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第187号:放送大学の講義にて

先日(6月19/20日)初めて放送大学の講義を行いました。「大学教育と学生支援」という科目で、3名の教育社会学の権威の先生方とのオムニバス講座です。受講生の中には大学教職員の方も居られましたが、この講義を行ってみて改めて今の大学の課題を実感することができました。

 

ご存知の通り、放送大学はTV・ラジオによる一方向の遠隔授業ですが、私が今回担当した科目は面接授業という通常の大学と同じ対面型(スクーリング形式)のものです。その場に学生が居て講話の反応が見えないというのはなかなかやりにくいものですが、何とか私の担当である学生のキャリア支援の講義を終えてきました。

 

今回の放送大学の講義で最も苦労したことは、なんといっても受講生が多様で、講義の焦点が絞れない点です。若い方からご年配の方まで世代の幅は勿論、仕事に役立てたいという方、子供が大学生だからと言う方、一般教養として興味がある方等々、関心の幅は一般の大学とは比較にならない広さです。

冒頭に述べた通り、中には大学教職員の方も若干居られたのですが、そちらの方々のレベルに合わせて話をすると一般の方々はついてこられなくなってしまいます。(本当はそうした方に向けて専門的な話や討論をすることが望ましいのですが、その代わりに講義後に個別の質疑応答を行いました。)

 

この経験から私が感じたのは、これこそが本当に「大学全入時代」になった時の大学だということです。ここでいう大学全入とは、学力試験無しに誰でも入学して講義が受けられるという意味ですが、そのため学習目標レベルの設定が難しくなります。(もっとも、これは大学教員歴が短い私の力量の問題もあります。)そして、もし放送大学に就職課があったならその職員の苦労は想像を絶しますね。

 

この2年間の経済不況による大学生の就職難を見ていると、同じ大学内でも学生個人の内定状況にはかなり個人差が出てきているようです。そして、その原因は学生の多様化、もっとはっきり言えば、大学数急増と寛大な入試による大学全入時代の到来が原因だと思います。そうした学生を、卒業までに教育して如何に変容させるのかが大きな課題なのですが、何処の大学もまだ明確な答えは見つかっていないと思います。

 

ところで、放送大学の講義で逆にとても新鮮な出来事もありました。それは学生の皆さんが教室の前方から座っていて教師と学生の間に空間が無いことです。いまや何処の大学でも当たり前になった「馬蹄形着席スタイル(教師の前がガラ空きで教室後方と左右に学生が着席する)」ではありません。勿論、居眠りする学生もおりません。さすがは自らの意志と学費で学びに来ている社会人で、こうした向学心の高さは感動ものでした。これがあれば学力試験など無くても卒業までには十分な知識と学力がつけられると教師にもやる気を起こさせてくれます。今の大学生に欠けているもの、それも実感させられた放送大学の講義でした。

 

▼参考URL:放送大学 面接授業「大学教育と学生支援」

https://www.campus.ouj.ac.jp/ouj/modules/visit_tiny8/content/221n13B-dt.html#2276445

第186号:内々定者フォローの多様化

企業の採用選考活動も粛々と進んで参りましたが、春の採用を徐々に収束する企業が出てきています。採用担当者も気持ちを切り替えて2012年の夏のインターンシップに向けた準備に入りたいところですが、内々定者の意思確認という大事な仕事が残っています。ここで辞退されたらこれまでの努力が水の泡になりますので、採用担当者も気を引き締めてあたるところですが、今シーズンはここにも変化が出てきています。

 

これまで企業の内々定者のフォローというと、懇親会を開催して内々定者同志の顔合わせを行い、同期意識を醸成させていくというのが普通でした。ところが、採用関係費用の予算削減の影響はここまで及んでおり、今年は懇親会もホテルの会場を使う豪華なものは控えめにして、企業内の会議室や研修センターを使って簡単なグループワークを行ったり、社員との親睦会を開いたりと、至ってシンプルになりました。私の仕事仲間には、企業から依頼を受けて内々定者にビジネスマナーやプレゼンテーションの研修を行っている人も居るのですが、今年はパッタリ依頼が減って困ったとのこと。

 

そもそも採用担当者の多くは内定者フォローには余り積極的ではない方が多いように感じます。そうした業務が面倒だからとか予算が必要だからとかではなく、やはり学生には入社するまでは学生生活を伸び伸び過ごして欲しい、という声は昔と変わらずに耳にします。内々定者のフォローの第一の目的は、辞退防止なのですから、こうした不況では辞退者も少なくなり、仮に辞退されても穴埋めの候補者を探すのはそう難しいことではありませんから。

