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第247号:12月解禁は大学教育破壊

今年も学生から「お願いメール」が届くようになりました。「お忙しいところスイマセンが、エントリーシート(ES)を添削して戴けませんでしょうか?」というものです。1月は期末試験を前にどれだけ教職員が忙しいのかわからないのでしょう。勿論、それは学生も同じなのですが。それでも何とか時間をとってみるのですが、文章力は年々低下していて読んでいて情け無くなります。

 

いきなり感情的な文章から初めてしまい恐縮ですが、それは情け無い学生のESがたくさん届くようになってきたからです。ESの実例を以下にあげましょう。有名企業に応募した学生の志望動機です。

 

「私は地道な作業をこなせるだけではなく、挑戦する力があります。御社のテレビCMは私のもっとも好きなCMです。音楽や映像のインパクトも大きかったのですが、貴社の技術力を感じました。貴社の商品はお客様の希望に答えるだけではなく、気づかない部分にまで目を向けさせ、サポートしてくれるものだと思っています。(以下略)」

 

この文章は最初の2文だけでもう先を読む気がなくなります。これは採用担当者としても教員としても同じです。まず1文目が結論とは思えません(課題が自己PRならこの出だしでも良いのですが)。次の2文目になると、もう1文目との論理関係が飛躍(破綻)しています。3~4文目となると、また別の展開に向かってしまいそうです。これは論文の書き方の基本である、パラグラフ・ライティング(主文+説明文+結文)という基本的な論理構成をわかっていないということです。文学作品やブログならばともかく、起承転結の「転」は論文では使わないのが原則です。

 

昨年もESの書き方について「一次情報にあたる」「複数の情報を集める」「持論を展開する」という基本的な取り組み方の欠如を指摘したのですが、それ以前の文章の書き方のレベルが年々下がってきています。そこを気づかせ、鍛えるのが大学の授業であり期末試験なのですが、3年生にもなってこんなESを書くようでは、論文についても心配です。

 

更に心配なのは、文章力だけではなく、こうした依頼をする学生の思考や態度です。「添削して下さい」と頼んでくる学生は、大学入試の小論文でも担任の先生に書いて貰ったのか?と思わされます。自分の書いたものに対して評価やコメントを伝えるのは良いのですが、「どう書けば良いのですか?」などと聴いてくる学生の態度を教員は許してはいけません。企業でも良い上司なら「どうすれば良いのですか?」と手ぶらで尋ねてくる新人には「お前はどう思うのか持ってこい!」と指導します。

 

知識やスキルは短期間に習得することもできますが、思考や行動様式は短期間には変わりにくいものです。大学は自ら考えて試行錯誤する能力を4年間かけて育成する場のはずですが、それが就職活動の早期化で妨害されている現状も情け無いです。せめて3年生が終わるまでは学業に専念させてやって欲しいものです。影響を受けているのは、一握りの優秀な学生では無く、多くの勉強が必要なふつうの学生なのですから。このままでは恥ずかしくて採用担当者にあわせる顔がなくなります。

 

第246号:採用活動に関する大学との共同研究-6

今年も人事労務管理を研究している大学のゼミ生との共同研究を行いました。本年度のテーマは『インターンシップの効果(フィードバックの有効性)』でした。倫理憲章の設定により、今シーズンは1dayインターンシップが激減し、5日間のものが急増しました。また採用直結の表現も使えなくなりましたので、正直、採用担当者からの関心からインターンシップは視野の外になってきたようですが、学生と企業の意識の違いは相当にあるようです。

 

この研究は、9月から12月にかけて企業と学生の意識調査を、定量調査(アンケート)と定性調査(インタビュー)を行うもので、学生の就職活動と企業の採用活動の認識差を明らかにして、企業に対して学生の目線から提言をしていくものです。本年度は、689名の学生アンケートと66社の企業アンケート分析、そして11社の企業インタビューを行いました。その結果、以下のような傾向が見受けられました。

 

・企業の意図がなくても(採用活動とは関係ないと明言していても)、学生はインターンシップを採用活動の一環と思い込んでいる(期待している)。

・インターンシップは、実施企業への応募意欲向上だけではなく入社意欲向上にも効果があり、その主たる要因は(インターンシップのプログラムよりも)社員との関係性構築である。

