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第337号:院落ちの就活学生の救命採用

急に秋の訪れを感じる気候になってきました。採用担当者も内定式が終わり、やっと一息ついたところですが、落ち穂拾いの仕事があるのもこの季節です。大学院の入試に失敗して急いで就職活動を始めなければならなくなった、いわゆる「院落ち」学生の追加採用です。今ではこうした採用活動に動く企業は減ってきましたが、先月、そうした相談に乗ったのでご紹介しましょう。

 

日本での大学院進学はまだまだ理工系が多数ですが、その中でも国公立や上位私立大学が中心です。学部卒で社会に出るのは、大学の研究に拘らない「文系就職」をしたり、生活環境の事情で大学院進学が困難な学生達です。

 

私が今回の相談を受けたのは、大学院進学が過半数を占める大学で、当然のように進学を予定していた学生さん10名程です。たまたま会議で伺った大学が大学院試験の発表日で、そこで不合格になって真っ青な顔をしておりました。

 

本来、こうした相談は個人の心情を配慮して個別に行うべきですが、今回は状況が切羽詰まっていたので駆け込んできた全員一緒に事情を聴きました。まるで企業の集団面接のようでしたが、それぞれの研究内容や志望先を整理しながら、その会話の中から個人の性格や指向性やコミュニケーションスタイルを読み取っていきました。

 

まったく就職活動をしていない学生達なので、業界研究も自己分析もやっておりません。なので、私の方でいくつかの選択肢(まだ採用可能性のある企業)を紹介し、後日、企業との面談機会を設定しました。大学側の方も、心ある教官の方々が企業に直接あたって紹介先の開拓に奔走してくれました。

 

結果、幸いにも過半数の学生が「院落ち」から1ヶ月以内で内定をとることができました。勿論、学生達の希望が完全に通ったわけではありませんが、社会に出るパスポートを手にすることができたなら、その後のチャンスはまた自分で切り開くこともできるでしょう。内定が取れた学生は、晴れやかな顔をしていました。

 

今回の件で私が改めて思ったのは以下のことです。

1.就活は長ければ良いものでもない。  ⇒メチャクチャ時間効率が良かった

2.選択肢は多ければ良いものでもない。 ⇒選択肢の少ないと覚悟を決めやすい

3.切羽詰まった状況ではカウンセリングより強い指導の方が良い ⇒救命救急隊員の気分

 

最後に今回ラッキーだったのは、なんとか採用窓口が開いていたことです。これ以上早期化すると、採用担当者も動けなかったことでしょう。いくつかの企業に打診した際に良くあったご返事は「担当者としては面談してあげたいのですが、既に選考日程が終わってしまったので・・・」というもの。比較的若くて大局的に判断する権限や意欲のない採用担当者の方々でした。良い人材だったら通年で採ってほしいものですが、新卒採用のあり方、採用活動の早期化について考えさせられた一幕でした。

第336号:厳選採用&リテンション

採用担当者にとっては少し緊張感を伴う内定通知日(10月1日)が近づいてきました。今年は採用選考期間が長くなったので、この時期に内定先を迷っている学生は少ないようですが、リテンション(内定辞退者防止策)もしっかりしないと痛い目を見ることがあります。

 

外資系企業(特にコンサルティング業界)では昔から、集団形成・採用選考・リテンションの3つのプロセスをそれぞれに担当チーム作ってシステマティックに行われてきましたが、日本も採用の厳選化に合わせてリテンションにも力が入ってきました。しかし、一度決定権を応募者に委ねるとなかなか苦労します。攻撃より防戦の方が大変ですから、それが嵩じてオワハラなるものが生まれています。

 

リテンションというと以前は内定者の懇親会(食事会・飲み会等)を開くのが定番で、IT環境が整ってきてからは企業側が内定者のコミュニケーション促進のためにSNSを提供しますが、あまり有効ではありません。今は個人でSNSやLineを活用することができますし、企業とは距離をおきたい個人も居ります。密かに内定辞退を考えている学生であればなおさらです。そこで最近のリテンションもいろいろ工夫されてきました。例えば以下の様なものです。

 