 

一方で金融機関等の営業等、入社してから外務員資格試験を取得しなければならない企業の採用担当者は「内定者教育」に熱心です。この資格は、以前は入社してから勉強を始め、1年目の10月までに取得すれば良かったのですが、それが5月になり、今では入社前の内定期間中に取得するように求める企業が増えてきています。説明上は内々定者全員に強制されるものではないのですが、それを取得した人としない人では、入社しての配属時期・場所が大きく変わってくるので、内々定者としては勉強せざるをえないでしょう。

 

そんな中で、面白い内々定者フォローを行っている企業がありました。内々定者に毎月、奨学金を支給しているのです。金額は月に数万円程度で返却不要で、内定辞退をしたら返却することになっています。採用担当者の方にその意図を尋ねてみたら、「アルバイトを止めてちゃんと勉強をして欲しいからです。留年でもされたら、こちらが大変ですからね。」とのこと。これを始めたところ、思わぬ効果もあったとか。「秘かに辞退を考えている人は、この奨学金を受け取らないんですよ。意図したわけではないのですが、入社意思の格好の踏み絵になっています。笑」なるほどですね。

 

かくの如く、内々定者フォローも、経済環境によって業界によって多様になっておりますが、大学教員の端くれとしてというか、かつて学生だった者としては、学生生活の最後の1年は伸び伸び過ごさせてあげたいものです。それでなくても学生は就職活動の相当の時間と労力と金銭を取られているのですからね。

 

第185号:就活保険と時期のミスマッチ

いま、都心の電車で目立つのはリクルート・スーツの女子学生です。ああ、一般職の採用活動がヤマ場なんだな、と感じます。今シーズンの傾向でかなり鮮明に見えた気がするのは、学生の内定時期に明らかな差が出ていることです。端的に言えば、有名上位校・総合職(4月内定者)、中堅校・一般職(5月内定者⇒現在進行中)、ということで、これは時期によって企業の採用意識がかなり明確になってきたということだと思います。

 

こうした傾向がハッキリとしてきた主な理由は、企業の採用予定数が減少してきているからでしょう。超長期化する学生の就職活動に反して、4月以降の企業の採用選考期間は短期化しています。採用数が少ないのですから、当然です。企業は短期決戦で片付けて、時期がきたらあっさり引き上げて無理な採用をしていません。

それは中堅企業の採用活動を見ていても感じます。これまで中堅企業の採用活動は大手が一段落するGW明けからがヤマ場でした。内定辞退者もわかったし、さあ大手の最終選考で不合格になった学生の「落ち穂拾い」を始めるか、と腕まくりをしたものです。ところが不況と言われすぎているせいか、最近は中堅企業も内定辞退者が少なくなってきて、GW明けの追加採用枠があまりありません。採用担当者に状況を尋ねてみると「今年は5月末までに決着をつけます。」という声を良く伺います。

 

そのせいか、学生を見ていると、4月に大手ばかりを回りすぎて全滅したので、5月以降は中堅企業を回り直そう、という学生はなかなか結果が出ずに焦っています。その主な理由は、以下でしょう。

1.有名上位校の学生に中堅校の学生のポジションを取られている

2.いきなり方向転換をしているので、志望動機(業界研究)が浅い

3.内定を1つも持っていない

 

1と2の理由については説明するまでもありませんが、3についてはオヤ?と思われたでしょう。ここでいう内定とは、「第一志望ではなかった企業の内定」です。つまり、この時期に中堅企業に採用されやすいのは4月以前にも中堅企業をある程度、回っていた学生です。本命の有名企業を狙いながら、ちゃんと保険をかけているのですね。笑い話のようですが、4月に生保・損保業界の大手企業ばかり狙っていて結果が出なかった学生は、自分の就職活動に保険をかけるのを忘れているのです。

 

採用担当者もそこを良く見ています。ですから、この時期の採用面接では必ず学生の就職活動状況を質問して内定の有無、もしくは最終選考までいったかを確認します。採用担当者にとって、他企業の内定を持っている学生は安心ですから。まだ自分の選考眼に自信の無い採用担当初心者には、そこを最重視している方もいます。(逆に景気の良いときは、大手の採用選考基準も緩みますので、失敗することもあります。)

