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第197号:4年の夏から始まる採用選考-2

日本貿易会から提案された新卒学生採用時期の後ろ倒しは、採用担当者にとって非常に関心の高い話題として捉えられています。2013年卒対応の案件ですし、まだ採用担当者の現場から見ると雲の上の話なので今シーズンは特に大きな影響はありませんが、この話題に対する企業・業界の対応を見ていると興味深いです。

 

去る11月17日付けの日経新聞の記事では、採用時期の見直しに肯定的な企業、様子見の企業、そして否定的な企業と分類されておりました。学生にイノベーションを求めたりCSRとか社会貢献とかをアピールしている企業が、見直しに肯定的でないのは面白いですね。こうした企業の対応の仕方を見ると、本当にその企業の社風や本音がわかります。

 

以前から書き続けているとおり、私は採用早期化見直しの大肯定派です。しかしながら、否定派にもそれなりの意見はあるでしょう。いえ、表現を変えると、採用が今のままの早期化・長期化の方がメリットのある企業が存在するでしょう。それには、採用担当者のメリットと企業経営のメリットがあります。前者は勿論、他社に先駆けて良い人材と接触することです。後者は学生が就職活動を行うことによって発生する経済効果のこと、古典的にはリクルート・スーツ等の消耗品ですが、現代的には交通費・通信費等の比重が高くなってきました。

しかし、意外と採用担当者自身が(無意識に?)行っているのは、採用活動という仕事を長期に継続すること、つまり自分の仕事を死守しているということではないでしょうか。学生の就職活動、つまり企業の採用活動が長期であるほど、採用担当者の雇用も守られているのです。たから、見直しに否定的な企業の採用担当者は、様々な理由を(無意識に?)つけているんだろうなあ、と感じることがあります。

 

というのは、見直しに否定的な企業の理由はあまり合理的でないものが多いようですから。例えば、理系の論文執筆など学業に影響が出ると言いますが、以前は誰でもそうして時間を管理して書き上げておりましたし、そもそも理系の推薦制度は学生の就職活動負担を無くすために機能していました。早期化で自由応募が推薦応募を追い越してしまって機能不全になってしまったのです。

外資系の青田買いに対抗できないと言いますが、外資系企業の新卒採用数はそもそも絶対数が多くない超優秀層です。そうした学生は、別の個別採用手法(奨学金・共同開発・個別雇用契約)等で無ければ確保できず、一般の早期化対応で抑えられるものではありません。外資系戦略コンサルに内定したら、流石の総合商社でさえ辞退されてしまいます。それに、今回の火付け役の総合商社の採用数だって、金融機関や製造業の採用数と比較したらそれほどインパクトのあるものではありません。他企業にとっては4月末に辞退されるか8月末に辞退されるかの違いに過ぎません。

 

先日、日本貿易会に属する企業の採用担当者から、我々は本気でやってみせるとの気合いを伺いました。彼らは今のままでも人員確保という意味では不都合はないのです。それをあえて社会問題の是正のために意見している態度は高く評価したいと思います。かつて、太平洋戦争が始まろうとしていた時に、世界情勢を知っていた総合商社マンが戦争反対の提言をしたように。政治も経済も国際戦略が重要な時代です。そろそろ新卒採用も正気を取り戻して本当に力を注ぐべきところに取り組むべきではないでしょうか。

第196号:就業力の評価について

前回、就業力育成支援事業について書きましたが、もう少し採用担当者の目線で私の考え方をお伝えしておきたいと思います。就業力が本当に評価されるということは、採用担当者がそれを評価するということでしょうし、それは企業経営の言葉でいえば、人材の採用コストが下げられるということです。

 

採用コストにはいろいろなものがありますが、大きくは広報費用と選考費用です。これらの金銭的・時間的コストを下げるために、広報費用についてはマスメディアを通じた大規模広報ではいたずらに応募者を増やしてしまいますので、大手企業は焦点を絞った学校・学生に対してヒトメディア(リクルーター)を投じるようになってきました。先般報道されたトヨタのリクルーター制度復活はまさにその象徴です。後者の選考費用のコストダウンも、リクルーターを送り込む大学を選別することによって、母集団形成の段階から既に達成されてきます。つまり実質的には指定校制度ですね。

 