・内定者の中で盛り上げ役を作って支援する

内定者の中にはイベントやコーディーネーター役が好きな人が居ます。このような学生は辞退をしない前向き第一志望者なので、「内定者の懇親会を開くなら開催費用(飲み代)を支援するよ」と伝えると、喜んでSNSやLineグループを立ち上げて仕切ってくれます。最近のSNSでは業者が直接に宣伝を流すのではなく、ターゲット顧客の友人が「いいね!」と言っていると間接的に宣伝する手法です。

 

・選考結果と将来の期待をフィードバックする。

先日、某大手企業のリクルーターの方に今期の内定者の様子を伺ったら「やたら自分の評価を気にする」とのことでした。大学の授業でも同じで、自分のレポートやテストの成績をとても気にします。アクティブラーニングが増えて学生と教員の距離が近づくと、ますますこの傾向は強くなる気がします。

大学教員には「リアクションペーパー」という短い授業感想を書かせる方がおります。教員にとっての「リアクション」は授業内容を学生がどのように受け止めたかという意味ですが、学生の中には教員が自分にコメントに回答(リアクション)をするためのものと思っている者がいます。

なので、採用選考結果(何処まで本当にことを言うかは別ですが)を伝え、更に将来の配属プラン(これも何処まで約束するかは別として)を本人に話します。

 

手間暇のかかることではありますが、本気で採用したい人物には努力を惜しむことはできません。厳選採用とリテンションはセットで扱うべきもので、収穫した後に丁寧に梱包して鮮度を保ってお客様(配属現場)に届ける高級生鮮食料品のようなものですから。

第335号:期末試験答案とエントリーシートの共通点-論外編

  • 期末試験答案とエントリーシートの共通点-論外編

夏休みも後半となりましたが今回は採点後のちょっとした笑い話で、答案で見た漢字の誤用をご紹介します。真面目に考えると笑っている場合ではありませんが。

 

▼読みが似ている間違い

「コーチの知事がわからない」⇒貴方のチームに「指示」しているのは県知事か?

「リーダーとして指切らなければならない」⇒約束は指切り、会議は「仕切り」が大事だ。

「即先して行動できる」⇒「率先」なら即戦力になれたかも。

「見内のなかでは」⇒「身内」は確かに見える範囲だが。

 

▼字形が似ている間違い

「主張には自分の陣をもつべきだと思う」⇒君は戦国大名か?自分の「軸」は大事にね。

「区悪犯による殺人事件の放動を見ると」⇒「凶悪犯」の「報道」だろうね。

「自分の椎格を変えたい」⇒まずは正確に「性格」を把握しよう。

「認耐力は身についた」⇒その「忍耐力」は認め難い。

 

▼字義が似ている間違い

「部活が急しい」⇒相当に忙しいらしい。

「錠破りなことをした」⇒「掟破り」か?オーシャンズか?

「討議の決論に至った」⇒気持ちはわかるが大事なのは「結論」だ。

 

▼間違えた理由が謎

「違ちがえた字で違ちがえた表現をした」⇒「間違え」に目がちかちかする表現だ。

「実じつを踏まえて」⇒「事実」は小説より奇なりです。

「悪魔で書き手は人間であるから」⇒あくまで?手書き試験で何故こう書く?

 

私の期末試験は持ち込み不可の手書き(記述式回答)なので、スマホ等での誤変換ではありません。漢字の誤用は昔からありますが、今は誤用というよりは、そもそも漢字の理解の仕方が昔と違ってきているのかもしれません。使う言葉の意味を頭で理解してから使うのではなく、見たり聞いたりした視覚・聴覚の印象で体感的に捉えている感じです。

 

さて、このように答案採点をしてきて思うのは2020年度入試改革のことです。周知の通り、この改革プランでは記述式問題が課せられようですが、果たして試験官は上記のような誤用についてどのような判定を下すのでしょう。

期末試験採点ならば、教員は教え子に単位を取らせたいという好意的な主観を働かせるでしょう。しかし、大学入試では客観性・公平性が求められ、なおかつ指定された期間内に膨大な処理(採点)をしなければなりません。外部機関(アウトソーシング)や人工知能(AI)による支援も議論されていますが、そうなると主観的な判断より、基本的語句、語彙数、記述量で評価されるのでしょう。こうした誤用が見られるのも今のうちかもしれません。

