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第87号:就職ガイダンスからキャリア教育へ-2

新年度になりました。日本の春は国を挙げての人事異動の季節ですね。大学にも初々しい表情の新入生が溢れています。いつもお世話になっている就職課の職員の方々からも異動のご挨拶をいくつか頂戴致しました。さすがに企業の採用担当者は戦線真っ盛りで異動は少ないようです。私事で恐縮ですが、私も今月から大学デビューを果たすこととなりました。就職ガイダンスからキャリア教育へ一歩踏み出します。

倫理憲章の解禁日も過ぎ、日中のビジネスタウンはリクルート・スーツの学生で溢れています。企業の採用担当者はドキドキしながら学生の応募状況を見ています。どれだけ事前のエントリーがあっても、本番の面接にやってきてくれるかは未知数ですから。採用担当者も選考開始の時期は慣れていないこともあります。特に現場職員を臨時に面接担当を配置する大企業では、学生との会話になれていなくて、慣れてくるまで多少の時間を要します。まさに4月は誰もが初心者なのですね。

さて、最近の面接の傾向としてコンピテンシー面接が増えてきていることは皆様もご存知だと思います。将来への志望動機よりも過去における活動実績を重視してカウンセリングのように聴きだしていく手法です。コンサルタントの方によると、過去の行動事実を質問していくので面接者の主観による個人差はなくなり、本当に行動できる学生が的確に選別できるとのこと。この手法の是非はともかく、大学生活が如何に充実していたかというのは就職面接でも最も合否を分けるポイントでしょう。どんなに面接テクニックがあっても肝心の話すべき内容が無ければ意味がありません。

年初から数多くの模擬面接を行ってきましたが、模擬面接でアドバイスできるのはあくまでも面接のテクニックです。個人差はあってもこのような対人スキルはわりと短時間で身につけることも可能ですが、やはり話すべき内容があって初めて活きるものです。ところが、こ高度に発達したメディアの影響によるものかもしれませんが、最近の学生たちの活動実績はますます画一化されてきていたり、企業や社会の見方もドンドン表層的なものになってきているのを感じます。やはり一番良い就職活動と言えば、キャンパスライフを如何に充実させるかということだと思いますが、そこに個性差が少なくなってきているのかもしれません。

ということで、小さな試みですが、いわゆる低学年からのキャリア教育というものに取り組んでみることに致しました。既に多くの大学で開始されていることありますが、日本の教育において最も重要なことではないかと思います。以前も書きましたが、良い学生が育ってこなければ良い採用活動はできないのです。特にこれからの本格的な少子化時代を迎え、一人でも多くの学生がキャンパスライフで切磋琢磨し、謳歌し、社会で活躍するステップとして欲しいと思うのです。何年か先に満開の桜とともに成果が花開くことを祈りながらチャレンジしてみます。

(2年前の春にこのタイトルで書いたのですが、まさか自分で取り組む機会がやってくるとは!)

 

第86号:「恥の壁」

この時期は大学や学生からの就職相談も模擬面接の実施やエントリーシート(ES)の添削等のより実践的なものが多くなってきていますが、なかなかそこまでできない方も居られます。就活のペースは人ぞれぞれですが、そんな出足が遅い方を見ていて気づいたのは、実践でやってみる試みが少ない点です。その原因は「バカの壁」ならぬ「恥の壁」のようです。

メディア報道によると今年の就職シーズンは売り手市場だそうです。バブル期ほどではないにしても採用担当者の意欲が高まっているのは確かで、そのせいかどうかわかりませんが、学生の動きは昨シーズンよりも危機感が低いように見えます。実際は、動きの早い学生、マイペースの学生、のんびりした学生等、就職活動の進め方が多様化しているせいかもしれません。いずれの学生にしても就職の準備を進めておりますが、その進め方にもじれったいものを感じることがあります。

模擬面接や自己PRは実体験学習に勝るものはないのですが、模擬面接でも「まだ準備ができていないので・・・」と遠慮されたり、ESについても書き方についての個別の質問は多いのですが、いざ自分で書いたものを持ってくることがなかなかできない方が居られます。おそらく、「こんなレベルではまだまた恥ずかしくて・・・」という心理なのでしょう。それは日本人独特の美しい感覚だと思います。「恥」は日本の文化であり、その根底には「向上心」がありますから。