更に選考費用を下げるためには、一次選考の代替指標を導入します。大学名(大学偏差値)は代表的なものですが、大学大衆化の現在はあまり参考にならなくなってきたので、入学後に得た指標が求められます。例えばTOEICや高度な公的資格です。これらの指標は、それだけで内定決定までには至りませんが、筆記試験やエントリーシートを免除する位の効能は認められますし、そうした指標を評価された学生は志望動機も高くなる傾向にあるので、内定辞退率が低下して採用コストを下げてくれます。

 

しかし、大学側として認めて欲しい代替指標はなんといっても成績表でしょう。わざわざ国際基準に会わせてGPAを導入したのですから留学や奨学金申請のためだけではなく、是非、企業の採用選考基準としても認めて欲しいものです。採用担当者としてもGPA3.5以上なら筆記試験は免除して採点コストを下げたいところですが、それができない理由は、成績の採点基準が科目や教員によってバラバラで成績表の信頼度がわからずに学生間比較が困難なこと、採用担当者が成績表だけでは把握できない資質を重視していることなどがあげられます。

 

理想的には2年前に中教審の方針通り、学士力認定の厳格化をするべきです。(あれは果たして進んでいるのでしょうか?)それは大学にとってかなり時間と労力がかかります。ならば、成績表を補完する情報があれば良いと思います。企業の人事評価でも、多くの企業は業績考課という結果を数値化しやすいものと、情意考課という努力面やプロセスを説明するものとがあります。つまり、成績表を補完して学生の資質を説明する資料が学校から発行されれば良いのです。早い話が推薦書ですね。それも就職課が企業に乞われて第一志望だけを保証するようなものではなく、ちゃんと学生の資質を現すものをです。

 

やや夢物語的かもしれませんが、こうした信頼できる指標を就業力と呼ぶならば、企業も採用コストダウンのために評価してくれるのではないかと思います。そのためには、この指標の開発を大学だけで行うのではなく、企業を巻き込んで一緒に行うべきでしょう。しかし、この発想はかつての指定校制度と推薦制度の復活というなんだか時代を遡るような気もします。それは大学の原点に戻るということなのかもしれませんが。

 

第195号:文科省の就業力育成支援事業が決まる

この春に公募された文科省の就業力育成支援事業の選定が決まり、選ばれた大学では実行に向かって動き出しました。当初予定されていた募集件数(130件)を大きく上回る180件の採択となったのは驚きましたが、多くの成果がでると良いですね。しかし、就業力(未だ文科省の定義はよくわかりませんが)というものは、大学の通常授業を通じても十分、身に付けられるものだと思います。

 

実は、私も都内の私立大学から採択されました。この就業力育成支援事業ではありませんが、この10月から半年間の就職ガイダンスです。いつものスポットでの依頼の講演やトレーニングではなく、シーズンを通じての全体カリキュラム作成は非常にやり甲斐があります。スポットの講義では不可能な、学生の個別フォローや、その大学に向けたオリジナル・プログラムを作ることができますし、本番の就職活動の状況を聴きながら、リアルタイムにプログラムを修正したり、学生のフォロー(進捗管理)も可能になります。元々、企業で新人研修プログラムをゼロから開発していたものですから、腕が鳴ります。

 

私は今回戴いた機会を、大学の授業に埋もれている「就業力」を学生に気づかせるようなものにしようと思っています。大学授業と企業の求める就業力をつなげるプログラムです。大学の授業が実は会社(仕事)でも役立つこと、企業の求める能力が実は大学でもトレーニング可能なことを、大学も企業も意外とこの点を見失っているように見えますから。

 

ところで、この案件のご依頼を頂戴したときに一番嬉しかったのは、私のもつプログラムを採択して戴いたのではなく、私個人の力量を評価してくれたこと、つまり人物が採択された点です。

 

これは企業の採用選考も同じです。採用担当者が最終的に評価するのは、大学名や専門知識や資格ではなく、その人物の将来性(ポテンシャル)です。大学名や専門知識や資格を問うのは、その下にある将来性を知るためです。応募者である学生も、自分の将来性や人物を評価してくれたと感じられたら本音で語ってくれますし、無礼な内定辞退などは(あまり)しなくなります。そして入社後は期待に応えようと、更に自分の能力を伸ばそうとするものです。そうした点を採用担当者も意外と忘れがちですが。

 