・企業はインターンシップの成果についてフィードバック(評価)を伝えているが、学生が求めているのは組織成果ではなく能力・適性に対する個人評価である。(そこまで対処している企業は少ない。)

 

先週、これらの研究内容報告会を開催し、10名ほどの企業人事担当者に対してプレゼンテーションを行い、学生と採用担当者との討議を行いました。その結果、採用担当者からは「目から鱗がおちた」「インターンシップのあり方を見直したい」というコメント戴き、好評のうちに終了いたしました。

 

振り返ってみると、この3ヶ月半の研究は、私の仕事(人事コンサルティング、大学教育)のインターンシップだったと言えるかもしれません。参加した4名の学生達は、当初は知識・経験不足から非常に苦労しており、社会人からは厳しい指摘を貰い、煮詰まった時には喧嘩までしておりました。しかし、そうした時期を乗り越えて学生達は大きく成長し、上記のような成果を出すことができました。

私自身、改めてインターンシップの効果を認めると同時に、これによって学生の能力評価も可能になる(採用活動に自然とつながる)ことを体感できました。人材の育成と評価は本当に苦労しますが、手間をかけただけの成果は必ず得られるものです。翻って、多くの採用担当者のかけている手間は、本当に意味があるものなのか、と考えさせられました。

 

最後に、この研究活動を終えた学生から届いたメールを下記にお伝え致します。ありきたりの文章ですが、きっとこの学生は自分に誇りを持って就職活動に臨むことでしょう。

「中学・高校時代は部活を頑張った!と胸を張って言えたのですが、大学に入ってからは本当に頑張ったものがなく、悶々としていましたが、今回、胸を張って頑張ったと言えるものができました。本当に感謝しております。」

末文になりますが、皆様、良いお年をお迎え下さいませ。

第245号:経団連の加盟企業とは

12月となり企業の採用広報が始まりました。一気に学生と企業が動き出すのを見ていると、日本経済団体連合会(経団連)の影響力はさすがなものだと思わされます。経団連に加盟している企業は1285社(2012年3月現在)で、産業全体から見ればわずかなものですが、この方針に準ずる企業は多いものですね。

 

経団連の定めた倫理憲章を改めて見てみると、その主旨はなかなか良いもので、就職活動をする学生にも是非一読を勧めたいものです。憲法と同じで、存在は知っていても実際に読んだことのある方は少ないでしょう。これを読んで次に思うのは、「こんな良いことを言っている企業は何処なんだ?」という自然な疑問です。ところが、経団連の加盟企業は、不正利用を防止するという理由から、Web上での公開はされておりません。(経団連会館に訪問すれば加盟企業は閲覧できます。)

 

せっかくの倫理憲章を遵守する優良企業を知りたい(是非、入社したい)と、学生が思っても簡単にはわからないのは困ったものです。一方で多くの外資系企業のように、経団連に非加盟の企業は倫理憲章を無視して既に選考を始め、内定を出している企業もありますから、ますます就活学生は疑心暗鬼になります。

 

ところが、つい12月11日、経団連から『「採用選考に関する企業の倫理憲章」の趣旨実現をめざす共同宣言』がなされ、そこにはこの倫理憲章を遵守する企業群(825社)の名前が公開されました(文末URL参照)。こうして見ると優良企業が名を連ねておりますが、マスコミ業界が見当たらないのは残念です。

 

経団連もなかなかやるものですね。こうなると次に対応して戴きたいのは、やはり企業の採用広報時期の問題です。ただでさえ多忙な師走から、期末試験後の春休みに変更して戴きたいものですが、それができないなら、倫理憲章を守っているかどうかの監査と罰則の設定です。これも空しい希望かと思っていましたら、とある業界では内部告発制度を設定していてお互いを監視しあっておりました。江戸時代の五人組を彷彿とさせますが、抜け駆け防止には効果があるのでしょう。

 

何度かこのコラムでもお伝えしたとおり、私個人は、採用広報開始は春休みの始まる2月から、採用選考は夏休みの始まる8月から、というのがベストだと思っています。マスコミが宣伝するように、就職活動が準備不足の学生が多いのなら、その準備がもっともしやすい時期にすべきではないでしょうか?

