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第297号:期末試験解答と伸びしろのある学生

大学受験シーズンで多忙な職員の方々の裏側で、教員は期末試験やレポートの採点シーズンです。私の授業の筆記試験は記述式解答の設問なので、エントリーシートの採点や面接での選考と評価基準が同じになることがあります。それは採用担当者が好きな「求める人材」と似ています。

 

皆さんもよく耳にすると思いますが、採用担当者に「求める人材」を問うと、以下の3つを応える人が多いです。

 

1.素直な人

2.伸びしろのある人

3.一緒に働きたくなる人

 

これらはどんな組織でも一緒でしょう。要は、若者の最大の魅力である成長・変化していける力をもった人です。自分の中に他者の意見や考えを素直に取り込む余裕があり、そうした伸びしろをもつ若者とは誰でも一緒に働きたくなるのではないでしょうか?

 

さて、私の期末試験の設問では「授業で取り上げたケースを元に、論理的に持論を展開しなさい」というものを出すことがありますが、その時にこの「求める人材」か否かを感じさせられます。ケースというのは、社会問題であったりゲスト講師の話であったりしますが、このケースの受け止め方に個性が出てきます。現象や思想に共感的・前向きに受け止めて持論を展開する者もいれば、批判的・客観的に受け止める者、否定的・排他的に切り捨てる者等々。

 

これらの回答からは性格の違いだけではなく、文章力(表現力・ボキャブラリー)の技術の違いもわかり、個性と能力が評価できます。つまり、上記の3つのパターン+文章スキルの優劣(2パターン)で評価してみると、6つに分類できます。

 

この中でもっとも採用してみたいと思うのは、共感的・客観的に受け止めて前向きな文章を書く者で、つまり上述の「求める人材」に近い人物です。批判的・排他的な者でも、文章の礼儀をわきまえて書く者はすぐに減点にはなりませんが、相当にレベルが高くなければ、他者を受け入れて自分の成長につなげる魅力に欠けます。自分の世界で小さくまとまっていると感じますから。

 

というわけで、日頃の授業のリアクションペーパーでも期末試験からでも、就職活動のうまくいきそうな学生とそうでない学生は判断できますし、育てることもできます。

 

ちなみに、採用担当者の方々は「伸びしろ」とか「一緒に働きたくなる」ということは良くおっしゃいますが、それをどういう質問や試験で見分けるかの方法論まで気づいていない方もおります(フィーリングで語っている)。だからこそ、応募者である学生が意識的に魅力を感じさせて欲しいですね。

 

第296号:今年度の新卒採用担当者4大業務

昨年末から企業のインターンシップ参加を理由に授業を欠席する学生がポツポツと出ています。思わぬところで企業採用活動の進行を垣間見ているわけですが、就活「後ろ倒し」の今年度は相当に採用担当者も混乱することでしょう。それは変革に必要な痛みだと思いますが、今後の新卒採用担当者の業務は、リクルーター、インターンシップ、キャリア教育、アウトソーシングの4つに集約されそうな気がします。

 

この4つの業務は、4つのメディアと言う事ができます。既存の紙媒体からネット媒体、そしてヒト媒体への移行です。企業の採用活動は業界や規模でまちまちなので、全体が一斉に同じ手法に動くとは限りませんが、ヒト媒体というメディアは、マスメディアと違って以下の特徴があります。

 

1.選択性 ⇒ターゲットリクルーティング

2.秘匿性 ⇒シークレットリクルーティング

3.信頼性 ⇒ダイレクトリクルーティング

 

狙った人材を(選択性)、こっそりと(秘匿性)、高い精度で(信頼性)採用する、ということで、特にリクルーターとインターンシップに当てはまります。この二つの業務は、今がまさに花盛りで、採用広報を後ろ倒しにされた企業が必死に取り組んでいます。ヒト媒体は、マスメディアと違って直接に学生とコンタクトできるので、そのやりとりから自然と採用選考情報が入るので精度(信頼性)も上がります(苦労して見つけた人材が必ずしも入社してくれるわけではありませんが)。

 