今回の就業力育成支援事業の実行にあたっては、外部の業者やキャリアカウンセラーを導入することもあるでしょう。そんな場合も、是非、提供プログラムだけではなく、それを担当する人物を良く見て選定して下さい。企業の採用担当者だって採用コンサルティングを依頼するとき、コンサルタントを直接指名することがあります。コンサルタントの実力と人間性を評価して、「この人が担当してくれるなら発注します。」と。

私もチームで仕事をする際は、メンバーの能力・人間性を厳格に見て選抜しています。人物評価は同情や内輪のお付き合いではありません。血税を投入するのですから、仕事が無くて困っているキャリアカウンセラーの雇用対策になっては本末転倒です。

 

▼参考URL:平成22年度「大学生の就業力育成支援事業」の選定状況について(文科省)

http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/shugyou/1296632.htm

第194号:4年の夏から始まる採用選考

10月になり、就職活動&採用活動が動き始めました。いつの間にか、この異常スケジュールが日本の普通の感覚になってしまったのは残念ですが、やっと企業が改善に向けて動きました。総合商社の4年の夏から始める採用選考のニュースです。私は歓喜をもって受け止めましたが、さて、この動きは何処まで広がることでしょう?

 

このニュースで残念なのは2013年卒からが対象だということです。是非、2012年卒から始めてほしかったです。2013年卒からとなったのは、私の察するところ、できるだけ多くの企業を巻き込みたかったからではないかと思います。というのは、既に殆どの企業は2012年卒向けの仕込み(広報活動等)を済ませて採用活動に入っておりますから。特に大企業ほど修正がききません。実際、報道によると、消極的な業界もありますし経団連の反応もいまひとつです。

 

しかし仮に、有名総合商社だけの動きだとしても、是非、進めて欲しいものです。業界のリーディングカンパニーが動けば、他企業にも多少のインパクトはあることでしょう。また同時に、リーディング大学にも呼応して戴いて、「学生の学習環境を守るために、我が大学の就職ガイダンスは全て4年の4月から始めます。」と宣言して欲しいものです。

 

ところで、この動きの理由とされているのは、採用活動の早期化によって「学生の本分である学業が妨げられている」ということです。では企業の採用活動が遅くなることによって、肝心の学生はこれで勉強に打ち込んでくれるようになるのでしょうか?学力や人間力は向上するのでしょうか?

 

今回の採用活動の後ろ倒しには、企業が学生に対して「しっかり学べ!採用選考で自信をもって語れるような学生生活を過ごせ!」というメッセージが含まれていると思います。

 

逆に企業に問いかけてみたいのは、採用選考で「大学で教えていることをしっかり評価してくれるのですね?それを見る目があるのですね?」ということです。

 

更に大学にお願いしたいのは、「学校推薦や学生の成績評価は、本当に信じて良いのですね?」ということです。

 

私は現在、企業側の採用活動支援も、学生側の就職活動支援も、そして大学教員も生業としておりますので、未熟者ではありますが、それぞれの事情をわかっているつもりです。異常な事態が常態化してしまった就職・採用活動を、それぞれが相手に対して要求するばかりではなく、まずはそれぞれが、それぞれの本分をしっかり見直して自ら行動を起こすべきではないでしょうか。

 

企業がやっと重い腰を上げたのです。この動きが広く世の中に受け入れられるように祈っています。

 

第193号:就職課職員のキャリア

大学の後期授業が開講してきましたね。企業の採用担当者もいよいよ始動です。日本企業の会計年度は4月スタートが多いですが、採用の年間の仕事は10月の広報活動から開始という感じです。(今は夏インターンシップ等が入ってきたので7月スタートになってきましたが・・・。)

こうした期の切れ目には人事異動も多く、夏の間に仕込んだ広報ツールや大学訪問スケジュールをいざ実行と思いきや、練りに練った採用戦略を後任の方に渡して別の部署に異動せざるをえないこともあります。皆さんの就職課の職員についても似たようなことはありませんか?なかなか心残りではありますが、採用や就職課の仕事で得られるキャリアは他の部署でも使えるものが多いです。

 

採用担当者と就職課職員の職場は、以下のような人材育成にとても良い環境がある点が似ていると私は思っています。

・対外的な折衝が多く、大学外部との交渉力が身につく

・臨機応変の対応が必要なので、状況対応力、忍耐力、根性がつく

・資料、統計からの客観的データで判断する分析力がつく

・大学の最終的な役割(社会の期待に応える有望な人材の輩出)が意識、体感できる

・学生から感謝されてやり甲斐がある(苦労の方が多いかもしれませんが)