12月に選挙という暴挙(?)は40年ぶりだそうですが、採用選考開始時期は、立法など必要なく良識ある企業の判断で改善できることなのですから。

 

▼参考URL:「採用選考に関する企業の倫理憲章」の趣旨実現をめざす共同宣言

http://www.keidanren.or.jp/policy/2012/085_sengen.html

第244号:百貨店主催の就活セミナー

つい先日、百貨店(高島屋等)が就職セミナーを開催する報道を目にしました。化粧品会社が就活メーキャップを各大学で展開しているように、リクルートスーツの選び方や着こなし方を指導するのかと思いきや、それだけではなく、内定塾の講師が面接指導まで行い、はては親にまで心得をアドバイスしてくれるとか。いやはやこれは大人の七五三だと思わされました。しかし、冷静に考えてみると、そこには企業の逞しい販売戦略があり、そうした貪欲さから学生が学ぶものもあるかもしれません。

 

世の中はどんどん複雑になってきました。この時期、多くの大学で「業界研究」が開催されていると思いますが、最近の企業活動はますます複雑になってきて、これまでの「業界」という枠組みではなかなか捉えきれなくなってきました。例えば、以下のような例です。

・富士通:コンピュータの開発からシステムの開発(ハードからソフト)へ移行

⇒新卒採用もSEが主流に。(学生の多くはPC&携帯電話が主流と思っている)

・明治ホールディングス:食品・製菓から医薬品が増加

⇒新卒MR採用は、Meiji Seika ファルマへ分社化。

 

まだ新卒採用までは移行しておりませんが、冒頭の百貨店の例のような変わった例もあります。

・クボタ:品質の良い状態で日本の米を香港に輸出販売を開始。

⇒顧客である農機具ユーザーの支援と、海外の米市場の開拓。

・ビックカメラ:三菱電機の電気自動車を販売開始。

⇒来客数が減少している自動車ディーラーよりも増加している家電店へ

・アマゾン:家電製品を格安販売(儲けは書籍で十分だせる)

⇒ビックカメラ同様に来訪者の囲い込み戦略。ネット上はワンストップが有利。

 

これらは百貨店が就職セミナーを始めたように、狙いは顧客の獲得(囲い込み)であり、本業を伸ばすために需要を創造していくマーケティング戦略です。こうした状況がうまく続けば、いずれは採用対象も変わってくることになります。

 

やや複雑な話になりましたが、就職活動をする学生に理解して欲しいのは、業界毎の知識ではなく、各業界・企業がどのような戦略をとって生き残ろうとしているかです。そして、そこで求められるのは、その業界だけの知識では無く、ビジネスを創造していく発想力や行動力です。

 

最近の広告代理店のビジネスは、不特定多数に向けた大規模で大量な広告では成果に結びつかなくなりました。そのため、特定のニーズに絞ったイベント等を開催し、そこに集まった人々に向けた商品を販売する手法が増えてきています。つまり、大企業の採用担当者が就職ナビや大規模合同説明会よりも、大学内セミナーにシフトしてきているのと同じです。

 

大学生諸君が百貨店で就活セミナーを受けながら、そんなことに気づいてくれたら、きっと「今の」企業が求める資質や能力にも気づけることでしょう。こうした中で学生には物事の本質を見る目を養って欲しいと思います。百貨店の志望者が「私は御社で就職情報サービスを立ち上げたいと思います!」と言えば高評価になるかもしれません。

第243号:大学祭ライブのイマドキ

大学祭のシーズンもそろそろ終盤ですね。私もいくつかの大学を回ってきましたが、禁酒が増えたせいか例年よりやや落ち着いている感じがいたします。自分が大学生だった頃と比べると、高校生が非常に多くなってきて、オープンキャンパスの役割も果たしているのでしょうね。授業だけではなく、課外活動もキャンパスライフの大きな魅力ですから。そして、そのサークル活動の様子を見ていると、学生の資質も垣間見ることができます。

 

私は体育会に所属しており、大学祭の頃は試合のトップシーズンだったので、残念ながら自校の大学祭も殆ど見る機会がありませんでした。4年生になって引退後、初めて楽しむことができたのですが、各大学の軽音楽部のライブを回って上手なバンドを見つけるのが好きでした。サザンなどのプロ級の学生バンドも当時は今より多かった気が致します。

 