キャリア教育は、大学のコーオプ教育と連携することで大学に入り込むことです。これは企業単独で動くわけにはいかず、大学との何らかのチャネルがあって初めて実現できますから実施可能な企業は限られます。文科省指導でキャリア教育導入を求められている大学などは、お互いに渡りに船ですが、うまくコーディネートできる大学教職員との出会いがないと実現は困難です。なお、企業は本気で社会貢献と考え、採用部隊ではない企業人が担当したとしても、学生への企業認知度理解や学生の能力把握は自然と進みます。

 

アウトソーシングは、新卒人材採用の活用です。昨年もこのメルマガで新卒人材紹介の可能性には触れましたが、多様で面白いサービスが出てきています。NHKでも取り上げられた「ワイルドカード社」の他社内定者横取りサービスは企業人事部からの評価も高くて急成長しており、同業他社も追随する動きがあり、これまで人材紹介を新卒で使うことに抵抗のあった企業も、変革期には導入してきそうです。採用ノウハウがなく、「後ろ倒し」で採用難になるといわれる中小企業では、元々、採用ノウハウも採用予算も少ないので、アウトソーシングのような成功報酬型は相性が良いのです。

 

採用選考が「後ろ倒し」初年度の今年は、学生の就活時期が長くなり、景気上昇局面もあいまって、複数内定を取る学生が増えると予想されます。一つ内定をとったらドンドン上を目指したいのが応募者の心理で、その時間が十分与えられたわけですから。というわけで、冒頭で述べた通り今年度の採用・就職活動は相当に混乱しながら新しい手法が出てくる時期かなと思います。

第295号:とある企業の5日間インターンシップ例

今週の夕方、繁華街を歩いていると新年会らしき集団をみかけました。妙にスーツの似合わない賑やかな若者たちで和気あいあいとしていたのですが、インターンシップ体験者の集団でした。某有名企業のインターンシップを受けた仲間たちの懇親会が開かれたようです。そんなに大きな声で話していたらバレバレだよと、他人事ながら気になりました。採用担当者の方を見ていると、年末はインターンシップの運営で忙しかったようですが、その後もフォローで気を抜けないようです。

 

有名企業で行われる年末のインターンシップでは、いわゆる「ファーストトラック」という有名大学の学生にターゲットを絞った小規模で内容の濃いものが早期に行われています。外資系企業等が好んで行いますが、先日、とある企業のインターンシップの全容を教えて貰いました。定番の5日間コースで、以下のような構成です。

 

1日目:参加学生同士の顔合わせと企業セミナー&課題提示

2日目:指定課題について人事担当者に1回目のプレゼンテーション

3日目:指定課題の現場担当者(営業部)を訪問取材

4日目:人事部長に2回目のプレゼンテーション

5日目:現場&人事担当者に3回目のプレゼンテーション

 

指定課題とは、この企業の実際の客先を指定して学生が何らかの提案をするもので、参加者を複数のチームに分け(6人/チーム)、コンテスト形式でプレゼンテーションを行い、順位を決するものです。新入社員研修でも行われる形態のものですが、人事側では画一的に運用ができて現場の協力も取り付けやすく、教育効果もあがりやすいものです。

 

ファーストトラックというだけあって、このインターンシップに参加するためには、本番の採用選考と同様にエントリーシートと面接で選考を通らなければなりません。更に、このインターンシップの受講態度を見ていれば、受講者の生の姿もわかります。つまり、来年の夏の採用活動解禁を待たずに、合格レベルの学生を判定することが十分に可能です。

 

しかし、ここから大変なのは見極めた学生の継続的フォローです。5日間のインターンシップを終えた後は、リクルーター(人事部以外の若手現場社員)がメンターとして張り付き、定期的に連絡をとってきます。学生の個別の就職相談には勿論、インターンシップの同窓会を企画してくれたり、至れり尽くせりです。学生としては、エリート意識をくすぐってくれて良い気分だそうですが、昨年の実際の採用活動解禁時期には、インターンシップの結果に拘わらずダメな人はバッサリ不合格にされていました。

 