こうした経験は他の部署でも可能でしょうが、対内・対外の両方のコミュニケーション力がつくというのは就職課ならではで、本人のキャリアだけでなく大学にとっても大きな財産ではないかと思います。

 

先日、とある大学の講演で、就職2年目の若い職員の方に会いました。卒業してすぐ母校に就職したそうで、新卒ながら就職課という外部と接する部署に配属されただけあり、しっかりした若者でした。おそらく彼も数年後には大学の人事ローテーションを経ながらプロの職員として成長していくのでしょう。これは企業の人事も同じで、新卒採用の人材は異動によっていくつかの部署を経験された方が良いと思います。よほど高度な専門性を大学時代に習得していない限り、特定分野のスペシャリストになるよりは、各部署を経てジェネラリストとしてスタートした方が人材として大成することでしょう。

 

しかし、10年以上働いた後、または中途採用の方の場合は、ある程度本人のキャリアを配慮した働き方(具体的に言えば固定化)を配慮すべきではないかと思います。私はそれで(人事部門から異動を言い渡された時に)会社を辞めましたし、たまに異動内示を受けた大学就職課の方が就職コンサルタントとして転職したいという相談に来られる方も居られます。そこまで思い切られるのは珍しいとは思いますが、確かなことは、ある程度の時間を経て身についたキャリアはその人のアイデンティティになっているということであり、大学人事もそろそろそうした点を考慮に入れるべきではなかということです。(企業はもう20年くらい前から人事制度を変えてきています。)

 

もっとも、異動対象となる人材を見ていると、やはり将来有望な方が多く、組織としての期待もあるのでしょうね。できる採用担当者が営業に抜擢されるというのは良くあるケースです。私も部下を引き抜かれたときは戦力面とメンタル面で辛かったですが、彼の成功と更なる成長を祈って見送りました。部下は私の自慢であり、誇りですから、企業の中に採用の仕事を理解してくれている人材が広がることを祈りながら。就職戦線開戦前夜ですが、皆様のご健闘をお祈りいたします。

第192号:卒業3年後まで新卒扱いだって!?

先日の新聞で「大卒後3年は新卒扱いを」という提言を日本学術会議がまとめたという記事を見て、学術会議とあろうものが、そのような単純不毛な提言をするとは・・・と唖然と致しました。念のため、原典に当たってみたところ、確かに最終的な提案にはそのような内容は書かれておりますが、全体(かなりのボリュームです)を見てみると、今回の回答書はなかなか良く書かれたものだとわかりました。マスコミの単純な言説に惑わされてはいけませんね。(原典にあたるというのは大学で学んだ社会で通用する実力です。)

 

「大卒後3年は新卒扱いを」という記事は、今回の回答書がまとまる前(3月)にも報告書案として報道されておりましたが、多くの採用担当者からは「またまた自己改革を棚に上げた学者さんの企業への要求か」と思われたのではないかと思います。しかしながら、今回の回答書では大学・企業・学生の課題をかなり客観的かつ現実的にまとめていると思います。「戦後の経済社会の構造的な変化からその将来展望を踏まえて、なおかつ現在の就職活動と採用活動の実態まで含めて論じた例は、学術会議においてはもちろんのこと、他の団体を見渡しても今回が初めて試みではないかと思われる。」と自負しているのも間違いないでしょう。そもそも、この回答書のタイトルが「大学教育の分野別保証の在り方について」という自己批判的なものなのですから、報道の中心が「大卒後3年は新卒扱いを」と書く方が理解不足です。この回答書の中では、そうした企業への要求や規制は現実的でないことも、大卒後3年位は大学側の就職支援が必要であるということもちゃんと書かれています。

 

しかし、百歩譲って採用担当者が「大卒後3年は新卒扱いを」という提言を受け入れるためには、かつての受験戦争時代の浪人生のように、若者は時間が経てば何らかの形で成長・学習するという前提が必要です。企業は基本的に営利団体なのですから福祉や社会貢献のために雇用を行うことは、よほど余裕のある時代にしかありえません。政治家も「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と訴えますが、雇用政策が経済を盛り上げることはまずありえません。事業見通しが未定のままに、まず人材(それも即戦力にならない新卒)を雇用してから考えるという経営者が居たら、採用担当者は不況でも仕事があって嬉しい(怖い)です。話は逆で、景気の良い企業はいつも人手不足で雇用は自然に生まれています。