第334号:期末試験答案とエントリーシートの共通点-3

残暑お見舞い申し上げます。立秋を過ぎて台風シーズンになりましたが、皆様の大学ではご無事でしょうか。この時期はオープンキャンパスで高校生も保護者も全国を移動されますのでご無事を祈ります。

 

さて夏休みに入り、春学期授業の期末試験を振り返っていますが、改めて答案の書けない学生はエントリーシート(ES)も書けないだろうなあ、と思わされます。逆に言うと良い答案が書ければESも上手に書けるはずです。例えば「分析せよ、論ぜよ」という試験問題の場合、良い答案は「文頭」に、ズレた答案は「文末」に特長があります。試験でよく見る具体例を示します。(教員としても、採用担当者としても、私の採点ポイントのひとつです。)

 

▼良い例(接続詞の使い方で論理がちゃんと構成されている)

『~は△と△とで構成されており、~は××といえる。

何故なら、(というのは、)~だからである。

例を挙げると、(例えば)~ということがある。

もう一つ例を挙げてみると、~ということもある。

以上のことから、~である。そして、今後は~。』

 

事実を元に見解を展開するのが「分析」の基本です。これは就職活動で求められる「自己分析」でも同じです。実績に基づかない論じ方は、以下の通り説得力がありません。

 

▼ズレた例(根拠のない未来志向は説得力がない)

『~と考えたい。

~のスコアを上げたい。

~と心掛けたい。

~たら良いと思っている。

~に挑戦したい。」

 

志望動機のように未来への希望を問われているのならともかく、自己分析(自己PR)を求められているのに希望的観測を書かれても困ります。試験のヤマが外れても、問われていることに対して論理的に回答している答案は救いようがありますが、この基本ができていなければ不合格です。

 

ESは奇をてらった能力を見るのではなく、会ってみるのに十分な基本があるかどうかが大事です。名作小説にする必要はありません。基本がない個性だけでは変な人になります。 答案を方程式に例えれば、「公式=基本」「変数=個性」です。数百字の小論文・試験答案・ESはこれで十分対応できると思います。基本をしっかり身につけ、あとは変数(豊かな体験値=語るべき事実)を充実させることですね。そうした実績を積み重ねるためにも夏休みはあるのでしょう。

 

第333号:調整派の経団連と行動派の同友会

経団連は来年の採用解禁日も本年度と同じ6月にする方向で調整していると報じられました。一方で、経済同友会からは「あるべき姿の(長期型)インターンシップ」の提言が報じられました。同じ経済団体でも組織の性格上、社会への発信内容やスタイルが違うところが面白いです。

 

この2団体の性格の違いは以前にも述べましたが、それぞれのタイプを対比するキーワードを思いつくままに挙げてみると・・・、現実と理想、国内と国際、タテマエとホンネ、形式と実質、慎重と迅速、組織と個人、利益重視と社会貢献・・・ etc.

 

総じて、調整派の経団連と行動派の経済同友会といえるでしょう。なんせ1400社の企業集団(経団連)と、1300人の経営者集団(同友会)です。前者が調整派になるのはメンバーが企業単位であり、経営者とはいえ自社の中で意見を調整してまとめさせていますから。後者はメンバーが個人単位で、経営者が自由好き勝手に発言できますから。調整と行動のスピードに差が出るのは当然です。

 

新卒採用の倫理については、これまでもこの2団体を中心に意見が出されてきましたが、昨年の採用活動の後ろ倒し(経済同友会的な意見)が今年の前倒し(経団連的な意見)になり、更に来年はまた前倒しにもっていきそうな動きをみて、経済同級会は愛想をつかしたような感じです。いくら議論をしたところで解決されそうもないので、採用活動解禁時期の小田原評定はやめ、その前にある正統派インターンシップについて提言を行い、根本的なところから採用活動の見直しを計らせようという感じです。