というわけで、冒頭のようなインターンシップ同窓会のようなものが年末年始に行われているわけですが、採用活動の後ろ倒しになったいま、多くのリクルーターが先の長いフォロー活動に入り、疲れ気味のようで同情を禁じ得ません。(もっとも、こうしたファーストトラック学生は全体から見ると少数です。)

第294号:大学生の課題、大学教員の課題

就活後ろ倒しになった今、大学の教員と学生が取り組むべきは、戻ってきた時間を学生の成長のために有効に使うことですね。不安を煽る情報の洪水を乗り越えるために、学生にジャーナリズムの課題を考えさせる授業を行っておりますが、参考文献にあげた本の中に現代の大学の課題を感じさせる文言がありましたのでご紹介します。

 

参考文献:『 ジャーナリズムの限場から』大鹿泰明編著 講談社現代新書 2014年

http://www.amazon.co.jp/dp/4062882760/

『いまのジャーナリズムを覆っているのは、わかりやすいニュース解説を求める「池上彰化」ですよ。池上さんの功績は大いにあると思いますが、あまりにそればっかりだと読者のリテラシーが一向にあがってこない。それどころか今の読み手は、書き手に対して「もっとわかりやすく解説してくれ」とか「どうすればいいのか答えを教えて欲しい」と求めてばかりいるようになってしまう。かつての読み手はもっと向上心、向学心をもって書物に触れていたと思います。』(同書66P 高橋篤志氏言)

『読者が求めているものだけを提供するのは娯楽・エンターテインメントだ。読者が必ずしも望んでいないものでも、社会的に必要性があれば、提示するのが僕らジャーナリズムの役割だ』(同書67P)

 

この「ジャーナリズム」を「キャリア教育」に、「読み手」を「大学生」に、「書き手」を「教員」に置き換えたらそのまま大学の現状になります。情報の溢れた現代で、食べやすいものを与えられ続けたら誰でもこうなるでしょう。かといって急に以前のやり方に戻しては消化不良になりそうですから、どうやって離乳食になる知的飢餓を起こさせるかが教員の課題です。向学心を刺激する良書をしっかり読ませ(更に自分でしっかり探し出させ)、しっかり講義を聴かせ、しっかり考えさせ、しっかり発言させる授業をしなければなりません。ハードな経験は、一時は恨まれても良い知見となり思い出になると信じ切る信念も教員には必要です。

 

私の授業では、聴く・読む・考える・分析する・書く・話す、の基本的学習力を厳しく求めているのですが、昨年ある指導者の言葉から「授業は教員と学生のチームワークだ!この大学で一番良い授業を目指そう!」というのをスローガンにしてみました。教員だけが頑張っても効果は出しづらいですし、学生の努力だけに求めるのも非効率だからです。教員と学生が一致団結して刻苦勉励することによって、良い授業が生まれるという信念です。

 

幸いにこの信念に賛同する学生は多く、授業見学に来られた大企業人事担当者から「こんな授業風景は見たことがない」「是非、このクラスから学生を採用したい」という言葉を戴くようになりました。そして2年たった今月、大学から表彰されることになりました。まさにチームワークの勝利ですが、来年は企業の採用担当者もチームワークに入れてやろうと企んでおります。笑

末文になりますが、皆様、良いお年をお迎え下さいませ。

 

▼学生が選ぶベストティーチャー賞(法政大学)

http://www.hoseikyoiku.jp/images/topics/1418898106/1418898106_3.pdf

第293号:採用担当者による新講義「働くための法律知識」

前回、女子アナウンサーの新卒採用内定取消問題を取り上げました。労働法を考えるうえでは参考になる事例なので、授業でグループ・ディスカッションのテーマにしてみたところ、過半数の学生が曖昧ながら内定者に問題がある、という回答でした。実際の訴訟の行方はさておき、学生の法律知識(意識)を向上させる必要性を感じました。

 

というわけで、以前からやってみたいと思っていた「働くための法律知識」という講義を、採用活動経験のある社会保険労務士と一緒に作ってみました。日本の雇用の実態は、法律よりも信頼によって運営されてきた(いわゆる日本型雇用)のですが、21世紀となって、企業に正社員を守る余裕がなくなり、非正規雇用が3割になった昨今、最低限の身を守る法律知識は就業者にとって必須でしょう。

