ソニーの金融業が伸びていたり、ソフトバンクがロボットを作っていたり、DNAが医療事業に取り組み始めたり。仮に銀行が人材バンクを始めたら、いきなり業界トップになってしまうかもしれません。(やれるものなら大学就職課だった起業してみたいものですね。笑)

 

いまのちょっとした景気浮揚は、かつてのバブル期のようなムードを感じされるものがありますが、様々な人材調達手段が出てきているいま、かつてのように大手企業が一気に採用数を増やすようなことはないでしょう。新卒人材紹介のように、成功報酬型で堅実な方法を選び、もしかするとこうした形で新卒採用と中途採用の就職の形が融合していくのかもしれません。

 

 

第280号:夏採用開始

取り切れていない企業が多いようです。追加採用が多いです。

企業も小口の求人には苦労しますが、それは中途採用と同じです。

画一化された新卒採用しか知らない若い採用担当者が苦労することです。

こうした状況では、新卒人材紹介が流行る地盤ができます。

それは、新卒/中途の区別のない採用活動です。

 

 

手企業の採用活動もだいぶ目処がついてきて、学生からの内定報告も出揃ってきました。ダイレクト・リクルーティングの進行で、今シーズンの大学内企業セミナーはどちらでも盛況かと思いますが、教員

 

 

  • 結果の見える大学内企業セミナー

大手企業の採用活動もだいぶ目処がついてきて、学生からの内定報告も出揃ってきました。ダイレクト・リクルーティングの進行で、今シーズンの大学内企業セミナーはどちらでも盛況かと思いますが、教員から見ると日頃から知っている学生の結果がわかるところがとても参考になります。先日も、大学内企業セミナーでそれを目の当たりにしました。

 

教室に集まった学生の座り方を見ていると、殆どの学生がいつもの授業と同じ席に座っていたのです。これが企業の用意した初めての選考会場ならば、多少、様子を見ながら席を選ぶのかもしれませんが、日頃授業を受けている教室が会場の大学内セミナーでは、迷わずいつも自分が座っている座席エリアに着席します。窓側に座る学生は窓側に、後方に座る学生は後方に。習慣がしっかり身に付いています。

 

そして、後日選考結果を教えて貰ったところ、最終選考まで残った学生はやはり最前列に座っていた学生達でした。セミナーでの質疑応答を見ていても、前列側の学生が最初に手を挙げて、後方の学生は周りの様子を見回しながら手を挙げます(手を挙げないで質疑応答を聞いているだけの学生の方が多いですが)。後方に座る学生のもう一つの共通点は、友人達と一緒に固まっていることです。前列に座る学生は、逆に一人でやってきてサッと座ります。

 

こうした現象がすべての学生に当てはまるとは思いませんが、日頃の行動が習慣化してその人の将来を決めることは間違いありません。だとすれば、学生は嫌がるかもしれませんが、授業では着席を指定して、顔見知り同士で固まらせず、知らない者同士で座らせて積極的に、いや、強制的に質問させるべきですね。着席位置を変えるだけで人生が変わるのならば、教員としてはお安い御用です。

 

・・・とはいうものの、イマドキの学生の習慣を変えるのは、至難の業です。企業研修においては、業務命令という伝家の宝刀がありましたが、大学では学生の頭と心に訴えかけて自発的に変化して貰わないと意味がありません。そこで、最近の授業で学生に影響を与えた言葉をひとつご紹介したいと思います。

 

それは、「性格は行動の結果である。」です。学生が性格だと考える背景には、変えられないもの、仕方ないもの、と思い込むことによって、無意識に面倒な努力を避けていることがあります。しかし、続けて「確かに性格はすぐには変わらないけれど、行動なら一瞬で変えられる。試しに(いつも)最後方に座っている学生は、今日だけ最前列に来なさい」と話し、座席移動をさせてみると、学生自身が授業の聞こえ方の変化に驚きます。

 

なかなか面倒なことですが、それで学生が気づいて行動を変え、人生の舞台の傍観者から登壇者になってくれるなら、ウルサイ先生と思われても教育的指導をしたいと思います。

 

第279号:もうちょっと取り繕って話そうよ

景気の上昇ムードを受けて採用担当者の顔が明るいです。新しい人材を求める仕事は、企業にとって大事な活力の補充であり、未来への希望があるということですから。ところが、財布の紐を緩めているある採用担当者から、採ってあげたくてもなかなか採れないので困った、という話しを伺いました。

 

このGWに、それほど有名ではありませんが、好業績で業界大手企業の人事部長と情報交換を行ったときのことです。学歴フィルターなどまったく無縁の人物重視の採用活動を行っているのに、なかなか最終選考まで上げられないというのです。その理由が「あまりに学生が正直すぎて、自分の思っていることを臆面も無く話すので、社員としてお客様の前に出すのが心配だ。」というのです。

 

実際の面接の会話において、以下のようなセリフを堂々と話されたそうです。

「私は人見知りで、なかなか人と打ち解けられませんが・・・」

「私はゲームが大好きで、何時間でも集中できますので・・・」

「御社はネット上で、ブラック企業と言われていますが・・・」 etc.