このインターンシップについてもまたこの2団体の意見や方向性は異なることになるでしょう。しかし、それはそれで良いのです。というのは、今の経済団体の使命はあるべき姿のモデルを示すことで、全体を統一することではないからです。世間一般の企業(採用担当者)も大学(学生)も、いつまでも高度経済成長期のように同じ成長モデルでみんなが成功するような幻想は捨てるべきです。そうした手法が効果的なのは、市場(人口・経済・学生数)が拡大するような市場であって、それらが成熟して縮小傾向に逆転した現在は、各者各様のスタイルを考えて実行しなければなりません。

経済同友会の提唱する長期型インターンシップの賛同企業は大手企業のたかだか数十社ですが、狙いは模範的な行動を見せることによって、全体に問題提起をすることです。マスコミはよくこの程度の企業が動いただけで、市場全体が動き始めたように報じますが、それは書きすぎです。

たとえば、最近よく使われるようなった用語に「ダイレクトリクルーティング」があります。これも同様で、全ての企業が同じことを行うのではなく、企業が得意の分野をつくって独自路線の採用手法をあみだすことです。だから、ダイレクトリクルーティングは、マスメディアで大きく取り上げられ、みんなが一緒にやるような就活Web型採用とは根本的に違います。

大学生の資質も企業の求める人材も多様化している現在、全体が同じ動きで成功するというのは現実的ではありません。大学の育てる人材も卒業後の進路も時期も、翻って自校独自の方向や手法を考えてみても良いのではないでしょうか。

第332号:2社内定したらどちらでも良い

「内定を戴いた会社のどちらが良いでしょう?」学生相談も最終段階のものが増えてきました。先日やってきた学生は、人もうらやむ有名企業2社に内定を貰い、ハムレットのように悩んでいました。就職担当者や採用担当者やなら、それなりの見解(ものの見方)を示してあげることも大事ですね。

この学生が迷っていたのは、1社は日本型雇用の大企業、1社は成長著しいハイテク企業と、魅力が真逆で事業内容や社風や人事制度などもまったく異なります。身もふたもない結論を言えば、以下の3点の理由から、どちらを選んでも大丈夫です。

1.学生はどちらを選んだかより、自分で決めたことに納得するから

カウンセリングやコーチングを学んだ方は「答えは貴方の中にある」と言いますが、米国のように大学生がそれなりに企業の事情を知っている社会なら学生も自分の知見から判断できるでしょう。しかし、日本の新卒採用のように、学生が社会の労働実態を殆ど知らない社会では、正しい判断ができるかどうかより、自分で判断したという納得感があるということでしょう。仮に社会に精通した社会人が、事業内容の優劣や生涯賃金の違いを教えてあげても、どちらが幸せな人生になるかなんて、その人生を歩んだ本人にしかわかりませんね。

2.採用担当者は、できない人、向いていない人には内定は出さないから

採用選考においては、よほど没個性な肉体労働でない限り、採用選考時に配属先のイメージがわかないと内定を出せません。どんな企業でもおおよその配属プラン(人員計画)をもって面接に臨みます。だから、内定を貰った時点で、その会社に向いているという他者判断はなされているのです。少なくとも、能力的についてこられないと思う学生に内定は出しません。なので、内定した会社についていけるか心配だという学生もいますが、その心配もまずありません。

3.隣の芝生は常に青いから

二つの会社のどちらに合っているかどうかは、二つの会社を体験してみないとわかりません。しかし、現実的に、人間は同時に二つの企業で働くことはできません。仮に、ある会社が自分に合わないと思って転職したら良い会社に巡り会ったということがあったとしても、それは最初の企業での経験があったら次の企業への対応力がついたからかもしれません。つまり、もう新卒ではなく社会適応力や判断力がついたからです。就職後、心の中で自分はあの会社に行っておけばよかったなあと思ったとしても、それは検証できませんからね。

ちなみに先日、辞退者がたくさん出て困ったという企業の若手採用担当者に話を伺いました。この方の悩みは、内定者からいくつかの企業で迷っているという相談を受けた際に「絶対にうちの方が良いよ!」と言い切れなかったそうです。まだ入社2~3年目だったので、学生の気持ちの共感しすぎる優しい採用担当者なのでしょう。こんな時にこそ、ハムレットの名文句でも思い出せば良いと思います。