しかし、今の若者の就職活動の「恥の壁」は、そういった向上心というより、「失敗したくない」「失敗が怖い」「失敗してはいけない」という気持ちの方が大きいような気がします。その気持ちも分かりますが、時期が秋ならともかく、今は実践を繰り返しながら学習していく時期なので、この「恥の壁」を如何に乗り越えるかが大事だと思います。

今の時代は少子化のせいか、なかなか失敗ができない(浪人したくても現役で大学に入れちゃう)時代ですから、チャレンジ精神が育ちにくいです。是非、頑張って積極的に失敗し、そこから学んで欲しいと思います。その方が学習効果も高く、しかも速いですから。

失敗を一度もしない人よりも、失敗をしても立ち直れる人の方が強いと思いますし、企業も求めていると思います。「あなたが経験した最大の挫折や試練はなんですか?それをどうやって乗り越えましたか?」多くの企業が面接で問いかけていますよね。

 

 

第85号:求める人材像と採用選考基準は違う

企業セミナーで学生から良く出る質問に「求める人材像」というのがあります。企業の方から積極的に伝えていることもありますが、これと採用面接で使われる「選考基準」は似て非なるものだと思います。

意外に思われるかもしれませんが、「求める人材像」はその企業での最大公約数的なものであって漠然となるのは当たり前です。だからどこの企業の「求める人材像」も「前例に挑戦する人」とか「問題解決力のある人」とかの似たようなものになるのも当然でしょう。

一方、「選考基準」の方は応募者の公平性のために社外秘になっているのが普通です。これは「求める人材像」を部署別に広く展開して求める人材像の要件を想定し、その人材であることを判断するための質問に落とし込みます。そして、更にその質問に対して理想的な答えを想定します(実はここまでやる企業はわりと少ない)。

しかし、その想定された答えを答えなくても不採用になることはありません。企業の求めているのは唯一無二の「解答」ではなく多種多様の「回答」だからです。実際、面接では想定外の回答をされることの方がはるかに多く、良くも悪くも「理想とする人材像」とはズレているのでそこをどう判断するかが採用担当者の最大の悩みであり、腕の見せ所でもあります。

経済産業省で「社会人基礎力に関する研究会」がこのテーマを調査しており2月の中間報告で、「企業の採用選考基準が明確でない」という点が指摘されました。就職のミスマッチがおきているのは企業が伝えている「求める人材像」と「採用選考基準」にズレがあるからという論拠ですが、私はこの視点には必ずしも同意できません。それは採用活動(就職活動)を大学受験や資格試験と同一視するものであり、面接において「回答」を求めるのではなく「解答」を求めさせるものになるからです。それは初期選考の段階では有効でしょう。しかし、最終的に企業の仲間として受け入れるにはアナログ的な「解答」だけでは割り切れない応募者と企業の価値観のマッチングがものをいいます。

ということで、企業セミナーで「御社の求める人材像とは何ですか?」という質問は上記の通りあまり意味がありません。それどころか、「ああ、この学生さんは解答を求めようとしているね。きっと面接ではそれに合わせた志望動機や行動実績を用意してくるだろうなあ。」という印象を採用担当者に与えます。

学生が面接を受ける際、企業の求める人材像や選考基準にあまり気を取られる必要はないと思います。それよりも、やはりその企業を研究してみたうえで自分のどの部分をその企業に売り込んだらよいだろう?と考えてみる方が良いと思います。それは「求める人材像」に合わせるという解答合わせではなく、その企業への「売り込む人材像」となり、「求める人材像」とは似て非なるものになるでしょう。

 

 

第84号:模擬面接でわかる自己分析違い

今年も大学や学生サークルからの模擬面接に数多く呼ばれております。招かれる時期がだんだんと早くなってきているせいなのか、まだとても本番面接まで行えるレベルではありませんが、最近、目についてきたのは自己分析の「不足」ではなく「違い」です。

模擬面接の前に自己分析を行った方が良いのは常識ですが、自分の価値観・判断基準を知るための自己分析(内側の自己分析)だけで終わってしまい、“自分を企業に売り込むための情報を整理する”自己分析(外側の自己分析)になっていない学生が本当に多いです。モノヅクリに例えれば、前者は素材を集めてくる工程で、後者は素材を加工する工程です。採用担当者が求めるのは当然ながら後者です。前者だけではどんな商品かわからないので購入する(採用する)ことはできません。