 

ということで、学生に注意して欲しいと思うのは、自分の採用活動のポートフォリオ(リスク分散)をしっかり考えることと、資質・志望のミスマッチだけではなく、状況が変わった今は「時期のミスマッチ」も忘れないことですね。4月以前は大挙してやってきた航空・金融志望者等が、この時期に焦って一気に方向転換しているのは、見るに忍びありません。

第184号:文科省の就業力育成支援事業

GW明けで就職指導もますますご多忙な時期かと思いますが、官公庁の公募シーズンでもありますね。大学によって体制はそれぞれですが、今回の文科省の公募のように「就業力育成支援事業」となると、就職課やキャリアセンターの職員の皆さんにいきなり仕事がふられることがあるのではないでしょうか。この季節は私の方にもこうした相談を戴くことがありますが、今回の案件はなかなかハードルが高いと感じます。

 

まず「就業力」というものがよくわかりません。英語のエンプロイアビリティ(Employability)の訳から来たものかもしれませんが、これは一般に「企業に雇用されうる力」と解釈されるので「就職力」でも構わないでしょう。ところが、今回の「就業力」というのは、どうも企業に就職する(雇用される)能力だけではなく、もう一回り大きな概念で、(企業への就職も含めた)自分で生計を立てていく力という感じです。選定の要件に資格ではない「実学的専門教育」が必須になっておりますから、私のように何らかの専門性をもった個人事業主(フリーランサー)もイメージされているのかもしれません。(新卒学生にはあまりオススメしませんが。)

もっと官僚らしく「税金を納められる力」と言ってくれた方がわかりやすいかもしれませんね。これは冗談ではなく、納税できない(しない)国民が増えるということは国家の一大事ですから。「税金を払う能力(経済力・自立力)と意思(責任感・愛国心)のある新社会人の育成」と言ってくれたら凄くわかりやすくありませんか?

更に悩ましいのは「社会的・職業的自立に向けた指導等(キャリアガイダンス)」が大学組織間の有機的な連携で行える体制を求めていること、極めつけはこれらの就業力育成情報の積極的公表を行うということです。ここまで来ると、一流の経営コンサルタントでさえ唸ってしまいそうです。

 

さて、頭を抱えてばかりはいられませんので知恵を巡らせると、やはり今後のこうしたキャリア教育分野については企業(またはNPO等)と連携するのが一番なのかと思います。これは企業側にもメリットはありますから。数年前から私が主張しているのは、採用担当者は「不採用活動担当者」になってはいけないということです。多くの企業が莫大な予算をかけて行っている広報活動は、知名度向上等には意義があっても、膨大な応募者、それも画一的な思考の学生を大量に産み出しているように見えます。前回のコラムの通り、学生を画一化している犯人は採用担当者なのかもしれません。その結果、ひたすら面接を繰り返しているのは自業自得といえます。

そうした画一的な採用活動ではなく、いくつかの大学としっかり連携を組んで、短時間のセミナーではなく、ちゃんと社会・企業・仕事を教育し、その結果として良い人材を評価・確保できるような本当の「育成・採用活動(私はこれを養殖型採用と呼んでいます。詳細は下記サイトをご覧下さい。)」を行うべきではないでしょうか。これを「青田買い」と言う人もおりますが、とんでもない。青田は放っておいても稲は実りません。手間暇・愛情(教育)をかけて初めて実りますし、若者には稲と違って足があるので気に入らないと逃げちゃいますからね。今回の公募案件を契機に、大学と企業が改めて正しい(理想的な)連携を考えるキッカケになって欲しいと思います。

▼参考URL:成功する採用「狩猟型より農耕型」(日経ビジネスオンライン)

http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20100408/213911/

第183号:内々定者向け圧迫面接

採用選考面接にはいろいろな手法や形態がありますが、これは本当に意図的に行われているのかな?と思わされるのは「圧迫面接」です。ネット上に展開される匿名就職情報サイトでは、「××企業で圧迫面接をされた!」という書き込みを見かけますが、その多くは学生側の被害妄想のように思えます。最近の学生はかつてほどストレスに強くないことが原因だと推測されますが、何分、密室で展開される採用選考面接の性格上、その実態を把握することはできません。しかし、これは明らかに「圧迫面接」だな、と感じさせられるシーンがあります。それは、採用選考で合格判定が出て、内々定を出した学生に対するものです。

 