 

せっかく力の入った回答書がまとまったのですから、マスコミの企業批判や政治の道具にして欲しくはないものです。この回答書がどのような形で政策になってくるのか、注意深くみていきたいと思います。採用担当者だって、大卒後3年間成長し続ける人材なら大歓迎ですからね。

 

*参考URL

▼大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会:

http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/daigaku/

▼報告「大学教育の分野別質保証の在り方について」:

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-k100-1.pdf

 

第191号:初年次教育雑感

今週のビジネス雑誌(週刊エコノミスト)に大学の教育力についての特集がありました。定期的に扱われる話題ですが、「就職に強い大学」というキャッチコピーを見ると、採用担当者としては我々の実感と合っているか気になってチェックしたくなります。今の大学は学生の意識も学力も多様化しているので、こうした全大学を対象にしたアンケートは総花的になりがちですが、大学の新しい教育手法や取り組みには注意していて、思わず「よし!今度、就職課を訪ねてみるか!」と食指を動かされることもあります。しかし正直なところ、年々、その取り組みが低次元になっていると感じます。

 

今回の特集では、大学の「教育力格差」が広がっているとの視点から、「初年次教育」の重要性を指摘されています。これは妥当なことだと思うのですが、問題はその内容です。この特集で、初年次教育の目的は以下の9点が挙げられています。

1.学生生活や学習習慣などの自己管理

2.高校までの不足分の補習

3.自大学の理解

4.人として守るべき規範の理解

5.リポートの書き方や文献検索法などのスタディスキル(学習技術)

6.クリティカルシンキング(論理的に考えること)など大学で学ぶ思考方法の獲得

7.大学の中での居場所や友人の獲得

8.高校までの受動的な学習から能動的で自律的な学習態度への転換

9.専門への導入

*週刊エコノミスト8月31日号「娘、息子を通わせたい大学」から引用

 

このうち、1~4と7の項目を見て、これは本当に大学が教えるべきことなのか?と感じます。これらはどう考えても大学入学前の教育課題ですし、親の躾の問題であり、大学が背負うのは非常な負荷です。(しかも、浮き世離れしているオエライ最高学府の先生にこれらを教えられますか?)初年次教育とかリメディアル教育と称して、それをストレートに社会や親に言えない世の中は変だと思います。

と書きつつ、現実的に今の大学にはこうした教育が必要な学生が居ることは、私自身も身に染みてわかっています。授業では幼児化した大学生を相手に日々悪戦苦闘しています。まさに親の躾代行です。

 

閑話休題、採用担当者の視点では、こうした項目を重視した初年時教育の充実をアピールされても、やや冷めた目で「ああ、この大学はターゲットから外しておこう」と思うことがあります。というのは、こうした初年次教育の効果がわかりませんし、逆に確実にわかるのはこうした初年次教育が必要な学生が居る大学なんだな、ということです。(親向けには良い広報なのですがね・・・。)

 

かつての会津大学や慶應SFCが登場したときのような、遠方でも「ちょっと訪問してみよう!」と採用担当者が思わされるような大学教育の登場を期待したいと思います。日本の雇用が日本の大学を諦めて海外移転する前に。

 

第190号:就活に苦労する子をもつ親世代

ようやく夏休み入り、蝉の声が静かな校舎に染み入る季節、と言いたいところですが、この時期はオープンキャンパス等でご多忙にされている職員の方々も多いことでしょう。キャンパスを歩いていると、高校生のお子さんを同伴の親子連れをよく見かけます。親が子供と一緒に将来を考えるというのは素晴らしいシーンですが、どうも我々、教職委員、そして採用担当者にとっても、親世代は鬼門となりつつあるようです。

 

つい昨日、私の携帯電話が鳴りました。私が就職支援を行っている地方大学の職員の方から急ぎの相談で、「いま、学生と保護者の方が一緒に就職相談にみえているのですが、どこかの企業採用担当者で、これから面接を行ってくれる方は居りませんか?」という切迫した状態です。数年前であれば、「それはお困りですね、では早速問い合わせてみましょう!」と、学生の要望を伺って採用担当者仲間に打診したものです。しかし、今は違います。皆様も同じ状況だと思いますが、こうしたケースはもう珍しいものでなくなってしまいました。