「生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ」ではなく、

「天と地の間にはお前の哲学などには思いもよらぬ出来事があるのだ」

だからどちらを選んでも大丈夫、迷わず我が社を選びなさい、と。

第331号:圧倒的な業界研究不足には

先日とある企業の採用選考に立ち会いました。ES(自己PR)と筆記試験は合格し、面接に臨んだところ、応募企業の業務内容や業界動向についてあまりに無知で不合格となりました。今回、唖然としたのは、自己PRと業界研究の大きな落差です。これはコンピテンシー面接の弊害ともいえるのですが、業界研究の進め方にも問題がありそうです。

 

周知の通りコンピテンシー面接では応募者の体験事実を掘り下げていわゆる「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」を聴きだしていきますが、今回の学生は、ここは良く話せており自己分析対策をやってきたのでしょう。しかし、その次に尋ねた志望動機では、不思議なほどに話せません。こうした学生が増えているのは、おそらく大学受験のように就活対策でやりやすいところから行ってきたからでしょう。自己分析は業界研究に比べて自分1人でできますし、どこの企業でも同じ話をしても大きな問題はありません。つまり点数の取りやすい(?)問題です。

 

それに対し、業界研究はデータを集めること自体に手間暇がかかりますし、更に分析して自分の意見(志望動機)にもっていくのも大変です。上記の学生は、自己分析を仕上げて時間がなくなってしまったのでしょう。または、企業によっては志望動機を聞かないコンピテンシー面接だけで行いますから、そうした企業が第一希望だったのかもしれません。業界研究は確かに大変面倒なものですが、要領さえ押さえられれば面白くなり、以下のようなステップで行えば大学で学ぶ分析手法とも同じです。

 

1.学生向けのデータ収集(就活本、企業セミナー等)           ⇒文献調査(一般情報)

2.社会人向けのデータ収集(ビジネス書籍、IR情報等)       ⇒定量調査(専門情報)

3.最新の現場動向収集(OB・OG訪問等)                   ⇒定性調査(先端情報)

 

大学で学ぶべきスキルにロジカルシンキングがありますが、それは事実を元に見解を述べるという点ではコンピテンシー面接や業界分析と同じです。最初に一般情報を得て問題意識を高め、専門情報を得て課題を発見し、絞り込んだ分野の先端情報を得て持論を展開するのです。

ところが多くの学生は一般情報の段階で時間切れになっているようです。加えて学生向けの就活情報が溢れて便利になったようですが、それは誰もが目にする一般情報なので志望動機にも個性がなくなります。逆に言うと、個性的な志望動機を作りたいなら他者と違うデータ(専門&先端情報)を入手すれば良いのです。これは大学のレポートや論文で求められるオリジナリティと同じです。

 

こうした情報の扱い方に悩む学生のことも考え、授業を通じて大学の学びと一緒に教えられないかと始めたのがビデオ教材を用いた授業です。このコラムでもご紹介して参りましたが、今年も研究会を始めます。ご関心のある方は、どうぞ一緒に勉強しませんか?

 

▼ご参考:7月15日(金)14:30~16:30、17:00~19:00

ビデオ教材研究会(2016年度 第1回)法政大学市ヶ谷キャンパス

https://docs.google.com/forms/d/1GwmEu7HGAfFzT1rsB8BVESjccNRuNEmyY4-MgkOFDf8/viewform?c=0&w=1&usp=mail_form_link

第330号:本当のポテンシャル採用とは

第一希望に内定したという学生の報告がだいぶ増えてきましたので、大手企業の内定出しも進んできているようです。採用担当者の仕事もそろそろ終盤と言いたいところですが、ここ数年、辞退率が年々高くなってきているので、企業によってはこれからもう一働きというところもあるでしょう。

先日伺った一部上場企業の採用担当者の話では、今期の内定辞退率がついに50%を越えてしまったとのこと。こうなるとこれまでの厳選採用という方針の見直しを余儀なくされてきます。ITバブル崩壊以降、景気がよくなってもこの方針は変えないと言われて続けてきましたが、その後の社会変化の影響で、今後は以下のような変動が起きてきました。

1.IT(Web)採用が増加する ⇒母集団が肥大化する

2.厳選採用を多くの企業が行う   ⇒内定者は上位学生に集中する

3.大学大衆化が進む                    ⇒不採用者が増加する

4.少子化が進行する                    ⇒内定集中が加速する

5.景況感が停滞する                    ⇒採用数減少で益々内定集中

6.非正規雇用が進行する         ⇒採用担当者が減少する?