ちょうどこの原稿を書いている時に、とある有名企業の最終選考を終えて内々定の結果を戴いた学生から、就職活動の進捗報告がありました。

採用担当者「内々定、おめでとう。来春、当社に入社してくれるね?」

内々定学生「はい、お世話になります。」

採用担当者「では、今後、君が一番、やっちゃ行けないことがあるけど、何だかわかるかな?」

内々定学生「えーと、わかりません。何でしょう?」

採用担当者「それはね、内々定辞退だよ。それは人として最低の行為だからね。」

内々定学生「はい、御社は第一希望ですから大丈夫です!」

 

と、就職課の皆様もこうしたエピソードは度々、耳にされていることでしょう。このシーンは、一見和やかに見えますが、採用担当者に良識(というより法的知識)があるならば、これは明らかなコンプライアンス(遵法精神)違反の圧迫面接ですね。実を言うと、この学生は別に本命の企業があり、そちらに合格したらこの企業はサッサと辞退するつもりでいます。本人の言う「第一希望」とは「(結果の出ている企業の中での)第一希望」という意味ですから。(さて、この後、どうなることやら・・・。)

 

別の学生のケースで、この続きを聞きました。めでたく(?)本当の第一希望に内々定し、第一希望から第二希望になった企業に辞退の意思を電話で伝えたところ、案の定、呼び出されて本格的な圧迫面接が行われました。会議室で3人の社会人に3方を囲まれて、

右の社会人「こっち向いて、謝れよ!」

辞退学生 「申し訳ありません。」

左の社会人「なんで、俺に背を向けてるんだよ!」

というような調子で、延々と1時間、しぼられたそうです。これが本当の圧迫面接ですね。

 

私も採用担当者でしたから、学生から裏切られる気持ちの辛さはわかります。しかし、こうした態度を取る企業は許せません。実名を明かしたい気分です。1年先で入社直前の辞退ならまだしも、超早期化の採用活動を行っておいて、こうした圧迫面接を行うのは人として最低の行為だと思います。

これは誰でも知っている超有名大企業でのケースですが、こうした企業がセミナーでアピールするCSR重視の経営とは何なのでしょう?超早期化の採用活動に対して有効な是正策がない現在、少なくとも内々定者の基本的人権(職業選択の自由)を侵す圧迫面接は禁止する、という行政指導くらいあっても良いのではないでしょうか。まあ、狐と狸の化かし合いと言えば、それまでなのですが。

第182号:ベストセラー回答の犯人は誰だ!

企業の採用選考が始まり、早くも内々定を得た学生が現れました。今年の桜と同じで、なかなか咲かないと思いきや、チラホラと見え始めたら一気に満開になるのでしょう。その一方で、全く花開く気配を感じさせない応募者もおります。そうした学生の理由はいろいろありますが、面接をしていて感じるのは「ベストセラーの回答」をする学生です。

 

「ベストセラーの回答」とは、採用選考において毎年大流行する回答です。過去いろいろなものが登場しては消えていきましたが、例えば以下のようなものです。

質問:あなたの短所は?

回答:「1つのことに集中すると回りが見えなくなることです。」

⇒往年の超ヒット作ですが、多くの仕事がランダムに入ってくる企業では最も嫌われるタイプです。

 

質問:大学で最も苦労したことは?

回答:「サークル活動で新人勧誘に苦労したことです。」

⇒数年前から増えてきました。

 

質問:あなたが頑張って成果を出したことは?

回答:「チェーンストアの接客アルバイトでランキングを○○店中×位に上げたことです。」

⇒意外とこの経験を持っている人は多いです。努力の成果を出せと言われるのを意識したのでしょう。

 

質問:何故、この業界(金融・サービス業)を志望するのですか?

回答:「商品(モノ)を売るのは誰でも同じですが、形のないサービスは販売するのは自分が評価されるのでやり甲斐があります。」

⇒昨年辺りから出てきた今シーズンのベストセラーです。メーカーの人間が聞いたら怒り心頭です。

 

面接をしていてあまりに同じ回答が多いので統計をとってみたら、80%の学生が同じ回答をしたことがあり驚きました。こうなると怒りより不思議になって興味が湧いてきます。以前は、就活ハウツー本のせいだろう!いや、ネットが普及したからだろう!と議論しておりましたが、最近、また新しい犯人を見つけました。それはなんと採用担当者だったようです。