そんな多くの学生バンドを聴いているうちに、上手なバンドとそうでないバンドの違いに気づくことがありました。それは演奏ではなく、演奏の前のコメントでわかります。あまり上手くないバンドの口上は、こんなものが多かったです。

「今日はちょっとアンプの調子も良くなくて、体調もイマイチなんですが、まあ、とりあえず聞いて下さい・・・。」

照れ臭さもあるのでしょうが、もう演奏はきかずに帰りたくなりますね。反対に、上手なバンドに多いのは、こんな口上です。

「今日はようこそおいで下さいました。全力で演奏しますので、是非、楽しんでいって下さい!」

 

要はその演奏が、自己満足なのか、相手に聴いて貰うものなのか、という意識の違いですね。これは採用面接での、採りたくない学生と採りたくなる学生との違いと同じです。ESでも自己PRでも体験談でも、それは自分の想いを一方的に伝えるのではなく、相手が聴きたいものなのか、相手に聴かせる技術があるのか、という意識の有無です。

 

最近はケイオンが大ブームですので、何処の大学でもバンド活動が盛んなのは個人的には嬉しいことです。楽器もエレクトロニクスの進歩で、楽器が演奏できなくても作曲ができるようになりましたし、歌だって音声合成でコンピュータに歌わせることのできる時代です。誰でも音楽を楽しむことができるようになった反面、内輪の小グループだけでこぢんまりと楽しむサークルが増えた気がします。見知らぬ一般の聴衆に聴いて貰うという意識では無く、サークルメンバー同士だけで演奏と聴衆を入れ替わって盛り上がっているのは、カラオケと同じですね。

 

それと、もう一つ昔の大学バンドと違ってきたのは、ライブ会場に父兄らしき親御さんがチラホラと見かけることです。昔もライブチケットを友人に頼んで買って貰うのはありましたが、流石に親まで巻き込むことはなかったように思います。これも企業の採用選考で親の影がチラホラ浮かぶのと同じことかもしれません。演奏を聴いて「是非、君を採用したい!」とスカウトしたくなるような学生バンドに出会いたいものですが。

 

第242号:授業での人事採用担当者の目線

今週の私の授業では、大手企業で人事採用業務をやってきた方にゲストでおこし戴き、学生の企業の求める人材や就職活動をする最近の学生の傾向や大学生活での心構えなどをお話し戴きました。受講生が1~2年生なので、まだ就職活動について具体的なことを指導する必要はないのですが、コメントをお願いした開口一番、学生にとって非常に大事なことをお話し戴きました。

 

今回の授業のテーマは「就活と人事の視点」というもので、最初に私から就職活動(特に面接)における最近の学生の傾向を講義してからゲスト講師の方との質疑応答(パネルディスカッション)に入りました。その最初のコメントをお願いしたときです。

 

「皆さん、いま鈴木先生からいろいろお話し戴きましたが、本当に聴いていましたか?私には皆さんが先生の話を聴いていたようには見えません。何故、先生の話に頷いたり首を傾げたり、しないのですか?」

 

実はこの方は多くの人事採用担当者と同様にキャリアカウンセラーの資格もお持ちで、現在は企業の人事コンサルタントとして活躍されています。研修講師として管理職の方に部下の育成方法等も指導されています。

 

「先ほど先生が指摘された内定が取れない学生の面接回答傾向で、業界企業研究不足、説明力(ロジカルシンキング)不足、コミュニケーション力不足というお話しがありましたが、特に注意して欲しいのがコミュニケーション力不足です。というのは最初の2つは比較的早く習得できますが、コミュニケーション力は体得するのに非常に時間がかかるのです。私が社会人の管理職の方々に部下との面談の仕方を指導する際、本当に多くの方々がこれができずに苦労しています。本人の自覚も少なく、気づいても修正するのに時間がかかります。相手の話を聴くための姿勢ができていない、相手の話に無愛想で反応していない、つまり相手にとっては聴こうという態度が見えず、話す意欲を失うのです。コミュニケーション力は伝えるだけでなく、聴き出す力も大事なのです。」

 

皆様には釈迦に説法のノンバーバル(非言語)コミュニケーションのことですが、初対面の社会人からズバッと言われた学生達には非常にインパクトがありました。授業後の感想文で殆どの学生がこの点を気づかされ、日頃の授業の受け方を反省しておりました。私も授業の最初からこの点を伝えてリアクションをしながら講義を聴くようにと指導していたのですが、やはり外部の方の(特に人事のプロの)目線は説得力がありますね。