厳選採用が進んでも学生数が増え続ければ(少子化が進行しなければ)、各社がそれなりに内定者を確保できたことでしょう。しかし上昇し続けた大学進学率もこれからは停滞し、事態はますます深刻になりそうです。 こうなると採用選考基準を下げて必要数を確保してきたのが過去の循環的労働需給関係ですが、そのように進まなくなってきたのは非正規雇用の進行(雇用の海外流入)と二次産業の海外移転(雇用の海外流出)という構造的変動(景気が戻っても元に戻らない)が進んできたからです。

こうした環境になると、採用担当者が対応しなければならないのは上位層の次に来る中位層(というより「中の上位層」)採用です。言い方を変えれば、「本当のポテンシャル採用」です。企業採用担当者はよく「重視しているのは『伸び代(ポテンシャル)』です。」と言います。これは入社後に成果を出してくれる人材という期待ですが、厳選採用は既に学生時代になんらかの成果を出したり、採用選考で明確にデキル!と感じさせたりする能力が顕在化した上位層の採用です。

それに対し「本当のポテンシャル採用」とは採用選考の場では確固たる印象とはいえませんが(いわゆるボーダーライン)、その可能性を信じて内定を出すことです。そして、このボーダーラインの判断が最も難しい採用だと思います。合格層と不合格層は、誰が見でも「良いねえ」「ダメだねえ」と選考判断がぶれることは殆どありませんが、ボーダーライン層は選考担当者によって意見が分かれますので。

そうした判定は面接では判断しにくいので、インターンシップ等である程度の時間と工数をかけて選考を進めた方が良いです。それが今の3年生に対する早期のコンタクトにつながっており、当分は増えていくでしょう。学生にとっても短時間の面接より、例えワンデイでもリラックスしてポテンシャル(伸び代)を発揮しやすいと思います。大学生活が就職活動で塗りつぶされるのも困りますが、双方に良い関係の就職選考活動になっていけば良いですね。

第329号:就職活動による未履修単位証明書

想定したくはなかったですが、想定していたが事態が起きてしまいました。私の授業の履修登録はしていたものの、一度も見たことのない学生が出席してきたのです。お察しの通り、春休みからずっと就職活動を続けてきた学生で、やっと内定が取れたとのこと。本来であればこれまでの苦労をねぎらい、祝福してあげたいところですが、既に授業の半分を終えた時点からの出席では単位履修を認めるのは困難です。

 

今年は昨年以上に4年生が授業に出て来ませんでした。昨年のマスコミの弁によれば、解禁日を6月にしたのは「学生が勉強しなくなるから」だそうですが、授業出席率だけをみれば昨年の方が良かったです。少なくとも4月初旬の授業に4年生は居たので「これから就活でなかなか出られなくなるかも・・・」という相談を受けて補習課題を出す等の対応をしていましたが、履修登録をしていても姿を現さない学生はどうしようもありません。

 

私は授業シラバスにも記載していますが、授業は全出席を求めています。しかし、体調不良等の不測の事態のために2回だけは欠席を認めています。教職課程や運動部での海外遠征等による欠席にはレポートを課すというオーソドックスなものです。しかし、無断欠席には厳しい対処をしています。なぜなら、私の担当するキャリア教育の領域は、社会で通用する就業力を教えていますが、無断欠席に寛容な企業など殆どないと思いますから。

 

私も採用担当者時代には学生を平日授業のある日に呼び出すのは忍びなく思っていましたので、選考面接日が授業とぶつかった場合には別日程をたててできる限り対応していました。最終選考で役員面接などになると日程調整をするのはなかなか大変でしたが、就職活動が原因でその学生が卒業できなくなったら元も子もありませんから。