実は、上述のサービス業での志望動機は、某有名企業の企業セミナーで採用担当者がこの業界のやり甲斐を説明していた文言だったのです。その採用担当者の言葉をそのまま繰り返しているのですね。これは非常に危ないことです。どんなに良い志望動機でも、全ての応募者が話したら平凡なものになります。いや、むしろ、「またこれか。」とマイナスにすらなりかねません。ちょっとだけ言葉を換えれば印象も変わるのですが、今の学生にはそうしたボキャブラリーや知恵が欠如しているのでしょう。

私は就職指導の際に過去何度も言っていることですが、企業セミナーの話をそのまま志望動機にするのは危険です。キッカケにするのは結構ですが、他者と同じこと(それもその企業セミナーで話されたこと)だけを言っていたら、則アウトです。ついでに、これも志望動機のベストセラー回答ですが、「企業セミナーで話した社員の印象が良かったから。」も止めた方が良いです。今年の採用選考はそんなに甘くはありません。

第181号:表と裏の採用活動

いよいよ採用選考の開戦前夜です。多くの学生はエントリーシートの提出が完了して面接の呼び出しを待っているところでしょう。しかし今シーズンの特長として、そうした表面上の動きの中で、倫理憲章を尊重と言いつつ秘かに選考が始めている企業が増加しているようです。なかなか悩ましい情況ですが、就職活動(採用活動)が集中化している以上、避けられないことなのかもしれません。

 

2年前の採用広報活動で流行ったものに、「選考をともなわないセミナー」というものがありました。これは今でも続けている企業は多いですが、情況が変わった今季は知名度が低くて学生集客に苦労している企業だけに戻ったようです。有名企業が「学校名不問」で誰でも自由に企業セミナーを受けられるというのは公平なやり方ですが、その後の採用選考のプロセスをしっかり考えていないと現実的ではありません。どこの企業も面接者の数が限られていますので、採用選考のキャパシティには上限があります。何らかの形で受験者数をコントロールしなければなりません。

面接者を何人手配するかという採用担当者の仕事はなかなか大変です。面接者を何人用意できるから事前選考(書類審査・エントリーシート選考・グループワーク等)で何人まで絞り込もう、と考える企業もあれば、これだけの学生が集まったからこれだけの面接者を用意しよう、と考える企業もあります。面接者の数ではなく、採用選考会場のキャパシティ(面接ブースの数)が左右する時もあります。面接者が居て応募者も居るのに面接する場所がなくて近くの喫茶店で行ったという事態もありました。

 

いずれの方法をとるにしても、4月の面接集中化の現象には対応することは大変困難で、フライングの「青田買い」を秘かに進めることによって少しでも集中化の不可を避けようとするのですね。優秀な学生を先に抑えておきたいという方が本音でしょうが、こうした採用選考工数の問題も背景にあります。

 

その結果、「選考をともなわないセミナー」に代わって急増しているのは、「プレミアム・セミナー」ですね。特定の大学に絞って、企業主催のキャンパス内で行われるものもありましたが、最近は大学がそれを規制するようになってきましたので、学生サークルを通じて行ったり、大学近くの会場に場所を移したりして行われています。学生の呼び込みが目立たぬように、リクルーターが直接電話で呼び出す等の手間暇をかけていますが、OBに会えると喜んで参加した学生がいきなり面接もどきの質問をされて、実は「選考をともなった不意打ちのプレミアム・セミナー」だったりします。

 

こうした企業の動きを見ていると、4月から一気に始まる採用選考はダミーで、裏で動いている「見えない採用活動」が本気のように見えてきます。20年以上前で就職協定があった時代にもこうした現象はありました。いわゆる「解禁日」の企業説明会に学生がやってきた時点で、既に裏で採用活動は終了しており、形だけのセミナーを開催している企業群ですね。それに参加した学生に感想からは、「淡々と企業説明をするだけで、採用担当者にやる気を感じなかった。」とよく聴きました。そりゃそうです。採用活動が終わっているんですものね。採用担当者もどちらが表か裏かわからなくなっているのかもしれません。さて、採用数がまだまだ少ない今季の開戦前夜、果たしてどんな状況になるのでしょうか?