自分自身の新人営業マン時代の体験で恐縮ですが、当時、ベテランの上司からよく言われた言葉があります。

「製品を売るな!商品を売れ!」

当時はその意味がすぐにわからなかったのですが、なんとか一人前の営業マンになった時その意味がわかりました。「製品」というのは工場から出たばかりの“生の”ままです。それをそのまま売る(単に価格や性能だけを説明する)のではなく、それを購入するお客様に合わせて“売り方”を加えるということです。私の扱っていた半導体という電子部品は複雑な高機能製品で、お客様によって使い方がまちまちなのです。ですから売り込むお客様を事前に調べてどんな使い方をしたら良いか、競合製品と何処がどの位優れているか(または弱い点をどうカバーするか)、を十分におさえておかないとなかなか購入を決めて戴けません。

電子部品でさえそうなのですから、更に複雑で使い方の難しい人間という製品を買って貰うためにはちゃんと素材を加工して、“商品”にしないといけません。最近は自己分析をサポートしてくれる有料セミナーもありますが、内側の自己分析だけでなく外側の自己分析まで行って、ちゃんと自分自身を顧客に魅力ある“商品”にまで仕上げてきて欲しいと思います。

どうも今の学生は自分を売り込む“営業活動”が苦手なようです。製品のままで誰かが買ってくれるのを待っているのではなかなか売れません。就職活動は自分自身を企業に買って貰う営業活動であり、ビジネスの第一歩であることをちゃんと理解してくれたなら、面接の場で話す内容がきっと変わってくると思います。

補足:冒頭で「自己分析違い」と述べておりますが、「製品」を「商品」にするという意味ならば「自己分析不足」という言葉でも構いません。しかし、今の学生に「自己分析不足」という言葉を伝えるとまたまた内側に入ってしまうことがありますので、敢えて「自己分析違い」という言葉にしております。

 

第83号:大学入試に学ぶ採用活動

期末試験が終わったらすぐに大学入試と就職課の方々もきっとご多忙を極めている頃と推察致します。比較的小規模な大学では職員が一丸となって対応しなければならないことでしょう。企業でも採用シーズンになると一般社員も企業セミナーや面接官に調達に苦労するあたり、大学就職課と企業採用担当者は本当に似ている業務だと思います。大学入試も今はAO入試の導入による多様化が進んでおりますが、その選考方法も企業の採用選考手法と共通するものが多く学ぶところが多いです。

「自己推薦方式」「プレゼンテーション方式」「セミナー方式」「課題論文方式」・・・、大学出願者を多様な選考基準で測定しようという試みは企業の採用選考方法を考える際にとても参考になります。大学と企業とどちらが早いのかわかりませんが、企業にも「(理工系中心の)推薦選考」「プレゼンテーション面接」「グループ・ディスカッション面接」「ドラフト型面接」「論文審査」は広く導入されており、流行のAO入試も出願条件の内容を見ると企業で大流行のコンピテンシー面接と同じく高校時代の行動実績(事実・成果)を重視していますね。

このように相似点の多い大学入試と企業採用選考ですが、応募者の形成方法については大学の方が一歩先を行っていると感じることがあります。つい先日、関西学院大学が協定高校に対して「関学クラス」を設置してクラス全員が関学大に進学できるというニュースが話題になりました。関学大からは教員も派遣されて面倒をみてくれるそうです。これを見た企業採用担当者の中には是非取り組んでみたいと思った人も居ることでしょうが、マスコミからは「青田買いだ!」と叩かれそうです。そのせいではないですが、ご存知の通り大企業の場合はクラス全員どころか学校を創設して学校丸ごと採用しようとするところも出てきていますね。

少子化の時代になったいま、企業の人材調達の考え方も、「採用してから能力開発へ」から「能力開発してから採用へ」という方向に向かうと思います。「農耕型採用(採用してから能力開発)」から「養殖型採用(能力開発してから採用へ)」と向かう流れです。上記の関学大の方法や旧来の入社を前提とした奨学金制度などはまさに養殖型採用で、これからいろいろな形で企業が大学教育に関わってくることでしょう。

(企業にはもう一つ中途採用に適用される「狩猟型採用(能力開発された人を採用)」というのもありますが、これは大学では編入学の受け入れということになるので、なかなか難しいと思います。多くの企業は「養殖型採用」より「狩猟型採用」を選びますが、人材の流動化が低い日本では供給不足になっていて恒常的な求人難が続いています。)