 

しかし、一口に労働法といっても、現在は関連法規も多く、その全てをカバーすることは難しいです。しかも法学部ではない学生にとっては、法律という概念そのものがなかなか理解できません。そうした場合は、TV番組のように、分かりやすい事例研究(判例のケーススタディ)が一番です。今回、作った事例研究は以下のようなものですが、実践してみたところ、評判は上々でした。

 

・遅刻、残業拒否、配置転換拒否で解雇された従業員

・妊娠出産を理由に降格・減俸された女性従業員

・内定取消で勝訴(敗訴)した従業員

 

また、労働法ではありませんが、大学生がネット上で風評被害を起こして損害賠償を請求されたケース、なりすまし情報操作の事例などをとりあげました。今後、ブラック企業や就活学生を狙った悪質な就職塾勧誘ビジネス(つい先日も大学の近くで店を広げていました。)も扱って参ります。

 

この授業では、単なる法律知識だけではなく、社会人としての「権利と義務とキャリア形成」をしっかり伝えたいと思っています。権利を主張するばかりではなく、企業が守ってあげたくなる(大事にしたくなる)社員に成長すること、企業は学校ではありませんが、自ら成長する機会に溢れていることを理解させたいです。

 

そしてこの後、企業人事の採用担当者にこうした口座の講師になってくれないかと持ちかけてみようと思っています。採用活動後ろ倒しでやることが思いつかずに困っている採用担当者にとっては、学生と触れ合う機会にもなりますし、プレゼンテーションもうまくなり、更には採用担当者自身の法律に対する意識やコンプライアンスを向上させることができるのではないかと思います。

 

 

第292号:アナウンサー内定取消と採用担当者の仕事

日本テレビのアナウンサー採用の内定取消が大きく報道されました。既にいろいろな視点が提供されていますが、私は採用担当者の仕事として甘い部分と同情する部分があります。

 

採用担当者の仕事として今回、一番気になるのは、採用選考段階でのチェックの甘さです。同社のコメントにある「アナウンサーには、極めて高度の清廉性が求められます。」というのならば、採用担当者は実務作業者として、以下の手順をしっかり踏まねばなりません。

 

1.採用募集広告の募集要項に記載すること

2.採用選考段階で(内定を出す前に)必ず質問して確認すること

3.採用内定通知の取消要項に文言として明示すること

 

現時点での報道では上記が何処まで徹底されていたか分かりませんが、「極めて高度の清廉性」を求めるならば、その認識が甘かったと言わざるを得ないと思います。しかも、同社は現役アナウンサーのゴシップ報道で少し前に非常に苦労した経験があるわけですから、採用活動が見直されていなかったのは人事部の脇が甘かったと感じますし、同社の主張する「申告の虚偽」は社会通念上、認めがたいでしょう。

 

一方、今回の事件で、私が最も同情したのは、現場採用担当者と経営者の認識と立場の違いです。報道によると、当初採用担当者は内定者の立場を守ることを伝えていたようですが、経営者側からは強硬に内定取消を命じられ、言動を急変させました。採用担当者が内定者と経営者の板挟みになって苦悩しただろうと察せられます。

採用担当者は内定者と直に話して労働法についての知識もそれなりに持っているはずで、内定取消がどれだけ今後の採用活動や社会インパクトがあることを知っているはずです。一方、経営者側では、営業活動については精通していても、企業コンプライアンス(法令遵守)については甘い方も居られます。もし以前のゴシップ事件に関わった経営者が居たのなら感情的に部下(人事部・採用担当者)に命令することは容易に想像できます。

私自身、内定取消の経験は不慮の事故による本人責任のケースしかありませんが、経営者から急な判断変更を指示されて対応に苦労したことは何度もあります。(今年は100人採れ!と言われて精力的に候補者を集めたら、やっぱり50人で良い!と言われたり・・・ etc.)