人物は素直で良さそうなのに、これではとても社長面接には上げられないとのこと。

 

実は、私も最近、なかなか内定が出ない学生の就職相談で似たような言葉を聞きました。その学生も愛想の良い子なのですが、こんなことを話すのです。

「たまに変な質問をされる採用担当者の方が居られますが、私はできるだけ笑顔で接するように心がけています。つい先日も『貴方を動物に例えると何ですか?』と聞かれましたが、落ち着いて『私を動物に例えるとナマケモノです。』と応えてきました。」というのです。(この質問を今でもする採用担当者って本当にいるんですね。)

 

この回答に呆然としながらも、学生に「何故、ナマケモノなの?」と尋ねたところ、「私はいつもゴロゴロしていますが、何かある時は機敏に動けます。ナマケモノは、ピンチの時にはとても素早く動くそうですよ。ご存知ですか?」私はしばらく言葉を失いました。この学生は全く無邪気に自分の話に自信を持っているのです。もうちょっと採用担当者の気持ちを察して、必要以上に盛らなくても良いですから、繕って話して欲しいものです。

 

授業で学生のレポートを見ていても、似たような現象がチラホラ増えてきました。キャリア教育等で社会人ゲストの仕事の現場の体験談を聞くと、「ゲストの方の話しを聞いて不安になりました」「私はついていけそうもありません」というような言葉がとても多いのです。確かに正直なコメントなのでしょうが、これを読んだゲストはどんな風に感じるのかを全く察することができていませんし、もっと心配なのは、自ら「不安だ」「不安だ」と何度も書くことにより、自己暗示をかけてしまうことです。

 

今の若者は生まれた時から不安な経験しかしていないというよく指摘されますが、楽観的になれとまでは言わずとも、自分だけではなく相手にも不安を感じさせるような話し方は避けて欲しいものですね。

 

第278号:採用学というものの難しさ

横浜国立大学の服部泰宏准教授が「採用学」という新しい学問を提唱されています。業務量の多い採用担当者の仕事を科学的に分析する試みは、とても面白い試みではあります。しかし、学問として確立させるのはなかなか扱いづらい分野だと思います。というのは、学問の基本であるデータ収集が困難であること、採用活動(特に大学生の新卒採用)は限られた市場でのゼロ・サムゲームだからです。

 

採用活動の合わせ鏡である学生の就職活動については、これまで社会学者(東大社会学研究所等)や経営学者(明治大学の永井教授等)および研究機関(JIL-PT等)からも研究されてきました。学問の基本としてのデータ収集を、大規模な質問票調査(アンケート)や学生へのヒアリング調査(インタビュー)等で行い、統計学的処理によって法則性を探ってきました。大学院生や学部生レベルでも、こうした論文はわりと多く見られますが、それが可能なのは上記のようにデータ収集が行いやすいからです。

 

一方、今回の採用学では企業採用担当者の活動にフォーカスしていくようですが、企業の採用活動は、如何に他社に先行して学生を集めるか、如何に他社とは異なる質問で学生の面接対策を乗り越えるか、如何に上手い説得方法で学生に内定承諾をさせるか、というノウハウの部分が多いです。そのため、なかなかデータの収集が難しいです。アンケートには協力しても、ホンネで回答できるかどうか、またアンケートの質問自体が採用担当者の活動を十分に分析して作られているか、という課題があります。

 

同じ人事の仕事でも、人事労務や能力開発の研究は、既に無数の学会報告があります。それは、採用活動のようなパイの奪い合いではなく、各社が競って良い仕事をすれば、産業全体の生産性が向上してマーケットが広がるからです。ところが、採用活動というのは何処かが成功すれば(採用できれば)、何処かが失敗する(辞退される)ことになる、ゼロ・サムゲームです。

 

他にも、この分野はITの導入、大学生の量的質的変化、労働法の規制緩和等、環境変化が非常に激しく、やっと確立したノウハウや手法がすぐに陳腐化してしまいます。この10年間で確立されてきたコンピテンシー面接も、学生の対策が素晴らしく進んでおり、採用担当者は工夫をし続けなければならず、学問として研究している間に前提条件が変わってしまう可能性もあります。

 

最後に、こうした研究活動は、広く一般の公開されなければ意味がありません。経営学の研究でもよくありますが、本当のノウハウは公開されないことがあります。学会報告を見て学び、やってみたらうまくいかない。研究者に直接問い合わせてみたら、「それにはコツがあり、私の秘密のレシピがあります。私を呼んで戴ければいつでもやってみせます。」と言われたら、これは学問ではなくコンサルティング業務ですね。しかし、そうした壁に挑戦するのもまた学問の使命です。今後の採用学の活動を興味深く見守っていきたいと思います。

 

以下、参考サイトURL:

▼採用学プロジェクト

http://saiyougaku.org/

▼参考URL:文献「大学生の就職活動」本田雪、中公新書