 

しかし今回の事態のように、そのまさかの事態がおきたならどうすべきか。私は内定を出した企業が責任をもってその学生を受け入れるべきだと思います。求人票や内定誓約書には応募要件に「卒業見込」という文言が必ずありますが、これは別に法律で決まったものでもなく、その企業が了承すれば採用するのに何の問題もありません。会社内の法律である就業規則に採用の条件として記載されていたとしても、知恵と度胸を働かせればいくらでも対処方法はあります。

 

もし私の授業単位が取れなくて卒業できなかったということなら、その企業の選考日時と授業日時が重なっていることを確認して、喜んで『就職活動による未履修単位証明書』なるもでも書きましょう。就職活動が原因で卒業できない学生が出たならば、責任を散るべきは大学ではなく授業期間を無視して採用選考を行う企業とそれを許してしまう社会ではないでしょうか。

 

そもそも殆どの企業が大学卒業見込みを応募要件にしているのですから、その意義と責任を改めて認識してほしいものです。

 

第328号:採用活動の「旬」

鮎漁解禁(7月1日が多い)と聞けば、太公望ならずとも夏の訪れを感じワクワクするものでしょう。しかし、今年の就活については解禁日直前というのにあまり盛り上がっていないようです。既にマスコミで報じられているとおり、学生も企業も粛々とフライングをしていますから。

 

物事には何でも潮時やタイミングがあります。私は商社マン時代に一所懸命に営業活動を行っていましたが、初心者の頃は顧客にはそうした時期があるとは気づけませんでした。努力しても売れないのは自分の力量不足のせいだと思っていたのですが、タイミングを知らずに無駄な活動をしていたということが後からわかりました。

私が販売していた半導体はコンピューターや通信機器に使われる部品で、お客様は高い技術力をもったメーカーの開発者です。そして、このお客様の仕事には、材料を選んでいる時期、試作している時期、量産している時期等があります。このタイミング(選定時期)を上手く掴んで売り込めば、商談はまとまりやすいですが、材料の選定が終わってしまうと、どんなに売り込んでもチャンスは殆どありません。

 

このような状況にあるのが今の採用担当者です。春先からES(エントリーシート)等で形成した母集団の面談を続け、最終判断がすぐに出せるように仕込みを続けてきました。企業のタイミングは多様ですが、多くの大手企業は解禁日の6月1日に向けて選定を終了し、ここまで集めた学生が逃げないようにフォロー(面談)をしています。つまり、いま学生が売り込んでも(応募しても)、しばらくは手元に集めた材料(母集団)で手一杯なのです。

ですから、この時期に呼び出される機会がなかった学生は、ジタバタせずにちょっと自分のやり方を見直す時間にあてた方が良いでしょう。というのは、これまでは各社各様のタイミングでしたが、解禁日から全体が一つのタイミングに集約されます。6月の1週目で一気に結果が出て学生のホンネもわかり、内々定を出した企業の第一希望者実数がわかります。結果、想定外の辞退者が出てしまった企業は次の母集団形成に入り、再び選定時期が始まります。一方、学生側も、これまで結果が出ずにキープされてきた企業から最終選考不合格を言い渡されたり、第一希望に内々定を貰ったので複数内定を辞退したりしますので、これまた応募時期が盛んになります。

 

ところで、学生を採用するのに良い「旬」とはいつでしょう?旬はただのタイミングではありません。漁業でも農業でも生物には自然の旬があり、それは収穫物にもっとも脂がのって魅力的な時期です。就活をする学生の旬、企業から見てもっとも魅力的な時期はあるはずですが、現状の争奪戦は成熟だろうが未熟だろうが奪い合いの様相です。勿体ないのは、未成熟な状態の学生が能力不足な学生と混同されてしまうことです。これは企業にも学生にも不幸なことですね。

 

若者の成長は漁業や農業の収穫物ほどに均一ではありませんが、貴重な自然資源の枯渇を防ぎ、密漁を防いで多くの若者に一番脂がのった収穫時期に解禁日が設定されると良いですね。