 

この問題に対処するには、アナウンサー採用は新卒採用ではなく、専門職として有期雇用契約にするか、タレント事務所を活用する派遣または業務委託にすべきだと思います。新卒採用という成果の十分に出せない新人と違って、タレント化したアナウンサーは即戦力に近いものを持っている方も居りますし、入社前に専門学校で十分なトレーニングもしているでしょう。そうした専門職を、低廉な賃金で採用しようとしたり、採用選考の完備を忘れたりしたことが、今回の事件を招いたと思います。

ともあれ、年明けの訴訟を注視していましょう。和解せず裁判で決着となると、久しぶりに大きな影響のある判例になりそうです。

 

第291号:冬休みインターンシップの選考過熱

大学祭シーズンも終盤になり、灯火親しむ勉強の秋となりましたが、一部の大学3年生は冬休みのインターンシップの選考に右往左往しています。倫理憲章を遵守する企業採用担当者がこの時期にできるのは採用活動に直結しないインターンシップ活動だけになりましたので、例年以上にインターンシップの選考に熱があがっているようです。

 

大学職員の方からは、今年は採用活動の後ろ倒しのせいで学生がのんびりしています、と伺うのですが、私の方は教え子からインターンシップ選考についての相談が飛躍的に増えています。企業のスタンスがまだら模様であるように、自由になると学生の動きにも個人差が出るのでしょう。

 

その相談内容(特に大企業の大手企業のインターンシップ選考)が、本番の採用選考とまるで同じなのです。エントリーシートでの書類選考⇒グループ・ディスカッション⇒個人面接、という初期選考の黄金トリオ(と名付けました)の組み合わせです。

 

しかしこうなると、「インターンシップは採用活動に直結させない」というのはどうしても有名無実化になります。本気でこれをやるならば、採用担当部署が学生との接触をしないとか、インターンシップ専用部署を作るとかの対策が必要ですが、流石にそこまで余裕のある企業はないでしょう。どうしてもインターンシップ選考情報、そしてインターンシップ成果の情報は人事部の中で共有され、来るべき採用選考時期の参考情報にされるでしょう。

 

倫理憲章遵守企業であっても、その情報はあまり厳密に規制しなくても良いのでは、と私は思っています。というのは、良い学生を見つけ出す企業のリサーチ活動は恒常的に行っていても、最終的な選考評価と入社意志の確認だけをしっかり守れば大きな問題はないと思うからです。インターンシップ選考を受かり、インターンシップでも良い成果を出したなら、本番の採用選考でシード選手として優先してあげても良いのでは、と思います。

 

こうしたところを許容する代わりに採用担当者に厳に守って欲しいと思うのは、あまりに本気のインターンシップ選考をしないということです。具体的には、授業のある日に選考日程がぶつかったら変更してくれる、または選考は土曜日だけにする等です。一時期、企業の「就職セミナー参加証明書」なるものが見られ、授業を欠席した学生が持参してきました。これでは大学生活を尊重するという採用活動後ろ倒しの意味がありません。逆に、大学から授業出席証明書を出したら、企業が日程を変更してくれるというのが筋ではないでしょうか。(私もすっかり大学教育側になってしまったようですね。)

 

企業には企業側の都合(予算、受け入れ態勢、他者との競合等々)があるのは、私も身をもって理解しておりますが、採用担当者ももう少し余裕をもって仕事をして欲しいなと思います。こうした手法しかできないのでは、企業の採用活動は進化しませんから。

 

第290号:論文不正問題で考える成績評価

ノーベル賞の発表と同日に早稲田大学で小保方晴子氏の博士論文不正問題についての結論が出されました。この事件については既に様々な議論がなされておりますが、私が学生として、採用担当として、そして大学教員として感じたことを述べてみたいと思います。

 

科学的な視点でのSTAP細胞の存在の是非についてはまったくわかりませんが、大学と大学院で学んだ学生の端くれとして、今回の判断手続きはあまりにも不可思議です。単純にこの博士論文が、修論や卒論や期末テスト、更に日常的に求められる授業でのレポートだとします。もし学生が清書した論文やレポートではなく、不注意で書きかけの原稿を出してしまい、数週間後に気づいた時、大学側は再提出を認めてくれるでしょうか?それも本人が申告したものではなく、大学側が気づいた場合に。

 