第180号:模擬面接からみる学生の面接力レベル

中小企業の採用選考面接が増えてきたせいか、模擬面接の依頼が増えてきました。就職課のご依頼で行うものと、私の授業の受講者向けに行うものとがありますが、来訪する学生の模擬面接を見ていると面接力には何段階かのレベルがあります。大きく3段階に分けてみてみましょう。

 

1.未体験レベル

「とりあえず」模擬面接を体験してみたいという学生です。入室から面接まで一連の流れを知りたい、面接者がどんな質問をするのか知りたいというレベルです。面接における基本的な知識や体験をしたいという学生ですが、まだ模擬面接が可能な段階ではありません。

2.一方的発表(プレゼンテーション)レベル

体験談や自己PRを整理してある程度の発表ができるようになった学生です。面接者から投げられる質問を予め想定しておき、用意してきた話題を話せるようになってきます。しかし、面接者の質問に合わせて柔軟に対応できる段階ではないので、全ての質問に回答を用意しておこうとします。「(面接では)どう言えばよいですか?」と『正解』を求める傾向にありますが、やっと模擬面接を始められるレベルです。

3.双方向会話・質疑応答レベル

志望分野が絞られてきて志望動機が深まり、面接者の質問に対して自分の回答を柔軟に対応させて『会話』ができる学生です。自己PRにも個性が出てきて、本番と同じ模擬面接で評価が可能なレベルです。

 

実際の面接ではさすがにレベル1の学生はあまり見かけませんが、レベル2の学生はかなり多いです。この段階の学生には少し突っ込んでみたり、角度を変えた質問をしたりするとすぐに戸惑ってしまうので、採用担当者としての判定は楽です。

こうした学生の面接力レベルは基本的な対人スキルの発達段階と同じですから、大学でのゼミやサークル活動、アルバイトでも習得することは可能です。問題はレベル3までに至るには相当の時間がかかるということで、勿論、個人差はありますが、私がこれまで模擬面接で見てきた経験では、特別な指導をしない限り、レベル1の学生がレベル3まで至るには数ヶ月かかります。

 

模擬面接を企画される就職課の皆様にお伝えしたいことは、こうした学生の対人スキルの発達段階を見極めた上で設定された方が良いということです。私は採用担当者の経験のあるキャリアカウンセラー仲間とチームを組んで大学へ模擬面接にお伺いすることがありますが、数年前と比べてやはり学生の対人スキルが低下していると感じます。以前なら少なくともレベル2の学生が中心で、なんとか模擬面接が成立したのですが、最近ではレベル1の学生が増えてプロの採用担当者を模擬面接に駆り出してお伺いしても本番レベルの面接に至らないことが増えました。レベル1とレベル2(の初期段階)学生に対しては、個別の模擬面接ではなくセミナー形式の公開模擬面接やワークショップで基礎知識の習得をいくつか踏ませた方が効果的だと思います。

 

ちなみに、エントリーシートと同じで、採用担当者は模擬面接で学生の『評価』はできますが、『指導』までできるとは限りません。誰でも料理の判定はできますが、作り方まで指導するのは別問題ですからね。

第179号:4年生の自主留年&再就職活動

この時期に内定辞退された採用担当者から怒りのクレームの電話を戴いた皆様はおられませんか?3年生の就職活動が本格的になってきましたが、卒業間近になった4年生が内定を辞退して自主的に留年するケースが見受けられます。

 

締め切り間際にいきなり大転換の意思決定をする最近の若者特有の行動パターンかもしれませんが、ようやく送り出せると思った学生をまた面倒をみるというのは就職課の方々には頭の痛いことでしょう。内定を取れなかった学生がこうした動きをみせて、公務員試験を目指したり、1学年下の学生と一緒に再度就職活動を始めたりすることは珍しいことではありません。しかし採用担当者の視点で見ると、今シーズンの「自主留年&再就職活動」はかなり厳しい選択になりそうな気がします。

 

というのは、現時点での企業の採用予定数は昨春同様の低水準にあり、採用担当者の最大の悩みは急増する応募者の効率良い選考だからです。まっさらの3年生と、再就職活動の4年生を比較してみたときに、多くの企業では前者を選択するでしょう。勿論、エントリーは同様に扱われますが、昨年内定が取れなかった学生は面接で必ず留年の理由を聞かれます。そこに採用担当者を納得させられる理由があれば良いのですが、それが無ければ結果は明らかです。

 

この状況はかつての受験戦争時代を思い出させます。今は昔話となりましたが、当時は現役生と浪人生の競争がありました。一般的には経験を積んだ浪人生の合格率の方が高かったものですが、現在の就職活動ではそれが逆転して現役生の方が有利です。また受験浪人の場合は、高い目標にチャレンジして学力向上を目指したわけですが、就職活動では人気企業ばかり目指した結果、内定が取れなかったと判断されがちです。

 

悩ましい理由がもう一つあります。それは採用時期の早期化です。この時期に就職留年という意思決定をした4年生は、いますぐエントリーして企業の選考に向かわざるをえません。そして、採用担当者から「何故、留年したのですか?」「留年を決めてどんな成長をしましたか?」と問われます。さてそこで、どれだけ成長したかを語れるでしょう?