 

学生のコメントの中には「私はリアクションしたいけど、周りのみんながしないのでやらなくなった」「授業は静かになるべく音をたてないで受けるものだと思っていた」「予備校の授業で頷きすぎはそちらに意識がいくからするな!と指導された」等々、笑えるものもありましたが、全員、良い刺激を受けておりました。 いやいや、授業を通じて学生の就活力を向上させる手段はいくらでもありますね。私の口癖ですが、「就職活動のために大学があるんじゃないが、就職活動ごときに対応できない大学の学びは浅すぎる」と改めて思った次第です。

第241号:就職準備不足とは何が本当の問題か?

経団連のご指導による倫理憲章のお陰様で、会社説明会の会誌は12月からとなり、マスコミの多くはこれによって学生の内定率が下がったと報じています。(元に戻したくて仕方ないようですね。)しかし、就活時期が遅れたことと内定が下がったことに、どのような相関や因果関係があるかを明らかにした研究は寡聞にして知りません。これをちゃんと調べて論文にしたら相当に評価されると思いますが、現状は推測や言説の域を出ていないと思います。

 

仮に、もし12月に遅れたことにより内定を取れない学生が増えたという説を肯定するならば、私にも一つの見方があります。それは倫理憲章を理由にして12月まで何もしなかった学生だったからこそ内定が決まらなかったのです。就職活動は自分で始めるものではなく、誰かが「さあ、スタートですよ。まずは自己分析して、企業を研究して、筆記試験の練習をして、グループ・ディスカッションの練習をして、面接の練習をして、あ、そうそう、ビジネスマナーやスーツに化粧も手を抜いてはいけません・・・ etc.」と言われたままにやっているような学生だからこそ内定がとれなかったのです。

 

原因は時期が遅れたことにあるのではなく、自分の頭で考えず、自分の意志で行動せず、大学受験と同じようなことをやっていたからです。皮肉なことに、倫理憲章はそうした学生と、自分で考え行動した学生の違いを明らかにしてしまったようです。これは前世紀から言われていることですが、社会で求められるのは正しい解答を探す人では無く、自分の回答を創る人です。前者は教わったことで壁にぶつかったらすぐに立ち往生して誰かに頼ります。後者は壁にぶつかったすぐに自分の別の手段を考えて動きます。

 

企業情報の提供が、たかが2ヶ月遅れたり早くなったりで、学生の社会を知る範囲がどれだけ変わるものでしょうか?学生の人間としての能力がそれほど変わるものでしょうか?企業が求めているのは2ヶ月やそこらでわかる表面的な知識ではなく、その下にある自主性や計画性や洞察性や戦略性、判断力や行動力や忍耐力です。2ヶ月の就活期間不足により、業界・企業研究不足だと指摘される学生は、もっと低次元のその会社の事業分野や基本的なビジネスモデルや、はては社長の名前とかを知らない非常識なケースです。

 

ということで、採用担当者としては12月に遅らせてくれたお陰で、できる学生とそうでない学生の見分け方がよくわかるようになりました。だからもう2ヶ月遅らせて3年の春休みからやってくれるとなお助かりますし、経済同友会の主張のとおり4年の8月なら大歓迎です。採用担当者として良い人材が確保できないなどと心配はありません。ちょっと隣国を見れば語学堪能かつ高学歴で熱心な学生が自国で就職できずに日本に押し寄せてきているのですから。(近隣諸国とのトラブル対応は、近隣諸国の社員を採用して対処するのが一番です。これはかつて大英帝国がインド支配に、イギリスに恭順したインド人を警官や公務員にして現地支配を行った手法であり、海外に進出する日本企業も現地法人を設立する際には行っていました。)

世界がどんどんつながっていくなかで、いつまでも横並びでヨーイ、ドン!っとやっているようではいけませんね。

 

第240号:内定&内定辞退ブルー

多くの企業が10月1日の内定式を開催しますので、今週の採用担当者は準備に追われて慌ただしいことでしょう。学生側としては、第一希望の会社に決まってワクワクしている者もあれば、「本当にこの会社で良いんだろうか・・・」と内定ブルーに襲われる者もいます。そう、それは採用担当者にとって「内定辞退ブルー」の始まりなのです。