さて皆さんの大学の入試はどんな結果が出ることでしょう。大学の入試方法の進化も参考になりますが、辞退者の欠員補充はどうするかも興味津々です。採用面接を行いながら横目で大学入試状況を見ているこの頃です。

 

第82号:採用活動に関する大学との共同研究

人事労務を研究している都心の大学のゼミ学生と企業の採用活動に関する共同研究を行いました。3年ほど前にも一度行ったことがあるのですが、学生の作成した質問票(アンケート)にProfessional Recruiters Clubのメンバーが回答し、学生がそれを分析して報告・提言を行うものです。今回のテーマは「新卒早期離職者」に関するテーマですが、調査して見えたいくつかの傾向をお伝え致します。

このアンケートの回答数は30社と小規模でありますし、Professional Recruiters Clubという特殊(?)な集団でありますから、これをもって一般化することはできませんが、マスコミで言われていることとはちょっと違う面が見えております。ちなみに、Professional Recruiters Clubの特殊なところというと、手前味噌になりますが、人材採用に熱心で人材を消耗品とは考えていない“良い”企業です。グループで10万人を越える企業もあれば、全体で500人前後の小企業もあります。

学生が今回の「新卒早期離職者」というテーマを選んだ理由ですが、就職活動で先輩訪問をしたときに、すぐに辞めてしまったり、新人研修でひどい扱いをされたことを聞き、企業は採用活動と能力開発活動をもっと力を入れるべきだという問題意識からだそうです。(ちょっと耳が痛いです。)実際、今回の調査結果でも新卒早期離職者はやや増加との傾向が見られました。

さて、今回のアンケートから見られた傾向を3点ばかり紹介しましょう。

1.3年以内に退職している新卒社員は10%前後である。

⇒一般に言われている“3年3割”は全く当てはまりません。1年以内に退職する率となると、5%以下でした。マスの統計になると離職者の多い企業との総合計になりますので数字のインパク トが大きくなるのですね。

2.採用関係費用はバブル期並みかそれ以上になっているが、採用担当者数は削減されたままで人員増にはなっていない。

⇒今年の企業の採用意欲は旺盛ですが、採用担当者の予算(カネ)は増えたものの、人員(ヒト)は削減されたままで、IT化、アウトソーシング化、等によって対応されております。採用担当者の負担増が浮かび上がってきます。企業のセミナーを正社員が行わないというのもうなずけます。

3.新卒早期離職者はやや増加傾向にあるが、対策はまだなされていない。

⇒離職者数の数値がまだ低くて対応されていないのか、採用担当者の業務外と考えられているのか

は不明ですが、新規離職者への対応(リテンション対策と言います)今後の課題と思われます。

今回の研究ではアンケート調査だけではなく実際に企業を訪問してインタビュー調査も行いました。学生達にとっても机の上の学問が活きた学問に変わった良い経験であり、我々採用担当者にとっても刺激になりました。アンケートには他にもいろいろな発見があるのですが、今後もこういった調査を続け、機会があれば大学就職課にも公式にご報告できたらと思います。

 

第81号:新年は配属案の作成から

新年も始まり採用担当者もいよいよ慌ただしくなってきました。1月後半からは多くの大学が期末試験に入りますので、この機会を狙って内定者の配属案をつくりますが、これがなかなか大変な作業なのです。内定者を呼び出して配属面談を行い最終的な本人の希望調査を行ったり、一方では社内の現場の人員要求がどうなっているか再調査したりします。配属決定を入社後に行う大企業ほど、このマッチング作業に苦悩し忙殺されています。

最近は職種別採用が増えてきて、外資系企業のように新入社員の配属案が入社前から決まっている企業も増えてきましたが、全般的にみると入社後に配属を決定する企業がまだ多いです。特に今は超早期化の就職(採用)活動の時期なので、内定を出している時期にはとても配属案を固めることはできません。職種別採用で配属を特定できるのは、法務・経理等の大学の専攻を重視する分野に限られていることが殆どでしょう。つい先日、Professional Recruiters Clubの企業30社ほどで統計調査を行ってみたのですが、配属案の決定時期は以下のとおりでした。

・入社前             ⇒32%(21%の会社は職種別採用を導入)

・入社1ヶ月未満     ⇒25%

・入社3ヶ月まで     ⇒36%

・それ以降           ⇒ 7%

企業によって配属案の作成プロセスは異なりますが、採用選考プロセスでの情報を重視して決定している企業は入社前から入社1ヶ月までの57%(32+25)で、入社後に新人研修等を行い、その内容を重視して配属案を決定しているが43%(36+7)と見ることができるでしょう。