それが許されるのだとしたら、学生は「とりあえず」締め切りまでにダミーを出しておき、後日、「先日のものは間違えでした」と差し替えることが可能になります。ここで問題なのは、この当事者の学生の行為だけではなく、真面目に締め切りを守った多くの学生に対して大学がアンフェアな行為をしていることです。勿論、私の知る限り、何処の大学でもレポートの提出締め切りはおそろしく厳格で、フェアな対応だと思います。だからこそ、余計に今回の件の特別扱いが納得できないのです。

 

採用担当者として考えてみた時、すぐに浮かんだのは「まあ、大学の権威(博士)なんてそんなものだね」「どうせ大学成績なんて期待できないんだから」といった少し醒めた見方です。前回のメルマガで書いた通り、ドクターの世界というのは日本の企業社会から見ると理解不能なものです。確かに最先端の研究をしているメーカーにとっては優秀な研究者は必要ですが、それがアメリカと同じくらいに求められるだろうというドクター1万人計画になり、そしてそれが原因のポスドク問題になり、それは日本企業のグローバル化が遅れているからだ、企業の雇用責任だと言われても困ります。

 

つまり、採用担当者としてみるとこの問題は結局、大学というコップの中の騒動で、採用選考では学生に騙されないように気をつけよう、学校名や肩書きに左右されないようにしようという「他山の石」に過ぎません。

 

最後に、大学教育者として改めて思ったのは「成績は真摯に付けよう」ということです。成績採点後、どの学生から問い合わせがあっても根拠を示して明確に説明できるようにしておくことです。ちなみに、私の授業では毎回の出席票(リアクションペーパー)と期末テスト・レポートとの積み重ねで採点しており、学生から問い合わせがあった場合も、各点数を伝えながら総合的な判定を伝えています。毎回のリアクションペーパーも可能な限りコメントを付けて授業中に返却しています。

 

今回の論文事件は早稲田大学だけの問題ではなく、大学界全体の信頼に関わる問題と捉えるべきだと私は思っています。大学教員として信頼される成績・学生・カリキュラムをまた一つずつ作り上げなければと。「就活後ろ倒し」で地に足の着かない学生に、ちゃんと地に足を付けて勉強する時間を貰ったのだから、来たるべき日に備えた力をつけてやりたいと思います。

 

第289号:ドクター採用の難しさ

3人の日本人研究者のノーベル物理学賞受賞はとても喜ばしいことですね。しかも今回の受賞のポイントになったのは、伝統的な研究のための研究ではなく発見の社会貢献度ということであり、この3人の研究者に共通の社会に対する関心の高さは技術国日本の誇りだと思います。

 

今回受賞された3名の研究者の印象をメディアから察すると、三者三様の個性の違いが面白いと思いました。最年長の赤崎勇氏(85)は、絵に描いたような滅私奉公型の研究者で、社会のために真理を追究する事を天命と考える公務員の鏡のような方です。私が企業時代に技術開発を委託していた帝大系の教授によくあるタイプです。とても素晴らしい研究成果を惜しみなく発表されるので「それは特許をとった方が良いですよ」とお伝えしても「いやいや、私はそうしたことに興味はありません。」という研究者です。

 

中村修二氏(60)は、既に多くの方がご存知の通り、出身企業との特許訴訟で争うような主張の強い個性の人です。渡米されて向こうの水が肌にあい日本社会の問題を強烈に指摘されておりますが、こうした研究者も日本の大学では多く出会いました。私の居た企業で主催した技術研究会で、10対1になっても一歩も引かず、多くの方から変人のように言われておりましたが、数年後にその研究者の考えていたことが理解されはじめた、ということがありました。

 

最後に、天野浩氏(54)は、先代の偉大な教授の影で支えながらコツコツ頑張るタイプです。かつての助教授のポジションで実績を積みながら、教授に代わって研究室の切り盛りを行い、後輩達にもフレンドリーに接してくれます。赤崎氏のような偉人から見れば「現代っ子」と見られがちですが、内心には期するものを持っている「オタク」型といえるでしょう。研究室を訪問すると、いつも丁寧に対応をして下さるタイプです。

 