しかも、状況はますます深刻になってきたようで、こうしたケースで必死になっているのは親御さんの方で、当の学生さんは、ずっと黙って座っているような状態です。学生本人に「どんな企業や仕事が希望なんですか?」「何が原因で就職活動がうまくいかないのですか?」と尋ねてみると、横から親御さんは、「それはですね・・・」と解説する始末。口には出せませんが、(ああ、この家族もこの親御さんが原因なんだ・・・)と思います。

 

この根の深い問題は、とてもこの短いコラムで語れるようなものではありませんが、私が改めて身近に感じさせられたのは、先日、高校の同窓会で旧友たちと久しぶりの再会を果たした時です。多くの同窓生達が、ちょうど大学生の子供をもつ世代になってきていたのですね。近況報告で、私が企業採用担当者のコンサルティングや、大学でキャリア教育や就職支援をしているキャリアカウンセラーだと話した途端、何人かの友人達が「実は、うちの子が・・・」と相談にやってきました。その後、メールや電話でも「うちの子に会ってくれないか?」との連絡もありました。

 

ここで改めて感じたのは、この問題で本当に悩んでいる人も、我々、親世代なんだな、ということです。親はこの問題の原因であり、被害者でもあるのですね。しかも悩ましいことに、その親自身がこのことに無自覚なことが多いです。高校の友人には、その点を率直に言ってあげられるので良いのですが、これが大学の保護者だと気を遣います。

 

我々の世代は、我々の親世代と違って、大学卒業者が多数派になりはじめ、新卒で就職活動もそれなりに経験しています。だからこそ、一言をもつ人が多く、それが今の時代とズレているのを認めたがりません。(このズレに気づいている親は話が早いのですが、年はとりたくないものです。)

ともあれ、この難題に向かう第一歩は、筆舌し難い状況の家族も居りますが、その親御さんの苦悩を理解して、味方になってあげることなのでしょうね。対応を間違って、モンスターペアレント化でもされたら、それこそ夏の夜の怪談より恐ろしいことになりますから。

(追伸:多少、涼しくなりましたでしょうか?暑中お見舞い申し上げます。)

第189号:採用担当者と学生の認識のズレ

この時期は、企業の採用担当者が来季(2012年卒)向けの採用戦略を煮詰めているところですが、大学職員の皆さんも今春の学生の就職支援活動のレビューを行い、今後の対策や方針を考える時期なのでしょう。先日、大学職業指導研究会に招かれ、パネルディスカッションにて採用担当者としての意見を述べて参りました。第三分科会という女子大学生の支援についてのグループで、サブタイトルに「結果につなげる学生支援のあり方」と付けられていることからも、今春の就職状況の厳しさが察せられました。

 

私の他に大学職員、公的職業支援の方が登壇されましたが、パネルディスカッションに先立ち、3つの異なるセクターからそれぞれ短い講演を行いました。私は採用担当者の視点から、面接の場面で感じる「採用担当者と学生の認識のズレ」について、以下のような点をいくつか指摘して参りました。

・自己PRと志望動機のズレ

多くの学生はサークルやバイトの体験談から自己PRをまとめますが、それが志望動機をつながっていないことが非常に多いです。以前も指摘したとおり、今はコンピテンシー面接が主流で志望動機よりも行動事実を中心に聴かれる影響かもしれません。しかし自己PRを聴いていて(特に女子学生では)、「それは何のために話しているのか?」「自分の就きたい仕事についてどう活かせると考えているのか?」と思わされることが多いです。どんなに力を入れたアルバイト経験でも、それが非正規社員の視点から出ていなければ、採用するわけにはいきません。

私は、こうした認識のズレの原因は、企業や仕事の認識不足だと思っています。もっと言うと、業界・企業研究をろくにやらずに、つまり目標を定めることなく自己PRを考えているところです。皆さんの大学での就職ガイダンスでも、最初の回に「まずは自己分析から始めましょう!」と指導されておりませんか?それはもしかすると非常に危険なことかもしれません。

 