私自身も行っておりましたが、新入社員の配属案を作成するには後者の社内での研修や(仮配属での)仕事の様子をみて決める方が適性・能力を確かに把握できます。やはり採用選考という特殊で限られた時間内での情報ではなかなか本人の特性をつかむことは難しいのです。しかし採用の現場をみると、内定者にとって自分の配属部署は最大の関心事であり、そこがわからないので内定を辞退するという学生も居ります。職種別採用が導入された背景には内定辞退の防止があります。

採用担当者としてはできるだけ内定者の意思を重視してあげたいのですが、ベスト・マッチの配属案を作るのは至難の技です。最近の内定者は内定してから企業研究を詳しく行うので、内定決定時の希望と配属面談の希望とが大きく変化していることもあります。配属要求を多く出していた部署が突然に事業中断で人員要求がゼロになることもあります。「この内定者をどーするんだ!」と叫びたくなり、自分自身の配属異動(敵前逃亡)を考えたりします。

こんな時、ワールドカップのレギュラーを選びポジションを決めるジーコ監督の苦悩が身に染みてわかります。負けずに頑張らなくてはと思う新年なのです。

 

第80号:クリスマス商戦と就職商戦

今年も最後の配信となりました。街を歩けばクリスマスの飾り付けが綺麗です。景気が上向いてきたせいか、この年末はクリスマス商戦も盛り上がっているようです。先日、都心のターミナル駅のある繁華街に買い物に行ったのですが、ふと気づくと大勢のリクルート・スーツの学生たちが。どうやら近くのホールで企業の合同就職説明会があったようです。どうもクリスマスは就職商戦の時期にもなってきたようです。

大きな交差点で信号が青になった途端、クリスマスの華やかな色彩の中に何やら無彩色のリクルート・スーツの大集団が渡ってきます。手に肩にしているのは某有名企業の広告が入った紙袋。一見して就職説明会の帰りとわかります。それもかなり大規模なものだったようで、リクルート・スーツの人並みは途切れることなく延々と続いています。ふと気づいたのは、その学生達に向かって走り寄る同じリクルート・スーツの数人の学生たち。気になって観察していると、何やらアンケートらしきものをとって、それから何かを宣伝しています。まるで怪しいキャッチ・セールスのようです。

何だかクリスマス気分が滅入ってきたのですが、気を取り直してお目当てのデパートに入りました。そこですぐに目に入ってしまったのはリクルート・スーツのセールです。勿論、スーツだけではなく、靴、カバン等の就活7つ道具までしっかり揃っています。化粧品売り場では就職面接向けのメーキャップ指導。驚いたことに、最近は男性向けもあるんですねえ。とある大学で面接官を印象づけるメーキャップという男子学生向けのイベントを発見した時もたまげましたが、今の就職活動は本当にお金がかかりそうです。

企業の採用戦略は、ふつう商用(一般広報)から採用(求人広報)に向かうものでした。まずは企業の認知度を高めて企業のファンを増やし、そこから求人集団を形成するという流れです。どうもそれが最近は逆になっている企業もあるようです。採用広報で大集団を形成した後、その集団に自社製品を買って貰うという流れです。そもそも採用広報で形成する集団の大多数は選抜されてご縁がなくなるわけですが、それでは勿体ないとの企業の商魂が動いているようです。つまり、採用から商用へという逆流がおきているようですね。

企業にとっては自社のものを買って貰わなくても良いんです。今回の繁華街での就職イベントのとおり、自社の広告の入った紙袋を大勢の学生が持って歩いてくれたら十分な(一般)広報になりますからね。学生はいつの間にか歩く広告塔にされているわけですが、これは新聞などよりはるかに安価な広告活動です。

どうやら今の日本には巨大な就職産業という業界が形成されたようです。就職シーズンの長期化がそれを急成長させているようですね。せめてクリスマスには学生も大学も採用担当者も休息しましょう。戦争だってクリスマス休戦があるじゃあないですか。

来年も皆様のご活躍をお祈りしております。良い年をお迎え下さい。

 

第79号:コミュニケーションの達人生協の白石さん

あっと言う間に「時の人」になったのが生協の白石さんですね。(大学職員でご存じない方は居られないでしょう。ついにアマゾンで書籍販売No.1になってしまいました。)少し前にTVで報道されてから一気にブレイクしたようです。白石さんの著書は顧客対応の模範ですが、コミュニケーションの達人です。面接でもまれにこんなウィットに富んだ学生さんとお会いすることがありますが、見習って欲しいところが多々あります。