このように優秀で個性的なドクターが日本の大学にも大勢おられますが、さて、企業の研究開発者として是非、採用したいと思うかどうかは微妙です。1980年代までのように、多くの企業が中央研究所を創設して基礎研究に取り組んでいた時代ならともかく、今は選択&集中投資の時代です。企業のコアとなる研究分野以外は自社内で行わずに、大学と共同開発や委託研究を行うアウトソーシングの時代です。その結果、特定の専門分野に深いドクターの採用はリスクが高くなり簡単に採用できません。ドクターは特定の専門分野だけではなく、幅広い汎用性をもった真理探究者である(どんなことにも取り組める)と言われますが、企業採用担当者が面接の現場でドクターを見ていると、どうしてもそう思えない方々が多いです(採用担当者に見る目がないだけかもしれません)。

 

というわけで、私はドクターの日本企業での採用は、今後もあまり進まないのではと思います。こうした個性溢れる研究者は、窮屈な企業より伸び伸び動ける大学の方がきっと居心地が良いでしょうし、そうした研究者との雇用以外の付き合い方を考えるのが採用担当者の仕事です。ドクター1万人計画やキャリアコンサルタント5万人計画のように、数値を先に決めるのではなく、社会変化と人材特性をみて、お互いがハッピーな社会・関係を考えるべきだと思います。

 

第288号:大学キャリア教育は採用担当者の能力開発

先日、採用選考についての経団連の「採用選考に関する指針」が改訂・公開されました。今回の改訂では「広報活動開始前に行われる学内セミナーについて」の項目が追加され、「大学が責任をもって主催すること」「参加学生に対し、キャリア教育の一環であり、採用選考活動とは関係ないことを明示していること」などの条件を満たす場合、企業が学内セミナーへ参加することを認めるが加えられています。これは企業採用担当者にとって良い能力開発(または試練)になります。

 

「後ろ倒し」により、いま多くの採用担当者がどうしたものかと右往左往しております。採用担当者の発想力や行動力が求められるので、私は良いことだと思っています。日頃、「個性のある人材を求む」という採用担当者自身が身をもって体験するわけですから。その中で、リクルーター再編成と今回の「大学キャリア教育」へのアプローチが盛んになってきました。

 

大学キャリア教育自身が、まだまだ発展途上段階、またはカオス状態であると言っても良いですが、企業との連携が大きなポイントになることは間違いないでしょう。これまでも、企業採用担当者やOBを並べたオムニバス講座のキャリア教育はありました。これは大学も企業も最も楽で効果の上がるものですが、中には企業の採用セミナーをそのまま話すものもあり、それでは芸がありません。

 

そこで大事なのは、採用担当者が能力開発のスキル・視点をもつことです。企業人事部では、社員の採用活動と能力開発活動は連続していることが多いですが、その順序が「採用⇒開発」から、「開発⇒採用」になるわけです。それは、採用担当者が「求める人材の能力判定」から「求める人材の能力設定と育成」を行うということです。人事で能力開発の経験のある方には腕に見せ所ですが、そうでない採用担当者にとっては試練です。人を批判することは楽ですが、育てることは本当に難しいことですから。

 

大学が伸ばしている能力と企業が求める能力、曖昧模糊といわれる「求める人材像」も、こうしたキャリア教育が進めば自然と解消されてくることでしょう。日本の新卒一括採用は、批判されることが多いですが、大学と企業が連携して採用・育成してきたことは日本独特の良い点だと思っています。世界のやり方をそのまま持ってきても絶対に成功しませんし、逆に強みや個性を失うことになります。

 

今回の指針に合わせて大学側(就職問題懇談会)からも方針が出され、外形的なルールが定められましたが、これからは更に内容の進化まで踏み込んで貰いたいものです。ピンチはチャンスと良く言われますが、是非、良い方向に活かしていきたいものです。

 

▼参考URL:採用選考に関する指針(2014.9.13 経団連)

http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/081.html

 

▼参考URL:大学内キャリア教育の申し合わせ(2014.9.16 就職問題懇談会)

http://www.keidanren.or.jp/policy/2014/078_moushiawase.pdf