もし早めに留年を決めていて、昨春と比べてTOEICが300点アップしたとか、中国語をビジネスレベルで使えるようになったとか、3年生と比較して相当に高い成長度を見せられなかったら、採用担当者は同レベルの3年生を選ぶことでしょう。

 

今の時代、私は実を言うとキャンパスライフを充実させるための計画的留年は積極的に勧めたいと思っています。今の学生は無駄や回り道が出来ずに没個性化していると感じていますので。しかし、この時期の切羽詰まっての自主留年は相当の覚悟をもって行うべきでしょう。思い切って腹をくくり、これからの半年間は死にものぐるいで採用担当者に評価される経験を積んで夏採用にかけるとか、留学に出て海外の留学生就職フォーラムからエントリーするとか、どうせやるならば、採用担当者の留年偏見を吹き飛ばすようなチャレンジを見せて欲しいと思います。

 

第178号:自己・中心のエントリーシート

大学の期末試験が終わり、ぼちぼち企業の採用活動が始まってきました。この不況のせいなのか例年よりも少々ゆっくりしている気配です。エントリーシート(ES)の受付も始まり、学生は山ほどプレエントリーした企業に向けて必死にESを書き始めていますが、最近のESの傾向として感じられるのは、その内容が自己中心的なところです。

 

具体的には以下のような点です。

1.消費者・顧客目線になってはいるが、販売者・企業目線になっていない。

⇒今の学生のプレエントリー数は増加していますが、志望企業群は身の回りの耐久消費財を扱う企業

が中心で、自分の気に入った商品の良さを他の人にも勧めたいという気持ちを志望動機にしている

学生が本当に多いです。確かにお客様の気持ちは大事ですが、企業が採用したいのはそれを販売・

企画する側の人間です。こうした学生は、「その商品を販売する企画を1つあげてみて下さい。」

という質問に、誰でも思いつくような一般的な回答しかできません。逆にインターンシップの経験

があって、企業側の舞台裏を知っている学生などは具体的な提案が出てきます。

 

2.自己PRや体験談と志望動機とが結びついていない。

⇒「学生時代に頑張ったことを具体的に説明する」という定番の課題について語られている内容が、

志望動機とつながっていない学生が多いです。一所懸命なことは伝わってくるのですが、「それは

何のために書いているの?」「そのPRはうちの会社でどんな仕事をしたくて書いているの?」と

問いたくなります。非常に多いアルバイトの話で、非正規社員としての笑顔の仕事ぶりをアピール

されてもこのご時世では正社員採用には結びつきません。

 

何故、こうしたESが増えてきたかとあえて採用担当者の視点で想像してみると、コンピテンシー面接の流行によって志望動機を聞かない企業が増えてきたからかもしれません。バブルの頃の面接では頑張ったことよりも志望動機の方が重視されていました。それほど実現性が無かったとしても、将来への夢や世界への野望などを問われれば、多少根拠の無い自信でもそれなりに風呂敷を広げることができましたし、それをキッカケに社会で活躍する自分を考え始めたものです。

ところがこの10年間に企業が精鋭採用にシフトして、学生の将来性(志望動機)を見るのではなく学生の過去の実績(体験談)を求め続けた結果、どうも今の学生を身の回りしか見えない小粒な人間にしてしまったような気がします。(コンピテンシー面接は過去の実績をみて将来の可能性を類推するものなのでちゃんと将来性を考えているのですが、ESの設問がそうした期待よりも根拠ばかり求めている印象を学生に与えてしまったのではないかという危惧です。)独創的で個性的な人物を求む、と言いながら、選考手法はあまりにも没個性なことに採用担当者も気づくべき時なのかもしれません。

 

就職活動は自分中心の世界から社会中心の世界に入っていくことです。その当事者である学生と採用担当者がお互いの夢と期待を大いに語るべき場であって欲しいものです。