東京農工大学の生協職員として顧客である学生さんのコメント・カードの内容がインターネットかされてついに今月出版されました。この本が売れた理由はいくつかあると思いますが、まさに時代が求めているアナログ感覚というか、暖かい人間的コミュニケーションですね。思いつくところでヒット要因をあげてみると以下の点でしょうか。

1.顧客に対して真面目に向き合う

⇒どんな難題、いやがらせ、クレームについても真剣に非常識なほど真面目に対応する。

2.組織の視点ではなく個人の視点で向き合う

⇒所属する組織から最低限求められている対応の上に個人のできうるサービスを載せている。

3.サラリーマン(社会人)としての悲哀も伝える

⇒どんなに個人で対応したくてもできないところはできないと(優しく)伝える。

4.ユーモアを忘れない

⇒コメントには必ず嫌味にならないユーモアを載せて余裕のある回答をする。

5.どんな質問にも対応するプロ意識

⇒決められた時間内に全ての回答を必ず行う。

*と、書いてきてみると、コラムを書いている私も見習わなければなりません。

白石さんの魅力は数々ありますが、昔はこんな対応をしてくれる大人は多かったです。子供の頃、小中学校での先生でも人気になるのは厳しさと同時に優しさも与えてくれた先生だったと思います。今は学校の先生も余裕がなくなってきているのでしょうね。

こんなコミュニケーションが話題になるほど、今の時代は乾いてデジタルになってきているのだと思いますが、採用選考面接でもふとこんなユーモアのある回答をしたくなりました。きっと白石さんは就職課職員に採用されてもカリスマ的な相談役になりますね。社会の現実と楽しさをうまく教えてくれるのはないかと思います。あまり知名度が上がることは望まれないかもしれませんが、そこがまた好感をよんでしまいそうです。

 

第78号:採用トレンドはダイレクト・リクルーティング

大学祭の時期ですが、既に3年生向けの企業のセミナーやエントリーシートによる書類選考が始まっております。昨年からドンドン進んでいるのが、企業が直接学生とコンタクトするダイレクト・リクルーティングの手法です。古くはリクルーター制度ですが、今年はついに企業連携の合同企画が始まってきました。

少し前に大手企業17社が合同で企業セミナーを開催する報道が流れました。内容は仕事理解のための社員との対談が中心で、合同社会人訪問という方が正しいでしょうか。いろいろな業界の企業が集まることによって、それぞれの業界・企業に関心のある学生母集団をシェアしようという狙いです。その背景には以下のようなことがあげられるでしょう。

1.早期の学生情報の入手

⇒個人情報保護法の関係でダイレクトにコンタクトする必要がある。

2.メガ就職情報サイトとの使い分け

⇒数千社登録されている集合サイトでは、如何に有名企業でも埋もれてしまう。

3.学生への直接認知度の向上

⇒Web登録数よりも直接コンタクト数の向上を重視する。

4.コストダウン

⇒採用シーズンの長期化により低コストの企画の回数を増やす必要がある。

5.異分野の優秀な学生とのコンタクト

⇒異業界の企業が集まることによってタイプの異なる学生集団をシェアできる。

こういった合同セミナーはこれまで就職情報企業が企画・主催していたものですが、企業の方で会場やエントリー用ホームページを用意して行うことは殆どありませんでした。それぞれの企業が形成する母集団をシェアするのは学生の奪い合いになるからです。ところが少子化の傾向もあり、これまでのように自社と馴染みのある大学・学部の母集団形成だけではなかなか良い学生と出会えるチャンスが少なくなってきました。

それに学生の大学での指向(志望業界・企業)というのは、それほど具体的なものではなく、入社してから変わることが多いものです。かつては業界毎のカラーというのは明確でしたが、今はサービス産業化(ホワイトカラー化)の傾向が高く、建設業でもメーカーでも商社でも仕事内容が似てきています。直接に社員と対話することによって志望が変わるのはよくあることです。

米国ではダイレクト・リクルーティングは主流で、そのためリクルーターという職種が確立しています。ダイレクト・リクルーティング手法はいろいろな形態がありますが、これから日本企業もいろいろなノウハウを持ってくるでしょう。日本の採用担当者もようやくプロ化の傾向がでてきたということかもしれませんね。