これからの3年生向けの就職ガイダンスで、改めて伝えて戴きたいと思うのは、「自分という商品」の販売方法をしっかり考える視点、ビジネス・センスです。採用面接は、応募者の相談にのるキャリア・カウンセリングではありません。自分という商品は、その企業にとってどれだけ魅力があり、投資価値があるかを売り込む場です。それは、他者と比べてどれだけ競争力があるのか、何処にもっていけば売れる可能性が高くなるのか、どうPRすれば良さが分かって貰えるのか、そうした基本的な知識を最初にしっかり身に付けて欲しいと思います。結果のでない多くの女子学生を見ていると、こうした点が憧れやイメージで始まっており、本番の面接にぶつかってから戸惑っている方が殆どです。

 

就職活動は、若者にとって、アルバイトではない本当に「最初の仕事」の第一歩なのです。仕事は大学を卒業して就職してから始まると思っていては、この厳しい時代を乗り越えては行けません。(逆に、こうしたことを踏まえて活動している学生はちゃんと内定を得ています。)

 

もっとも、女子学生の場合、こうしたことをアタマでわかっていても、行動に出ない学生が非常に多く、それは認識のズレの次の課題です。私も授業に就職指導に日々、苦労しており、そうした学生の認識を変え、更に如何に動かすかに悪戦苦闘している毎日です。

 

第188号:学生に求められるリーダーシップとチームワーク

企業の求める人材像が明確ではない、企業は採用選考基準を明らかにすべきだ、ということは各方面からよく言われることです。企業が無数にあることや、同じ企業であっても時期や経営状況や採用担当者によって選考基準が変動することなどがその原因でしょうが、最近の企業の採用選考手法を良く見てみると、おおまかな企業の求める人材像というのは浮かび上がってきます。

 

例えば、ここ数年の採用選考手法でもっとも顕著な傾向はグループ・ワークの導入でしょう。これは数年前から流行になってきましたが、リーマンショックを境に企業の位置づけが変わってきています。景気の良かった以前は、業界・企業理解を進めるためのシミュレーション・ゲーム的なものが多く、学生の就職活動支援や広報活動的なものが主流でした。しかしその後は、大きく変わり、評価・選考的な色合いがドンドン濃くなってきました。

特に不況による応募者の急増により、グループ・ディスカッションも、以前は6人の1グループにつき選考者が2名で時間も50分間程度で行ったのに対し、最近では5グループ(30人)を2名の選考者で30分間で行うという例も出てきています。これは明らかに採用効率の向上を狙ったものですね。

こうしたグループ・ワークになってくると選考もラフにならざるをえませんが、グループ・ワークでの選考基準である、リーダーシップ(自主性)とチームワーク(組織内行動特性)は比較的判断しやすいです。面接と違って、応募者を相対的に評価できますし、選考者は観察に集中できます。グループ・ワークで最初に不合格にするのは、頓珍漢な発言をする学生よりも、無反応・受け身の応募者です。

 

このリーダーシップとチームワークですが、今の学生のコミュニケーション力を見ていると、ますます低下しているように感じます。この二つの資質は、授業においてもハッキリ見られるもので、誰でも経験すれば確実に向上するものですが、逆に未経験の学生が就職ガイダンス等の解説だけで上達するようなものではありません。授業、ゼミ活動、サークル活動、アルバイト等、リーダーシップとチームワークを体験できる場ならば何処でも良いのですが、実体験が必須です。しかしながら、今の学生はそうした体験機会が減少し、「緩い絆」の小規模な交友関係が増えている様です。果たして、そうしたものを評価してくれる企業はあるでしょうか?

つまり、いまの採用選考手法でシビアに求められてきたのは、自己分析などの就職活動の成果ではなく、大学生としての充実したキャンパスライフを過ごしたかどうかです。これはコンピテンシー面接で行動事実(成果)が問われるのも同じです。採用選考は改めて学生の本質を問うようになってきたのですね。

 

さて、私の属する法政大学大学院で、こうした企業や社会の変化の中で、どんなリーダーシップやチームワークが求められるのか、人事部はどう支援するべきなのか、どんな学生生活が評価されるのかを考えるシンポジウムを開催致します。ご関心の有る方はどうぞお運び下さい。意見交換いたしましょう!

 

▼参考URL:7月17日(土)法政大学大学院 政策創造研究科 無料シンポジウム

『変革の時代におけるリーダーシップとキャリア開発

~社会人・企業人事部・大学生の課題と挑戦~』

http://chiikizukuri.gr.jp/blog/2010/07/post-43.html