 

新学期が始まり、前期に就職指導をしていた学生とキャンパスで久しぶりに出会いました。開口一番、「先生、どっちの会社が良いか迷っています・・・。」複数内定なのですね。私が驚いたのは、前期終了時には、その中の1社に決めたと聞いていたからです。ところが、実際は辞退せずにそのままキープしていたのですね。これから聞かされる採用担当者の心情をお察ししました。

 

人間は、不都合な現実に直面した場合、「驚き」⇒「怒り」⇒「諦め」と心理が変化します。時間が経つと最後は現実を受け入れて「理解」に至ります。採用担当者を長年経験していると、そうした心理変化にも慣れてくるものですが、入社して1年目の新人などで、初任配属が人事部の採用業務だった場合、内定者の辞退連絡はきつい洗礼です。人間不信になりますね。私は営業から人事部に異動になったので、新社会人とは違って人間関係の機微やトラブルは相当に経験してきましたが、それでも最初は辛かったです。自分が面接をして惚れ込んで内定を出した学生が、ある日突然変わるんですよね。

 

「留学(進学)することになりました。」などは当たり前で、「親に勧められた会社に行かざるをえなくなりました。」という超お嬢様大学の学生、「教授の言うことをきいて学校推薦を受けないと卒業させて貰えません」という理系男子学生等々、「母校の職員(教員)になることになりました。」という理由を聞いたときは、就職課に配属されたら絶対に思い知らせてやる・・・と思ったものです。お陰様で、かなり人間ができるようになりました。(笑)

 

その後、内定辞退防止策をいろいろ検討しましたが、やはり人心の変化はわかりません。ならば、辞退されたらすぐに補欠を繰り上げたりしていました。大学入試と似ていますね。補欠を繰り上げると何処かの採用担当者が内定辞退ブルーになるわけですが、こっちも人員確保に必死です。

 

内定ブルーに内定辞退ブルーは、表裏の関係です。学生の相談を聞いていて思ったことは二つです。

1.選ぶ時間があり過ぎると意志決定が困難になる。

2.選ぶ情報があり過ぎると意志決定が困難になる。

 

長すぎる恋愛も多すぎる恋愛も結婚には結びつきにくいように、就職活動は長すぎても多すぎてもダメで、ソコソコにしておいた方が学生も採用担当者も(就職課職員も)助かるのかもしれません。

 

このメールマガジンが配信されたまさにいま、新人採用担当者の中には「内定辞退ブルー」になっている方が居ると思います。1日も早く癒されますように。

 

第239号:模擬授業と企業説明会

この夏もオープンキャンパスで大学は大いに賑い、大学の夏景色としてすっかり定着しました。私も昨年から駆り出され、高校生に向けて模擬授業や短いセミナー等を行っております。日頃は縁の無い制服姿の高校生達との触れ合いは新鮮で、いつも以上に楽しく双方向の授業を行っております。それはまるで採用担当者として就活大学生に接するときの気分です。

 

模擬授業と企業説明会は、本当によく似ています。企業の求める人材(大学で求められる学習能力・態度)や事業内容(授業内容)や社風(学風)等を伝え、応募意欲(入学意欲)を喚起致します。短時間のセミナーではなかなか伝えられない現場の様子は、インターンシップ(経団連のご指導で今年は1DAYが激減して5日間が急増)を導入していますが、これは法政大学でも行っている、高大連携プログラムの特待高校生の本授業参加にあたるでしょうか。

さて、このような広報活動で重要なのは、やはり登壇者の熱意や意欲やプレゼンテーションスキルです。意外と採用担当者(大学教育者も?)は視野狭窄のことがあり、多くの企業説明を聴いていると気になることがあります。例えば、以下のようなことです。

 

・受講者が多すぎる

ガイダンスや講演のように一方向の情報提供なら良いのですが、企業についての受講者の関心はそれぞれに異なるので、質疑応答がやりやすい人数の方が望ましいです。応募者の応募意欲にもつながります。特に今の若者は個人の扱われ方に敏感です。

 

・概要だけに終わる

大企業でよくあることですが、Webや資料でわかることしか説明しないことがあります。受講者は「ここだけの話」を聴きたくてやってきますので、期待外れに終わることがあります。特に大学内での合同セミナー等ではこの傾向がありますが、それは採用担当者の意識・経験値の問題です。

なので、高校生向けの模擬授業においても、高度なことを分かりやすく説明して向学心を喚起することが大事です。これは講義(内容)のレベルを下げることではありません。企業説明会でも優秀な学生ほど、ハードルの高い課題にぶつかった時に燃えます。採用担当者のレベルを見て(誤解して)、応募意欲が下がるというのはよくあることです。

 

・上目線になる

カリスマ方経営者の居るベンチャー企業や羽振りの良い企業等に多いですが、上目線で受講者を見下す講師がおります。学生から畏敬の念をもって見られることは重要ですが、それは講義の内容と伝え方を通じて受講者が自然と感じることです。最近破綻した某大企業が飛ぶ鳥を落とす勢いの時に説明を聴いたことがありますが、妙な違和感を覚えました。おそらくあまりに数多くの説明会をこなし、多くの学生が詰めかけるものですから見誤るようになったのでしょう。

 

前期の授業で嬉しかったことの一つは、オープンキャンパスで私の話を聴いて入学し、私の授業を履修してくれた学生が居たことです。これは私の企業説明を聴いて入社してくれた新人と再会できたのと同じ気分です。こうした出会いを大学も企業も大事にしていきたいものですね。

第238号:生きたコミュニケーション力の鍛錬

ようやく前期授業の成績採点が終わりました。私の授業は元々50名前後を想定して組み立てられたものですので、法政大学のような大規模大学で1クラスが100名(時に200名)を越えるような場合は一苦労です。本音を言えば、出席票の集計と1回の期末レポート・試験だけで採点する方がはるかに楽なのですが、それでは社会で求められるリアルタイムコミュニケーション力が鍛えられないのです。

 

私の授業の成績評価の配点は、出席点が35点、期末レポートが20点、そして最も配点の高いのが毎回の授業の後に提出させるリアクションペーパーの45点です。つまり、私の授業ではただ出席するだけではなく、しっかり授業を聴いて自分の意見を書かなければ単位がとれません。そしてこのリアクションペーパーの採点が膨大な作業になっているのです。

 

学生にとって大変なのは、リアクションペーパーを書くための時間を十分に与えていないことです。記入する時間をちゃんととって欲しいという学生からの要望もありますが、あえて行っておりません。というのは、これによって採用選考でも就職後の業務でも必須の「生きたコミュニケーション力」を求めている、鍛えているからなのです。

 

生きたコミュニケーション力とは「動的コミュニケーション力」とでも言うべきもので、いま目の前でおきている現象・状況を理解把握しながら考え分析し、アウトプット(発言・記録)する力です。高校までの授業とは異なり、教員である私が発言したことや板書(殆どは授業前に配布済)したことをそのまま書き取るものとは異なる能力です。この力は、例えば営業活動でお客様との会話の中から情報を収集・分析し、次の提案や交渉を行う場面等、仕事上の渉外場面で必須です。

 

一方、学生のもつコミュニケーション力とは、静的なものが多いように見えます。例えば、ファーストフードでのアルバイトなど、お客様との対応がある程度定型化している業務(効率上、お客様の方を企業の都合の型にはめています。注文後、他にお客が居なくても「一歩右にずれてお待ち下さい」と言われます。)では殆ど求められません。極論すれば、今の日本社会では、動的コミュニケーションとは正社員に必須、静的コミュニケーションとはアルバイトに必須ともいえるでしょう。

 

実を言うと、採用担当者も面接ではこの生きたコミュニケーション力をフルに発揮しているのです。質問を投げ、応募者の回答を分析して次の質問を考えては記録を残す・・・、応える学生も大変ですが、面接官も必死なのです。

 

期末レポートでは多くの学生が「10数回のリアクションペーパーの作成によって相当に書く力がついた」「メモのコツを掴んだ」「他の授業でも応用できる」というコメントを書いてくれました。

 

学生にとってリアクションペーパーを書くのは大変ですが、それを見る方も相当に苦労しております。お互い大変ですが、これが社会に通用するキャリア教育のひとつと信じて汗を流していきたいと思います。「一つのことに集中すると周りが見えなくなる」「自分の都合で相手を待たせる」学生達を鍛え直すために。